5:喜び
本日2話目です。
無邪気に喜ぶ鬼灯と東雲さんの二人。
二人の普通の女の子の笑顔と大木に叩きつけられた刃を東雲さんが発したという事実がうまく重ならない。
魔法とは無縁の生活いた一人の女子高生が異世界に来て僅か一時間ほどで人をも殺害できる殺傷能力を持ってしまった。
改めて考えると恐ろしい事だ。
なんせ、東雲さんだけではない。クラスメイト全員が同等の力を得ているんだから。
水を発射しているもの。微風を起こしたもの、地面から植物を生やしたもの、岩を飛ばしているもの様々な魔法をクラスメイト達が放っている。
「ミリアさん、何ですかこの音は!!」
眼鏡男が手に持った鞄をパンパンにしながら戻ってきた。
「来訪者……すごいね」
「まさか、魔法をここまで操っているのですか? 先程までモンスターに怯え、魔法なんて知らなかったのに……流石来訪者ですね。素晴らしい」
眼鏡男の反応を見るにやはり、クラスメイト達は異常の部類に入ってしまっているようだ。
魔法の練習に盛り上がっていたクラスメイト達であったが、一人のクラスメイトが加減ができず魔力を使いすぎてしまい魔力酔いといわれる魔力の使いすぎによる体調不良になってしまった為、魔法の練習は終了し、それぞれ休憩することになった。
拾った枝や枯れ葉を集めて簡易的な焚き火の周りに全員で拾った丸太等に座っている。
「うぅ、ごめんなさい」
現在、ミリアさんが正座して反省の意を表している。
正座させたのは眼鏡男……ではなく、銀髪エルフのソフィアさんだった。
「ミリア殿、魔法を教えるのは構いません。ですが、魔力酔いの事を教えないとはどういう事ですか! 重症になれば後遺症とかが残る可能性だってあるのですよ!!」
「ごめん、なさい」
ミリアさんが安全を管理する立場にも関わらず、無茶をさせてしまったことをソフィアさんは怒っていた。
「まぁまぁ、ソフィアさん。僕達も今回の事を教訓に魔力残量には気を付けますからミリアさんを許してあげてください」
気の毒に思ったのか我らが天神がソフィアさんを宥めていく。
そのおかげかソフィアさんはミリアさんへの説教を止めた。
「では、ミリアさん次からは気をつけてくださいね」
「うぅ、はい」
「では、皆さん。食事にしましょう」
眼鏡男とソフィアさんが木の実のようなものと野草スープらしきものを手渡してくる。
地球育ちの俺達からしたら食料とも呼べないそれらが本日の食事だった。
「うぅ、なんだよこれ」
「お肉やご飯食べたーい」
勿論不満はそこかしこで出る。だが、誰も大きな声では文句を言わなかった。
現状では他に食べ物が無いことがわかっているからだ。
「皆さん。確かに見た目は質素ですが、味は保証いたします」
「森の民のソフィアさんの保証です。来訪者の皆さん、安心して食べてみてください」
ソフィアさんと眼鏡男は普通に木の実を口にいれている。
二人の様子を見て覚悟を決めたのか木の実を思いきって口に含む者が続出する。
俺も同じように口に含んでみる。
「……うまいな」
ほんのちょっとの酸味とほどよい甘さで幾らでも食べれそうな気がする。
皆の反応も概ね好意的だった。
これは、普通に美味しいからな。問題は野草スープの方だ。
「スープは塩のみですが、ギーネ草がピリッとした辛さをしているため体が暖まりますよ」
ソフィアさんが説明して、自分でも飲んでみせている。
俺はもうソフィアさんを信じて直ぐに口にいれる。
「これも、うまいな」
薄味ながらもしっかりとした辛味があって、普通に飲める。
ギーネ草とやらもちょっとした苦味はあるが香りがいいためそそまで気にならない。
この食事ならば文句などに言ってられない。寧ろ男子高校生として量が少ないということに不満を感じそうですらあった。
