6復讐の相手2
「お前は誰だ……」
俺はポスターの男に額がつきそうなほど顔を近づける。
『ごめんなさい……』
『どうしてなんだ……』
『お前は強すぎた。バランスってものが大事なんだ』
声が聞こえる。
俺の空っぽの頭蓋骨の中で、俺の声とどこかで聞いたような声が響いている。
『ーーーー!』
俺が叫んでる。
誰かの名前。
でも、よく聞こえない、思い出せない。
「誰だ……お前は…………誰だ!」
『神崎!』
頭の奥で記憶の扉をガリガリと引っ掻く。
指先が扉に引っかかり、わずかに開いた。
「思い出した……神崎恭弥……」
胸を剣で貫かれた俺の前に男がいる。
ポスターの姿よりもいくらか若い姿の男の名前はカンザキキョウヤ。
冷たい目で俺のことを見ていたのを、思い出した。
「刺したのはこいつじゃない……でも、すごく……嫌な気分だ」
俺は後ろから剣に貫かれていた。
カンザキは正面にいて、自らの剣を手に持っている。
ならば俺の心臓を串刺しにしてくれたのはカンザキじゃない。
謝罪するような女性の声も聞こえたような気がした。
もしかしたらそっちが俺の胸を貫いたのかもしれない。
どこか懐かしいような声。
あまりこちらに不快感はない。
ちょっとだけ、薬指の記憶で聞いた女の声にも似ているような気もする。
それに女の前にいた男も少しカンザキに似ている。
「でもカンザキにしては若かった……」
薬指の記憶の男はカンザキではない。
カンザキよりもだいぶ生意気そうだった。
妙な既視感のようなものを感じる。
ただ薬指の女も記憶の男も俺の胸をざわつかせるほどではない。
「こいつは嫌いなんだよな……」
それに比べて俺はカンザキの顔を見ると胸がざわつく。
非常に不愉快で、怒りが湧き起こる。
憎悪が頭の芯を支配しそうになる。
「他にも誰かいた気がするんだけど……」
カンザキの顔を見ていると吐き気を催す。
俺はポスターをグシャリと握りつぶす。
カンザキや胸を刺した奴だけじゃなく、他に何人か周りにいた気がする。
しかしほんの少しだけ開いた記憶の扉を放っておくように、ガリガリと引っ掻くような感覚はいつの間にか消えてしまっている。
「とりあえず……カンザキ、お前は俺を知っているはずだ」
探すべき相手が見つかった。
胸に湧き起こる怒り、憎悪が俺に生を与えてくれる。
やらねばならないことを見つけて、気力のようなものを感じられていた。
「それに……思い出せる。これは絶対に……俺の記憶だ」
少しずつモヤが晴れて記憶を取り戻している。
他人の骨から得た記憶ではなく、俺自身が持っている記憶なのだとほんの少しの安心感も俺を救ってくれた。
「さて……こいつをどうやって見つけてやろうか?」
俺はまるでカンザキの首を掴むようにポスターを握りしめる。
カンザキの顔は思い出した。
しかしどこにいるのかも分からない。
強いのか弱いのかも分からない。
地下鉄の駅にはいるので今の自分の現在地はうっすら分かる。
だが人のコミュニティがどこにあるのかも不明だ。
「まあいい。俺に時間はある」
俺はアンデッド。
死なないモンスターだ。
体力も無尽蔵なのだから、いくらでも探し回ってやる。
「ふ……はははっ! いいな。カンザキ……カンザキ……カンザキ……」
人らしい記憶を思い出して俺は気分が良くなってきた。
忌々しく思う名前を連呼する。
好きにはなれない名前なのに、気分の悪さが気分の良さに変わってきた。
「人を探そう……」
ここまで人には遭遇したくないと思いながら動いていた。
だがカンザキを探すなら人にも近づかねばならない。
まずは誰でもいいから人を探す。
そこから始まる。
俺はポスターを握りつぶしたまま歩き出す。
地下鉄の闇の中へ、復讐を原動力として。




