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34話 反逆の激槍

佳境に入った第2章!

よろしくお願いします!

 

 泥の様にどろどろとした液体がフィールド上を汚染している。

 所々でボコボコと泡を作り出し、破裂する。


 煮えたぎっている様な黒い湯気を上空に放出しながら、それは広がり続けている。


 どの拍子だろうか。黒い沼から複数の人型の黒い何かが現れたのは。


 黒く染まったそれは、まるで這い上がるように黒い沼から抜け出ると、苦しげに嗚咽を吐きながら地上を彷徨った。

 そして、黒い視界に入った、大会関係者であろう老人を見つけると、ゆっくりとゆっくりと近づき、襲いかかった。


「うわぁぁ!た、助け…テ。」


 あっとういう間に老人は黒い怪物の餌となり、吸収された。


 間を置いて数秒後、観客や選手一同は悲鳴を上げながら、闘技場から逃げようと人が溢れている出入り口に殺到し始めた。


「レン!逃げよう!ここは危ないよ!」


 アイリは危険を察知した観客に遅れて、レンの避難を促した。


「あ、あぁ!」


 あまりの突然のことに思考が追いつかないレンは、決死に言葉を出し観客の後を追った。


 ♢


 会場から出たレン達は避難した観客達と共に闘技場を見ていた。


 どういうわけか、先程まで観客達を襲っていた黒い怪物は入り口から出てくることは無く、外の安全は保障されていた。皆は安心感に浸たる。


「あれは何なんだ?」


 安全を確保したレンは、危険に備えて入り口付近に立つ。


「分かんない。でも、いきなり大きな黒瘴気を感じたの。そしたらあんな事に……。」


 恐らくアイリの事だから、もっと早くに気づけたらと自分を責めているのだろう。


 2人の間に無言が流れた。


 すると、


『状況は好ましくないようなのだな。』


 どこからか聞き慣れた、感に障る声が聞こえた。と思うと、急にアイリの付けていたイヤリングが光り出した。そしてそれは小さな女の子の姿へと変化した。


「うむ。やはりこの姿が一番いいのだ。」

「アテナ。出てきたんだね。」


 突然姿を現したアテナにアイリは驚きながらも対応する。


「この事態なのだ。私もゆっくりしているわけにもいかないのでな。それで、今の状況は―――」

「おい。」


 いつもより冷静な顔で状況把握をしようとするアテナの背後に、重く冷たく、怒りのこもった声が投げつけられた。


 ギギギギッと首を後ろへ向けるとそこには怒りのご主人様ことレンが、仁王立ちして見下ろしていた。


「アッ、ミサキレンクン。コンニチワ。キョウハイイテンキダネー。」


 冷や汗をダラダラ流しながらアテナは、必死にレンの顔を見ないようにとしている。


 何故かって?怖いからなのだ。


「この………駄神がぁぁ!!!」

「イタタタタタッ!痛いのだ!グリグリ痛いのだぁぁ!」

「痛い?知るかボケ!お前、屋敷で待ってるって言ってただろうが!それをなんでアイリの耳元から出現できるんだこらぁ!」

「しょ、しょうが無いのだ!私だって用事の一つや二つあるのだ!見逃して欲しいのだ!!」


 久しぶりにこの光景を見るなーとアイリは思いながら、話に入ろうとする。が、ヒートアップしたレンの猛攻にアテナが泣きながらも楽しそうにやりとりしているから、中々入れない。