「相変わらずソフィアさんは料理がうまいですね。植えれば一日で生えるギーネ草をここまで旨くするとは感服しますよ」
「苦いけど、ソフィアつくると美味しい」
ソフィアさんを二人が褒め称える。
この様子だと、スープは青臭さが押さえられていたしソフィアさんが他の何かで押さえていたのかもしれない。
……それにしても、一日で生えるギーネ草か。
少し気になるな。
それから就寝時刻を迎える頃、三つのテントで女子を寝かせる事に決まり男子は外で凍えないように皆で集まりながら寝ることに決まった。
といっても、誰も睡眠をとっていない。
あまりに劣悪な環境と異世界に来た興奮やモンスターが襲ってくるかも知れないという緊張で寝付けずにいた。
「なぁ、灰人、ちょっと小便行こうぜ」
「……いくか」
ツレションに誘ってきた俊輔と共に立ち上がる。
「二人ともどこいくんだ?」
「ちょっと小便。直ぐそこまでだから」
「わかった。【光玉】これを持っていくといい」
「おっ、サンキュ」
天神が辺りを照らす光玉を葉っぱの上に置いた状態で寄越してくれる。おかげで道を照らす事ができる。
「なぁ、俊輔。お前志保ちゃんと一緒にいなくていいのか?」
タチションしながら雑談を交わしていく。
「あー、まーな。あいつは女子グループと一緒にいるから」
志保というのは俊輔の彼女で、同じクラスでもある山口志保ちゃんの事だった。
「まだ、付き合っている事は内緒なのか?」
女子グループから離れて俊輔の所まで来ないのは二人が付き合ってる事を内緒にしているからだ。理由は志保ちゃんが単純に恥ずかしがってるらしい。
「志保は奥手だからなぁ~。そこも可愛いんだけどさ」
デレェと俊輔の顔がだらしなく緩む。
志保ちゃんはボブカットで眼鏡をかけた見るからに大人しい女の子だ。いまだに何故俊輔なんかと付き合ってるのか不思議である。
「なぁ、俊輔」
「ん~」
「志保ちゃんてさ大きいよな」
何処が大きいとは言わない。言うだけ野暮だからだ。
「大きいな……それに柔らかいし」
「おま! やっぱりやってるのかよ!!」
友達に先に大人の階段を昇られると少し悔しい。
「勘違いすんなよ!まだ上ってねーよ」
「俊輔……ふはは」
「くくく、俺達異世界でなんて話してるんだよ」
地球ではありふれていた日常話。それを話せるのが今はなんだか嬉しい。俊輔も同じなのだろう。
「よし、灰人、そろそろ行こうぜ」
「おう、あっ、ちょっと先に行っててくれ」
「あぶねーし、待ってるぜ?」
「すぐ、終わるから問題ねーよ。先に戻っててくれ」
「うぃー、じゃあ、これだけ持っておけ」
俊輔は光玉を俺に寄越して先に戻っていく。
「さてと」
ポケットに入れていたギーネ草の根を取り出す。
食事の後、ソフィアさんから貰っておいてよかった。
今からするのはギーネ草を植えてのスキルの実験だ。
俺の農民スキルでギーネ草を植えてたらどうなるのか試しておきたい。
ギーネ草ならすぐに伸びてくるみたいだし実験にはもってこいだった。
スキルを使うと意識しながらギーネ草を地面に植えてみる。
朝にどれだけ伸びてるか期待だ。
しかし、予想外の事が起きた。
ギーネ草を植えたら芽がでるまで時間がかかると思っていたら一分程で芽がでてきた。
あまりに早すぎる。やはり、俺の農民スキルの影響だろう。
これならばと、更にスキルを使うイメージをする。
数分はしていたと思う。
俺は一度農民スキルを使うイメージにもう一つスキルを発動するイメージをする。
使用するのは霊視スキル。
霊視スキルを使うと見えたものに笑みを浮かべる。
「よかった。第一段階は成功だ」
でてきた芽の周りを踊るように揺れる光の玉を見て俺は自分の仮説が一つ正しかったと証明されたことを喜んだ。
本日2話目になります。
リア充……