二人目・ウダガワ
ゴトウの葬儀はしめやかに行われた。
「ゴトウ…お前、どうしちまったんだよ…」
ゴトウの棺の前で、力無くウダガワは呟いた。
同じバイト仲間、小学校からの親友…一緒に悪さもしたし、助け合う事もあった。それが突然いなくなる…
「ゴトウ…」
ウダガワの目には涙が溢れ出していた。それにしても死に方がありえない。
「ウダガワ先輩…」
ケンに肩を支えられながら立ち上がり、斎場の外に出た。
「ケン、本当にゴトウの奴はメールに殺されたっていうのか…?」
まだ信じられない。そんな話を信じろという方が無理というモノだろう。
その時。
ピロロロ…ピロロロ…
「…!!まさか…!?」
ケンの顔つきが変わった。明らかに怯えている。
ウダガワは自分の携帯を取り出した。
「マナーにしてた筈だけどな…」
画面には『メール1件』の表示…
何気なくメール画面を開いてみる。
『アト、ミッカ』
半角文字でそれだけ書かれていた。
「何だ、こりゃ?」
首を傾げるウダガワ、青ざめるケン。
「ゴトウさんの始まりのメールがそれっす…」
「…!?」
ウダガワは、無造作にメールを消去した。
「馬鹿馬鹿しい。こんなモノでゴトウが死んだっていうのか?」
…だが。
ピロロロ…ピロロロ…
「何だ?」
又してもメール。その内容はというと…
『アト、ミッカ』
ウダガワの顔も蒼くなっていく。
「次はオレという訳か?…上等だ、ゴトウの仇はオレがとる…」
そう言いつつも、ウダガワの肩は震えていた…
口ではそう言ったものの、ウダガワは背中に氷を入れられたような感覚に陥っていた…
ゴトウの次はオレ…?一体何のつもりだ?オレも…死ぬというのか…?
葬儀を終え、自宅に戻るとウダガワは携帯を取り出した。メールアドレスを変えて、さらにメール受信を全て拒否する。
「これでよし、と…」
だが。
ピロロロ…ピロロロ…
「嘘だろ…?」
ウダガワは携帯を手にして画面を見た。
『メール受信一件』
ありえない、ありえない、ありえない…
そして、メールを開くと、そこには…
『ムダダ、ニゲミチハナイ。』
「うわあぁぁぁぁっ!?」
恐怖のあまり絶叫し、続けて硬直するウダガワ。
やがて茫然自失のまま、ふらふらと外に出た。
気分転換しようと思ったからだ。
取り敢えず、近くのコンビニに向かう。その道すがらに、人形が落ちている。
その首が、無かった。いつもなら、そんな事は気にも留めないが、今日はやけにそれが気になった。
何故、あんなものが気になるんだろう…?
冷たい汗が背中に流れた。まさか、オレの最期は…?馬鹿馬鹿しい、ウダガワはそんな想いを振り払った。
「…飯でも食うか」
近くにあるラーメン屋に向かって歩き出した、その時に。
一匹の猫が道路に飛び出してきた。その刹那…
キキイィーッ!ゴズッ!
走ってきたトラックに轢かれ、猫の首がウダガワの足元に飛んで来た。
「うわあぁぁっ!」
ウダガワは腰が抜け、その場に座り込んでいた。
猫の眼が、じっとウダガワを見上げていた。夥しい血を流しながら…
次の日、ウダガワは家から外に出なかった。
ただ、部屋の隅にうずくまり、震えながらじっと携帯を見詰めていた。
昼過ぎ。
ピロロロ…ピロロロ…
「きた……」
画面には、
『アト、フツカ』
半角文字で綴られたメールが、ウダガワの目に、焼き付けられていた。
その日、ウダガワは震えながら天井に向かって何か呟き続けていた。迫り来る恐怖の前に、ウダガワの脳は自我の崩壊を選択した…
翌日、ウダガワは唐突に我に還った。携帯に目をやると、メール受信を示すランプが点いている。
「やっぱ、きてるか…」
恐らくは『アト、イチニチ』とかだろう…そんな予想は、見事に裏切られた。
『キョウガ、メイニチ』
『オワリハ、キリオトシ』
二通に分けて送られてきた死刑宣告。だが、ウダガワはもう取り乱したりはしなかった。
「上等じゃねえか…いいなりになんかならねえからな…見てやがれ」
ウダガワは家を出ると、見渡した中で一番高いマンションに向かった。
普通なら、こんなに高いマンションの屋上は施錠されている筈なのだが、屋上入口の扉は、すんなりと開いた。
「ふん、死神までオレの味方って事か…」
与えられるであろう死よりも、自ら選ぶ死。それがウダガワが決めた結末だったのだが…
「これでオレの勝ちだ…ザマアミロ…ククク…」
狂った熱に満たされた瞳をぎらつかせ、フェンスをよじ登る。
「…みんな、あばよ…」
ウダガワは無造作に飛びだした。そして…
ウダガワの意識が薄れかけた時、すぐ側に迫る電線が目に入った。
「まさか…」
ウダガワが己の『敗北』を悟るのと、電線がウダガワの首と胴体を切り離すのはほぼ同時だっただろうか…




