3話 小さな一歩と大きな一歩
前回までのあらすじ。毒舌メイド登場。
今回は少し短いので早めに投稿しちゃいました。
「俺が襲われた『魔獣』っていうのは一体何なんだ?」
あれから2時間ほど続いた講義は、結局アイリとの雑談で終わりレンの質問タイムが再び始まった。
手を上げて質問したレンは、この世界に来て初めて遭遇した生き物で、初めて襲われた生き物『魔獣』。アイリとセルヴィは口をそろえて、そう呼んだ生き物について問うた。
実際の所、『魔獣』なんて単語はどんなものかと言われると容易に想像がつく。つまるところ敵の僕とかそう言った類いなのは間違いない。
「そうね・・・・魔獣っていうのは、実際のところ私たちも詳しいところは分からないの」
しかし、レンが予想していた回答とは全くの別。思わぬ回答に動揺がはしる。
アイリは言い切った言葉に続けて話しをする。
「さっき私が森に行ったのも、調査の一貫って言ったけど、その調査に魔獣の生態を調べるっていう事もしないといけなくて、毎日ああやって外の見回りをしてるの。でも、唯一分かってる事っていったら魔獣にもコアがあって、それを破壊すれば倒せるっていうことなんだけど―」
「ちょっ、ちょっと待って、コアってのは・・・・?」
話しの腰を折るのは大変申し訳ないが、魔獣を倒す方法などと聞いたあかつきにはそれが何なのか知る必要がある。
本気で分からない表情を浮かべるレンにアイリは不審な表情はせず、ただニッコリと笑って話しを続ける。
「えっとね、コアっていうのは魔力を溜めてるところで、同時にそれを壊されると、その生物の生命活動は停止するの。だから魔獣を倒すときはコアを狙って攻撃しないとだめなの」
「なっ、なるほど‥。ちなみに魔獣を倒したときにアイリが使ってたのは魔法?」
単純な質問をしたつもりだったが、レンの言葉に反応しアイリは机を大きく力強く叩き、得意げな顔をする。
その自信に満ちた表情にどうとも言いようがなく、ただ呆然と眺めるしかない。
「フッフッフ、よくぞ聞いてくれました!あれはどんな優れた魔術師でも使うことのできない光魔法よ!大抵の魔術師は光魔法の初級編ともいえる『ヒール』っていう回復魔法くらいしか使えないけど、私…いえ、私の一族は光魔法を極限まで、使用することを許された、唯一の一族よ!凄いでしょ!?格好いいでしょ!?」
「そういえば、会った時も言ってたけど、アイリの一族の‥アテンシア家?ってのはどういう一族なんだ?話を聞くからに凄そうな一族だけど・・・・」
人は話したくない内容がくるとただ沈黙に満ちた表情、目の色を浮かべ己の過去、又は真実から逃れようとする。
まさに今の彼女は同じ顔をしている。おそらく禁忌の質問なのであろう、レンは言った後に気づきハッとなる。
沈黙の時間が続く、見ると先ほどまで目を閉じていたセルヴィも、いつの間にか目を開け、思いつめた表情でじっとテーブルの紅茶を見ている。
「あ、あの・・・・その・・・・答えたくないなら、答えなくていいよ。デリカシーの無かった俺が悪かった、ごめん」
この沈黙をどうにか終わらせたいと思ったレンは、自分の発言に対する謝罪を入れる。
許されるはずもなかろう発言はただ宙に浮いているだけで何の意味も持たない。
しかしアイリは暗い表情から少しの光を表情に灯した。
「ううん…自分で言っときながら説明しないのは私に責任があるから、ちゃんと説明する。アテンシア家っていうのは――」
「アイリ様!」
言葉を止めたのは先ほどまでじっとしていたセルヴィ。
「素性も分からない者に、そのようなことをお話になるのは、いかがなものかと!」
確かに、セルヴィの言っていることが正しい、それはレン自身も思っていることである。
どこから来て、ここがどこかも分からないという人間に自分の家のことをベラベラ喋ることはレンでもしないことだ。もっとも、深刻なことならなおさらだ。
「いいの、これは私が決めたことなの。それにレンは悪い人じゃない、もしそうなら初めから分かるはずだもの」
初めて会った時、アイリはレンを『黒使団』と呼ばれるものではないかと疑い、剣を向けてきたがさすがにここまで真剣な話の中、ツッコミはできない。
「しかし――」
「セルヴィ!何度も言わせないで!私はこの家の・・・・一族の当主よ!私がすると決めたら反論は一切聞かない!」
