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4話 聖誕祭へ

前回のあらすじ!漢泣き!

「そうだ!レン!明日お祭り行かない?」


「へっ?」


 突然のことに驚いているレンにアイリはラブリースマイルを向ける。

驚いたのはレンだけにとどまらず隣に座っていたセルヴィもまた、驚愕の表情をしている。


「いけません!調査でお身体もお疲れでなられているのですから、屋敷でお身体を休めて下さい!それに明日は王宮の――」


「いいの!最近ろくに遊んでないし、王宮の件はセルヴィからどうにか言っておいて!」


「・・・・はあ、分かりました。それでは明日アイリ様は体調を崩されたということで王宮へは言っておきます」


「うん!ありがと、セルヴィ!」


「レンもいいよね?行こ?」


「ああ、アイリが良いなら是非案内してもらいたいな」


 結局話しに付いて行く事は出来なかったが、18年で初の美少女とのデートの約束が取り付けられたことは理解した。



 夕食が終わり、レンは案内された部屋のベッドで横になっていた。部屋は一人部屋となっており、 ベッド、机、衣装を入れる箪笥など生活するのに必要な物が一式置いてある。

 長かった一日の出来事を振り返る。

学校が終わり、家に帰って目を覚ますと異世界に飛ばされて、そこで妙な格好の女の子と出会ってといかにもファンタジー小説の様な展開になっている。 まさか自分がここまで適応力があるとは全く思っていなかった。 我ながらすごいと思う。

