6:精霊
ヒロインヒロインさせてみたい……
「うう……うん」
いつの間にか眠っていたのか気づいたら空が明るくなっていた。興奮や緊張で眠れないと思ってたのに、人間意外と図太いのかもしれない。
「皆寝てるな」
早く起きすぎたのかクラスメイトは誰も目覚めていない。
「かったるいな」
睡眠不足とまともな環境で眠る事が出来なかったからか、寧ろ眠る前よりも体が痛くかったるい。
「うん……おきたの?」
「あ、はい」
目が覚めてぼんやりとしていると水色ロリツインテのミリアさんが声をかけてくる。
「今失礼なこと、かんがえた?」
「滅相もございません」
心を読まれたのか?そんな芸当できるのはあの神だけだと思ってたのに。俺はしらを切るようにすました顔を取り続けなければいけない。
「そう、それより、おきるのはやいね」
「なんか、慣れない環境だからか眠りが浅いのかもしれませんね」
実際俺は枕が変わると眠れないタイプだった。
「そういえば、ミリアさん一人なんですか?」
「ソフィアは、起きてる」
周りを見てみるが男子生徒は全員眠っており、ソフィアさんの姿も見えない。トイレでもいってるかもしれない。
トイレの事を思い浮かべた瞬間、ブルリと体が震える。
や、ヤバい。尿意が……。
「ミリアさん、少しトイレ行ってきますね」
「一々言わなくて、いい」
少し頬を染めてミリアさんはさっさといけと手を上下させる。
こうしている間にも冷えた体が水分を出そうとしている。
「じゃあ、いってきます」
限界が近く出来るだけ磯井で草むらに潜っていく。
「よく、休めるように、香を焚いてたのに」
背後からミリアさんが何か呟いてるのが聞こえたが、漏れそうになる尿意に聞き取る事ができなかった。
「ふぅ~」
危うくズボンに染みを作ると同時に色々なものを失う所だった。
「さてと」
小便をしにきたのは昨日と同じ場所だ。植えたギーネ草の様子を見るためでもあった。
「おー、出来てる」
数時間前に植えたギーネ草は30cm程に伸びていた。
味を確認するため抜いてみる。
「ちょっと土がついてるな」
少し土には抵抗がある。軽く土を払い出来るだけ土が付着していない箇所を探して口に含んでみる。
う……うまぁぁぁぁぁぁ。
「うまぁぁぁぁぁ!」
思わず心で思ったことがそのまま口をついてでてしまった。
だが、それだけこのギーネ草は美味しい。
青くささもなく、ピリッとした辛さもそうだが、明らかに昨日食べたやつよりも旨味が詰まっている。
ただの野草が地球で食べてきた極上の食料と比較しても劣らない程に美味しくなっている。
予想以上の結果に困惑すらしてくる。
これ、元から美味しいのを俺が作ったらどうなってしまうのだろう。興味はあるが普通の食料に戻れなくなりそうで怖い。
「こんだけ上手いならお前達も食べてみるか?」
俺はギーネ草の周りに浮かんでいた二つの光る玉にギーネ草を差し出してみる。
「なんて、食べれるわけないよな」
収穫したギーネ草をポケットへとしまう。後で俊輔や鬼灯に食べさせてあげるとしよう。
来た道を真っ直ぐ帰ろうと思いながら、ふと横を見ると光る玉が一つ浮かんでいた。
「何であんな所にまでいるんだ?」
あれが何についているのか興味が沸いてきた。
足音をできるだけ消して慎重に進む。
光の玉は大きい。と言うことは意思を持っているはずだ。
光の玉の元までいくと光の玉が俺の顔の周りをグルグルと回る。玉からの悪感情は感じない。
成る程。こうして離れていても問題はないんだな。
「お前は何処から来たんだろうな」
俺が見た限りこの森にここまで大きな塊は昨日から二回目だ。
「____」
「ん?」
光の玉と遊んでいると微かに人の声らしきものが聞こえてくる。
草や木などが垣根になっておりその姿は見えない。
。
声の主は恐らく女子ぽかったクラスの女子が迷ってたりしたら大変だ。
そう思い、草や木を掻き分け、声の主の姿が視界に収まる。
身を纏っていた白銀の鎧は脱ぎ去られ地面におかれ。透き通るような真っ白な裸体が目の前にあった。
