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英雄


大きな、人の身にはあまりにも大きすぎる盾、いや正確には盾ではない、アレは最早身の丈ほどの金属塊である。


「彼奴を抑える。貴様が撃ち抜く。それで十分だろう。」


だがまるでそれを片手用の盾のように構え、左手で不相応な大きさの、いやその人物が持つのには適正な重さと大きさの片手剣が抜き放たれるとその人物は一気に加速、金属塊のような盾を意に介さない速力はまさに超人である。


「オーライ、じゃ、サクッと行きますか。」


そしてもう一人の人物は何を唱えることもなく魔力を指先に集める。



もし、この世界にスキルというものやレベルがあるのならば、或いは異世界転生した老若男女問わず不条理な強さを手に入れた誰もが通る現実感の確認というイベントをこなしているのだろう。

システマチックな世界構造は人から容易に、特にそう言うものをよく目にしてきた人間から常識というものを奪い去る。

そう言う意味では良い世界だ。

なにせ理不尽ではあるが強者には理由があり、それなりの覚悟と身なりをしている。以前見た転生者のような体たらくではこの世界に耐えられず。それより先に格上にすりつぶされていただろう。

貴族だって、今日喧嘩を売ってきた彼らだって、この国において貴族階級であると言うだけでをウリにしていたのかもしれないが、この国以外に迷惑はかけていない、過ぎた力を持つこともなく。ただひっそりと汚職をしたりしているだけだ。ムカつくがうまく生きている。


上下左右から同時に、あるいは時間差で襲いかかって来る怪腕をギリギリのところで避け、流し、切りとばす。

もうそろそろ限界に近い、魔力による限界も精神的な限界もまだだが、再生されているとはいえ幼児の体、限界というのはいつか来る。


だが俺は運が良かったようだ。


「下がれ、見習い。」

「っふ!」


渋い、だが苦労の多そうな神経質な声が聞こえ、俺は全力を持ってその場から離れる。勿論目の前のアレは俺に向かっても、その声の主人に対しても腕を振るうが、鈍い金属音んが連続すると同時に俺の方へ来る腕が全て斬り落とされた。


太刀筋は見えた。剣技としては一流、それを超常の身体能力で持って振るう。その脅威は凄まじい、実際に目の前には斬撃に沿うように圧縮された魔力の刃が飛び、怪物を真っ二つにしていた。

アレには再生能力があるようだが、一時的に動きを止める程度には致命的だったのだろう。今まで忙しなく動いていた全身の筋肉が止まり、血を吹き出しながらも断面に新たな肉を生み出して再生しようとしている。


「ま、そんなことをさせないけどね?」

「ガレス師匠?」


彼女がアレに向かって指を指す。


呪弾(死んで?)


詠唱ではない、しかし力ある言葉である龍言語の一節を付与された魔力は指先から高速で射出され…射線上にいた鉄塊を持った剣士に向かって飛翔、男は少し焦りながらも盾を使い逆に威力を加算、元金ぴかに衝突させ一瞬で塵に変えた。


沈黙の間、盾を持った剣士は青筋を立て、ガレス師匠は汗をかいている。


「ハハっ!楽勝だネ!」

「バカか貴様は、俺まで殺す気か?」

「あだだだだだ!」


鉄塊を持っていない方の手でガレス師匠をアイアンクローしつつ彼はこちらに近づいてきた。

俺は既に刃折れになった直剣と短剣に心の中で涙し、ボロボロになりながらも未だに再生魔法を止められずにいた。

体から力を抜けば一瞬で緊張が途切れ、瞬く間に意識を失うだろうが、とりあえずまだ俺は立っている。


「…ガウェインの見つけてきた二人目…か、よく生きていたな、あの防御はなかなかだった。」


男はそういうと帰っていった。


「アイタタタ…全く、盾の騎士様はお堅いねぇ…」


周りにいるのが師匠だけになった途端一気に弛緩してしまった。

いや、おそらく限界だったのだろう。もう指一本動かせない…


「だけどどうしてこんな…貴族に…通者が?…も…あっ!…ん!ひみ…く !」


意識が途切れた。

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