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35話 アーマ・ライトを追って

「レンっ!!」


 突如崩れた部屋の残骸と共にレンは恐らく下の階かどこかに落ちてしまった。


 間一髪のところで災害から逃れられたアイリは、消えてしまったレンを探そうとする。


 だが、もはやそこには建物の残骸しか残っておらず、人を見つけようなど不可能なことだ。


「安心するのだ。レンの魔力は探知出来る。つまりは生きているのだよ。」


 あきらめ顔だったアイリにアテナは言った。


 レンと契約関係にあるアテナが言うのであれば間違いないだろう。


「まずはその娘を帰さなければいけないのだ。」

「そうだね。ここに居ても危ないし。早くお母さんに合わせてあげないと。」


 親に会えない寂しさは知っている。だからこそ助けなければ。


 アイリはリナを抱きかかえ、部屋を出た。


 不思議と闘技場を出るまで敵と遭遇する事は無く、すんなりと外へ出ることが出来た。


 しかし外の状況は先程とは違い、何か緊迫した雰囲気が流れていた。


 アイリはリナの母親を見つけると、走ってその場へ向かった。


 再会した2人は力強く抱き合い、互いの温もりに安堵している。


 一仕事終えたアイリは次の仕事に取りかかろうとした。レンの捜索である。生きている事が分かれば、後はアテナの魔力探知に任せるだけだ。


 再び闘技場へ向かったアイリ。すると視界にアグレナ達が目に入った。


「みんな!」

「アイリ!!」


 アイリは思わず声を出し、皆の元へ向かった。言わずもアテナもその後を追う。


 アイリの声に反応したルナは向かって来たアイリに飛びついた。


「良かった!無事だったんだ……。」


 目元に涙を浮かべているルナ。本気でアイリの安否を心配していたのだろう。


 アイリは「ごめんね。」とつぶやき、力強く抱きしめた。


「感傷に浸っている中すまないが、丁度良いところに来てくれた。お前達に話したいことがある。」


 他のメンバーとも再会の喜びを交わすアイリ達にアグレナが声を発した。


 それを聞いたルナ達の表情から笑みが消え、代わりに怯えるような表情を出した。


「お前は『アドムの結界』を知っているな?」


「はい。鉄鋼都市を護ってる結界ですよね。」


 アトランティス王国のそれぞれの都市には創設に関係した神の加護が宿っている。鉄鋼都市には『アドムの結界』と呼ばれる悪しき心を持つ者を侵入させない結界が街全体に張り巡らされている。


「実は先程、その結界が何者かに破壊された。」

「えっ!?」


 神類が創り出す結界などは、通常の魔術師や剣士で破壊することは出来ない。それは人間と神とでは、能力や魔力に差がありすぎるからだ。


 ということは結界を破壊しようだのと考える者は居らず、今まで人々は安心して暮らしていた。だが、突然その概念が壊されたらどうなるだろうか?


