12:予感
日付変わってしまいましたが9話目ということで!!
迷宮の主が言っていた悪巧みが何かは知らないが、街に危機が訪れるというのは分かっていた俺達は冒険者ギルドへと来ていた。
だが、ギルドに着いてみると中は慌ただしげに職員が右往左往しており、冒険者達は騒々しくしていた。
「何だこれは」
迷宮に潜っている間に事件でも起きたのか、或いは既に迷宮の主が動いているのかもしれない。
「あっ! ソフィアさん! それに、ミリアさん!! 無事だったのですか!」
受付嬢のリリアさんがソフィアさんとミリアさんに気づく。
俺の名前が聞こえなかった事は気にしない。
「リリア殿、何があったのですか!」
「それが、大変なんですよ!! そう、大変なんです!」
「リリア……落ち着いて、何があった?」
「そうですね。じ、実はモンスターの群れを複数確認しました。その数総勢千は越えるものと見られています」
リリアさんから告げられたのはまごうことなき迷宮の主の悪巧みだった。
一度、落ち着いて事の経緯を聞くため、Aランクの二人をリリアさんはギルドの奥へと案内した。
俺とファフニールも便乗する形で一緒に通らせてもらった。
「して、リリア殿。モンスターの群れとはどういう事ですか」
ソフィアさんが話を促すとリリアさんは一度俺に視線を向ける。
「三日前、ソフィアさんと口論になった日、カイトさんから森でオークの群れを目撃したという情報が入ったんですよ。その調査の為に昨日ギルドの方で調査に行きましたら大量のオークやゴブリンの群れが発見されたんです。森の至る所が既にモンスターで溢れかえるという状況のようでした」
三日前、迷宮に潜ってそんなに経っている事にも驚くが、リリアさんから聞いた話は信じられなかった。
「森中にモンスターが溢れているって、そんな短期間にそこまで増えるなんて可笑しくないですか」
「勿論異常な事態ですよ。ギルドから百名派遣して討伐中ですが、数が多く怪我している人も多数いる状況です。Aランクのお二人が戻ってくださったのは本当に助かります」
リリアさんの疲弊具合から昨日モンスターを確認してから一睡もしていないのだろう。
まさか、既に街が危機に陥っているのは予想外だった。
「リリアさん俺達からも話があります」
リリアさんに迷宮で起きた出来事を話す。
「____成る程。この事態はその迷宮の主が起こしていると」
「この、タイミングから間違いないと思います」
「もしかしたら、まだ何かしてくる可能性もありますね」
「はい、モンスターの数がそれだけでは、人間を血祭りにあげるには足りません。まだ何かあると思っておいた方がいいでしょう」
やはり、迷宮の主の事をギルドに伝えに来たのは正解だった。
エイファスの狙いが他にもあるとしたらそこにも警戒していないと大変な目にあっていた。
「ギルド長に報告しないとですね。しかし、他への警戒を怠れないとなるとどうしましょうか」
「それは、ソフィアさんとミリアさんの配置がって事ですか?」
「はい、この街に滞在している冒険者様の中でAランク冒険者はお二人だけですから」
森に派遣してAランクが助っ人にきたと冒険者を鼓舞したいのもあるだろうし、かといって何か起こる可能性があるなかで街の守りを手薄にする事も躊躇ってしまうのだろう。
「提案があります。俺とミリアさんが森に行きます」
「ミリアさんと、カイトさんですか?」
「はい、やはりAランクが一人行くだけで戦況は変わると思うんですよ。その場合より効果があるのがミリアさんだと思うんです。街に入られてしまえばミリアさんは大きな規模の魔法は使えなくなる。その点モンスター退治にいくだけなら広範囲の魔法はプラスになる。モンスターの数を一気に減らせるし、何よりいいデモンストレーションになる」
「賛成。少年と、私でいく」
ミリアさんは挙手して賛成してくれた。
リリアさんの方を見ると掌を上向きにしていた。
「そうですね。私も賛成です。お願いします、ミリアさんカイトさん」
「しかし、少年。彼女は連れていかなくていいの?」
ミリアさんはファフニールを見る。確かにファフニールが入れば直ぐにでも決着は着く。
「ファフは連れていきませんよ」
だが、エイファスの狙いが読めない以上、一番の切り札は残した起きたい。
「そう、なら、いい」
「ええ、俺も今回は張り切りますよ」
数が多いなら俺も気を引き締めなければいけない。
「じゃあ、早速向かいますか」
「少年、大丈夫。一瞬で行けるから」
「そうですね。貴方にはあれがありましたね」
全てが始まった原因。ミリアさんには転移がある。
「転移は一度、いったところなら、いける」
一度でも行ったことあれば転移出来るってこれまたチートな魔法だよな。だが、有事の際には本当に助かる。
ミリアさんは小さく白魚のような手を差し出してくる。
