1:テンプレ? なにそれ美味しいの?
本日三話目の投稿です。
二章の始まりです。
青空の下、森を抜けた場所、一本の大木には大きく傷ついた跡がある。
「ここに来るのも約半年ぶりって事か」
「懐かしいの、我とカイトの運命の出会いがあった場所じゃ」
「随分と苛烈な運命だったと思うけどな。それとファフ、街では絶対大人しくしていろよ」
「わかっておるのじゃ!我とて童子ではないのじゃ、分別位弁えておるわ」
「だといいがな」
ファフニールは短期かつ短絡的な一面があるのは否めない。
それを成しても問題が無いほどの力を持っているからだが、人間の溢れる街ではそうもいかない。
「安心するのじゃ、我は人間の街ではお主に従う。郷にいっては郷に従うものじゃ。人間の世界ではお主に任せる」
「わかっているようならよかった」
「むふぅ~、我はいいこじゃろ?」
そう言いながら頭をグリグリと俺の胸に擦りつけてくる。
これをやるときは撫でろというアピールだ。
「いいこいいこ」
俺は躊躇う事なくファフニールの頭を撫でる。
傷んで癖を持った髪が一本も無いほどサラサラか髪質のファフニールを撫でるとこっちも気持ちよくなってくる。
「うふぅ~気持ちいいのじゃ。して、カイト。この先にいけば人間の街に着く。そこにはお主の同郷の者がいる可能性がある。その時はわかっておるの」
「わかっているよ。それに俺だってあいつらに会って聞きたい事がいっぱいあるんだ」
誰があの時俺に魔法を放ったのか、何故転移するとき誰も俺に気づいてくれなかったのか、色々と文句を言いたい事はいっぱいある。それに、ファフニールが言う魔の気配を持つクラスメイトはどういうつもりでそのスキルを得て、何のために使う気なのかを問いたださなければいけない。
でも、それよりも今思うのはやっと人間の街に行ける喜びと緊張だ。
「ファフ、いくか!」
「うむ!」
ファフニールと共に街に向かって歩いていく。
「でけぇ」
俺は異世界の定番といえば、始まりの町的な強力なモンスターが出現しない小さな町に初めに行くものだと思っていた。
実際森に現れたのはゴブリン等と今思えばかなり低レベルのモンスターだった。
だが、俺の目の前にあるのは十メートルはある大きい壁と門による堅牢な守りがある都市とも云うべき街があった。
ただ、考えてみれば周りに低レベルのモンスターしかいないのは人に害を成すであろう強力なモンスターはとっくに狩り尽くされている=それを成すだけの安全性を誇る立派な街だという証拠である事に今さらながらに気づく。
「そうかの? まぁ、確かに我が見た人間の街の中では大きい方ではあったの」
「こんだけでかいと身分証とかに厳しそうだけど大丈夫かね」
当然ながらこの世界での身分証明なんて出来ないし、俺の安全性を保証してくれる者もいない。
入るのに金銭を必要とする場合でも俺はこの世界の通貨を持っていない。
はっきり言って街に入るのは厳しい気がする。
「ま、行くだけいってみるか」
門の前に並んでいる行商人等が並ぶ列に紛れる。
暫く経つと俺達の番がやってくる。
「はい、君達通行許可証は持ってる?」
門番の一人が声をかけてくる。
「すいません。俺達ここについたばかりなんで持っていません」
「はい、じゃあ何か身分を証明できるものはある? ギルドカードでも大丈夫だよ」
「俺達、身分証もないんですけど、その場合は入れませんかね?」
「此方で滞在許可証を出すよ。ただ、身分証を持たない君達は一週間の滞在許可しかだせない。一週間の間にまた来るか身分証を発行しておくように。はい、銀貨二枚」
身分証が無くても入れるようだが、やはり金銭を請求された。
さて、どうしよう。
「もしかして金もないのか?」
俺の困った表情を見て悟ったのか門番の男は指摘してくる。
俺は正直に頷いた。
「うーん。これは困ったな。俺も仕事だからな」
今度は困ったように門番の男が頬をポリポリと掻く。
「もし金目のものがあるならそれを担保に数日待つことは出来るけど、どうする?」
金目のものね。
「ファフ、何かあるか?」
「うーん。こんなものでよいのならあるのじゃ」
ファフニールは掌に黒い水晶を出現させる。
見るからに高そうな綺麗な水晶だ。これならば担保として通るかもしれない。