 よし!決めた!そっとしておこう。



 数分後に茶番は終わり、アテナは頭をすりすりしながら、話を始めた。


「状況はどんな感じなのだ?」

「私達も分からないんだ。急にあんなことになったから…..。」


 アイリも詳しく説明しようとするが、どうにもうまく出来ず悔しそうな顔をする。


「どちらにしても、このままだと危ない。黒瘴気ってことは黒使団が関係してるんだろうし。」

「うん。確かに。」


 レンの発言にアイリは強く反応した。


アイリが黒瘴気を感じているということは、間違いなく黒使団が居ることは間違いない。であれば、早急にでも闘技場へ戻るべきであるとレンは思っていた。


 しかし、レンの言葉に反応したのはアイリだけでは無く、アテナも同様だった。


「残念だが、レンの思っていることには乗れないのだよ。」

「は?何だと?」


レンの考えを見透かしたアテナは止めるように言葉を出した。


「レンも気づいている筈なのだ。あの事態を引き起こした人物が誰なのかを。」

「それは。」


 わからな……いや、認めざるを得ないのか。

 レンとて気づいていないわけでは無い。あの黒い沼は紛れもなく……。


「でも、何か理由があるはずだ!」

「まぁそうだろうな。人は誰にだってやることに理由があるのだ。だけど、そこに私情が入ってはダメなのだ。」


 ご尤もだ。

 アテナの言葉に何も言い返せない。


「あの感覚からすると、間違いなく黒魔法で違いないのだ。」

「…。」

「アイリは気づいていたのだな。」

「うん。何度も感じてきたものだから、間違いないと思う。でも一番気になったのは….。」


 そう言ってアイリは言葉を詰まらせた。アテナは不思議に思い、「他にあるのか?」と聞き返した。


「あの優勝景品。何なのかハッキリ分からないけど、今までに感じたこと無いくらい邪悪な物に感じた。」


 考え込むように唸るアイリ。


「ふむ。私には何も感じなかったのだが、アイリが言うのなら間違いなのだろうな。それで、この後のことだが―――」


 アテナは状況をある程度理解すると、この後について話そうとした。


 すると、レン達3人の背後から声がした。


「あの!娘を、娘を見ませんでしたか!」


 1人の女性が声を張り上げ、叫んでいた。

 恐らくこの時点で大半の人間が事の事態を理解したはずだ。だが、誰も声を返さないということは、誰にも勇気が無いということだろう。


 しかし、アイリ・アテンシアはその勇気を持ち合わせていた。まぁ知っていた事ではあるが。


「どうされました?」


 アイリは女性の元に行き、事情を聞いた。


「娘が、娘がまだ中に居るんです!この位の背で、ピンク色の鞄を背負ってるんです!お願いします!娘を、お願いします…..。」


「っ!!」


 予想はしていた事態だった。

 母親らしき人物は、自分の腰のあたりに手を当て、子供の特徴を話す。


「分かりました。娘さんは私が探します。だからお母さんはここに居てください。娘さんのお名前は?」

「リナです!どうか、どうかお願いします!」


 立ち上がったアイリは、闘技場へ振り向くと、走り出した。


「アイリ!待つのだ」


 駆けだしたアイリをアテナが止めた。


「何も考えなしに行くのは危険なのだ。あれが黒魔法だとすると、何か対策を立てて行かない限りは、打開策もないのだよ。」

「……そんな時間は、無い。」


 正論でアイリを止めようとするアテナにアイリは自信なく返答した。


 だがレンはアテナに異議を唱えた。


「仮にリナちゃんが中に取り残されているのだとしたら、急いで見つけないと、あれに殺されるかもしれない。」

「し、しかし!」

「それに、お前は今回俺に何も言わずにここへ来たよなぁ?これくらいどうって事ねぇだろ?」

「うぐっ……。分かったのだ。でも、中は危険なのだ。出来るだけ一緒に行動するのだ。」

「ありがとう、」


 笑みを見せるアイリにレンはグッと親指を立てた。