 答えは簡単。人は困惑し、混乱する。


 つまり今現在都内は、今までに無い非常事態に混乱しているのだ。


「それに結界が壊されただけだったらまだマシだが、街の外から魔獣が迫っているそうだ。」

「そんな……。」

「元々鉄鋼都市の外には他の都市の魔獣よりも強力な奴らが居る。それらが一斉に迫っているそうだから、街は今緊急避難指示を出して、住人を避難させている。」


 アグレナは焦った様子で街の向こう側を見た。


 アイリも同様に街の外に意識を向ける。


「っ!!」


 感じた。


 確かに夥しい数の魔獣の軍勢が街を目指して迫っている。


「私は前戦に出向かなければならない。お前達は【ジェイド】の連中と合流して、


 この場所の守護を頼む。」


「あ、あの!ですが……。」

「安心しろ。後で聖鋭隊も来る。それまでの辛抱だ。」


 そう言ってアグレナは軽々と跳躍し、街の外を目掛けて去って行った。


「アイリ。大丈夫だよ!私達だって役に立てるから!」

「違うの、ルナ。今闘技場内にレンが取り残されてるの。だから、助けに行かないと……。」


 アイリは唇を噛み、どうしればいいと自身に問いかけた。


 アグレナの言うとおり、この場所だっていつ敵に襲われるか分からない。かといってこのままレンを放置しておくのも危険な事である。


 揺れる心境を悟ったルナは、アイリの肩に手を置いた。


「行きな。」

「….えっ?」

「ここは私達に任せて、アイリは彼の所に行って。なぁに、私達だって伊達にアグレナ先生の元で修行してきたわけじゃないんだから!それに……。」


 ルナの視線はアイリの背後に向けられた。


「おう!待たせたな。女子ども!」


 そこには【ジェイド】のメンバー達が。


 先頭にリヒトが立ち、その後ろでは他2人が武器を構えて立っている。


「ほら!早く行く!」


 ルナはアイリの背中を押した。振り返ると、彼女の顔は自信に満ちた表情。友を見送る顔をしてる。


「ありがとう……。」

「うん!!」


 ルナの声を聞いて、アイリは掛けだした。


「ちょっと待て!」


 するとリヒトがアイリ達を止めた。


「あそこにレンが居るんだってな。」

「う、うん。そうだよ。」


 初めてリヒトと対面で話すアイリは、彼の威圧で少し引き気味に話をする。


「俺も連れて行ってくれ!」

「えっ?」

「ここの守備くらいなら、ソラ達で何とかなる。レンが危険な状態に居るなら、きっと役に立って見せる。だから!」


 リヒトは勢いよく頭を下げ懇願した。アイリは動揺しながらも、リヒトに頭を上げるよう伝えると、にっこりと笑った。


「お願いしてもいい?リヒトくん?」

「あぁ!もちろんだ!」

「改めまして、私はアイリ・アテンシア。」

「リヒト・アルテミラだ。よろしく!」


 3人は闘技場へ向かった。


 ♢


「うぉぉ!!」


「りゃぁ!!」


 再びフィールド上に現れた漆黒の闇(通称『黒池』)。そこから這い上がる怪物達は、先程よりも数を増して襲いかかってくる。それに加えて、元々徘徊していた連中も含めると、その数は軽く千は超えるだろう。


 アーマとの戦いを覚悟したレンだったが、アーマは発動した黒魔法を解き、代わりに敵を増加させ、レンの相手をさせた。それに手を取られたレンは、アーマを見失い、今に至る。


 レンは溢れかえる敵を斬りながら1人佇むアーマの元へ向かおうとする。しかし、


(くそっ。数が多すぎる。これだと体力が保たない。)


 1人ではまともに対処出来ない数だ。さらに、この数の敵となると御崎流の奥義もあまり効果が無い。


 レンは苦渋の表情を浮かべながらも、迫る敵軍を斬っていく。


 数分の猛攻が続いた時、敵勢に変化が起こった。


 ガギンッ!


