↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
98/137

その10 王太子イスメル

 王城を訪れたローゼマリー達。

 そこで彼女達が出会ったのは、今は衛兵ポトフと呼ばれるかつてエッダを狙った大男と、この国の王太子殿下だった。


 王太子――イスメルは大男に振り返った。


「で? コイツらがお前が言っていたヤツらでいいのか?」

「はい、殿下」


 元刺客の衛兵と、この国の第一王子。二人の間に面識があった事に驚く少女達。


「まさか手紙にあった協力者って殿下の事だったの?!」


 エッダの声に「そうだ」と言葉短く返す衛兵ポトフ。

 そして驚くクラリッサ。


「デタラメなんですよ?! 相手はこの国の王子様なのですよ?!」

「王子様なんて呼ばれたのは久しぶりだな。なんだかお前さっきから面白いな」


 イスメルに胡乱な視線を向けられて怯えるクラリッサ。

 少女達は少し緊張したが、イスメル本人も自分の目付きが良くない事を知っているのだろう。特に気にしている様子は無かった。


「俺はコイツと顔見知り――というか最初は俺の方からコイツに話しかけたんだよ」


 全員の頭の上に「なんで?」という疑問符が浮かんだ。


「自分の所の衛兵に”ポトフ”なんて呼ばれているヤツがいるんだ。そりゃあ耳に入れば気にもなるだろうが」


 全員が「ああ」と、無言のうちに納得した。


「話してみればコイツが中々に面白いじゃないか。思わぬ掘り出し物をしたと喜んでいた所にお前の話を相談されたんだ」

「・・・だからって普通殿下に頼むかい?」

「それが俺がプロである所以だ」


 エッダのぼやきに良く分からない返事を返す衛兵ポトフ。


「女には分からんよ。なあポトフ」

「流石は殿下。士は己を知る者の為に死し、女は己を説ぶ者のために(かたち)つくる、と聞きます」

「ふむ。何やら含蓄のありそうな言葉だな。後で意味を教えろ」

「はっ」


 ちなみに”士は己を知る者の為に死し、女は己を説ぶ者のために(かたち)つくる”とは、地球では「史記・刺客伝」の子譲が言った言葉で、”男子であれば、自分を認めてくれた人のためなら死んでもよいと思うものだ。女性であれは、自分といて喜んでくれる人のためにはお化粧をするものだ”といった意味になる。

 たまたまこの世界でも過去に同じような言葉を言った者がいるのだろう。

 あるいはポトフの創作かもしれない。なぜならいかにも彼の好みそうなカッコいい言葉だからである。


 それにしてもこの二人は立場を超えて中々馬が合うようだ。

 というよりもイスメルが王族とは思えない程の変わり種なのだ。


 男二人で盛り上がる中、クラリッサがこっそりとエッダに話しかけた。


「あの大男はエッダを狙ったようなヤツなのに、王子様と二人にして危険は無いんですよ?」


 それは小さな声だったが、流石に周囲の少女達の耳には届いた。


「どうなんでしょう。でもイスメル殿下は大変に武勇の誉高いお方だと伺っていますわ。なんでも若い頃は剣の修行のために、『いつでも俺に隙があればかかってこい! 俺を倒せたものは親衛隊に取り立ててやろう!』と周囲の者に言ったという噂もありますわ」


 ローゼマリーの言葉にディーアーナが頷いた。


「実際に何人もの衛兵が殿下に挑んだようですね。殿下は彼らをことごとく返り討ちにしたそうです。あまりの過熱ぶりに親衛隊の者達が音を上げて、『これでは自分達が護衛が出来ない』と国王陛下に泣いて直訴したため取り止めになったと聞いています」

「・・・か、変わった人なんですよ」


 破天荒なイスメルの武勇伝にクラリッサは呆れて物が言えなかった。


「なる程。そんな修行方法があったのか」

「バルバラは実行しないようにね」


 そして妙に感心するバルバラにすかさず釘を刺すエッダだった。




 イスメルはディーアーナの方へと振り返った。


「それでどういった用件だ? 『アスペルマイヤーの大魔女』が内密に我が城の精霊廟をあたらめたいというのだ。ただ事ではないのだろう?」


 精霊廟とは一般には聖域と呼ばれている、リンプトハルト城の奥に作られた特別な区画である。

 王家の精霊を祭ったその場所には本来であれば王族しか入る事は出来ない。


 ディーアーナは過去に一度そこを訪れた事がある。

 国王直々の要請で精霊の姿をひと目見るためである。

 その当時、王城の一部を建て替えする計画があった。

 歴代の国王の肖像画も移し替える事になったのだが、その際にせっかく『精霊を見る目』の持ち主がいるのだから、王家の精霊の絵姿もそこに飾れば良いのでは、という話が出たのだ。