「これならどうです?」
「ん? 今何処からだした……って!! ま、まさか! これは魔石! いや、これは魔玉か!?」
「えーと、取り敢えず大丈夫って事なんですかね?」
魔玉が何れ程の価値を持つかは知らないが、この驚き様なら問題ないはずだ。
「十分すぎるよ。これ程の魔玉ならば金貨数百枚は確実だ」
金貨一枚の価値は異世界に来る時に焼き付けられた情報によって場合できている。日本円で云うところの一万の価値があったはず、数百枚は確実ということは少なくとも百万円以上の価値はあるということだ。
「ファフ、お前さらっととんでもないもの出してくるな」
「こんなものお主が作る美味なる物に比べれば我にとっては路傍の石と大差ないのじゃ」
最低百万円が路傍の石と同価値って流石、龍。スケールが違いすぎる。
「あ、門番さん。一ついいですか?半年程前、この街に珍しい格好した三十人程の一団が来ませんでしたか?」
街に入る前に折角だし情報収集しておく。
制服来ている三十人の大人数ともなれば覚えているはず。
「ああ、来訪者の皆様ですね。彼等はこの街の英雄ですよ」
「それって、この街にいるってことですか!?」
「いえ、彼等は王都に向かって当の前にこの街からはでていきましたよ」
「そうですか。ありがとうございます」
半年以上経っているし留まっていない可能性も考えていたが全員いなくなってたか、そうそう上手く事は運ばないか。
「まぁ、取り敢えず、街に入れればよしとするか」
門番に通されて街に入る。
異世界初めての人間の街。異世界への憧れはあった、胸をワクワクで膨らませながら歩いていく。
「ほぉ~、これは凄いな」
初めての人間の街に感嘆の声を漏らす。
左右を露店が並び、それが道沿いに続いている。
商人の呼び掛けの声とそれを値切ろうとする逞しい主婦達の声も響いている。
道沿いに続く露店を見ればわかる通り、街は活気に溢れていた。
街を駆け回る子供や談笑を交わす主婦達を見回しながらしかし、俺の足は一点に向いている。
門番の話を聞いてからどうしても気になる所があった。
「身分証はギルドのカードでもいい」
ギルド____異世界物ならば定番中の定番である冒険者ギルド。その存在が示唆された時から俺はギルドに赴くと決めていた。
ちょうど身分証を作る必要性もあるしギルドに加入するのも一つの手だと思っている。
だが、確実に加入するとは断言出来ない。
他の身分証を発行出来る方法があるのならば正直ギルドに入るメリットがないからだ。
異世界転移したばかりの物語の主人公達ならば生活するために冒険者ギルドに入るという理由があるが、ギルドに入らなくても生活出来てしまうと知っている俺がギルドにわざわざ入る必要性はない。
「なぁなぁ。カイト~。我は肉を食したいぞぉ~」
露店に並ぶ串焼きの肉や、肉の塊等、香ばしい臭いを放つ肉料理にファフニールは目を輝かせている。
「ファフ、お腹が空いたのはわかるが金がないと人間の街では金がないと何にも買えないんだよ」
「ぬあーー、我はお腹が空いたのじゃ~、お肉食べたいのじゃ~」
駄々を捏ねるファフニール。幸い暴れる事はないがこのままにしていると癇癪が起きそうではある。早急に稼ぐ必要がでてきたな。
「ファフ、もう少しだけ待ってくれ。俺が何とかしてみせるよ」
「むぅ~。わかったのじゃ。お主に任せるのじゃ~」
ショボーンと落ち込みながらもファフニールは大人しく着いてくる。
それから、数分の間歩いていくと三階建てはあるであろう建物が見えてくる。
看板が堂々と飾られておりそこには文字で冒険者ギルドと書いてあり、剣とフォークが交差したマークが描かれている。
如何にもな木材建築の建物に何だかワクワクしてくる。
「何じゃ、カイト。ニヤニヤしよってからに」
「いや、テンプレって本当に起きるのかなぁ~って」
「はぁ?」
「いいから行ってみようぜ」
ファフニールはキョトンと首を傾げているが冒険者ギルドといえばテンプレがある。屈強な冒険者の一人が絡んでくるっていうテンプレが、その場合は軽く倒して一部の実力者に注目されるのがテンプレだ。
テンプレは起こるのか淡い期待を胸に扉を開く。
中の光景が見えてくると意外と綺麗な空間がそこにはあった。
