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その18 胡散臭い美少女

「ちょっとそこ行くお兄さん。ウチに占われてみない?」


 放課後、いつものように部室を目指して貴族学科の敷地内を歩いていた俺は、そんな言葉に足を止めなかった(・・・・・・)


「止めないのかい?! 普通はそこは”足を止めた”だろ!」


 座っていた机から立ち上がると俺の腕を掴む少女。

 え~、面倒な事になったなあ。


「あの、俺、貴族学科の生徒じゃないんですけど」

「ん? ああ、どうりで見慣れない制服だと思った。まあどっちでもいいじゃん。ウチに占われて行こうよ」


 俺の腕を引いて強引に机に座らせる少女。

 長い黒髪をぱっつん前髪にした小柄な少女である。

 と、言うと純和風の美少女を連想しそうだが、ここは異世界。

 俺の目には西洋人が日本人のコスプレをしているようにしか見えなかった。

 まあ可愛らしい美少女である事は確かなのだが。


「ハイ、これカットして。そうそう念入りにねー」


 取り合えず言う通りにしないとコイツは俺を放してくれそうにないな。

 俺は仕方なく机に向かうと彼女の占いに付き合う事にした。

 彼女に渡されたカードはちょっと縦長い普通のカードに見える。

 ひっくり返して表を見てみると、顔の付いた太陽の絵柄が見えた。

 俺は詳しくないが地球のタロットカードのような物みたいだ。


「ちょっと! まだ表に返しちゃダメ! ウチがめくるまで勝手に見ないでよ!」

「あっと、すみません。・・・こんな感じでしょうか。ハイ」

「何か君、変わったカードの切り方するね」


 そうか?

 俺がやった方法は『ディールシャッフル』という方法だ。

 名前は知らなくても”トレーディングカードゲームのシャッフルで良く見るやり方”と言えばピンとくる男子も多いのではないだろうか。

 自分の前に1枚ずつ配って複数のカードの山を作り、最後にそれらを一纏めにする方法だ。

 子供の頃遊〇王にハマっていた時に覚えたやり方だ。


 ・・・押し入れのダンボール箱の中に眠る俺のデッキは今頃どうなっているだろう。


 当時、小遣いをはたいて組んだデッキだが、最新の環境では手も足も出ないんだろうなきっと。

 遊〇王はインフレが激しいからなあ。


 などと俺が懐かしさにひたっている間に、少女はさらにカードをカットするとその上から三枚を順番に横に並べた。


「このカードがそれぞれ君の『過去』『現在』『未来』となります」


 初期の手札は三枚だけか。


「君、カードゲームと勘違いしてない?!」


 あ、そうだ占いだったっけ。


「先ずは君の『過去』」

「この絵柄は・・・馬に乗った騎士か。これはどういう意味でしょうか?」

「戦いだね。ズバリ君の過去は戦いに明け暮れていた!」


 いや、俺にどんな過去があればそんな結果が出るんだ?!

 まだ15歳で過去に戦いに明け暮れていたって、俺はどんな紛争地帯に生まれたんだよ。


「じゃあ次は『現在』。コレは剣だね。ズバリ君の現在は戦いの最中にある!」


 同じ結果が出るのかよ!