「にぎって、手をつなげば、一緒にいける」
「はい」
「______」
ミリアさんの手を握るとミリアさんは早口で呪文のようなものを唱え始める。転移が時間がかかるのはあの時の出来事で分かっている。暫く待っているとミリアさんは眠たげな眼を大きく見開く。
「いける____転移」
瞬間、俺の視界がグニャグニャに歪む。
景色が歪むのは一種の気持ち悪さがある。
再び目を開けるとそこはあの始まりの森だった。
「これは、凄いな」
少し先には冒険者であろう一団が集合しており、森から出ようとしているモンスターの相手をしている。
冒険者の団体とモンスターの群れの戦いは中々に壮観だ。
「見た感じ、魔法を使えるものが魔法を構築している間に前衛がモンスターに突っ込んでいるって感じみたいですね。取り敢えず後衛の所までいきましょうか」
魔法を使える冒険者達は魔力を練っているようだがその速度はお世辞にも速いとはいえない。
こう見ると即、バンバン魔法を放っていたクラスメイト達はチートなんだなと感じさせられる。
「そこのあんた、戦況はどうだ」
取り敢えず、状況を知るため適当に冒険者の一人に声をかける。
「ああん、って、ミリアさん!!」
男は苛立て気味に振り返るがミリアさんに気づいて声を弾ませる。
「本当だ、ミリアさんだ」
「Aランクのミリアか!」
「うぉぉぉ! ミリアさんが来てくれたなら勝てるぞ!」
やはり、Aランクのネームバリューは強いのか安心しきった雰囲気が流れる、戦闘中に弛緩するのはどうかとは思うが士気が上がるのは良いことだ。
「ミリアさんを連れてきた。次はこっちの状況を教えろ」
「え、ああ。向こうの方が数が多いから一気に攻められて何人か怪我をしたが地力はこっちの方が上だと思う。このまま行けば勝てるだろ」
「成る程、異常繁殖しているようだが、その原因は分かっているのか」
結局はそこだ。原因が解らなければここでモンスターを倒してもまた同じ事が起こる。
「ああ、わかっている。それぞれのモンスターの中に見たことのない個体がいるんだ」
「見たことのない個体?」
「ああ、黒い体毛に赤い瞳をした個体だ。それもおかしな事に、ゴブリンとオーク共通してこの個体がいるんだ。その個体はまるで繁殖に特化しているかのように腹に大量の子を宿している」
「……黒い体毛に赤い瞳。もしかして、体に赤いラインがある?」
話を聞いたミリアさんは心当たりがあるのか冒険者の男に聞き返している。
「そ、そうです。赤いラインもありました」
「やっぱり……」
「ミリアさん、知っているんですか?」
「迷宮で、その個体をみた。その個体が迷宮のモンスターを『食べていた』モンスター」
「待ってください。それは、あり得ないんじゃ、迷宮のモンスターなんですよね?」
ソフィアさんが言っていた事を俺は覚えている。
迷宮のモンスターは『外』には出られないとソフィアさんは言っていた。
「わからない……でも、あれを、私は、見た」
「何だか、嫌な予感がしますね」
迷宮の主、迷宮のモンスターを食べる迷宮のモンスター。
強力になっているミノタウロスに繁殖に特化しているようだと冒険者の男に言われた黒い個体。その個体は迷宮でも見かけられた。普段よりも上の階層に現れた迷宮のモンスター達。
様々な異常が一つに収束出来そうな気がしてならない。
だが、纏まらない。発想が足りない気がする。
「考えても、仕方ない。私も嫌な予感、するし、終わらせよ」
「そうですね。次の魔法で終わらせる。前衛に退くように指示してくれ」
「わかった!」
冒険者の男は上空に魔法を火の玉を放ち、それを爆発させて合図を出している。
「退けぇぇぇぇ! 魔法弾幕がいくぞ!」
大声でも伝えると前衛を努めていた冒険者数十人が後ろに下がってくる。
「次の魔法、で終わらせるって。私でも、無理だよ。どれだけ残ってると、思ってる」
「さぁ、分からないですね」
うじゃうじゃと視界いっぱいに広がるモンスターの正確な数など分かる訳がない。
だが、モンスターが集まってどれだけの範囲をモンスターが埋めているかは分かる。
モンスターがいる範囲がわかってしまえば数など関係ない。
「まぁ、大丈夫ですよ」
「……少年、あなたも、よくわからない人」
俺に懐疑的な視線を向けているミリアさんだが魔法を放つ準備を終えているのは高まっている魔力で分かる。
他の物とは一線を画する魔法構築速度だ。
では、俺も精霊術を放つ準備をするとしよう。
「燐火、強めでいくぞ」
『りょーかいー!!』
燐火に魔力を渡していく。
俺と燐火は二人で一つの魔法をイメージしていく。
「少年、なに、その魔力」
「まぁ、気にしないで魔法を放ってくださいよ」
「気にするな、というのが無理。少年は、人間なのに、ばかげている」
驚愕しつつもミリアさんはしっかりと魔法を放つ。
