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月日が一年流れ、その日はあの場所に行きたくなった。なぜかはわからないが行きたかった。最近忙しかったからゆっくりしたかったのかもしれない。久しぶりにこの森に入ったが道は覚えている。目指しているのはこの森の奥だが、普通の人ならこの森に入ると出られなくなる。彼女の説明では森が人の方向感覚をおかしくして、それに抗うほどの実力者じゃないかぎりこの森には入れない。といっても地図にも載ってないような辺境にあるので知っている人の方が少ないが。
そんなことを考えているうちに目的地に着いた。相変わらずのどかな所だ。光が木の間から差し込んでカーテンのように輝いている。小さい綺麗な花が所々に生えている。
そして木でできたぼろぼろで今にも崩れそうな家。ここは僕は少しの間だが彼女と暮らした思い出の家だ。そしてその裏にはには黄色い花が満面に咲いている。彼女が好きだった花だ。その花の何本かを摘んで、さらに奥に行く。
そこには石で作った墓がある。この下では彼女が眠っている。もう二度と起きない長い眠りだが――
墓に花を添えて、手を合わす。やはりここに来ると色々考えてしまう。僕は君のように強くなれたかな。あの男の舞台に上がれるかな。君がいたあの明るい日々が懐かしい。だけど僕は闇に生きると決めた。
大分長い時間手を合わせていたようだ。そろそろ帰ろうかと思った時、不意に気配を感じた。辺りを確認するが誰もいない。気のせいだろうかとも考えたがそれを振り払う。今までこの勘のおかげで何回命を救われたか。
「誰だ。出てこい」
周囲に聞こえるように声を出す。確信はないが近くにいるのは間違いない。
すると、一人の男が出てきた。黒いが少し青み掛かったローブを着ている。
「すごいな。完全に気配を消したと思っていたんだが...」
男は大げさに驚いたような顔をする。
「それで何の用だ。こんなところに来るやつなんて碌な奴じゃない」
さっきからこの男を観察しているが、僕より強いと思った。あの男ほどではないが...
「確かに俺は碌な奴ではないな。単刀直入に言うと俺と来い。」
そう言って腕のブレスレットを見せる。赤、青、緑、茶、黃、白、黒の丸い球体が描かれている。その真中には本がある。このシンボルは――
「魔法管理委員会――魔法界っ――」
この国と他の2国の終戦後、3国合同で作られた組織。それは最初こそ魔法犯罪者を取り締まる組織だったが、今の魔法絶対主義の時代において3国よりも権力を握っている。そこに入るには実力を認められた天才だけだ。それは現代に生きる魔法師たちの希望と憧れの象徴。
そしてこの男の持っているブレスレットが意味するのは、魔法界に所属している証。そしてブレスレットによって8つに分けられる。色の付いている球体の数でその位がわかる。色が多い方が位が上で、そこから1色持ち、2色持ち、と分けられ、7色持ちまである。
ただし一人例外はいる。それは魔法界の会長だ。あの本のマークは魔法師が目指す最初にして最大の命題『生命の記録』を表している。そのシンボルは魔法界のトップだけがつけることを許されている。
「僕を捕まえに来たのかっ――!」
それぐらいしか理由は思いつかない。僕ごときのためにトップがわざわざ動くなんて。やばいっ、この男には勝てる気はしないっ――とりあえず逃げる準備はする。僕はまだ死ぬわけにはいかない。だがえっというような顔になり、男から出た言葉は予想とは全く違った。
「俺はお前を見込んで、魔法界にスカウトしているだけんだが」
「はっ?」
これが僕の口から飛び出た言葉だった。
「――君のことは知っている。7魔家の1つ闇森の長男だが家を追い出された。そしてここで出会った少女と暮らし、殺されたということも。君が復讐を望んでいるということも。」
こいつどんだけ僕のこと調べたんだよ、と呆れてしまうぐらい情報を並べてくる。
「君が俺に協力してくれるなら、俺は君の復讐に手を貸そう。これならどうだ?」
流石にこれには驚く。僕にとってこれほどありがたい報酬はない。提案に乗ってもいいが。その前に。
「どうして僕なんだ?」
「俺は自分の弟子を探している。だが他人を鍛える気にはなれん。だから俺の息子になれ。俺なら君をもっと強くできる。」
僕が欲しいのは復讐のための力だ。それをくれるならなんだってやる。僕はこの男の提案に乗ることにした。
「――っわかりました」
「そうか、俺の名前は時津宗介、これからは家族だ。」
「じゃあ僕は時津暁斗。よろしくお願いします。」
そして、時は流れだす――