一階は奥に受付があり、その横に依頼書が貼られているであろうボードがあり、手前にはいくつかのテーブルが置かれてあり、一見した感じだと定食屋の様な雰囲気がある。
定食屋というには席に座り酒を煽る冒険者の出で立ちから酒場の方がイメージとしては近いかもしれない。
扉を開けて入ってきた俺達に冒険者達は目もくれず、各々の仲間とお酒を酌み交わし話に花を咲かせている。
流石に入ってきただけで絡んでくるような無礼者はいないか。
受付に向かって歩いていく。
「すいません。ここで身分証を発行出来ると聞いたんですけど大丈夫ですか」
受付一人である女性の前までいく。一番好みの女の子のところに来てしまったのは本当に偶然である。
「はい、ギルドに加入すると同時にギルド証を発行しております。ギルドに加入という事で宜しいでしょうか?」
「そうですね。ギルドに加入すると義務のようなものは発生しませんか?」
冒険者ギルドには興味津々だが絶対加入する必要性はない。
面倒事に巻き込まれそうであるのなら、加入するかどうかはまだ判断できない。
「そうですね。義務というのでしたら、滞在する街等がモンスターによる災害で多大な被害を受ける状況になった時には街を守るため召集を受ける義務がございます」
「なるほど」
それだけならば問題はない。街に被害を与えるモンスターが来れば俺だって無視する訳にはいかないし、逃げるなんて事はする気もない。デメリットって感じはしないな。
「では、ギルドに加入します」
「はい、では、此方の書類に名前と年齢と職業を書いてください。これは守秘義務のある項目なので他者に見せる事は一切ございません」
そうは言いつつ、情報として残す時点で誰かしらには伝わるのは必須。
「カイト、我はなんて書けばよいのだ?」
「まぁ、俺に任せておけって」
そのまま龍とは勿論書けない。
ファフニールのスキル構成等も考慮して、既にファフニールの人間体の職業は考えてある。
カイト
17歳
職業村人。
ファフ
13歳
職業魔法術師。
取り敢えずこのように記載しておく。
ファフニールの年齢は見た目準拠だ。
「では、これで」
受付嬢へと記載した書類を提出する。
「はい、承りました。では、加入料として銀貨一枚宜しくお願いします。ギルド証を紛失する度にお金がかかっていくので無くさないようにくださいね」
銀貨は日本円で千円。
身分証発行としては割りと手頃の価格ではあるのかもしれない。
その手頃の金額さえ俺は払えないわけだが。
それは、そうだよな。平和な日本でさえ加入したり、書類を発行するときには金銭がかかったりする。
無料で何もかも揃うなんて都合がいいこと現実には起きたりしないよな。
「あの……もしかして、お金ないんです?」
日本円で千円さえ払えない俺達に受付嬢が困惑の視線を向けてくる。
「はい、お金ありません」
受付嬢の冷やかしでも来てるのかと冷たい視線に耐えきれず素直に頷く。
「ギャハハハハハハ、銀貨一枚払えないガキが冒険者になるとか嘗めてるのかよ」
項垂れていると、笑いながら此方に向かってくる男がいた。
男は酔っているのであろう、顔を真っ赤にしてフラフラとした千鳥足で歩いている。
「テメーみたいなガキを見るとムカつくんだよなぁー。こちとら命賭けで戦っているのにおちょくっているのか、ああん!!」
テンプレのギルドでの酔っぱらいの絡み……と喜ぶ事はできない。冒険者の怒りは正当なものだ。ギルド加入に必要なお金さえ持ってこないとかおちょくられていると感じても仕方ない。
実際にどうしてもお金がなくて等事情がある者が冒険者になる事もあるにはあるだろうが、それでも全うに冒険者をやってきた目の前の男からしたら怒りを抱いてしまうのは致し方ない。
「ん? んだぁ、よく見ればそこの嬢ちゃん可愛いじゃねーか、一晩貸してくれるなら俺が銀貨一枚位だしてやるぜ、ギャハハハハハハ」
ファフニールを見て男が下衆な笑い声をあげる。
「オッサン、少し黙れよ」
これは、アウトなんだよ。
見たからに三十は越えているであろう男が幼いファフニールに対して体を請求したのが一つ。
その発言をしたことで男の正当性が消えてしまったのが一つ。
何より銀貨一枚程度でファフニールを買おうとした事が一つだ!!
