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勇者?魔王?いいえ村人です。  作者: 蒼伊悠
序章
9/27

9:そして……


 クラスメイトの誰かに裏切られた。誰が裏切ったのかわからない。眼鏡男だってそうだ。俺に囮役をやらせておいて呆気なく見捨てやがった。

 あれが、もし天神ならあの眼鏡男は勇者がいない事に気づいて、転移する事はなかったはずだ。


 俺が村人だから。そもそも、あいつは転移の事を分かってて俺を囮に使った可能性すらある。いや、恐らくそうだ。


 頭が真っ白になって体に力が入らない。

 もう、何もかも投げ出して眠りたい。


 なのに、ドラゴンが放つ威圧感が俺を無理矢理現実に縛りつけてくる。


 『ヌハハハ、どうだ。助けた者に裏切られた気分は。囮にされた気分は! 答えてみせるがよい』

 「うるせぇよ」

 

 裏切られた虚無感。悲壮感、憤怒。ぐちゃぐちゃに色々な感情がない交ぜになる。


 どの感情を表に出せばいいのかがわからない。


 「うるせぇよ!!」

 だから、目の前の者に八つ当たりしてしまう。

 そんな、自分を自覚しながらも叫ばずにはいられない。


 叫ばないと、俺の全てが折れてしまう。


 『どうした? 気でも触れたか? 一人になってしまっては我にはわかるぞ。貴様、【村人】だろ。奇妙な感じはしているが所詮は【村人】だ。そう吠えてどうしてみせるのだ?』


 ドラゴンですら【村人】であることを嗤っている。

 今はその嗤い顔が無性に気にさわってしかたない。


 「黙れよ。俺だって、俺だってやれるんだよ!!!!」

 自身を纏う魔力を意識する。魔力を練って練って、魔法に変換するんだ。思い出せ、俺は何度も魔法を使っている所をこの眼で視たはずだ。だから、魔力の使い方は知っているはずなんだ。



 魔力を集めろ。自分で視る事が出来る掌に集めろ。

 必死に皆の魔力操作を思いだしながら掌に魔力を練っていく。

  

 だけど、俺は魔法を使うわけではない。練った魔力は魔法には変換しない。


 「いけ____燐火」


 『何だ? 貴様何を____これは!?』

 ドラゴンの足元で火柱が上がる。

 俺が放った炎ではない。俺は火魔法を使えない。



 『馬鹿な____どういう事だ。悠久の時を生きてきた我もこの様な事は初めてであるぞ。貴様何故……何故人間の貴様が精霊の力を行使している!!』


 だけど、俺にだって、魔力はある。魔法が使えないなら魔力を渡して変わりに魔法を放ってもらえばいい。


 「燐火! もう一度だ!」

 俺は空に待機していた精霊である燐火に魔力を渡す。


 俺から魔力を受け取った燐火はすぐさまそれを人間の魔法とは違う方法で魔法と同質な術へと変換していく。


 火の矢がドラゴンへと向かっていく。


 『しゃらくさいわ!!』

 迫る火の矢をドラゴンは一度翼を煽ぐだけで掻き消してしまう。


 「まだまだ!!」

 一本の矢で駄目なら三本だ。大丈夫! 燐火ならばこれくらいは可能のはずだ。


 魔力を渡すと、三本の矢が放たれる。だが、一本の矢で効果がないのなら三本だろうと焼け石に水な事は分かっている。


 だから、槍だ。三本の火の矢を交わらせて一本の炎の槍へと変化させる。



 「これなら、どうだ!」

 『足りぬわ!!!』

 炎の槍はドラゴンの鱗に弾かれて消失してしまう。

 


 「くっ、くそぉ!」

 今の技が燐火の大技なのは伝わってきてしまう。燐火ではドラゴンに対して致命的なダメージを与える事はできない。


 『人間の精霊使い。面白いと思ったがあまりに脆弱すぎる。やはり、人間一人では我の遊び相手にはなりえぬな。もうよい、消えろ』

 ドラゴンは大きな前足を突きだしてくる。

 前脚だけで数メートルはあるそれを咄嗟に避けることは難しい。


 横にとんだ俺であったが間に合わなかった。


 「___っ!?!?!?」

 体にドシンとした衝撃が来たと思ったら一気に視界が流れ出す。

 