アイリの表情は一変し、さっきまで普通の女の子の目をしていたアイリの目は、鋭くそれこそ剣のような目をしてセルヴィに忠告をする。
セルヴィは「申し訳ございません」と深く頭を下げた。話とは関係のないレンでさえ、恐怖を感じるほどアイリから感じるオーラ…いや、覚悟というものであろうか、それは凄まじいものであった。
「ごめんね、話が脱線しちゃったね」
眼の色を元に戻し、会話の続きを始める。
「話す前に改めて自己紹介するわ。私の名前はアイリ・アテンシア。12年前、『黒使団』と呼ばれる集団に滅ぼされた、アテンシア家の生き残りよ」
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話しを始めようとするアイリは自分の思いの出所が分からずそわそわした気持ちに揺れていた。
これは、自分の過去の話は今までの人生の中で一度もない為、それによる緊張と言うべきなのだろうか
アイリの心は今、目の前に居るミサキレンと言う少年に何か心を引かれている。人が聞けば恋心などとロマンチックな事を言ってくれたりもするのだろうが、そんな気の利いた台詞などいらない。口では説明できないが、少なからず何処かであったことがあるようなそんな思いがある。それと同時に何か特別な思いもまた、アイリの中によぎった。
複雑な思いに抱いたままアイリは大きく深呼吸をして話しを始める。
「アテンシアっていうのは、この王国が出来てから在る由緒正しき伝統のある一族なの。 でも、12年前『黒使団』と呼ばれる集団に家を襲われて、私を除く一族全員と使用人として昔から仕えてくれてるセルヴィの家族が殺されたの。だから今は私とセルヴィの2人だけ・・・・」
目を閉じる。 その脳裏に映し出されたのは燃えさかる屋敷。これはアイリ・アテンシアが3歳の頃の記憶である。
朝は家族と使用人のみんなで楽しく話しながら朝ご飯を食べる。セルヴィのお父さんは話が上手で、朝食の時はいつも昔話をしてくれた。
昼は広い庭で剣術と詩の稽古。剣術のカーチェス先生はいつも厳しかったが、決して苦ではなかった。いつも母が優しい顔で見ていてくれるから。
そんな母に格好良い所を見せたいと、どれだけ頑張ったことか、おかげで今では王国の三本の指に入る剣術使いである。夜は屋上で星の観察をしていた。夜は暗くて怖いが、隣にはいつも父が居た。父は星座についてよく知っており、都市の中では博士と呼ばれていた。そんな父の腕の中でアイリが眠りに落ちるまで星の話をしてくれた。未だに忘れないお父さんの腕の感覚、大きくて暖かい腕の中が何より落ち着く場所であった。
みんな大好きで、愛していた唯一の居場所。そんな居場所を炎は容赦なく奪ってゆく。一体誰にそんな権利で大切な居場所を奪うことが出来るのだろう。
あの炎の夜は今でも夢で現れ、その度に魘され飛び起きることが多々ある。
目を開けたアイリは吐き気を覚えてとっさに両手で口を押さえた。
直ぐさまにセルヴィが駆け寄り介護する
「それ以上は話さなくていい。アイリがそこまでして俺に話す必要なんてないだろ?」
ミサキレンは気を遣い、アイリにこれ以上の負担をかけさせまいとする。
「そうですアイリ様、無理をされる必要はありません」
同調したセルヴィも話しを終わらせに入ってきた。
さすがに2人に止められてしまっては押に弱いアイリは引き下がるしかなく、もやもやを抱えたまま過去の話については終わった。
しかし、アイリにとって今の体調であの話の先を話すのはきつかった為、終わりを切り出したレンに対して感謝の気持ちを向けた。
「うん・・・・ごめんね。ちょっと外の空気吸ってくる」
外は肌を刺す夜風に少し身体を震わせながらも玄関を出て左に置いてある椅子に腰掛けた。 真っ暗で屋敷の灯りがなければ自分の立っている場所さえも分からないほどに暗黒の世界を作り上げていた。
「お父様、お母様、おじいさま、おばあさま、みんな。私は…必ず…」
目を閉じ家族、使用人達の顔を思い浮かべる。
「必ず王になります…」
小さな声と大きな決意と共にアイリは夏の夜空に言い残した。
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「すごいな、アイリって…」
2人きりとなったレンは思いのままを口にした。
