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悪役令嬢対策倶楽部~オレが助ける伯爵令嬢は未来の悪役令嬢  作者: 元二
第二章 クラリッサ・シェーラー編
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その13 クラリッサ・シェーラーという少女

 まだクラリッサの生まれる前。クラリッサの実家シェーラー男爵家は彼女の祖父が当主だった。

 ぶっちゃけクラリッサの祖父は無能で見栄っ張りだった。

 彼は父親の後を継いで当主になると、己の分をわきまえない浪費を重ねた。

 こうして元々大して豊かではなかったシェーラー男爵家は、彼の一代であっさりと潰れてしまった。


 領地も屋敷も失ったシェーラー男爵家には借金だけが残った。

 困窮したクラリッサの祖父はついには”男爵位”を売りに出した。

 これに驚いたのは他の貴族達だった。

 こんな前例を許す訳にはいかないと、彼らはお金を集めてシェーラー家の借金を肩代わりした。


 こうしてシェーラー男爵家は無事に残った――という訳にはいかなかった。


 シェーラー家は”男爵位”を返してもらえなかったのだ。

 クラリッサの祖父はすでに悪い意味で貴族社会で有名になっていて、彼はすっかり信頼を失ってしまっていたのだ。

 貴族達は、爵位を返せばどうせ何度でも”男爵位”をかたに借金をするに決まっている。そう疑ったのだ。


 こうして男爵家でありながら男爵家を名乗れなくなったシェーラー家は、親類縁者の間を転々としながら細々と食いつなぐ事になった。

 クラリッサの祖父母は彼女がずっと幼い頃、居候先のどこぞの屋敷で息を引き取った。


 クラリッサの両親は居候先で彼女を育てながら、その家の下働きのような仕事をしながらどうにか置いてもらっていた。

 本当は彼らだって貴族なのに、ダメな父親がしでかしたせいで気の毒にな。


 クラリッサは物心ついてからずっと、他人の家で日陰者のような生活を送りながら成長したのだった。




「おそらくクラリッサがこの学園に入学した目的は、ここを卒業する事で周囲から認められて、正式にシェーラー家に”男爵位”を返してもらうためだと思いますわ」


 ローゼマリー会長はそう話を締めくくった。

 俺は石でも飲み込んだような重苦しい気持ちに何も言う事が出来なかった。


「むーっ、むーっ、むーっ、むーっ(クラリッサにそんな事情があったなんてな)・・・」


 ・・・そういや俺はディアナの魔法で拘束されてたんだったか。

 俺の気分に関係なく、どの道何も言う事は出来なかったわ。


 俺は「魔法を解け」という意志を込めてディアナを見つめた。

 ディアナはいつもの目をしたままジッとローゼマリー会長の方を見ていた。


 ・・・・・・


 いや、いいからちょっとこっちを見ろよ!


「クラリッサにそんな事情があったなんてね」


 黒髪前髪パッツン美少女エッダがため息と共に言葉を吐き出した。

 そうそう、俺もそれが言いたかったんだ。


「それでクラリッサの考えているようにいきそうなのかい?」


 銀髪の美少年、にしか見えない美少女バルバラが会長に尋ねた。

 会長はバルバラの問いかけに対してかぶりを振った。ゴージャスな金髪縦ロールが左右に揺れる。


「分かりませんわ。でも祖父のした事で孫が困るのは道理に合わないと思う方はいらっしゃるでしょうね」


 なるほど。クラリッサがこのメッテルニヒ魔法学園を卒業する事で自分の価値をアピール出来さえすれば、ワンチャン可能性はあるかもしれない、という訳か。

 クラリッサにしては悪くない考えだったわけだ。

 いや、負けず嫌いなアイツの事だ。ひょっとしたらそこまで考えずに、単に周囲を見返してやりたくて学園に入っただけなのかもしれない。

 まあ結果オーライだ。シュートはゴールの枠にさえ飛べば得点のチャンスに繋がるわけだしな。


「クラリッサのご両親は彼女を学園に入学させるためにかなり無理をされたとも聞いています。クラリッサの様子がおかしかったのはその辺りの事情もあるのかもしれませんわね」


 そりゃまあ、親戚の家に居候している状態で娘をこんな学園に入れるのは、並大抵の覚悟じゃ出来なかっただろうさ。入学費だって親戚に持ってもらわなきゃいけないだろうからな。

