異世界召喚巻き込まれ(故意)
「う、んんぅ……」
私はいつの間にか横たわっていた体を起こす。
(あれ、私、なんで寝て……あ)
私はさっきのことを思い出す。
(屋上に空君を迎えに行って帰ろうとしたら、何か魔方陣みたいのが出てきて……)
考えながら辺りを見回す。そこは私の知らないところだった。床には高そうな赤いじゅうたんが敷かれていて、壁はコンクリートのような、でも何か少し違うもので出来ている。そして……
「総司、海華ちゃん」
二人がさっきの私と同じように横たわっていた。でも、
(あれ、空君は?)
そこに空君はいなかった。
「……空君」
「呼んだか?」
「ひゃああっ!」
私は後ろから急にかけられた声にびっくりした。そしてその声は間違いなく、
「もお、脅かさないでよ空君」
空君のものだ。
「悪いな、別に脅かすつもりはなかったんだけど」
私の言葉にそう答える空君。
「それでもびっくりしたよ」
「あー、悪い」
「まあ、別に良いけどね」
頭をかきながら謝る空君にそう言って、私は急に不安になる。
「……ねえ、空君」
「何だ?」
「ここ、どこなんだろう」
ここはいったいどこなのか、あの屋上での出来事が何なのか、それが不安の要素だ。
「……明美、自分の耳を触ってみてくれないか」
「えっ、私の?どうして?」
「いいから」
唐突に私は彼にそう言われ、疑問に思いながら言われたとおりに自分の耳を触ってみる。
「――えっ?尖っ……てる?」
何か、少し耳が尖っているような……
「ああ、少しだけど尖ってるぞ」
「――えっ……ええぇ!!」
そう言われて私は混乱する。
「えっ、嘘、何で……」
「それとな……それだけじゃないんだよ」
「えっ、それってどういう……」
空君が続ける。
「総司は気づきづらいけど髪が伸びてる」
「あ、ホントだ」
本当に気づきづらいけど確かに肩口ほどまでしかなかった髪が背中の中ごろまで伸びている。それでもいつも一緒に過ごしていれば違和感を感じるような変化。それなのに気づかないくらい私は混乱している。
だめだよね、こんなんじゃ。気をしっかり、深呼吸、深呼吸。
「まあ、確かに混乱するよな」
「うん、でももう大丈夫……だと思う」
私は空君にそんな頼りない返事をする。
「じゃあ、俺がもう一つ言いたいことを当ててみな」
「え、でも」
「大丈夫だよ。さっきの総司の間違い探しよりずいぶん難易度は低いぞ」
「……何でそういう例えなの?」
「だって、わかりやすくないか?」
「えっと、うん、まあ」
っと、そうじゃなくて。私は彼に言われたこと、空君が何が言いたいかについて考える。
「ちなみに、見ればすぐわかることだぞ」
言われ、私はすぐに周囲を見渡す。そしてすぐに気づく。
「耳?」
それは海華ちゃん、彼女の頭上にあった。彼女の髪の色と同じ白の耳が、彼女の頭から生えていた。それだけで無く彼女のお尻のあたりからは同じ色をした尻尾が生えている。
「……何で?」
ふと私の口からそんな言葉が意図せずに出る。
「さあな。ただ、可能性としては、いろいろあるんじゃないか?」
「異世界、とか?でもそんなこと小説みたいなこと信じられるはずが――」
そこで私は言葉を止める。なぜなら・・
「なに、これ……」
私の頭の中に私の物ではない記憶、あるはずの無い記憶が浮かんできたから。そしてその記憶には、私たちはこの世界――――ネルミスへと、召喚されたとある。
「ここは、本当に私たちの世界じゃないの?」
そんな作り話みたいなこと・・・不安になり、そんな言葉が私の口からこぼれる。と、その時――
「ん、んあ?」
「ん、んんぅ」
さっきまで寝ていた二人が目を覚ました。
「……何だか、作り話みたいだな」
総司が、ふとそう言う。まあ、仕方がないだろう。俺も初めて同じ目にあったときは似たようなことを考えた。
「でも、そう簡単には信じられないよね」
「だけども信じないとすると、この記憶みたいなのはどうやって説明するんだよ、てことになるんだよな」
海華の言葉に総司がそう返す。
「うん、まあ、そうなんだけどね」
素直にそう返す海華。
「まあ、今の俺らに出来るのはこの記憶を信じるしかないってことだけだと思うぞ」
俺がそういうと三人も同意した。
「……でも、私たちこれからどうなちゃうんだろう」