 視界が流れ出したと思ったら直ぐ様背中から音がなり体の空気全てが強制的に外へと排出される。


 「____かっは……」

 気づいたらドラゴンとの距離が開いている。

 ここに至って、ドラゴンの前脚によって吹っ飛ばされて、森の大木にぶつかり体が制止した事を理解する。


 吹っ飛ばされた事態に思考が追い付くと全身を焼けつくような痛みと、腹の中がぐちゃぐちゃになったように気持ち悪くなってくる。


 今、初めて死という肉体の損傷を体験した。


 だが、大丈夫。まだ、意識はある。意識があるならまだやれる。



 『ほう、脆弱な人間なら今ので終わると思っていたのだが、存外耐えるではないか』

 ドラゴンは相変わらず余裕でいる。

 どうする、もう真っ正面から行っても自分の攻撃が何一つ通じないのはわかっている。


 ドラゴンの鱗が固すぎて俺の攻撃が通らないからだ。

 まだ、手はある。だけど、これは近づかないと恐らく意味がない。


 満身創痍の状態でドラゴンに近づけるのかそこがネックだ。



 『ふむ、貴様まだ何かをやろうとしているな。面白い! やってみるがよい』

 ドラゴンは攻撃を仕掛けてくる事はなかった。先程耐えた事で俺に興味を持ったようだ。そのお陰でドラゴンにまだ遊べると思わせる事が出来た。

 

 お言葉に甘えて近づかせてもらうとしよう。


 一歩一歩進んでいく。その度に激痛が走り意識が飛びそうになる。だけど、今眠るわけにはいかない。


 霞む視界と覚束ない足取りでドラゴンへと近いていき____鱗に手を置く。


 『さて、貴様は何をするつもりだ? 我の鱗を貫けるものなら貫いてみるがよいわ!!!』

 

 自分の耐久力に余程の自信があるのだろう。鱗に直接触れられてもなお、ドラゴンの余裕は崩れない。


 それだけドラゴンの耐久力は高い。


 「諦めた……俺には貫通なんてできない」

 認めたくはないが、いくら攻撃を加えても俺にはドラゴンの鱗を貫通させることは現段階ではできない。


 だから、諦めた。


 『諦めただと。なんとも、つまらんな、死ね』

 ドラゴンは愉しげな瞳を一気に冷めたものにする。

 

 「ああ、諦めたよ____鱗を貫通させてダメージを与える事をな」

 『貴様何を?』

 俺は魔力の殆ど全てを練る。

 生半可な威力ではドラゴンには通じない。全てを練り上げる。


 「いけ、雷華!!」

 名前を呼ぶと、俺の横にもう一人の精霊が現れる。

 俺は魔力をライカに全て渡す。



 『もう一匹いたの____ぐぁぁぁ!!』

 触れた箇所から体内に流し込んだ雷電にドラゴンが初めて痛みの悲鳴をあげる。


 「外から駄目なら内からってやつだ」

 『……小癪な、痛みを覚えたのは久しいぞ。誉めてやる。我も貴様に応えて力の一端を見せてやるとしよう』

 ドラゴンは身を一瞬よろめかせたが、まだ健在である。


 俺の今の全力はドラゴンを倒すには至らなかった。

 でも、一矢報いる事は出来た。


 「はは、ざまぁ」

 体から力が抜けていく。そのまま前のめりに倒れていく。

 駄目だ……意識が……遠退く。


 既に限界は向かえていた。

 目を閉じれば俺は死ぬだろう。

 だが、まだやることがある。

 