 そんな自負に浸っていると、誰かがドアをノックした。

ドアを開けるとそこには、白いワンピースを着たアイリが立っており、見たところ寝間着だろうか。


「明日のことで、ちょっと、お話ししてもいい?」


「あ、うん。いいよ」


 ドアを押さえていたレンは、前を横切るアイリから香る甘く上品な香りに一瞬、理性を失いかけた。

やばいと思い、必死で男としての本能を押さえつけるレンの心境はそれはそれは大変なものとなっていた。

 そんなレンの心境など知らないアイリは、今宵レンが使用するベッドに腰をかけ「おいで」と腰掛けた布団の隣を優しくたたいた。


「アイリ・・・・、それはテロ行為だ・・・・」


「えっと…、大丈夫?」


 真面目に心配されてしまった。

傷付いたレンは、仕方なしにアイリの隣に腰を下ろす。

 肩と肩が付き、レンの鼓動が速くなる。


「それでね、明日なんだけど、私・・・・実は、お祭りに行ったことがなくて、全然案内出来ないんだけど、それでも一緒に来てくれる?」


 上目遣いで迫ってくる今のアイリを一体誰が断れるだろうか、


「もちろん!安心しなよ、アイリのエスコートは俺に任せとけって!」


「ありがと!なんだかレンって見た目によらず頼りになるんだね!」


「おう!見た目によらずは余計だけどね」


 ちょっとずつ傷つけてくるアイリだが、相手が美少女であれば怒る理由など無くなってしまう。


「お祭りかぁー、楽しみだなー、今日は寝れないかも」


「そしたら俺が隣で一緒に居てあげるよ!」


「ううん、全然平気だよ」


 なんて硬い防御であろうか…

冗談でさえも、跳ね返すとは。

 そんなやりとりをしているうちに、急な睡魔がレンを襲う。


「もう寝よっか、明日は寝坊したらダメだからね!!」


 眠そうなレンを見てアイリは気を利かせて寝床に着くように促す。


「うん、おやすみ」


 こうして、打合せは終わりアイリは部屋をあとにした。

一人になったレンは睡魔に負け、倒れるようにベッドに横になり眠りについた。


*******************************


―メルサーノ樹林地―


 男は森の中を木々を伝って移動していた。

その身のこなしは猿も顔負けである。


「参集ってもよぉー、今から半日以上かかるっつーの!」


 黒いコートにフードを深くかぶり、男は愚痴をこぼしながら移動を続ける。


「あっ!そうだ!あいつに迎えに来てもらおっと。あいつ空間移動できるから色々と便利だし。ハハッ!そうしよっと」


 遠くに小さな灯りが見えた。

遠目からそれが街だと分かるのは男の視力が常人離れしたものだと表している。


「この先どこだっけ?…あっ!光明都市かぁ…。あの街は何か嫌なんだよなぁー」


 そう言って男は止まること無く木々を伝い移動を続ける。


 ここはメルサーノ樹林地。光明都市ルーチェから南西に約150kmと広がる巨大な樹林地である。


************************


 その場所は彼に世界の終わり、終焉の地を思わせた。

枯れ果てた地に立たずむ彼は、ただ呆然と焼け焦げた世界を見ていることしか許されない。

風が渦を巻いて巻き上がり、空は黒い雲で覆われ辺りの地には木々1つ残っておらず、まるで戦争が終わった後だ。

 その光景に確かな見覚えがあった。それはあの世界へ飛ばされる寸前に見た夢。

 不意に恐ろしいほどの寒気を感じた。同時に、黒い何かがレンを包んでいく。

それはまるで、愛する誰かを後ろから優しく、そっと抱きつくかのように。

それは影に覆われており、詳しい事までは分からない。しかしそれは紛れもなくヒトの手であった。 冷たい声が耳元でした。


「殺してあげる」


 冷たい言葉に恐怖を感じた。

 自分の胸元を見ると、黒い影が自分を貫いていることに気づくのに時間は掛からなかった

倒れ込み、その黒い影を見ると少しずつ影が薄くなっていき、そこには――


************************


「うわぁぁー!」


 叫び声と共にミサキレンは飛び起きた。

体中が汗でびっしょりとなり、息は荒々しく上手く呼吸ができない。

胸元に手を当て、確かめる。もちろんのことであるが、穴は空いていなかった。

当然のことである。しかし、その当然であることが今の彼にとってどれだけ救いとなっているか。

 息を整える。そこはレンの部屋、正確にはアイリから借りている部屋と言った方が正しい。


「――ぇ!ねぇ!レンってば!大丈夫?」


 ふいに聞こえた声に驚き、その方へ視線をやる。

今まで気が付かなかったがそこには、この大層な部屋を貸してくれているこの屋敷の主―アイリ居た。


「あっ、えっ・・・・と・・・・ア・・・・イリ?」


「うん、そうだよ。時間になっても起きてこないから、心配して部屋に来てみたらすごく魘されてるんだもん、いやな夢でも見たの?」


「えっ?夢…え…っと、あれ?なんだっけ?」


 確かに見たはずの恐ろしい夢。しかしその内容を思い出すことが出来ない。

それ以前になぜ恐ろしい夢を見たと分かるかのさえも分からない。

 必死に思い出そうと試みるが、記憶に残る映像にはモザイクがかかっており、レンに見せることを拒んでいる。


「あはは、何か忘れたみたい。あっ!それより、寝坊してごめん、祭り・・・・まだ間に合う?」


「うん、お祭りは夜まであるから大丈夫だけど・・・・。レン、顔色悪いからやめておく?」


「いやいや!全然大丈夫だって!それより、俺ってどのくらい遅刻?」


「えーっと・・・・半日くらいかな?」


レンは身体中の血の気が引いたのを感じた。


「ほっんとごめん!寝坊したうえに、女の子に起こしに来てもらうなんて、男として情けないよ…」


 レンはこれまでに無い美しい姿勢で土下座をして、アイリに謝罪する。