胸部はほどよく突出しており、胸から腰にいくまで見事にスラッと曲線を描いている。鍛えられているのかお腹に無駄な肉などはついていない。
幸いか不幸なのか胸の先端は腕で遮られて見えない。
下も……下に視線を向けるのは止めておく事にした。
見事な裸体を晒していた銀髪の女の子は真っ正面から現れた俺に気づかないはずもなく……雪原のようにいつも真っ白であろう肌が雪解けだとばかりに真っ赤に染まっている。
「かかかかかかかか、カイト……殿??」
「ご、ごめんなさい!! 声が聞こえたから決してわざとではないんです。ごめんなさい!」
謝りつつも俺の視線はいまだに今までの人生で一番美しい肢体に目を奪われ続けていた。
「カイト殿、見ないでくださいぃ」
「ご、ごめんなさい!!!!!」
うっすらと涙を浮かべたソフィアさんを見てやっと俺の体は呪縛から解き放たれたように後ろを向くことができた。
初めて見た裸体に心臓がバクバクとうるさい。
「こほん……カイト殿。もう、よいですよ」
ソフィアさんを見るとしっかりと鎧を身に付けていた。
「ソフィアさん、本当にごめんなさい。声が聞こえたから来てしまったけど無用心でした」
よくよく、考えれば、女子立ったとしても、俺と同じようにトイレに来たって可能性もあったんだ。光の玉を見つけたことでそこら辺をすっかり失念していた。
「もう、大丈夫ですよ。気づかなかった私もいけないのです。見張りを立てたというのにまだまだ私も未熟ですね」
「見張り?」
他の人も来ているのだろうか? すぐ目につく所にはいないようだ。
「見張りといっても、誰にも見られない特別な見張りなんですけどね」
ふと、俺は直前に会った光の玉を思い出す。
「それって、光の玉の事ですよね?」
「カイト殿、精霊が見えるのですか!!?」
何気なく口にしたらソフィアさんが一気に詰め寄ってくる。
目を開いて鼻息荒くして詰め寄られると困る。
いえ、正直にいいます。ソフィアさんからほんのりといい香りがして困るんです。
「ソフィアさん、近いです」
「あ、ごめんなさい! 精霊を見る人間なんて初めて会ったので」
ソフィアさんは顔を真っ赤にして慌てて離れる。
……残念になんて思ってない。
「ソフィアさんは精霊術使いなんですね」
神眼を使ってソフィアさんを視ると、スキル欄に精霊術と浮かび上がっていた。
道理で精霊があんな所にいたわけだ。
「精霊術の事も知っているとは、来訪者とは凄いものなのですね」
「いえ、たまたまですよ」
「もしや、カイト殿も精霊術スキルを?」
「いや、残念ながら精霊術スキルはエルフ専用とかで取れなかったんですよね」
「そうなんですか」
ソフィアさんはシュンと落ち込む。凛としたイメージがあったんで落ち込まれると罪悪感が芽生えてくる。
「あの、カイト殿ぉ?」
「はい」
「よければ、少し話していきませんか」
「はいもちろんです」
美女からの誘いとか断れる訳がない。
ソフィアさんと近くにあった岩に二人で座る。
「カイト殿、これ見えますか?」
ソフィアさんは指を一本立てる。
しかし、その周りには二つの光る玉が浮いている。
「見えますよ。一本の指と二つの玉が」
「っ、本当に見えるようですね」
「見えますよ。その精霊はソフィアさんが使役しているんですよね」
「はい、そうです」
一つの玉は先程の玉で、もう一つのは初めて会った。
ソフィアさんが使役しているのは二人ということだろう。
「一つ確認してもいいですか」
「はい、どうしましたか?」
ずっと気になっている事があった。自分の中では結論はついているが、確証がほしい。
「精霊とは自然エネルギーの塊であり、どこにでも存在しているものじゃないですか。草木にもありますよね。でも、草木にはほんの微かに流れのようなものがあるだけで、光の玉のようにしっかりとした力は感じないんですよ」
「驚いた……カイト殿は精霊だけじゃなくて、自然に溢れるエネルギーまで見ることができるんですね」
ソフィアさんが驚いている。精霊と自然に溢れるエネルギーは同一のものであるはずなので俺は首を傾げる。
