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その12 謎の甲冑美少女

 俺の転生したこの異世界でも一週間は7日。昨日は週末で学園は休みだった。


 日本でサッカー部に入っていた頃は、週末といえば朝から晩まで部活で練習漬けだったものだが、”悪役令嬢対策倶楽部”は運動部ではない。なら何部だと言われても困るが・・・

 練習して冬の国立を目指すような倶楽部でもないので、休日まで活動する必要はないだろう。

 ちょっとした臨時収入のあった俺とダミアンとマリオは、一緒に街まで繰り出して買い物と観光にしゃれ込んだのだった。


 この街はどこを見て歩いても「古いヨーロッパの街並み」といった感じで、そういうのに興味の無い俺でも十分に目を楽しませてもらえた。

 いわゆる異国情緒ってやつ? 俺の場合異国どころか異世界だがな。

 街で羽目を外し過ぎて、危なく門限破りをしそうになって焦ったりもしたが、それも含めて俺達は休日を満喫したのだった。




 そして明けて翌日の放課後。俺は重い足を引きずって部室棟へと向かっていた。


「う~ん。気が重いぜ」


 部室に待っているのは三人の美少女達。

 もちろん、俺が美少女が苦手だから気が重いという訳では無い。

 まあ、得意という訳でも無いのだが。


 理由は先週の倶楽部活動の中で出た話題だ。

 話せば長くなる・・・というか馬鹿馬鹿しい話なので結論だけ言うが、俺達平民学科の男三人がはっちゃけ過ぎたので、それに対抗できる腕っぷしの立つメンバーを入れようという話になったのだ。

 貴族学科の男子生徒の中には、いつも騎士の修行をしているやつらがいるらしい。

 そいつらは魔法(・・)学園にまで入って、一体何をやってんだろうな。

 ローゼマリー会長達はその男子生徒達をこの倶楽部に誘うことに決めたのだった。



 会長はクラリッサ、ディアナと連続して勧誘に成功したためか、変に自信を強めているみたいだ。

 しかし、会長は自分の倶楽部が”悪役令嬢対策倶楽部”だという事を忘れているんじゃないだろうか?


 正直俺には、普通の人間が会長の話を信用するとは思えないんだが。

 実際、ディアナの時も最初は全く信じてもらえなかったしな。


 あれ? そういやディアナはどういったきっかけで入ったんだっけ?


 ・・・まあ、それは別にいいや。

 とにかく、そういったわけで、俺は今後起こるだろう揉め事の予感に気を重くしながら部室棟へと向かっていたのだ。

 決して美少女三人の中に他の男が入る事を嫌がって憂鬱になっていた訳じゃないぞ。そこだけはハッキリさせておく。

 そもそも俺は男子メンバーが増える事については賛成なのだ。ただそれが貴族学科の(・・・・・)男子生徒というのが気になるだけで・・・


 そこまで考えた所で俺の思考は一瞬停止した。




 俺の目は校舎裏に立つ謎の甲冑人間に釘付けになった。


 何を言っているのか分からないと思うが、ありのまま 今 起こった事を話すぜ。


 町の質屋の前に飾ってあるような、と言うか、漫画のベル〇ルクとかに出てくるような、と言えばいいのか。とにかく、全身くまなく鉄板で覆われた西洋甲冑が剣を手に立っていたのだ。

 確かにここは魔法があるような西洋風ファンタジー世界だが、西洋甲冑なんてシロモノは初めて見たぞ。


 俺は学び舎で見かけるにはあまりにも異質で暴力的な存在に固まってしまった。

 それほど違和感のある光景だったのだ。

 多分俺は目を丸く見開いて、馬鹿みたいに口を半開きにしてしていただろう。

 

 甲冑人間はガチャリと音を立てて俺の方に振り向いた。

 あ、ヤベ。目が合った。

 甲冑人間の顔はバケツのようなヘルメットに覆われて見えないが、細いスリットの奥から確かに俺を見つめる視線を感じた。


 トラブルの予感に俺の背筋に冷や汗が流れた。

 俺は相手を極力刺激しないようにゆっくりと後ずさった。


 ガシャン


 俺が一歩下がるのと甲冑人間が一歩足を踏み出すのは同時だった。


 ・・・・・・


 俺は背中を向けると全力で走り出した。


 ガシャン! ガシャン! ガシャン! ガシャン!


「ぎゃああああっ! なんで追ってくるんだあああ!」


 怖い怖い怖いマジで怖い。

 何大袈裟に言ってんだって?

 じゃあお前、抜身の剣を持った西洋甲冑に追いかけられてみろよ! 俺の気持ちが分かるから!


「待て! 待ってくれ! 私の話を聞いてくれ!」


 甲冑が何か叫んでいるようだ。意外な事に女の子の声だ。

 しかし、プチパニック状態の俺にはそんな事を考えてる余裕は無かった。

 俺は左に向かうと見せかけて、素早く切り返すと逆方向に走り出した。


「なにぃ、馬鹿な! 今のフェイントに反応しただと?!」


 サッカー部仕込みの俺のフェイントに初見で対応するとは!


 というかコイツめちゃくちゃ速いぞ! もう追いつかれそうだ!

 なんでこんな全身鎧を着こんでいるのにこれほどの速さで走れるんだ?!