 こうして3人は再び闘技場内へと向かった。


 ♢


 グゥオァ。


 アァァウォ。


 闘技場へ入ったレン達。なるべく戦闘を避けたいというアテナの意向により、物陰に隠れながら先を進む。

 レンとしても、これから黒使団と戦いになるであろうと考えていたため、ここで無駄な体力は使いたくないのが本音だ。


 闘技場内は、既に居なくなっていたと思っていた黒い怪物達が入り口から外に出ること無く、室内を徘徊していた。

 まるで……。


「ゾンビ映画に出てきそうな絵面だな。」

「ぞんび?何それ?」

「まぁ、ああいう奴らのことを俺の所ではゾンビって言うんだ。」

「へぇ~。そうなんだ。」

「おいこら。私語をするんじゃないのだ。」


 レンとアイリがアンデッド会話をしている中、前方の危険を確認していたアテナが注意に入った。


「それで?リナちゃんは見つかったか?」


 レンは探知魔法を使って闘技場内に感じる魔力を探るアテナに状況を聞いた。


 こういう時は魔法を使った探知魔法が一番良いとアイリは言った。その意見にアテナも賛成のようで、一番魔力のあるアテナが作業するという事になった。


 集中して目を閉じていたアテナは、何かを見つけたように目を開ける。

 

「見つけたのだ。場所はここから近いな。どうやら、物陰に隠れてる様なのだ。」

「良かった!なら、早く行こう!」


 アテナの朗報を聞いたアイリは、嬉しさを露わにし、隠れていたところから飛び出そうとした。


 だが、アテナは「待つのだ!」とストップをかけ、アイリはその言葉により動きを止める。


「近いとは言っても、ここから数分歩いた所の控え室なのだ。それに娘の居る場所付近に奴らが多く彷徨いているのだ。考え無しには飛び込めないのだ。」

「…まぁ確かに、考え無しには行けないな。ここはアテナの言うことに従った方が良いと思うよ。」


 さすがのレンも危険地帯に行くには作戦を立てておきたい。そう思うと、アテナの言っていることに従うのが妥当だ。


「分かった。」


 渋々アイリも了承を出した。


「それで?作戦は何か考えてるのか?」

「もちろんなのだ!要は相手に感知されなければ良いのだ。」

「あっ!不可視の魔法!」


 アイリは弾かれたように声を出した。


 それを聞いたアテナはうんうんと頷く。


「確かに、試合で見た不可視の魔法だったら敵に見つかること無く行けるな。」

「そういうことなのだ。では頼んだぞ。」


 アイリは「うん!」と頷くと、持ち前の魔法のステッキを取り出す。


不可視ルス・アクリム


 呪文を唱えると、光のベールが3人を包んだ。


「これで大丈夫。でも私から10メートル以上離れると、効力を無くすから気をつけてね。」

「分かった。」

「よし、では行くぞ!」


 魔法の効力を持つアイリを戦闘に、3人は物陰から出ると、目的地に向けて走った。


 そして数秒後、敵と対峙。反射的に3人は足を止める。


「行こう。」


 アイリの声にレン、アテナは頷き脚を進める。

 緊張によって滴り落ちる汗が額から頬を伝い一粒が落ちた。まるで身体全てが心臓となったように脈打つ。


(止まるのだ!)


 不意にアテナの声がレン達の脳に響いた。


 何事かとレン達は脚を止めた。そしてアテナの言葉の意味を理解したのはその直後だった。

 目の前にこれほどかと言うまでの、黒い怪物が廊下に溢れかえっていた。


(まじかよ。おいアテナ!リナちゃんの場所はどこだよ。)

(丁度奴らがたむろしている付近なのだ。恐らく娘から感じる多少の魔力に釣られて集まったのだろうな。)

(やるしかないってことか。)


 テレパシーで会話する3人。目の前の黒の軍勢を見ながら、ため息交じりに息を吐いた。


(とりあえず不可視で見えていない状態なのだ。その隙に奇襲を仕掛けるのだ。)


 そう言ってアテナは掲げた手に魔力を込めた。それを見たレンはふと思い出した。


(おい、ちょっと待て。あいつらが魔力を探知するなら、お前が魔法使うと―――)