「『水竜』」
水の竜がオークとゴブリンの群れの一角に着弾する。
弾丸のように射出された水竜により、モンスターは数十匹が圧殺された。
弾丸のようにあれほどの量の水が襲ってくるとか地獄すぎる。
それも、無作為に撃ったわけではなく、黒い個体とやらの所に狙って撃ってるのが怖い。
「こりゃ、負けてられないよな」
『まけないまけないー』
燐火も手を突き上げてやる気を出している。
「うん? なんだ?」
精霊術を放とうとした時、戦況に変化が訪れる。
モンスターの大群の背後から新たなモンスターが現れてきた。
黒色の毛を持った狼のようなそいつは異世界に来たときに現れた黒狼だった。
「素早いモンスターの大群もいるとしたら厄介だな」
実力事態は驚異ではないが仕留めきれずに街へと逃がしてしまう可能性はある。
そう危惧したのだが、事態は予想外の方向に転がった。
黒狼が最後尾にいたオークに噛みつき襲いかかっていた。
どうやら全てのモンスターが街へと襲いかかっているようではないらしい。
黒狼が一匹のオークの喉元に噛みついているがその黒狼に十匹のオークとゴブリンが群がる、そして全てのモンスターが黒に牙を突き立てている。
いや、あれは『食べて』いると形容した方が相応しいのかもしれない。
肉を齧って咀嚼している。『食べられた』痛みからか黒狼はジタバタと暴れている。
単身でオークとゴブリンの群れに突っ込んできたのは見事だが無謀だったようだ。
「敬意を表して、食べられる前に終わらせてやる」
魔力を渡し、そしてイメージをより強固に固定するために唱える。
「『爆発』」
その瞬間、モンスターの群れの真ん中を中心に大爆発が起きる。
轟音がなり、前衛にいた者達は前のめりに倒れていく。
被害を及ばさぬよう加減はした、大きな怪我はないはずだ。
「しょ、少年……」
「な、んだ。ありゃ……」
「ふぁ……」
地面がぶっ飛び、モンスターの群れは塵一つなく消えている。
初依頼の時に発した『火竜の咆哮』が高威力の技だとしたら『爆発』はその名の通り広範囲に影響を及ぼす技。威力事態はそう高くはないがゴブリンやオーク程度には過剰攻撃と云えたかもしれない。
呆気に取られている冒険者やミリアさん。
これで、ある程度俺の力は知れ渡った。構うもんか、俺は転移者の主人公じゃない。無理に実力をひた隠しにする意味がない。
力を隠して暗躍する影の実力者カッコいい!! とか思ってた地球にいた頃が懐かしいが、これが今の俺だった。
それよりも、気になることがある。
爆発が起きる直前、『食べられて』息絶え絶えの筈の黒狼がいきなり立ち上がり、俺達の方向に向き直っていた。
気のせいだろうか? いや、気のせいではない。
今、幾つかの謎が解けた気がする。
だとしたら、まずい。
「ミリアさん!! 転移はまだ出来ますか!?」
「……できる、けど、なぜ?」
「それなら急いで、お願いします!」
「……わかった」
理由を問いただして来ることなくミリアさんは呪文を唱え始める。時間が一秒でもおしいからありがたい。
くそ、こんな簡単な事に何故気づかなかったのか。
この世界の人は気づかなくても様々な創作物に出会ってきた俺ならもっと早く気づけた筈なんだ。
疑問を持つ所をそもそも間違えていた。
もっと、考えるべきだったんだ。もっと早くそこの異常を強く認識するべきだった。
「少年、いくのは、街?」
「いいえ、迷宮でお願いします!」
「迷宮? 私が呪文を唱えてる間に、理由いえ」
そもそも、おかしな点はあった。
迷宮からモンスターは外に絶対に出れないとソフィアさんは言っていた。その時点で迷宮のモンスターには制約のような決まりがあると分かってた筈なんだ。決まった階層に決まったモンスターが出るのもそうだ。なのに、本来もっと下層にいる筈のモンスターが上層へと来ていた。この時点で迷宮の制約から逃れていると判断すべきだった。
異常で済ませてはいけなかったんだ。
色々な事がありすぎでその一点に対して注視していなかったのもあるのかもしれない。いや、迷宮の主はそれも計算していたのかもしれない。
本来あり得ない筈の移動をしているモンスターに、オーク等に噛まれてから起き上がった黒狼。ここまできたらもう予想できる。
『食べてた』わけではない。あれは、恐らく感染させてたと云う方が近い。アンデッドが多い迷宮、何とも相応しい事件じゃないか。
「迷宮の主の狙いは迷宮のモンスターを放出する事かもしれないんです!!」
冒険者が多数街を離れている今こそが街へと攻めいる好機のはすだ。猶予はもうない。
短い文章で伝える文章力が欲しい……。
10話いきたかったですが9話で連続投稿は終わると思います。
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