それは同い年くらいの女の子が酷い思いをしながらもあそこまで立派に人生という道を歩いているその姿勢を賞賛した言葉。
とは言っても、今までの人生の半分以上をあきらめていたミサキレンが他人の人生を賞賛する事など言語道断である。それでもなおアイリの生き方には芯があると感じた。
「当時のアイリ様はまだ3歳でした。あの事件依頼アイリ様の全てはが大きく変わり、家を失った私達は王宮に引き取られ、数年を過ごしました。それから王宮からの援助で屋敷は建て直され、私達は再び屋敷に移り住みました。でもそれはアイリ様にとって逆効果だったのかもしれません。アイリ様は、代々アテンシアの家が行っていた都市のお勤めに専念されるようになりました。まるで事件の記憶を思い出したくないがごとくに、朝から深夜まで毎日毎日」
テーブルに食材を運んできたセルヴィはレンの言葉に反応して答える。
こんな話しの時でさえ食欲に負けてしまうレンは情けないと思ったが、外はすっかり暗くなりそろそろ晩食の時間とは思っていたがここに来てレンが居た世界と同じ料理が出てくるとは。しかも美味しそう…
「酷い話しだな…。その、黒使団ってのはどういう奴らなんだ?異世界ファンタジー定番の敵キャラって奴か?」
「定番のキャラというのが良く分かりませんが、黒使団は現在王宮が最も危険視している集団のことです。実態や目的等は全く明らかになっていないまさに、謎の集団です」
おそらくその集団を倒すことが、レンのこの世界の役割なのだろうと思いながら、うんうんと頷いた。
すると、頷くレンにセルヴィは姿勢を正し真面目な表情で向き合った。
「なんだ、どうした?求婚でもしてくれるのか?」
冗談半分に言ったつもりだが、セルヴィはもの凄い形相でレンを睨みつけた。
レンは目を泳がせながら「すいません」と見事惨敗。
再び真剣な表情となったセルヴィはレンの目を真っ直ぐに見る。
美しい綺麗な緑色の眼孔は、部屋の光に照らされ朝日を浴びた木々の様に輝きを放つ。
「ミサキレン、貴方は――」
セルヴィの言葉を遮ったのは、アイリが部屋の扉を開けた時に生じるきしんだ音によるもの。
立て付けが悪いのはレンがこの部屋に入ったときから感じていた事だ。
部屋へ入ってきたアイリは不思議そうな顔をして、向かい合って立つ2人の顔を交互に見た。
「体調の方は戻られましたでしょうか?」
切り出したのはセルヴィだ。
「うん、もう平気だよ。心配かけてごめんね。お腹空いたし、ご飯食べよ?」
アイリはニッコリ笑い、お腹を擦っている。
セルヴィは「かしこまりました」と再び食事の支度を始め、台所へと戻って行った。
「レンも!早く席について食べよ?セルヴィの作るご飯はとっても美味しから!」
アイリに手を引かれ、レンは席に着いく。
テーブルには既に用意された食材が今か今かとスタンバイしていた。
まず驚いたのは米があること、そして味噌汁があること。確かに今まで異世界と思わせる様な出来事が今日一日で何回も感じさせた。
しかし、今この瞬間は元の世界に戻ったかの様に感じる。
3人が席に着き、いよいよ異世界最初の晩食の幕が切って落とされる。
レンは意を決して味噌汁を一口飲んだ…
「―ッツ!!」
美味い。あれ?普通に美味しくて普通に味噌汁だ。
箸は止まることなく、白米、おかずを食べ続けた。
「すげぇ美味い…」
ボソっと呟いたレンは更に止まることなく食べ続ける。
そんなレンを見ながらアイリはニヤニヤしながらセルヴィを見た。
「よかったね、美味しいだってさ!」
「アテンシアの使用人たるもの当然のことです」
そう言ってセルヴィは頬を赤らめながら無愛想に言う。
アイリは微笑みながらセルヴィの横顔を見ている。
美味しい時間はあっという間に終わり、大満足のレンは腹を擦りながらまったりしている。
「いやー、ホント美味しかったよ!あんな美味い飯食べたの久しぶりだったぜ。ありゃぁ店出したら大繁盛だな」
余韻に浸っているレンは、いやらしくもあの料理で商売が出来ないだろうかと考えた。
「残念ですが、私はアテンシア家の為にしか料理の腕を振るうつもりはございませんので」
あえなく夢を砕かれたレンは、落ち込むそぶりを見せたがセルヴィは無視してお茶を啜る。
そういえばセルヴィが言おうとしていた事は何だったのだろうか?