 確かに今の俺は日本でサッカーをやっていたころの俺じゃない。この体はアルトのものだ。そしてアルトは、運動なんてロクにした事がないんじゃないかと思うくらいのもやしっ子(・・・・・)だ。

 にしたって、どう考えたって身軽な俺より全身鎧の方が速いっておかしいだろう!

 コイツ一体どんな鍛え方してんだ?!


「くそっ! だったらこっちだ!」

「甘い!」

「嘘だろおおおお!」


 俺は目についた2mほどの高さの段差に飛び付いてよじ登ったが、甲冑人間は甲冑の重さを感じさせない軽やかな動きで壁を駆け上がるとヒラリとその上に降り立ったのだ。

 本当に人間か?!


「くそっ! くらえ!」

「ぬるいわ!」


 俺は近くに積み上げられていた薪と思わしき丸太を次々と投げつけた。

 甲冑人間は飛んでくる丸太を手にした剣で叩き落とす。

 その体に一本の丸太も寄せ付けない。

 コイツ無敵か!


「なっ・・・しまった!」


 相手の出鱈目なスペックに気が動転してしまった俺は、逃亡ルートの選択を誤ってしまったようだ。

 気が付くと俺は、逃げ場のない壁際にまで追い詰められていた。



「ふっふっふ。もう逃げ場はないぞ」

「・・・くっ! 何が目的だ」


 ガシャン


 俺の言葉に動きの止まる甲冑人間。

 怪訝な表情になる俺。


「そういえば私は何でお前を追いかけていたんだろうな?」


 いや、知らんがな。

 甲冑人間はしばらく考えていたようだが、手を額に「ガツン!」・・・どうやら額に浮かんだ汗を拭おうとして手をヘルメットにぶつけてしまったようだ。

 甲冑人間はヘルメットの顎紐を外すと、そのままヘルメットを脱いだ。


「ふう。中々良い鍛錬になったぞ」


 ヘルメットの中から出て来たのは銀髪のショートカットの美少女。

 美少女といってもクラリッサのようなアイドル系ではなく、何というかカッコいい系の美少女だ。

 こう、女の子がキャーキャー言いそうな感じの美人、とでもいえば良いのだろうか?

 上気して汗ばんだ顔が何とも言えない色気を醸し出している。


「貴様、名前は?」

「えっ? あ、アルトです」


 銀髪美少女は満足そうに大きく頷いた。


「ア・アルトか。変わった名だな。だが恥じる事は無いぞ、立派な名だ。ではさらばだア・アルト!」


 銀髪美少女は魅力的な笑みを浮かべると俺に背を向けて去って行った。

 どれぐらい魅力的な笑みかと言うと、白い歯がキラリと輝いた、と言えば伝わるだろうか。


「何だったんだアレ・・・」


 残された俺は呆気に取られながら彼女の背中を見送っていた。




「おや、先程ぶりだな。ア・アルトじゃないか」

「ゲゲッ! どうしてココに?!」


 なんともいえない理不尽な疲労を抱えながら、部室棟を目指す俺の目に飛び込んできたのは謎の甲冑人間。

 ――いや、もう謎でも何でもないんだが。


「そういえばさっきもここで会ったんだったか。ここに何か用事でもあるのか?」


 そう、甲冑少女はさっきと全く同じ場所に同じように立っていたのである。


「まあそうですね。後、俺の名前は”アルト”です。”ア・アルト”じゃないんで」

「なんと!」


 いや、なんと! じゃないよ。普通分かるだろ。


「だったらアルト。先週の話なのだが、女子生徒がここで三人の無頼漢に襲われたのだ。お前、何か知らないか?」


 甲冑少女の言葉に思わず固まる俺。たらりと冷や汗が一筋こめかみを伝った。

 しかし、幸い甲冑少女はそんな俺の様子に気が付いていないみたいだ。


「ええと・・・頓珍漢(・・・)ですか?」

「いや、無頼漢(・・・)だ。この場で人と待ち合わせをしていた女子生徒が、学園内で見た事の無い男達に襲われたというのだ。」


 くそっ、誤魔化せなかったか。

 少女の言葉に俺はチラリと周囲を見渡した。

 確かにここは先週、”白馬の王子様作戦”の現場になった場所だ。

 まさかあの女子生徒が学園に俺達の事を訴えたんだろうか?

 俺は最悪の予感に心臓をバクバクさせながら、恐る恐る少女に問いかけた。


「その女子生徒は、本当にそいつらに襲われたんですか?」

「そう念を押されると、確かに”襲われた”とは言ってなかった気もする。”襲われそうになった”だったか? いや、そもそも‘襲う‘という言葉を使っていなかった気もしてきた」


 バケツのようなヘルメットの顎に手を当てて、思い出そうとする甲冑少女。

 ヘルメットに隠れてその表情は伺えないが、本気で考え込んでいる様子だ。


「学園で何か問題にでもなっているんでしょうか?」

「問題? いいや、単に私がその女子生徒の噂を聞いて、その無頼漢とやらに挑んでみたくなっただけだ」


 俺は思わず漏れそうになった安堵の吐息を押し殺した。

 どうやら最悪の事態には至っていないようだ。

 俺はまだウンウン唸りながら考え込んでいる甲冑少女に、慎重に言葉を選びながら別れを告げた。


「残念ながら俺は何も知りませんね。力になれずにすみません。では俺はこれで」


 俺はなるべく自然に甲冑少女の横を通り過ぎようとしたが・・・


 ガシッ!


 俺の腕は彼女に掴まれてしまった。

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