 その親戚も良く出したもんだよ。相当なお人好しなんだろうな。



 しかし、これでクラリッサ・シェーラーという少女の事が良く分かった。


 アイツがクラスに友達が出来ない理由も、騙されやすかったり阿呆の子だったりローゼマリー会長の話に涙を流して感情移入するほど純粋だったりする理由も、一人だけ勉強が遅れている理由も、俺との勉強を頑張っている理由も・・・


 他人の家で両親の迷惑にならないように、ずっと一人でおとなしく過ごして来たクラリッサは、他人とのコミュニケーション能力が低すぎるんだろう。

 というか、アイツの常にいっぱいいっぱいな態度は、他人とどう接していいか分からない所から来る、ある種のパニック状態なのかもしれない。


 俺は会長にクラリッサの成績の事を聞いてみた。


「むーっ、むーっ(会長はクラリッサの成績を――)・・・」


 ――って、いい加減にコレ外せよ!

 俺がディアナを睨んでいると、俺の視線に気が付いたエッダがディアナの袖をツンツンと引っ張った。

 その振動が腕を伝い、ノーブラのディアナのたわわな果実をフルリと揺らせた。

 ごっつあんです。


「ディアナ、アルトが君の事を睨んで・・・? え~と、さっきまで睨んでいたよ」


 おっといかん。心躍る光景につい目尻が下がっていたみたいだ。

 俺は湧き上がる冒険心を押し殺してディアナに目で訴えかけた。


「むーっ! むーっ!」

「何言ってるの?」


 おま! ふざけんな! 誰のせいで俺がむーむー言ってると思ってんだよ!


「あー、ローゼマリーの話も終わったし、そろそろ自由にしてあげれば?」


 エッダの提案にポンと手を打つディアナ。

 今度は縦揺れですか。ありがとうございます。おっと、いかんいかん、気を強く持たなくては。




 ディアナの魔法による拘束から解放された俺はローゼマリー会長に尋ねた。


「会長はクラリッサの成績を聞いていますか?」

「・・・あまり良くないと聞いていますわ」


 やはりか。

 ローゼマリー会長は控え目に答えたが、俺の予想では壊滅的な成績のはずだ。

 というかあの学力でまともな点が取れるとは思えないからな。


 難しい顔で考え込む俺に、バルバラが聞いてきた。


「でも今は学年主席のアルトと勉強をしているんだろう? 次のテストでは最初のテストよりも良い点が取れるんじゃないか?」


 バルバラの言葉にハッとする会長達。

 バルバラめ。中々厳しい所を突いて来たな。

 俺はチラリとバルバラの方を見ただけで何も言えなかった。

 ローゼマリー会長は黙り込む俺におずおずと尋ねた。


「黙っていては分かりませんわ。アルトの目から見てどうなんですの?」


 ・・・仕方が無い。俺はうつむいたまま会長の問いかけに答えた。


「全く期待出来ないでしょう。勉強を始めるのが遅すぎました」


 会長達が息をのむ気配が伝わって来た。

 俺は顔を上げると、安心させるように会長達に言った。


「でもアイツも頑張っているし、今度の中間テストはダメでも学期末――」


 顔を上げた俺の目に入ったのは、ドアの外で真っ青な顔で立ち尽くすクラリッサの姿だった。



 え? なんで? お前寮に帰ったんじゃなかったのか?


 その時俺はクラリッサが鞄を置き忘れている事に気が付いた。

 それより待て。俺はさっき何て言った?


 ――全く期待出来ないでしょう。勉強を始めるのが遅すぎました――


 マズイ!


「待てクラリッサ!」


 俺が叫ぶのとクラリッサが踵を返して走り去るのは同時だった。

 廊下を走り去る音と俺の慌てた様子に、会長達も何が起こったか察したようだ。

 目を丸くして俺と部屋の外とを見比べている。


 くそっ! やっちまった! アイツ絶対に勘違いしたぞ!


 俺は「今回の中間テストは全く期待出来ないが、アイツも頑張っているので学期末テストには少しは改善されると思う」と言おうとしたんだ。

 けど、クラリッサは俺の話の前半分だけ聞いて、俺が内心では「勉強を始めるのが遅かったので、今更いくら頑張ったってどうしようもない」と思っていると勘違いしたに違いない!


 って、俺は何をのんきに分析しているんだ。今はクラリッサを追わなきゃダメだろう!


 慌ててクラリッサの後を追って部室を飛び出した俺だったが、すでにどこにもクラリッサの姿は無かった。

 俺はしばらく部室棟の周りを捜し回ったが、アイツを見付ける事は出来なかった。

 こうなると貴族学科の校内に疎い俺にはなすすべがない。

 俺は不安な気持ちを抱えたまま、一旦部室へと戻ったのだった。

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