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新たな敵

 Mr.Rは、まだ俺の左足の秘密に気がついていない。

 しかもヤツは自分がパワーアップしたことに加え、俺が負傷してまともに動けないと思い込んでいることから、とんでもなく隙だらけだ。


 俺は、走ってくるMr.Rから逃げるのではなく逆に突っ込んでいった。

 まだ生身の右足で一歩目を踏み出した。

 最初に蹴った足は、普通の足なのでそれこそ普通の一歩を踏み出したのだが、次の蹴り足は当然左足である。多分、Mr.Rには二歩目を踏み出した俺の姿は突然消えたに違いない。それほど新しい脚のパワーはものすごい。


 なるべく低い姿勢でMr.Rに迫っていく。狙いはヤツの足元だ。

 その時、不思議な感覚に捕われた。

 ヤツの目に止まらぬほどのスピードで移動している俺自身、その速度にまだ慣れていないはずなのだが、周りの状況やヤツの動き、さらにはその表情までまるでストップモーションを見るかのように鮮明に判別できるのだ。

 その感じは、加速剤を使った時のようだ。


 一瞬、自分の体が自分のものではないような気がしたが、感覚が付いてこないパワーやスピードは無用の長物に過ぎない。コントロールできる感覚があってこそ初めて有効な武器となる。ヤツのパワードスーツと戦うにはなくてはならないものだ。


 俺はその感覚に身を任せ、通常ならば目で追いにくいほどのスピードで走ってくるMr.Rの足首を戦闘モードになった右腕で的確にすくい上げた。

 ヤツは顔に恐怖が浮かぶ暇もなく、走ってくるそのままの勢いで空中で2.5回転し顔面をリノリウムの床に打ち付け、もんどりうってコンクリートの壁に激突した。

 かなり痛そうだ。


 近づいて具合を見ると、顔半分が赤く擦り切れて白目をむいている。口角から泡を吹いているが命に別状はないようだ。


 しかし、顔の皮膚の傷は結構ひどい。最新の医療をもってすれば全く傷跡が残らないように治癒できるだろうが、ひねくれたMr.Rのことだ、きっと傷跡を残したままにしておいて俺に対する恨みを倍増させることだろう。いやなヤツだが何となく判らないでもない。


 柄にもなく、他人のことを哀れんでいると高音の悲鳴が聞こえた。小さな博士からだ。

「危ない!!」


 通常の4倍の反射速度を持つ新しい脚が即座に反応し、俺は横に飛んだ。

「パパパ・・・」

 軽い乾いた銃声が響いたかと思うと、俺が立っていた辺りの床からもうもうと煙が立ち、バラバラに砕けた床材が飛び散った。


 床を転がりながら発射元を確認すると、Mr.Rと同じ迷彩服の兵士が銃口から煙が立ち上っているサブマシンガンを構えている。

 この男もMr.Rと同じザビ共和国の連中だろう。

 パワードスーツは身につけていないようだが、頭の先からつま先まで陸戦部隊として完全重武装している、歩く武器庫のようなものだ。

 しかもいきなり撃ってきたところを見ると、全く躊躇はないらしい。

 Mr.Rよりも数段危険だ。


 その兵士は、しばらく低い姿勢で銃を構えたまま周囲を覗っていたが、後ろにいる白っぽい色の装備をした人間から何かを言われると、突然走り出し壁際にあるパソコン端末に取り付いた。


 命令を下した男は、マシンガンをぶっ放した完全武装の兵士と違い、やけにすっきりとした姿で銃器類は持っていないように見える。

 頭にはヘルメットを被っているが、兵士のような鉄兜タイプではなく顔まですっぽりカバーしているマスクのような感じだ。


「・・見たことのない素材ね・・」

 物陰に一緒に隠れている小さな博士が呟いた。

 科学者というのは自分の置かれている状況よりも、好奇心をくずぐる対象物に注意が向くらしい。


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