 まぁ予想通りの展開になった。


 黒い怪物達は一斉にギロッ!とレン達を見るやいなや、数メートル先から全力ダッシュでこちらへ向かってくる。


「「「うわぁぁ!!!」」」


 3人は一目散に逃げ出した。


「おい!駄精霊!お前、なんで数秒前まで自分が言ってた事忘れてんだよ!馬鹿か!?」

「し、仕方ないのだ。だがこれで奴らを引きつけることが出来たのだ!今のうちに娘の救出を!アイリ!」


 どうしても自分の失敗を認めようとしないアテナ。後ろからは軍勢が奇声を上げ接近する。

 確かに身を挺した作戦ではあるが、これなら敵を引き離すことが出来る。


 そう思って2人は、期待の眼差しをアイリに向けた。が。


「ムリムリムリ!絶対にムリ!死んでもムリィー!!」


 どうやら期待できそうに無い。

 アイリは泣きながら、まるでお化け屋敷に入る前の子供のように、逃げ惑いながら叫び続ける。


 こうなれば……。


「おい。なんで私を見ているのだ?何だその目は。」


 レンは隣を走るアテナに目をやった。


 よくよく考えると、こいつのヘマが無ければ順序よく救出に成功していた筈だ。ってことは。


「おい。なんで私を担いだのだ?何で後ろへ向かって投げようとしてるのだ?」

「アテナ。お前は強い子だ。お前ならきっとやれる。俺はそう信じてるぜ。」

「レン…。」


 アテナを担いだレンは、目線の位置にアテナを連れてくると、まるで語りかけるように語った。

 

「そんな良い風な話にしてもダメなのだ。納得いかないの―――」

「そーら。行ってこーーい。」

「だぁぁーーー!!!」


 勢いよく投げられたアテナは、怪物達の眼前へと投げ飛ばされた。


「レンめぇ!覚えているのだぁぁ!!!」


 今は先へ逃げ去った宿主への怨嗟を嘆いた。


「しかしこうなってしまっては、やるしかないのだ。」


 そうしてアテナは地面に手を置いた。するとアテナの周りから無数の光が飛び出した。それは踊るように宙を舞うと、地面に置いた手から魔方陣を描いた。


「借りるぞ――。」


 突風で何を言ったのか聞こえなかったが、変化はすぐに起こっていた。


 あれだけうぞめいていた敵達の姿が一瞬で居なくなっていたのだ。


 レン達は思わず足を止め、アテナの方を振り返る。


「一体、何が。」


 アイリは唖然の表情を浮かべる。


「さっ、娘の元へ行くぞ。また敵が来たら厄介なのだ。」


 すると姿が見えなかったアテナが、ひょっこりと顔を出した。


 アテナの誘導の元、リナが隠れている部屋へやってきた3人は、ゆっくりとドアを開けると、そこには1人の少女がうずくまり、すすり泣いている。


「貴方がリナちゃん?」

「…うん。おねいちゃん。だれ?」


 声のトーンや顔色から、問題はなさそうだ。ほっと一息吐いたアイリは、会話を続けた。


「私はアイリ。リナちゃんのお母さんが心配してたから、迎えに来たの。もう大丈夫よ。」


 それを聞いたリナは、目から涙を浮かべアイリに抱きついた。


 相当怖かったのだろう。だが、こんな小さな女の子が1人でこんな恐ろしい環境に取り残されると、何が何でも怖くなるのは必然的なことなのだろう。


 しばらく泣き続けるリナをアイリは抱えた。


「さて、これで問題は解決なのだ。それで?これからの話なのだが――」


 ドゴォォン!!



「「「っ!!」」」


 突如、大きな震音と共に、建物内に亀裂が走った。


「何だこれ!?」


 レンは慌てて薄暗い室内を見渡した。すると、アイリとの境に亀裂が発生していることに気づいた。


(まずい!)