「っ!?」


 なんと先程までは簡単に斬れていた敵の身体が急に硬化したのだ。それも全体が。


「そんなんありなのかよ……。」


 もはや絶望的な状況。倒してもきりがない敵の軍勢。それに加え倒せないとなると打つ手無し。


 レンは退避を考えた。だが、背後の入り口からは最初に出ていた敵が迫っている。


 ここで終わりか。そう思った時、声が届いた。


光斬撃ルス・エペナイデン!」


 光の斬撃が空から降り注いだ。


 敵は無数の斬撃により黒い塵と化し、消えていく。そして斬撃と共にさらに声が聞こえた。


「レンっ!」


 レンの目の前に降り立ったのはアイリとアテナ。そして、


「お前、リヒト!」


 まさかのリヒトの登場だった。


「んだよ。ボロボロじゃねぇかよ。そんなんで【ジェイド】の訓練生かよ。」


 リヒトは小馬鹿にするようにレンを見下ろすと、龍のように鋭い目線を敵勢に向けた。


「まっ、話は後だ。まずはこいつらを片付けないとな。」


 構えたリヒトは、その拍子に敵勢に向かって飛び出した。


「喰らえ!廻穿かいせん!」


 リヒトは目の前に来た敵に向かって、お得意の回し蹴りを見せた。


 でも、


「ダメだ!そいつらに普通の攻撃は―――」


 と思ったが、敵はいとも簡単に真っ二つにされ、消えていった。


「嘘だろ!?何で!?」

「あぁ?何がだよ?」


 実に当たり前みたいな顔で立つリヒトに、レンは彼の背中に問うた。


「言っておくけどな。龍騎拳は何者よりも最強なんだよ!」


 そう言い放ったリヒトは、まるで止まることの無い牛のように場内を駆け巡り、敵を一掃していく。


「レン、大丈夫?今回復するから。」


 座り込むレンのそばに来たアイリは、回復魔法ヒールを使い、レンの傷を癒やしていく。


「どうしてあいつの攻撃が効いてるんだ?しかも武器とか無しに体術なのに。」

「ふむ。おもしろいのだよ。」


 唖然とするレンにアテナは言った。


「恐らくあの小僧が使う『龍騎拳』とは、黒魔法に何らかの耐性でもあるのかもしれないのだ。」

「そんな事ってあり得るのか?」


 いや、愚問だった。


 魔法というもの自体が存在するこの世界に、あり得ないなんてことは、逆にあり得ないのかもしれない。


 であれば、リヒトが来てくれたことは戦力増加に十分な影響を成しているといえよう。だが、リヒトにばかり頼るのも癪に障る。


「アイリ。もう大丈夫だから。」


 そう言ってレンは立ち上がり、地面に置いていた剣を取った。


「レンよ。私の力を使うのだ。」


 アテナはレンに近寄ると、持っている剣に触れた。


斬風剣アモネス・グラント


 詠唱を唱えると同時に、疾風がレンの剣を包んだ。


「これは?」

「レンの剣を魔法で強化したのだ。これであいつらを好き放題斬り殺せるのだよ!」

「お前、今かわいい顔してとんでもない事言ってるからな。」

「レン。私は後方から魔法で援護する。だから、目の前の敵に集中して。」


 ツッコミは忘れない。


 だが、これか願ってもない事だ。もちろん感謝する。


 レンはアテナとアイリに「ありがとな!」と言うと、敵勢に向かっていった。


 


 それから数分が経過した。


「くそっ!キリが無いぜ!」


 どこから湧いてくるのか、敵の数は一向に減ること無く、レン達4人に迫る。


 さすがにしびれを切らし始めたリヒトは、苛立ちを露わにしつつも敵をなぎ倒していく。


「さすがにヤバめだな。」


 レンも集中力と共に体力の限界を感じながらも、歯を食いしばり敵を斬る。


「はぁ、はぁ、光斬波ルス・トーラナイデン!」


 アイリも自身の魔力切れを心配してか、先程より魔法の威力を落として戦うようになった。


 このままでは、4人がそう思った時、場内に図太い声が響き渡った。と同時に、何か大きなモノが落ちてくる落下音が……。


「チェストォォォォォ!!」


 ドォォン!!