ふと、明美が不安そうにそんなことを言う。それを聞いた海華は同じように不安そうな顔を見せる。確かに、この三人の言う記憶のようなもの、『召喚対象者補助知識』にはこの世界の常識、文字、さらには人に害を及ぼす魔物の情報、それらとの戦闘方法までもが知識として対象者の頭に流れ込み理解させるという便利なものだが、なぜ召喚されたのかなどの、細かいことまでは知識として流れ込まない……そもそも設定すらされていない。それが、さっきの明美の不安そうな言葉の理由だ。
「まあ、それはこれから説明があるんじゃないか?」
総司がそう言う。俺はそれに同意する。
「たぶんそうだろうな。もうこの腕時計で十分はたつ。そろそろ迎えが来てもおかしくないだろうな……っと、ほら、おでましだ」
俺はそう言いこの部屋に一つしかない出入り口に目を向ける。さっき音を立てながら開いたそこには――
真紅のドレスに包まれ、真紅の髪をもった少女が静かにたたずんでいた。
俺達は少女に案内されて長い廊下を歩いている。
「えっと、レミナだっけか?」
「はい、そうです」
総司に聞かれ、さっき第一王女と名乗った真紅の少女、レミナ・リマスタは答える。
「俺達はいったいどこに向かっているんだ?」
彼女は笑顔で答える。
「はい、あなた達がなぜ召喚されたのかの説明などを行うのです……皆さんはこの世界の知識をお持ちですよね」
「えっと、まあ。この世界に関係する記憶みたいなものなら」
総司のあいまいな返事に明美と海華がうなずく。
「それなのですが、その記憶のようなもの、召喚対象者補助知識、と言うのですがそれはこの世界での生きる術を召喚した人の頭の中に叩き込むものなのです。が、そこには召喚者がなぜ召喚されたのかという理由などは設定されていないのです。ですのでそのような説明が必要なのです」
「あの」
「はい、何でしょう」
不思議そうに明美は質問する。
「設定されていない、ってことはそれを設定すれば早い話なんじゃないですか?」
「……残念ながら、それは出来ないのです。召喚の魔方陣への組み込み方はこの技術を作った人が書き記したために出来ることなのですが、この技術を作った人は不明なので設定の方法も改良の方法もわからない。故に出来ないのです」
レミナは明美にそう答える。と、
「話をしている間に着いてしまいましたね」
巨大な扉が俺達の前に現れた。
「えっと、俺達はどうすれば」
「自然体でかまいませんよ。私の兄である第一王子は堅苦しいことが苦手ですので」
彼女はそう言い、扉の端に控えている兵士に扉を開けるように言った。そしてその扉は開いた。その先には……
「ん、おお、やっと来たか」
扉の入り口から伸びる赤いカーペットの先の玉座に座る豪華そうな服装の赤髪の青年が待ちくたびれたようにだらしなく座っていた。
「さて、どこから話したものかねぇ」
青年がそう言って話し始める。
青年の話はこうだ。この世界に一年後、災厄が襲うと言う神の予言が出たらしい。その災厄に対抗するべくこの世界の人々が相談して、この世界の六つの国家でそれぞれ異世界から勇者となりうる者を召喚したと言うことらしい。神の予言ってのはこの世界にとっちゃ現実となりえるものだからな。そしてその災厄に対抗するためにこの国の勇者として俺達は召喚されたという。まあ……俺達、というのは少し間違いがあるかもしれないな。
「すみません、えっと……そういえば、まだ名前を聞いてませんでしたね」
海華が何か言おうとして、ふとそんなことを言った。
「あ、そういえばまだ自己紹介してなかったな。俺はランファルト・リマスタだ。一応第一王子な」
そう自己紹介するランファルト。まあ、俺は知ってるがな。
「藍野海華です」
「俺は緋野総司って言います」
「私は紫野明美です」
「……青野空だ」
何だか、ランファルト呼応するようにみんなが自己紹介を始めちゃったから俺も参加しておいた。いやだって仲間はずれとか微妙に嫌だし。まあ、俺はいまさら自己紹介しても意味無いと思うんだけどな。
「で、ウミカ、何か話そうとしてたけど」
ランファルトが海華にそう聞く。
「あ、そうでした、あの、疑問なんですけど……」
「あ、敬語じゃなくていいからな」
「えっ、……それじゃあ」
ランファルトにそう言われて仕切りなおす海華。
「僕達の容姿が変わったのは、どういうことなのかなって思ったんだけど」
尻尾を少し揺らしながら聞く海華。
「ああ、それは確か……この世界に召喚されたときに最も適した姿に、だっけか?」