 レンは咄嗟にアイリの手を引いた。


 手を引かれたアイリは、腕に抱えたリナを離すこと無く、入り口の扉へと飛ばされた。


 レンはそのまま、瓦礫と共に落ちていった。



「ってて、ここは….。」


 だか、思っていたよりも落ちた距離は短かったようで、怪我も対した事は無いようだ。

 見るとそこは闘技場の中央。どうやら元の場所に戻ってきたかたちになったようだ。


 レンは腰を押さえながら立ち上がると、少し脚を進めた。


「っ!!」


 突然、殺気にも似た何かを感じたレンは、途端にフィールド上に目をやった。


 ♢


 取り残された彼はただ1人、青ずんだ蒼空そらを臨み、目を細めた。


 さて、これで邪魔者は居なくなった。だが、目的の物がこの闘技場から離れてしまっている。


 彼はそれが移動したと思われる方向を見た。微かに感じる黒い魔力は、まるで痕跡を残すように彼に黒い光を感じさせ、自らの後を追わせようとしている。


 方向は間違いない。恐らく大会関係者の誰かが避難するのと同時に持ち運んだのだろう。


 全く、面倒なことを…。


 彼はため息を吐いた。


 ここまでは計画通りに事が進んでいる。まぁアレが移動してしまったことはちょっとした問題ではあるが、大したことはない。後はこの街の結界を破壊するのみ。だがその仕事は別の者に託しているから、一番の仕事はアレを回収すること….か。