対するアイリはレンの突然の行動にどうして良いか分からずあたふたする。


「ぜ、全然良いんだよ!それよりお腹すいたでしょ?下でセルヴィが朝食作ってくれてるから降りて食べよ?」


「う、うん、直ぐ降りるから、先に行ってて」


 不安そうな表情を残して、アイリは部屋を出た。

レンはアイリが出るのを見てその後、長いため息をつく。

 再び呼吸を整え、ベッドから出て、階段を降りてリビングの扉の前に立つ。

ドアノブに手をやると、その時初めて自分の手が震えていることに気づいた。


「おいおい、たかが夢なんかに脅かされてんじゃねぇよ」


 気合いを入れ、ドアノブを回した。


「おや?朝になっても起きてこられないので死んだのかと思っていましたが、生きておられたのですね」


 部屋に入り、早々に聞いた言葉が貶し言葉だとは思ってもみなかった。


「それが起きて来た人に言うセリフかよ」


「まぁ、良いでしょう。それよりもさっさと朝食を済ませていただかないと私の仕事が終わらないのですが」


「・・・・悪いな・・・・」


「残念なことに、これも使用人のお勤めですから。それに謝るくらいなら早く食べてください。食べないのであればあなたの口の中に捩じ込みますよ?」


「捩じ込むとか恐ろしいこと言わないでくれませんかね!ただでさえ女性に食べさせられたこと無いのに、初が捩じ込まれるとかどんな鬼畜プレイだよ!」


「戯れ言はいいのでさっさとして下さい」


 セルヴィの言葉にツッコミを入れながらもレンは席に着いた。

 テーブルに用意されていた料理はパンとスープ。

昨日の晩は和風だったのに朝食は洋風なのか。

レンは呟きながら食事を始める。


「そういえばアイリは?先に下に降りてたけど…」


「アイリ様は今御粧しをされています」


「あれ?でもさっき、起こしに来てくれた時、寝間着じゃなかったからてっきりそれで行くのかと……」


 まあ例え1日未満だとしても、こんなに見下された目で見られたのであれば自分が失言をしてしまった事は明白に分かる。


「えっと、どうしたの・・・・?」


「はぁーーーーーーーー」


 プラスため息まで吐かれると、よもや疑う余地はない。間違いなくレンは何かをやらかした。


「少しはその無い頭で考えてみてはいかがでしょか」


 おそらくこれ以上聞いたところで何も答えてくれそうもなく、言われた通り考えることにしたがいくら考えても何もでて来ない・・・・

そんなレンが思考をこらして考えていると、部屋のドアが開いた。


「お待たせ!どお?似合ってる・・・・かな?」


 アイリの声に反応し、声の発信源を見る。

そこに立っていたのは屋敷の主アイリ・アテンシア。しかし、格好が先程とは全くの別。彼女の服装はレンの居た世界でも夏によく見かけていた服装。すなわち浴衣。一体何処まで元の世界に似ているのかは不明だが、その分確認の作業が減るので有り難いこととしよう。

 花柄が描かれた紺色の浴衣を着こなしているアイリは髪を三つ編みに下ろし、恥ずかしそうに手を前で組みもじもじとしている。

あぁ、可愛い。浴衣姿ももちろんだがそれを恥ずかしがっているところが可愛さを更に際立たせている。


「レ、レン・・・・。そんなにじろじろ見ないでよ・・・・。恥ずかしい・・・・」


「はっ、いや、ごめん!めっちゃ似合ってるよ!」


「ありがと・・・・」


「アイリ様とてもお似合いでございますよ。」


「セルヴィもありがと。じゃあレンも食べ終わった事だし!早速お祭り行こっか!」


「あぁ、そうだな」


 ちょうど食事も終わり、デートへ出発!と思い、席を立つとお約束が始まる。


「そこのゴミムsゴホン、ミサキレン。あなたもしやその軽微で淫らで卑猥で陰湿な格好でで行くつもりでしょうか?」


「お前の暴言に対して何とか慣れようと思ったけど、当分先になりそうだよ」


 今の服装はかつての世界の学生服だ。

昨日の寝間着は借りたのだが、如何せんまだ外出様の服を持ち合わせていない。そのため昨日と同じ服装になってしまう。


「そんなことはどうでもいいです。あなたそんな小汚い姿でアイリ様と歩こうだなんて恥を知ってください。それにそのような見慣れない格好で出歩くと、ただの不審者ですよ。服を貸すのでそれを着てください。」


「どうでも良くは無いよね!まぁ服を貸してくれるなら有難いけど・・・・」


「アイリ様、申し訳ございません。少々お待ちいただいても宜しいでしょうか?直ぐに新品に変えて参りますので」


「チェンジ入りまーす」


 どうにもセルヴィという女はレンを罵倒したいらしい、それ故服装へのダメ出しも入るのだが、視点を変えてみるとアイリを変に思われたくないという親心のような温かい想いを感じる事も出来る。言動は冷たいが・・・・。


「私は別に構わないよ。レンもどうせなら御粧ししてもらうといいわ」


 2人はリビングを出て屋敷の奥へ向かう。

衣装室はリビングより少し歩いた場所、屋敷の奥の突き当たりに部屋をかまえていた。


「こちらに置いてある服でしたらどれでも選んでください。まぁ選ぶのであればアイリ様と同じものを着ることをオススメします。ちなみにそちらの方にございますので」


 セルヴィは部屋から出た。

 アドバイス通り浴衣の様な服を見繕おうとしたが、如何せんこういった服を選ぶのは苦手で、センスが無いと多くの人から言われている。

選んでいるとふと目に白と黒の色をした浴衣が目に付いた。さっきまで悩んでいたし、正直どれが良いのかわからないので目に付いたそれにすることにした。

 試着してみると中々格好の良い服だ。生地はなめらかで肌に優しく、その上サイズがバッチリ合っている。デザインもレン好みであり、良いものを選べた。

 しかし、男性モノの服と言うことは恐らくこの服達は、かつてアイリの家族が着ていたモノに違いない。そんな大事な遺品をミサキレンと言う他世界からの住人が安易に着て良いものではない。