「自然エネルギーと精霊はまた別なのですよ。自然エネルギーに意志が宿ったものが精霊と考えてもらって大丈夫です。といっても微弱な意志なのですが、私達エルフの大体が塊になって生命となった精霊を感知は出来ても自然エネルギー事態はなかなか見ることができないんですよ」
ということは、俺の目は普通のエルフよりも優れているということか。
「まぁ、私が落ちこぼれってこともあるとは思うんですけど」
「ソフィアさんが落ちこぼれ?」
「はい、私の職業は狩人ですよね? でも、エルフの戦士は皆精霊術師なんです。エルフは精霊を信仰しています。精霊術師はエルフにとっては目指すべき職業であるんです。だから私はエルフとしては戦士ではない落ちこぼれなんです」
だから、前に狩人と職業を明かした時、様子がおかしかったのか。だが、一つ訂正はしておこう。
「ソフィアさんは落ちこぼれなんじゃあないですよ」
「え?」
「俺を助けてくれた時の矢は凄まじかったです。クラスメイトも避け俺も避けて、それでいて獲物を射るなんて神業ってやつですよ」
「あんなもの修練を積めば誰でもできるようになりますよ」
「それなら、精霊術も修練を積めば精霊術師に負けない位の力を持つことも可能なんじゃないですか?」
「それは、まぁ、そうですけど」
「それって、とても素敵な事じゃないですか。俺はソフィアさんを尊敬しますし、素敵だなって思いますよ」
あからさまな励ましと捉えられるか、何も知らない奴がと怒られるか分からないが、俺の気持ちを伝えたかった。
修練を積むというのは絶対そんな簡単なものじゃない。それをしてきたソフィアさんは尊敬に値するし、俺は素敵だなって思った。
「カイト殿、ありがとうございます」
内心はどうだか分からないが、ソフィアさんは微笑んでくれた。儚げで幻想的なその笑みに思わず心奪われそうになる。
「ソフィアさん!」
「どうしました?」
思わずソフィアさんの名前を呼んでしまったがどうしよう。何を話そうか考えていなかった。
「あの、その……そう、俺を鍛えてくれませんか」
咄嗟に口をついてでたのがこれだった。
「カイト殿を鍛える……ですか」
「はい、知っての通り俺は村人ですからね。色々と頑張らないといけないんですよ。出来ればソフィアさんに鍛えてほしいなって……駄目ですかね?」
「良いですよ。ただ、私の修練は辛く厳しいですよ?」
「はい!」
よかった。これで、街についても会う口実が……ごほん、鍛えるに手っ取り早い師匠が見つかった。
「そういえば、ソフィアさんはなんであんな格好でいたんですか?」
「それは、そのぉ、皆さんにお肉をご馳走しようと兎を狩ったんですけど、打ち損じた兎が迫ってきましてですね。無事倒せたんですけど、血が鎧の中に入ってしまいまして、タオルで拭いていたんですよ……後、先程見たものは忘れてください!」
「なるほど……でも、忘れるのは無理ですね!」
「ええ!!」
分かりました忘れます!……しまった、建前と本音が逆になってしまった。
ソフィアさんもまさかの返答に驚いている。
「いや、冗談ですよ。あまりに綺麗で見惚れちゃいましたけど、頑張って忘れますから」
「カイト殿お、恥ずかしいので、やめてください」
ソフィアさんは羞恥で頬を染めてプルプル震えている。何この人、めちゃくちゃ可愛い。
「んもう! ほら、カイト殿、戻りますよ」
ソフィアさんは立ち上がり、俺も続いて立ち上がる。
「はーい。一緒に戻りましょう。裸の事は内緒にしとくんで」
「うぅ~、カイト殿覚えておいてくださいね。修練の時たっぷりとしごいてあげますからね」
ヤバい少しからかい過ぎたかもしれない。
ソフィアさんはプンプンしながら先を歩いていく。
「ソフィアさん、怒ってますか?」
「怒ってはいません。ただ、恥ずかしいんです。カイト殿覚えておいてください。エルフというのは人族から見たら気持ちを引きずりやすいらしいですよ」
もしかしたら長寿族なため人間から見たら執着深いと見えるのかもしれない。
とはいえ、ソフィアさんが怒っても正直可愛いと思ってしまうのだが、怒られたくないので口にはださない。
焚き火の所に戻るとクラスメイト達の全員が目を覚ましていた。