 数メートルのクレーターを作り上げた、その何者かは充満する砂埃から颯爽と飛び出すと、手に持っていた大剣を横凪に振った。


 その衝撃波により、敵は一気に清掃され、場内を満たしていた黒い影を半分以上減らした。


「な、何だよ!」


 レンは見えない視界の中、目を凝らすとその巨体を視野に入れた。


「シンさん!」


 反応したのはアイリだった。


「おぉ!アテンシア様じゃないですか!ご無事で何よりです。」


 シンと呼ばれた男は、かしこまるように姿勢を正すと、アイリに向かって一礼する。レンは彼の服装を見て瞬時に悟った。彼が聖鋭隊であることに。


 そしてもう1人居る事にリヒトが気づいた。


「師匠!」


 そう、魔術競技祭でリヒトを完膚なきまでにボコボコにした、ローガンである。


「ふむ。ふむ。状況は何となく察したわい。後はワシらに任せるんじゃ。」

「っ!師匠!危ない!!」


 現れたローガンの背後に敵が3匹。リヒトはローガンを救うべく、地面を蹴った。しかし、


「知っておるわいのぉ。」


 ローガンが地面を蹴ると、その背後から3匹の龍が出現。敵を食い千切った。


「さて、ここは俺達に任せて、お前達は皆と合流するんだ。」

「……。」


 シンとローガンはレン達の前に立つと、避難を促した。だが、レンは応じない。


「どうした?早く行け!さすがの俺達でも、お前ら全員を護れはしないぞ。」

「退避は…出来ません。」

「何?」


 シンはギロッとレンを睨んだ。


「俺は、先に進みます!そこに、俺の仲間が居る!だから!」

「話は外でアグレナから聞いている。アーマ・ライトだろ?ダメだ。敵が黒使団と決まった以上、お前らみたいな子供を自由に行かせる訳には行かない!」


 まさに正論でレンを止めるシン。だが、そこで食い下がる程レンの人生経験は甘くなかった。


「断ります!あいつが黒使団の訳が無いんです!それは今まで過ごしてきた俺達が証明します!それに、俺はもう、友達を失いたくはない!」


 真っ直ぐとした視線。その瞳は燃える太陽の様に輝き、美しい。そしてどこか悲しい。シンはレンを見たときそう思った。彼の瞳から読み取ったのは、強さ。そして悲しみ。


「……はぁ。ナツから話は聞いてたけど、確かにくさい台詞を簡単に言う男だな。」

「っんな!!?」


「行け!俺達は奴らの相手をするのに気を取られて、お前達を先へ行かせてしまった。そう報告書にでも書いとくよ。」


 大きな背中を見せたシンは、向き直り剣を構えた。


「おっと、自己紹介がまだだったな。俺は聖鋭隊5番隊隊長シン・ヘルクロートだ。」

「ミサキレンです。」


 巨体が見せた笑みは、どこか優しい感じがした。


「ありがとうございます。」


 レン達は2人が開けた道を走った。


 ♢


「……っていうのが今の状況だ。」


 シン達の手助けにより、闘技場から離れアーマを追うレンは、アイリ達3人に今の状況を説明した。


 彼の豹変。黒魔法の使用。


 それら全てを考えて、彼が黒使団の1人であることは容易に想像が出来た。


 しかし、レンは彼の内に秘めたる何らかの思いがそうさせているのではないか?その気持ちもまた、説明した。


 そしてその意見にはリヒトも同調してくれたようだ。


「俺もレンの意見に同感だ。根っから優しいあいつが、黒使団と連んでるなんて想像出来ないからな。」

「でも、それだとどうして彼は黒使団の仲間に?」

「それは……。」


 その言葉の先は出てこなかった。


 確かにレンの思いを尊重して話を進めると、どうして彼が?という疑問に突き当たることになる。


「レンがあの槍小僧と生活していておかしな事はなかったのか?」


 アテナが問う。


「おかしな事。いや……無かった。いつも優しい笑顔してて、すげぇ接しやすかったくらいしか記憶にないな。」

「そうか……。」


 アテナの質問には答えられなかった。


 むしろおかしな事など1つも感じさせないのがアーマ・ライトという人間だった。


 だから、変な事など………….いや、思い当たる節がある。具体的なそれではないが、


「確か、1つだけ変な体験をしたことがある。」

「変な?一体どんなやつなのだ?」


 記憶の回路を繋ぎ、思い出す。そう、あれはいつぞやの夜に……。


「いつかは思い出せないけど確か、す――」

「止まれ!!」


 突如、アテナは叫び3人の動きを停止させた。あまりのことに3人共が足を止め、後ろで立っていたアテナに振り返った瞬間だった。


 ザザザッシュッ!!!


 一歩前。ほんの数センチ先に黒い槍が無数に降りかかってきたのだ。


「「「っ!」」」


 3人共殆ど同じタイミングで、気づきアテナの方へ後退する。


「何だっ!?」

「おい!見ろアレ!」


 リヒトが上空を指さした。


 地上からの高さ約数十メートルにその男は立っていた。黒髪を腰まで長く伸ばした男は空中で靡く髪を整え、にっこりと笑みを浮かべた。そして下ろしていた手をレン達に向けて振った。


「やぁ。久しぶりだね、アテナ。」



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