 ていうかこれオチも読めたわ、次も絶対戦いに関係あるヤツだわ。


「そして『未来』。コレは死。ズバリ君は未来でいつか死ぬ(・・・・・)!」

「戦いですらなかった! てか当たり前すぎて占いになってないわ!」


 俺は三枚のカードをひったくるとデッキ・・・じゃなかった、カードの山に混ぜて少女に渡した。


「シャッフル」

「え? あ、ハイ」


 少女は俺に言われるがままにカードをシャッフルした。

 カードを受け取った俺は上から三枚を順に横に並べた。


「ハイ、じゃあこれがあなたの 『過去』『現在』『未来』ね。先ずは『過去』」


 カードの絵柄はハートだった。


「ズバリあなたは過去に恋をしていました」

「ええっ?!」


 次のカードは『現在』。ふむ。この絵は逆さまの人間か。


「残念ながらあなたは失恋しました」

「別にこの絵はショックでひっくり返っている人の絵じゃないよ?!」


 最後は『未来』。


「これは死。あなたは未来でいつか死にます」

「まさかの同じオチだった! いや、このカードってオチ担当のために入ってる訳じゃないからね?!」


 何となくやり返した事に満足した俺はカードの束を少女に返した。


「今後も精進して下さい。恋に破れた(ひと)よ」

「人聞きが悪いな! 止めてよ、ウチの事をフラれた女みたいに言うのは!」


 少女はプリプリ怒りながらカードの束を大きな鞄にしまった。


「あれ? もうやらないんですか?」

「まあね。クラスの子から譲ってもらったから誰かで試してみようと思っただけで、本気で占いをやる気なんて最初から無かったから。まあでも思ったよりは楽しめたよ」


 そう言いながら大きな鞄をゴソゴソとまさぐる少女。

 この流れに俺は悪い予感を感じて立ち上がった。


「そうですか。じゃあ俺はこれで」

「まあ待とうか。次はコレなんだけどね」


 少女が大きな鞄から取り出したのはボードゲームの駒だった。




「俺は二枚ベット!」

「くっ・・・ コ、コールだ!」

「一枚レイズ!」

「コ・・・コール」

「さらに一枚レイズ!」

「・・・フォールド」


 俺達は互いに自分の額のカードを見た。


「危ねえ! 5だったのか!」

「なっ! 君はウチの9相手に突っ張ってたのかい?! 信じられない!」


 いや、お前が自信無さそうに見えたからだよ。

 でもこの様子だと俺の見間違いだったみたいだな、危ない危ない。


「・・・今のでウチの方がマイナスか。この勝負は君の勝ちだね」


 残念そうに言うエッダだが、まだ総合成績では俺の方が負けているはずだ。

 ああそうそう、エッダはコイツの名前だ。エッダ・バカンス。バカンス男爵家って何だか楽しそうな名前だな。最もこの世界でも長期休暇をバカンスと呼ぶのかは知らないが。


「あ~、残念ながら今のが最後だ。ウチが用意したグッズはもう品切れだよ」

「そうか、じゃあ総合ではエッダの勝ちだな。マジで結構悔しいぜ」


 エッダの用意した大きな鞄からは出るわ出るわ、次から次へと色々なグッズが出てきて、俺は彼女がその全てを試すまで開放してもらえなかったのだ。

 で、どうせなら勝敗を決めようという事になって、俺とエッダの二人ゲーム大会が始まったのだ。


 エッダは何をやってもそこそこ強いもんだから、俺はついムキになって彼女の相手をしてしまった。

 そこそこ強いとは言ったが、多分エッダは本気でやれば俺なんかじゃ歯が立たないくらいに強いんじゃないだろうか。

 ただ彼女はむら気があるというか、勝ち負け以上にゲームに面白さを求める性格のようで、そこに俺が付け込む隙があったのだ。


「悔しいなら明日も挑戦しに来るかい?」

「あ、いや、流石にそれは不味いかな」


 俺はすっかり日が傾いた空を見上げて冷や汗を浮かべた。

 ヤベエ、つい夢中になって今まで遊んでたけど、ローゼマリー会長達怒ってないだろうな?


「ふうん。じゃあいつなら時間が空いているのかい?」

「いつって・・・いつだろうな?」


 悪役令嬢対策倶楽部は、ウチの高校のサッカー部ばりに休日でも朝からやってるらしいからな。

 時間があるとすれば活動が終わった後なんだろうが、それだとエッダの方が無理だろう。

 こんな、面白い事大好きな男の子、みたいなヤツでも立派な貴族のお嬢様なんだからな。


「時間が取れない程なのかい? そもそも平民学科の君が貴族学科に何の用があったんだい?」


 あ、今それを聞いちゃうか。

 どうするかな・・・言わない方がいいと思うんだが。


 俺の心の葛藤を察したのかエッダが意地の悪い表情を浮かべた。

 ゲームの勝敗をメモした紙を指でつまんでヒラヒラと振る。


「ほら、この通り。総合ではウチの勝ちだよね。勝った方は負けた方に何か命令出来るって決めてたよね?」


 ぐっ。やっぱりそれ(・・)を持ち出して来たか。

 熱くなってそんな条件呑むんじゃなかったぜ。


「特に君にしてもらいたい事もないし、折角だから教えて貰う事にしようかな。な・ん・で・ここにいたのかな?」


 ガクッ


 俺は机に突っ伏した。

 だが俺も男だ。それにここで約束を守らなければ、今までエッダと真剣に戦って来たのが全て無意味になる。

 俺はエッダに聞かれるがまま、悪役令嬢対策倶楽部の事を白状したのだった。




「やっと平民アルトが来たのですよ!」


 部室ではメンバーが全員揃って俺の事を待っていた。

 正確には待ちながらみんなでババ抜きをして遊んでいた。

 ここでもカードゲームなのか。今日はやけにゲームに縁のある日だなオイ。


「やあ、皆さん初めまして。ウチはエッダ・バカンス。この倶楽部に入部を希望します」

「! 誰なんですよ?!」


 俺の後ろからひょっこり顔を出して挨拶をするエッダ。

 いや、クラリッサ。今、エッダが自己紹介してただろ。お前人の話を聞いてなかったのかよ。

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