 そんな思いをめぐらせる。だが、今日は祭りの日。申し訳ない気持ちもあるが、そこは目をつむってもらおう。

 部屋を出たレンを待っていたのは、中々待ちくたびれた表情のセルヴィだ。


「決まりましたか。かなり長いこと悩んでいたのですね、少しは人を待たせているという自覚を持ってはいかがでしょうか?」


「悪かったな。こういった服を選ぶのは苦手なものなものでね!」


レンは部屋の外に置いてある鏡を見ながら自身の姿を確認する。

我ながら中々いい男である。


「でも、良かったのか?あれらの服って全部アイリやお前の家族のものだろ?俺なんかが着て良いのか?」


「構いません。確かに旦那様達の遺品だとは言え、結局は物ですから。使わなければ朽ちるだけです」


「言動どうりサッパリしてんだな、お前って」


 しかし、セルヴィは平気だというがその本心はどうか分からない。

きっとアイリと同じように苦しんだはず。


「アイリ様はもう玄関の方にいらっしゃのでさっさと行って下さい」


「お前は?家の主人の見送り来ないのか?」


「私は屋敷の仕事で忙しいので」


「主人の見送りも仕事の1つだろ?」


 セルヴィはただ黙って目を瞑っている。


「あー、分かったよ、行ってくるからな」


「いってらっしゃいませ」


 セルヴィは小さくお辞儀をした。

小走りで廊下を進み、玄関に着くとセルヴィの言葉通りアイリが待っていた。


「お待たせ」


「あっ・・・・。お父・・・・様・・・・」


 その時のアイリの目は、幽霊でも見たかのような、そして懐かしく愛おしい相手に会ったときに見せる目をしていた。

だがそれは、ミサキレンという人間に送られたものではない。そんな事は分かっている。分かっているからこそアイリの気持ちに気づかぬふりをする。


「ア、アイリ!?どうしたの!?」


「ううん、何でも無い…。ごめんね」


 アイリは涙を拭い笑顔を見せる。

その必死な行為に罪悪感を抱きながらレンはアイリを見つめることしか出来ない。


「レンの服、とっても似合ってるよ」


「あぁ、ありがとう・・・・」


 どんな顔をしたら良い。今の彼女を安心させられる表情が思いつかない。

 考え抜いたレンは、うっすらと笑顔を浮かべる。これしか出来ない自分に情けない思いを背負いながらアイリを見る。少女は優しい瞳で自分を見ている。


「よし!今日は楽しいお祭りよ!さっそく出発!ってあれ?セルヴィは?」


「あいつなら来ないのかって聞いたら仕事だからって衣装室で別れたよ。そういうの使用人としてどうなの?」


「そっか・・・・。やっぱりセルヴィも・・・・」


 くぐもった声でアイリは呟いた。

小声で聞き取りづらかったが、ある程度の内容は予想がつく。


「レン!行こ!早くしないとお店閉まっちゃう!」


「あ、あぁ!今行くよ!」


 考え込んでいたレンを置いてアイリは先に屋敷の外へ向かっていた。

その背中を追いかけてレンは走り出す。何をすればいいかなんて分からないが、今は楽しもう。きっと今日は良い日になる。


**********************


 屋敷の2階。窓際に立つセルヴィは、レンとアイリを見送った後、1階のリビングに戻り椅子に座った。

首に付けたロケットを取り出し、中身を見る。

 色褪せてはいるが、それが何を写しているかは充分に分かる。それを忘れてしまうことはセルヴィにとって死を意味する様なものである。世界で1番の宝物。

 それには黒い正装服を着た男性とその傍らにはドレスを着た小さな女の子が恥ずかしそうに立っている。背景は屋敷の玄関前。男性の右手が女の子の肩を優しく包んでいる。


 これは光魔法を応用したもので光の残像を紙に写すというアテンシア家独自の技法である。この画はセルヴィがまだ10歳の頃、初めてアテンシアの屋敷へ来て撮ったものだ。

当時のアテンシア家の当主―ロメルト・アテンシアは優しく温厚な方だった。初めはとても怖い人だと思っていたが、そんなの思い違いだった。それからは常にロメルトの傍から離れることはなく。セルヴィが初めて恋をした瞬間だったとも言えよう。


「ロメルト様・・・・」


 セルヴィの言葉は、テーブルに置かれた温かいお茶の湯気とともに儚く消えていった。

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