ランファルトが自信無さげにそう答える。いや、答えたというよりも玉座のすぐ横にいる彼の妹、レミナに聞くように言った。
「もう、しっかりしてくださいお兄様。おおむねその解釈で間違いありません」
聞かれたレミナは兄に呆れながらもそう答える。
「……ってことなんだけど、こんな感じでいい?」
「うん、ありがとう」
海華はランファルトにそう言った。
「っと、したらお前達がなぜ呼び出されたかの説明は終わり。まあ、突然のことでよくわからないこともあるだろうけど、今日のところはゆっくり休んでほしい。部屋はもちろんこっちが用意してるからそこで休んでくれ」
ランファルトがそう言うとさっき俺達がこの場所に入ってきた扉から三人の使用人――――まあ、メイドが入ってきて俺以外の三人を案内する。
「あれ、空は?」
総司がそういうとランファルトが「こいつにはちょっと話があるから」と言った。
「まあ、何だかよくわからないけど、とりあえず先に部屋で待ってるからな」
総司は俺にそう言ってメイドに案内されて扉の向こう側へと行った。
そして俺以外の三人はこの部屋から出て行った。
さて、この場所、謁見の間には今、俺とランファルトしかいない。
「まさか、またお前と会える日が来るとはな」
そう言って、彼は玉座を降りて近づいてくる。
「ああ、俺も会えるとは思わなかったな」
俺も彼に近づく。そして俺達は――――
「久しぶりだな、ソラ」
「ああ、久しぶり、ランファルト」
握手を交わした。
「お前がまたこの世界にくるなんて思ってなかったぜ」
握手していた手を離しランファルトがそう言う。そう、俺は一ヶ月前までこの世界、ネルミスにいた。
理由は同じ勇者の召喚。まあ、その時俺は巻き込まれだったんだけどな。
「まあ、今回も前と似た感じで巻き込まれだったんだけどな」
「まあそうだろうな。召喚されるのは三人だって聞いていたのに四人で、さらにその中にお前がいるなんて思いもしなかったよ。でも巻き込まれの理由なんて、お前のことだからおおかたあの三人が召喚の直前だったから思わず魔法陣にでも飛び込んだんだろうな」
まるで見てたみたいな言い方をしやがって……事実だから反論できない!
「お、その反応は図星だな、どうだ? ん? んん?」
「……そうだよ、悪いか」
俺がそう言うと彼は「いいや」と言って続ける。
「にしても、お前が元の世界に帰ってからこの世界は大変だったんだぞ」
「ああ、そうなの」
「……なんか、すごく軽いな」
「まあ、仕方ないだろ。俺はずっとこの世界にいたわけじゃない。そんな俺がお前の話を聞いて「わかる」なんていったところでただわかった気になるだけだぜ」
「まあ、確かに。お前、この世界に二年もいなかったもんなぁ」
「……ん? 何言ってんだ?」
「へ? 何が?」
すっとぼけるランファルト。
「いやいや、俺前にこの世界から帰って一ヶ月しかたってないぞ」
「は? いやいや、確かにお前は二年いなかったって」
「――これは……あーなるほど、そういうことかな?」
「おーい、何一人で納得してんだよ。どういうことだよ」
「……仮定ではあるんだけどな、この世界と俺の故郷の世界では、時間の流れが違うんじゃないかって思ったんだよ」
そう言うと、ランファルトもわかったようだ。
「それって、ネルミスのほうがお前の世界よりも時間の流れが早い、ってことか?」
「この仮定だとそうなるだろうな」
ランファルトのいったことに俺は頷く。
「なるほどねぇ。まあ、だからと言って俺の中じゃあもう二年も前のことだって事は変わらないけどな」
まあ、そらそうだわな。
「……で、お前、これからどうするんだ?」
ランファルトがそう聞いてきた。
「……俺は、まあいろいろあったけどよ。ネルミスが好きだ」
「…………」
「俺はこの世界が、ネルミスが二年でいったいどれだけ変わったのか、それを見るつもりだ」
「つまり、旅をするってことか?」
俺は頷く。旅をしてネルミスの二年の変化を見る。これが今の俺の目標となった。特に目標と呼べる目標でもない気がするがな。
「そうか。旅に出るか……まあ、でもせめて今日はここで休んでおくといい。部屋もちゃんと用意したからよ」
「ありがとう、ランファルト」
「いいっていいって」
そういうとランファルトはこぶしを俺のほうに突き出す。
「別にこんぐらいどうってことないぜ。俺の親友さんよ」
「……そうだな。ありがとう」
そして、俺はランファルトと同じようにこぶしを突き出した。