 「燐火、雷華……ありがとうな」

 出会ってからまだ経ったの一日、それでもこうして俺に力を貸してくれた二人には感謝を告げておかなければならない。


 二人から悲しみの感情が伝わってくる。


 悲しませるのは悪いけど、悲しんでもらえる事実は嬉しい。

 死ぬとき悲しんで貰えるなんて、良かったじゃないか……………………駄目だ。もう眠い…………………………俺の意識はここで途絶えた。


 眠る直前、指先に何か触れた感じがした。







 

 『何だ。気絶してしまったのか?』

  我は倒れた一人の人間の様子を見てみる。

 恐らく、気絶した状態のまま目覚める事なくあの人間は死ぬ。

 長い間人の死を見てきた我にはそれがわかる。


 面白い人間だった。力はまだまだ弱いが、人間なのに精霊を使役して精霊術まで使ってきた。それに、我にダメージを与えた事も評価すべき点だった。


 最後の攻撃は我にとっても無視出来ないほどの痛みを与えてきた。

 

 倒れた人間に集まる二匹の精霊の様子から慕われていたことも分かる。


 本当に不可解で面白い人間であった。

 人間にごく稀に現れる、普通の人間とは隔絶した力をもつ英雄でもない。なんせ、あやつの職業は間違いなく村人であるからだ。


 

 面白い、面白い……が、だからこそ敬意を持って死の間際にいるであろう人間を我は灰塵に帰すためブレスを放つことにした。


 跡形もなく天上の世界で、極楽浄土へと参ることを祈る。

 これが、我にダメージを与えた人間に対する敬意だった。



 我は魔力を貯めて体内でそれをブレスへと変換していく。

 

 『では、去らばだ人間。せめて、精霊と共に逝かせてやる』

 今まさにブレスを発射せんという時、我の目に強烈に輝くものが目にはいる。


 な、なんだあれは?

 倒れる人間の指先、そこに輝くなにかがある。


 『あれは、草なのか……?』

 信じられない事だった。我は肉を好みこれまで肉しか頂いた事がなかった。その我がそこいらに生えていそうな雑草から目が離せない。

 


 いや、そもそも何なのだ、あの雑草は。

 霊的エネルギーが豊富に詰め込まれすぎていて輝いてるようにしか我には見えなかった。


 ____食してみたい。


 雑草一つに我の欲求が刺激されたのは初めてだ。

 ならば、食べてみるとしよう。


 だが、この姿で近づいては雑草は風に流され何処かへと行ってしまうか。


 仕方なしに我は体を縮める事にした。

 この姿は軟弱に見えて嫌いなのだが致し方ない。

 


 縮んだ我は、倒れる人間の元までいき、そっと雑草を手に取る。


 ほほう。近くで見てもやはり、美味しそうだ。


 ちびちび食うのは我の性には合わない一口で雑草を口に含む。


 「な、なんなのだこれは……ううう、うますぎる!!!!!」

 なんなのだなんなのだなんなのだこれは!! このような美味しいもの食べた事がないぞ。


 ただの雑草がこれまで食べてきたものよりもなりより格別なんて信じられない事だが、文句なしにこの食材は過去一番の美味しさであった。



 是非とももう一度味わいたい。

 しかし、この食材は何処にあるのだ?

 このような美味しいものをここの周辺で見かけた事はなかった。


 我が見落としてた? いや、そんなことはないはずだ。

 では、他の場所にあるのか? このような雑草を探すのは割れをもってしても容易ではない。


 では、もう我はこの食材を二度と口にする事は叶わない?

 それも、嫌だ! 

 


 『致し方ない』

 体を再度大きくする。

 口には倒れた人間を咥える。


 見たこともない食材をどう探すか、そんなの簡単だ。

 食材を採ってきた者から直接聞けばいい。


 天才的な発想に自分自信で驚きながらも我は巣へと帰省する。


 あの、食材を再度口に出きると思うとワクワクが止まらなかった。


 ああ、このように胸が高鳴る等、魔王と一緒に暴れまわった時以来だ!!


 我は胸の高鳴りを押さえる事が出来ないだいた。

22時から23時の間位に投稿していくと思います。


感想、アドバイス等々ございましたら喜びます!!

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