 国王はディーアーナが見た精霊の姿を画家に描き写させた。

 結局建て替えの話は予算の都合で流れたが、ディーアーナの描かせた精霊の絵は今も城の奥底で安置されているはずである。


「それが・・・精霊様に何かあったかもしれません。どうしても私の目でひと目精霊様をご確認せねば不安で食事も喉を通りませぬ。それゆえ、大変不敬だと承知の上でこうして参った次第でございます」

「それで子供を大勢連れて見に来たというのか?」


 イスメルは胡乱な目で少女達をねめつけた。

 いや、彼としては普通に視線を向けただけなのかもしれない。

 目付きの悪さで損をする青年なのである。


「まあいい。付いて来い」


 イスメルは短く答えると城の奥に向かって歩き始めた。


「どうした? 付いて来いと言ったのが聞こえなかったのか?」


 女性陣は呆気にとられて誰一人その場から動かなかった。

 クラリッサは小声でエッダに尋ねた。


「アタシらも一緒に行っていいんですよ?」

「それは・・・どうなんだろう?」

「子供が遠慮などするな」


 二人の会話が聞こえたのだろう。イスメルは面倒くさそうに手を振った。


「しかし、王家にとって特別な場所なのではありませんの?」

「確かにあそこを聖域と呼んで神聖視している者もいるな。下らん事だ。あそこは城の一部。俺にとってはそれだけの価値しかない。あそこにどんな精霊がいようがそいつがこの国に何かしてくれるわけでもない。国を動かしているのは俺達王族でありその家臣達であって、決して精霊などではない」


 イスメルはそう豪語すると腰に佩いた剣を叩いた。


「俺が信じるのはコイツの力だけだ。人間の国は人間のものだ。別に精霊をないがしろにする気もないが、だからといって、俺達がかしずかねばならぬ道理もない。国家に大きな功を成した忠臣が望むなら、見せてやるくらい別にどうという事もないさ」


 そう言い放つイスメルには確かに為政者としての存在感――カリスマ性があった。

 その覇気にあてられたのか、こっそり不敵な笑みを浮かべる衛兵ポトフ。

 少女達はイスメルの佇まいに圧倒され、すっかり委縮してしまうのであった。




 集団の先頭に立って城内を歩きながら、イスメルは少女達に話しかけた。


「先程も言ったが子供が下手な遠慮などするな。お前達の身柄は『アスペルマイヤーの大魔女』が保障している。そもそも女子供が束になった所で何が出来る」


 彼はごく自然に女性蔑視の発言をしているが、この世界は未だに女性の社会進出が遅れている。

 イスメルだけが特別男尊女卑の傾向が強いというわけでもなかった。


 少女達は初めて歩く城の中に、緊張しているのだろう。

 一言も無く、借りて来た猫のように大人しくイスメルに付き従っていた。

 そんな少女達の様子が面白くなかったのだろう。イスメルは小さく鼻を鳴らした。

 衛兵ポトフとそりが合う所からも、彼は反骨精神を持つ者を好む傾向にあるようだ。


 城の奥は昼間でも薄暗く、あちこちに明かりが灯されていた。

 防衛上、極力窓を小さくする必要があるのだろう。そのためどうしても外から入る明かりが不足するようだ。


 そんな城の奥。

 大きな扉の前でイスメルは立ち止まった。

 立哨していた親衛隊が踵を鳴らして敬礼をする。


「開けよ」

「はっ!」


 親衛隊はチラリとイスメルの背後の少女達を見たが、何も言わずに扉に手を掛けた。

 あまり開け閉めされる事はないのだろう。扉は軋みながらゆっくりと開いていった。

 イスメルは列の最後尾に立つ衛兵ポトフに告げた。


「お前はこの場で待て」

「はっ!」


 ポトフは踵を返すと壁を背にして直立した。


「行くぞ」


 全員が中に入ったのを確認して親衛隊が扉を閉めた。


 ガゴン


 薄暗い部屋の中、扉の閉まる音だけが妙に大きく響いた。

 それはまるで光あふれる世界から切り離された音のように感じられた。

 少女達の胸に何とも言えない不安が湧き上がった。

次回「聖域」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。