第六話『選ばれた舞台の予感』
思いがあるから拾いたい
思いがあるから助けたい
男の思いは、理由を探すのを辞めた
翌朝、メールの通知音が瑛太のスマホを震わせた。
「三谷瑛太 様」――件名だけで、胸の奥が小さくざわつく。
差出人は事務所。内容を開くと、業界向けのイベントで即興パフォーマンスのペアを募集する、というものだった。
スクリーンの文字が、昨晩の記憶を呼び覚ます。
――隣の部屋の星羅の声。
――紙袋から覗いていたチラシ。
――「おいしい…ですか?」
あの瞬間、星羅の小さな震えと笑顔が頭に浮かんだ。
メールを閉じる指先が、少しだけ震える。
「――行くしかないか」
胸の奥で、何かが決まった。恐怖でも、後悔でもなく、ただの義務感でもない。
彼女をあの舞台に、一人で立たせるわけにはいかない――それだけは確かだった。
準備のために荷物をまとめながら、瑛太は思う。
「台本なし、抽選で相方決定……完全にハプニング狙いやん。でも、ハプニングでも拾うのが俺の役目」
頭の中で、昨晩の廊下の距離感が蘇る。
ドア越しの沈黙、肩をすくめた自分の仕草、そして星羅の、ほのかな安心の笑顔。
部屋の中を歩き回りながら、彼は自分に言い聞かせる。
「怖がることはない。失敗しても、おいしくなるんだ」
その言葉は、昨晩星羅に言ったツッコミの言葉と同じ響きを持っていた。
エントリー締切のギリギリ、瑛太はスマホを握りしめる。
「……やる」
送信ボタンを押す指先に、迷いはなかった。
――そして、舞台の当日。
控え室で、他の参加者たちが緊張の面持ちで並ぶ中、瑛太は星羅の顔を探す。
視線が合うと、彼女は不安な表情から、花が開くように笑顔になった
「三谷さん!」
「……相原さん」
声のトーンだけで、昨晩と同じ信頼が通じ合う。
二人の心の中で、まだ名前のないコンビの準備は静かに始まっていた。
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