 元々彼は、その目的の物を回収することが課せられた仕事だった。


 この鉄鋼都市は悪しき者を侵入させないアドムの恩恵が働いている街である。

 その為、彼はこの街に入る前にそれ以前の記憶を消した状態で街へやって来た。そしてあるきっかけで記憶を取り戻し、計画を遂行する予定であった。


 ここまでは計画通り。後は目的を果たすのみだ。


 そう思い、歩を進めようとした瞬間。


 突然、背後で大きな破壊音が鳴り響いた。

 見ると建物の一部が崩壊し、落ちた破片が空気中に広い範囲の砂埃を発生させている。


 何事かと彼は煙の中に視線を向けた。するとそこから1人の少年の影が見える。


 嫌な予感が彼を襲った。


 それは、もしこうなってしまった時に一番出会いたくない人物。そして、彼が最も危険視していた人物。


 彼は足を一歩引いた。


 すると彼と目が合った少年は叫ぶように声を発した。


「アーマっ!!」


 ♢


「アーマ!」


 黒い怪物達が徘徊する闘技場内に突如として響いた声。それを聞いたアーマの動きは制止した。


 アーマはそっと首を後ろへと向ける。


 予想通り。そこにはフード付きの黒いコートを身に纏い、背中に剣を担いだ友人が立っていた。


を....殺しに来たのか」

「違う!」


 間を置かずレンは答えた。


【ジェイド】で共に過ごした彼は、本当に優しい男であった。それは常に共に居たレンだから言えることで有り、もちろん他のメンバーも同じ事を言うはずだ。


 そんな彼が、どうしてあんな事をと考えながらレンはここを目指していた。


 こうしているのには絶対に何か理由があるはず。


 だがその時、


 アーマは一瞬の隙を逃さない様に、用意した黒い槍を構え、レンに向かって投げた。


 空を切る音で気づいたレンは、身体をかがめて回避。だが、強襲はこれで終わらなかった。

 レンの頭上を通り過ぎたと思われる槍の元にアーマが移動していたのだ。

 まるで瞬間移動の様な動き。片手に槍を持ったアーマは空を蹴り、がら空きのレンの背中に向かって槍を突き刺す。

 そして背後に迫る殺気を、レンは前方に飛び回避した。


 瞬間、アーマの突いた地面が大きくひび割れた。まるで地面の底から溶岩でも噴き出してくるかのように。


 つまりはアーマ・ライトは現在、本気でレンを殺しにきている。それを認識した瞬間でもあった。


「ぐっ!」


 衝撃波が、未だに宙に浮いているレンを襲った。


 幸いにも、その衝撃が強すぎたせいでアーマとの距離をとれたと思うと利点かもしれない。

 しかし、たった一突きであれだけの威力をなせると知ると、絶望的な気分になる。


 レンは砂埃の中、咳き込みながら立ち上がる。


 アーマが居た方を見ると、ブォン!という音と共に、アーマを包んでいた砂埃が消え去り、彼が姿を現した。


「アーマ、これ以上はやめろ!このままだとお前は、国への反逆者として殺されてしまうぞ!」

「知ったことか。元々俺はこの国に忠誠なんか誓ったことないんだ。それなのに反逆者などと言われるのは、気分が悪くて仕方ないんだがな。」


 レンの言葉が届いていない証拠だ。

 今のアーマは以前と全く違う人間のようだ。口調もしかりだが、根本的な何かが変わってしまっている。こうして屁理屈を言うのも、以前のアーマには無かったことだ。


 レンは下唇を噛む。


「お前、まるで別人だな。一体どうしたんだ!?何があったんだ!?」

「......。」


 アーマは答えない。視線を下に向け、まるでそこに無い何かを見ている様。レンは言葉を止めずに話し続ける。同時にアーマに近寄りながら。


「きっと、何か理由があるんだろ?それなら俺達に相談してくれよ。全部に力になれるとは言えないけど、お前の心を楽にすることくらいなら出来るはずだ。だから―――」

「黙れ。」

「えっ、」


 黙っていたアーマは、レンが数歩手前まで近づいた時、声を発した。同時に目線をレンに向け話す。


「お前は俺の何を知ってる?心を楽にする?ハッ、笑わせるなよ。お前なんかに話したところで何が変わるんだ?」


 目つきはもはや、あの頃の優しい光を灯していなかった。そこにあるのは、ただ純粋に感じる殺意のみ。それは他でもないレンに向けられたものだった。


「理由なんてありはしない!俺はただ、敵を殺す。それだけだ!」


 アーマの周りから恐ろしいほどに禍々しい黒瘴気があふれ出した。同時にこれほどかと言うほどの重圧も感じ取った。


「レン。お前は必ず俺の障害になると思っていた。であれば、今ここでお前を殺す」


 アーマは右手をレンに向けた。


「“黒き染まる死槍デス・ランセル”」


 アーマの周りを包んでいた黒瘴気が分散。その後、槍の形をした数多くの黒槍が、レンへと矛先を向けて出現した。


 やるしかない。

 レンは覚悟を決めた。


 そこに親しかった彼は居ない。居るのは黒く染まったかつての旧友だけだ。


 ♢


 コツンッ

 コツンッ

 コツンッ


 建物の壁が音を反響させ、ステップを踏むような音が響く教会内。

 ここは鉄鋼都市の外れにあるアドムを祀る教会だ。


「さってと。これを破壊すれば僕の仕事は終わりだね。」


 そこに現れたのは以前にも姿を見せていた男。


 男は祭壇に近づくと、置いてある赤い希石に手を当てた。


「お久しぶりですね。アドム様。まっ、そうは言ってもここにあるのはただの石なんだけどね。」


 そう言うと男は触れた手に魔力を込める。


 ドス黒い怨念に似た魔力は、荒れる風の様に吹き、希石にヒビを作った。

 それを見て男はそっと手を離す。


「さぁ、皆殺し(祭り)の始まりだぁ!!」


 男は奇矯に満ちた笑みを作ると、腕を天に掲げた。


 教会の天井を打ち破り大きな黒い柱が空を穿いた。

 すると天にピシリと大きなヒビが入る。それは卵の殻のように、どんどんと浸食の範囲を進め、亀裂の模様は街を囲むように描かれた。


 そして、


 バリィィンッ!!


 ガラスの割れる音が街中に響いた。


「結界は破壊したよ。後はガミル達が到着するのを待つだけか。それまでは僕と彼、あと魔獣達で何とか頑張るかなぁ。」


 男は肩を回しながら教会を後にした。


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