「おーす、灰人。あれ? お前なんでソフィアさんと……」
「変な誤解するな。トイレの帰りにたまたま会っただけだ」
下衆な勘繰りは俺はいいが、ソフィアさんに迷惑だ。
俊輔ならば俺の気持ちを汲み取ってしつこく言及してこないはずだ。
「ふーん。お前昨日もすぐ戻ると言って戻ってこなかったし怪しい事でもやってるのかと思っちまったけど。灰人にそんな男気あるわけなかったな!」
「うるせぇ! お前だって同じ癖に」
「ばーか、俺にはまだ可能性があるんだよ」
俊輔は笑いながら背中をバシバシ叩く。
「明里がいなくてよかった」
「は? なんか言ったか?」
「なんも、ねーよ」
俊輔の呟きは小さくてよく聞こえなかった。鬼灯の名前を上げた気がしたが、ここであげる意味もないし聞き間違いだろう。
「では、皆さん。そろそろ出発しましょう」
眼鏡男は馬に荷物を乗せ終わると手綱を握る。
昨日と同じ陣形で俺たちは移動していく。
ソフィアさんと談笑を終えると鬼灯が声をかけてくる。
「ねぇ、御手洗」
「ん?」
「なんか、ソフィアさんと仲良くなってない」
「ああ、街に着いたら特訓してくれる事になったんだ。一応直ぐには出来ないかもと自己鍛練メニューを教えてもらってたんだよ」
これは、嘘ではない。どうやら俺達の事を報告した後、俺達の扱いがどうなるかソフィアさんにも分からないらしい。
来訪者はそれだけ希有な存在のようだ。
VIP待遇なのは間違いないと言っていたので一安心だが。
「ふーん、そうなんだ」
鬼灯の態度がなんか冷たい。まさか嫉妬してるのか……なんて、自惚れを俺は抱いたりしない。
「鬼灯さんは御手洗君に興味があるの?」
「は、はぁ。御手洗なんかに興味なんてないわよ」
一人の女子生徒に声をかけられ鬼灯が即座に否定する。
なんかと言われると地味に傷つく。
「あれ、確か夜見さんだったよね。体は大丈夫?」
ソフィアさんとは違い病的な意味で白い彼女は確かあまり体が丈夫ではなく度々学校を休学していたはすだ。こうして話すのは初めての事だった。
「うん。この世界にきたお陰か調子はいいよ」
「そうか、それはよかったよ。鬼灯と友達なの?」
「ううん。何回か話した程度よ」
「なんか、ごめんね」
いきなり話しかけてたからてっきり友達だと勘違いしてしまった。これは悪い事を言ってしまったな。
「いいよ。私ずっと体調悪かったから友達作る機会がなかったから」
「じゃあ、こうして友達になれた俺はラッキーだね」
「そ、そうかな……?」
夜見さんは少し頬を染める。こうして見ると彼女もまた美少女だと分かる。というか、うちのクラスの顔面偏差値は高めな気がする。
「私は夜見さんと友達だと思ってたんだけどな」
「ほ、ほんとう?」
「うん、本当よ」
そういえば、鬼灯は夜見さんが学校を休んでる時、先生にプリントを持っていく係をやると自ら言っていたな。
「えへへ、ありがと」
「そういえば、夜見さんは何でこいつに興味あるかなんて聞いてきたの」
「私と同じなのかなって思ったから」
「え」
それってつまり俺に興味があるってことで、女の子が男に対してその発言は色々と誤解してしまいそうです。
「え……よ、夜見さん、み、み、み、御手洗に興味って、それ、それって」
鬼灯も同じ事を思ったのか動揺しながら聞いている。
「うん、興味があるんだよ。私の次に出てきたのが御手洗君だから」
「ん? 次にって? なんのこと?」
「んふふふ、気にしないで、その内きっと分かる」
夜見さんは笑いながら先頭集団の所に混じってしまった。
彼女が何を言いたかったのか今一わからない。
「ちょっと、御手洗どういうことよ!!」
「しらないって、夜見さんと話したのは初めてなんだから」
鬼灯が俺の胸ぐらを掴んでガクガク揺らしてくる。
頭が見事にシェイクされている。
「フフ、お二人は仲がいいんですね」
ソフィアさんに笑われてしまった。
異世界なのになんだこの平和な雰囲気は……そんな事を俺は思っていた。
間もなく平和なんて、脆く崩れ去るというのにこの時の俺は暢気に笑っていたんだ。
展開を進めたいですね。