レンは考えたがどうせ罵倒の言葉だろうと思い思考を止めた。
「はぁー、明日も調査かー。休みたいなー」
唐突にアイリが嘆き始めた。
その言葉にセルヴィは強く反応した。
「アイリ様。家のお仕事を休まずにすると言ったのはアイリ様です」
「もー!うるさいなー!あんたは私の嫁さんですか!」
さらにセルヴィの言葉にアイリは頬を膨らませ反論する。
何とも可愛らしいコントが始まったと思いレンは微笑みながら横で聞く。
「レンから言ってよ!たまには休むべきだって」
突然のふりにレンは上手く答えられず苦笑いを浮かべた。
アドリブが意外と苦手なレンにとってアイリのそれはまさにレンの嫌いなそれだ。
「アイリはどういう思いで毎日体を張って調査してるの?」
結局上手く対応する事が出来ず、代わりにごまかそうと質問をする。
何気なく聞いたレンの質問にアイリは戸惑った表情を浮かべる。
それもそのはず、セルヴィの話しによると悲劇を忘れるために仕事をしているというのだから。
レンはそれに気づいたが、もう遅い。
「ご、ごめん・・・・。今のは忘れて」
「ううん。いいの」
首を横に振り、優しく微笑む。
「私ね、始めは家族や家を失った悲しみから逃げるために必死でやってたの。でもある時、調査中に街の女の子が魔獣に襲われてる所に遭遇したの。何とか助けることが出来てやったーって思ったの!」
アイリは嬉しそうに。時折笑みを浮かべながら語る。
「今まで私の力のせいで家族を失ったから、私のこの力の意味が分からなくなってたの。でも初めて私の力で人を救うことが出来て凄く嬉しかった!私の力は呪われた力なんかじゃ無いって!誰かを、皆を笑顔に出来る力なんだって、そう思うことが出来たの!だから私が今調査をしてるのは過去から逃げるためなんかじゃない!皆を笑顔にするため!その為なら命張ることなんて怖くないわよ!」
力強く語るアイリの目は輝き、まるで太陽の様だった。
その輝きに目を背けたくなるほどに。
同時にミサキレンの心は大きく揺さぶられた。
「だからね、レン。逃げないで。どんなに辛くったって人に力があるのは誰かを護る為にあるの。詳しくは分からないけどレンは昔の私と同じ目をしてる。力から逃げるって事は自分自身からも逃げることになると思うの。だから・・・・」
ミサキレンにはある秘密があった。
それは普通では考えられないこと。彼にはこれから起こる出来事、つまり未来が視えるのだ。
きっかけは何なのか分からない。いつからかも分からない。しかしそれは突然彼の目に映り未来の出来事を知らせるのだ。
レンはこれを『未来視』と呼び、何度か学校で起こる事件を解決してきたのだ。
しかしある時、『未来視』の能力のせいで濡れ衣を着せられ彼は問題児として扱われるようになった。
それ以来ミサキレンは未来が視えてもその未来に背を背けてきた。
これがミサキレンの抱える人生のコンプレックス。秘密。罪である。
今目の前に居るアイリ・アテンシアという少女もまた、力は違えど自らの力を畏怖していた。
だか彼女は、あきらめることなく自らの力を人のために使おうと決めた。 レンとの違いはそこだった。
「レン!?どうしたの!?」
レンは今までの自分が馬鹿馬鹿しくなり思わず笑った。
同時に大粒の涙を流しながら…。
「なんでも・・・・ない・・・・。ごめん・・・・。ありがとう・・・・」
過去の出来事から逃げて逃げてを繰り返した。きっと誰かを救ってもまた自分が傷付くだけ。そう思って全てをあきらめてきた。
だが彼女は、それでも立ち上がり戦い続けろとレンの心に渇を入れた。
もう一度。もう一度だけ戦おう。まずはそれを教えてくれた彼女のために戦おう。小さな一歩だが人生で1番重要な一歩だ。
彼女に感謝されたいなどというやましい気持ちなんて無い。ただ、ただ強く決意する。誰に何と言われても構うものか。この力はきっと誰かを救うためにあるのだから。