「ああん、てめぇ、何か言いたいなら言ってみろや!」
冒険者の男は大きく振りかぶる。
そのまま男は拳を振り下ろしてくる。
その速度はひどく遅い。
これならば対処は余裕だ。
「いいか、オッサン。ファフはお金で買える安い女じゃ____」
「誰に向かって一晩寄越せと言うておるんじゃ、貴様!!」
俺が向かい打とうと足を踏み出した途端、目の前ではファフニールの拳が冒険者の顔面を捉え、男の顔面に拳が深く食い込んでいく光景があった。
「ぶふぅっあはぁっ!!!!」
冒険者の男が奇声を上げながらふっとんでいく。
ファフニールはそのまま倒れた男の腹に馬乗りになる。
「おらぁ! 誰に向かって言ったのか答えてみんかい!!」
「ごふっ、ごめ、あ、ご、あぅぇ」
ファフニールさんファフニールさん。答えてほしいなら顔面を殴り続ける手を一旦止めた方がいいと思うんですけど。
「おら、おらぁ!!!」
「ファフ!! もうやめろ!!」
ファフニールは手加減しているであろうが、何発も殴れば子供とて大の大人を倒す事ができる。
それが、普通のパンチではないファフニールの拳だ。これ以上は生死に関わってくる。男を庇う気はないが、流石に殺すほどの理由がない。
「ひっ……うぅ、ごべん……ばざい……うぅぅぅ」
顔をパンパンに腫らした冒険者は呪文のように何度も何度もごめんなさいと呟いている。
これ、心が壊れていないよな??
少し心配になってくる。
「カイトに感謝するんじゃな、お主はそのお陰で生きられるんじゃからなぁ!!!」
「はいぃぃぃ、ばんじゃじまず。ばりがどう。ばりがどう、ごばいばず」
「お礼を言うなら渡すもんがあるじゃろ!!」
「ばぃ!!!」
男は恐怖に怯えながら懐から巾着をとり、ファフニールに手渡す。
受け取った袋の中を拝見したファフニールはにこりと笑う。
トテトテと可愛らしく俺に向かって歩いてきたファフニールが袋を渡してくる。
「カイト、お金じゃ! これで、大丈夫じゃの!」
「あ、うん。そだね」
血が付着した巾着を受けとる。
その中から銀貨一枚だけを抜き取る。
「あの、これで」
「そういう訳にはいきませんよね」
ギルドの受付嬢はにこりと笑う。
「ですよね~」
ギルドで絡まれるが、それを余裕を持って対処する主人公。
一部の実力者は主人公の一端に触れ、あいつは何者だと注目される。
色々あったが何とか途中まではテンプレだった。
だが、蓋を開けてみれば注目されたのは何故かファフニールだった。それもドン引きという悪い意味での注目だ。
…………何でこうなった???
初心者の街に龍がいたらテンプレなんて成立しませんよね。
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