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「笑う君に恋をした 」~相方見つけたと思ったら、恋の始まりだった~  作者: 青井 空太


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第97話『繋がった景色』


次の日の朝。


 ストーブの上では、ヤカンが小さく揺れていた。


 カタカタ。


 静かな音が、和室へ優しく広がっている。


 瑛太は、布団の中で眠っていた。


 その時。


 ふわりと、小さな手がおでこへ触れる。


「……熱は落ち着いたようだべな」


 小さな声。


 星羅だった。


 瑛太は、夢うつつのまま思う。


(……星羅や……)


 足音が、静かに廊下へ向かう。


 襖が、そっと閉まった。


 外では、鳥のさえずりが聞こえている。


(……朝か)


 瑛太は、ゆっくり目を開けた。


 身体のだるさは、まだ少し残っている。


 でも。


(熱は下がったみたいやな……)


 額へ手を当てる。


 昨日みたいな熱さはなかった。


(……汗かいたな)


 ふと、布団の横を見る。


 着替えた下着とパジャマが、綺麗に洗濯され、丁寧に畳まれていた。


「……」


 瑛太は、少しだけ目を細めた。


 布団から起き上がり、ゆっくり着替え始める。


 その時。


「瑛太〜、朝だべよ〜」


 襖が開いた。


「うわっ!?」


 星羅が、目をぱちくりさせた。


 瑛太は、上着を羽織りながら苦笑する。


「おはよう」


「ごめんな、ちょっと汗かいたから着替えよう思って」


「びっくりさせたな」


「……ま、まだ上着を着てるところで良かったべ」


 星羅の顔が、一気に真っ赤になる。


「んだば、着替えるまで待ってるから!」


 ぱたぱたと、慌てて廊下へ出ていった。


(はぁ〜……びっくりしただ……)


 廊下で、星羅は胸を押さえる。


(でも……声、元気になってたべ)


 少しだけ、安心したように笑った。


「星羅〜、着替え終わったよ〜」


「はぁ〜い」


 和室へ戻ると、瑛太は脱いだ寝間着と下着を綺麗に畳んでいた。


「そんなことしなくていいべ」


「また洗濯するべからさ」


「星羅……」


 瑛太は、真面目な顔で頭を下げた。


「何から何まで、ほんまにありがとう」


「なーも、なーも」


 星羅が、ふるふると首を振る。


「気にしなくていいべ」


「私は好きでやってるんだから……」


 言った瞬間。


「あっ……」


 自分の言葉に気づき、みるみる耳が赤くなる。


「け、今朝はおうどんにしたべ!」


 慌てて話を変えた。


「昆布出汁だから、瑛太の口にも合うと思うべ」


 にっこり笑う。


「ありがとう」


「いただきます」


 湯気の立つうどん。


 瑛太は、ゆっくり箸を持った。


 つるつる。


 ずずっ。


「……美味しい!」


「めっちゃうまい!」


「はぁ〜、関西のうどん思い出すわ」


 星羅が、少し嬉しそうに目を細める。


「それに、ちょっと甘いんだね」


「それがまた、身体に染みる……」


 瑛太は、はふはふ言いながら食べ続けた。


 そして、最後は出汁まで飲み干す。


「んぐんぐ……ぷはー……うまかったぁ」


 幸せそうに笑った。


「ごちそうさまでした」


「そんだけ食欲戻ってきたなら、もう大丈夫だべ」


 星羅が、安心したように笑った。


「だけど、今日はちゃんと安静にしてるんだべよ?」


 ちょっとだけ、怖い顔。


 でも、すぐにいつもの優しい笑顔へ戻る。


「うん……わかった」


「私、朝ごはん食べてくるから」


「何かあったらLIMUしてね」


 襖が閉まる。


 和室が、静かになった。


 すると。


 下の階から、星羅と父親の会話が聞こえてきた。


『星羅、今のコントどう思う?』


『うーん……ネタは良いんだけど、ドヤ顔が酷いね』


『コントはお芝居、お客さんの顔色見ちゃったら終わりだよ』


『だよなぁ……流石は我が娘だ』


『あと、小道具の位置も良くないな』


『椅子に座るのに三・五秒は掛かりすぎだ』


『流石お父さん、目の付け所が渋い』


 ぱちぱち。


 拍手する音まで聞こえてくる。


 二階の和室。


 瑛太は、ぽかんとしていた。


「……えっ?」


「椅子の位置?」


「歩数?」


「秒数?」


「コントはお芝居……?」


 その瞬間。


 ある記憶が蘇る。


 初めて会った、あの居酒屋。


 お笑い番組を見ながら、星羅が友達へ話していた。


『いや今の間、絶対いらんでしょ』


『ボケは良かったのに、欲張りすぎ』


『緊張してるとね、無駄な動き増えるの』


 瑛太は、はっと気づいた。


「え、え、英才教育やぁ〜!!」


「星羅の笑いのセンス、お父さん譲りやったんか……!」


 そして。


「……ん?」


「……ちょっと待てよ……」


 瑛太は、ゆっくりスマホを手に取った。


 検索する。


『相原 謙二郎 ケンちゃんず』


「……やっぱりや!!」


「元芸人やったんかぁ〜!!」


 その時。


「どうしたべさ?」


 襖が開く。


 星羅が、不思議そうに顔を覗かせた。


「大きな声出して」


「元気になるのは良いんだけどね」


 にっこり笑う。


「せ、星羅のお父さんって……!」


「もしかして……アルデンテのマスターと……!」


「そうだべ」


 星羅は、あっさり頷いた。


「叔父さんとお父さんで『ケンちゃんず』だべ」


「ちなみに、お母さんも元芸人だべさ」


 にこっ。


 瑛太は、頭を抱えた。


「サラブレッドやん……」


 そして、ふっと笑った。


「俺、お前と漫才してて、何で気持ちいいかわかったわ」


 星羅が、きょとんとする。


「星羅、お前は俺の呼吸に合わせてくれてるからや」


「……うん」


 星羅が、少し照れたように笑った。


「私は……ただ、瑛太を笑顔にしたいだけ……」


 はにかむ星羅。


 瑛太は、そんな彼女を見つめた。


「それより。もう、早く元気になってよ」


「私も、れん兄ちゃんと瑠美さんみたいにデートしたいんだから」


「待っとけ、星羅」


 瑛太が、にかっと笑う。


「もう少しや」


 そして、ふと思い出したように付け加えた。


「昨日『熱上がったかも』って言うたんは冗談や」


 その言葉に。


 星羅は、勢いよく瑛太に抱きついた。


 和室へ、笑い声が広がる。


 ストーブの火が、小さく揺れていた。

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