放課後での進展
「ふわぁぁ……」
我ながら大きなあくびが出た。
「青野君、まだ眠いの?」
「そうじゃなかったらこんなあくび出ないだろ」
紫野の質問に総司が答える。俺に向けたものだろうが今は眠くて返事がめんどくさい。イコール総司グッジョブ!
すると総司は「ん?」とか言いながらかばんの中を漁り始めた。
「おい、どうした総司」
「ん、いや、ちょっとな」
そう返しながら漁り続ける総司。そしてかばんの中から手を出した総司は言う。
「わりぃ、教室に忘れ物があった。先に行っててくれ」
「ん、ああ、わかった」
そしてさっきまで下りていた階段を総司は駆け足で上っていった。しかし総司が忘れ物なんて珍しいの何の。それにさっき、紫野と総司がアイコンタクトをしていた気が……気のせいか。
「んじゃあ、とりあえず行くか、紫野」
「う、うん」
まあ、総司の忘れ物だとかアイコンタクトがどうたらって気にしていても仕方がないしな。あ、でも、あいつらは付き合ってはないにしろ意識しあってるだろうしな。そう考えればアイコンタクトも辻褄が合う。とまあ、そんなことを考えながら昇降口に向かう。
「あ、あの……青野、君。言いたいことがあるんだけど……」
下駄箱で靴を履き替えていると紫野が話しかけてきた。って、
「おい紫野、お前顔赤いぞ。大丈夫か?」
紫野の顔が赤い。夕日も相まってより赤く見える。
「ぅ、うん。大丈夫……だよ」
そう言うが紫野の顔は赤いままだ。ていうか……
(なんか、妙に艶めかしいな)
綺麗な黒い瞳は潤みを帯びていて、全身から色香を発している。その色香は、紫野の綺麗さとスタイルの良さで増している気がする。……って、こんなこと考えている場合じゃねえよ。
「紫野、ちょっと失礼」
そう言いながら俺は紫野に近づく。
「紫野、ちょっと失礼」
そう言い空君は私に近づいてくる。そして彼は私の額に手を当てた。
「えっあの、青野君?」
「ん、熱はないな」
なんだかよく分からないけれどそんなことをつぶやく空君。でも、そんなことよりも……
(ぅ、空君と、目が……)
たぶん無意識なんだろうけど、空君は総司と話すときは彼の目を見て話すのに私と話すときはいつも私の額付近を見て話をする。でも今は…
普段は合わない空君の心配そうに私を見る黒い瞳と目が合う。それだけで私の心臓はバクバクと早鐘を打つように鼓動する。
(どうしよう、このままじゃ私、嬉しくて死んじゃうかも)
ふと、我に返る。紫野が心配でつい額に手を当ててしまった。まあ、熱がないと分かっただけでよしとするか。というか……さっきから紫野はボーっとしているんだが。
「おい紫野、大丈夫か?生きてるかー?」
すると紫野は小さな声で
「あの、その、近ぃ……」
と言った。ん?地下?…よくわからない。もう少し説明がほしい。
「何?地下が何だって?」
そう言うと紫野はさっきよりさらに顔を火照らせて言った。
「あの、青野君、その、近い、かな……」
「ふんふん、俺が近い。近い?……ってうおうっ!!」
その言葉の意味に気づきとっさに後退する。ああ、地下じゃなくて近い、ね。……なんか、申し訳ない。
「あーえっと、紫野すまん、悪かった!」
そう言いながら俺は紫野に頭を下げる。
「えっいやっあのっ、そんな誤らなくてもいいよ! むしろ、その……嬉しかったし…………」
尻すぼみに言う紫野。最後の方は声が小さすぎて聞き取れなかったが、どうやら怒ってはいないみたいだ。
「で、でも…………もし本当に申し訳ないって思ってるなら………あ、明美って、呼んで………ほしぃ………」
言いながら顔を赤くする明美。率直に言ってかわいい。
「えっと、そう呼んで欲しいならそう呼ぶよ、明美」
俺がそう言うと明美はかすかに頬を火照らせながら
「ありがと、空君」
そう返してきた。
「ん、何だ。お前らまだここにいたのか」
そういいながら階段を下りてきたのは我らがイケメン君、総司だ。
「ああ、どこかのドジなイケメン君を待っててやったのさ」
「えっと、それ冗だ「そうだぞ」毎回お前の冗談笑えないんだよ」
「ふふっ」
総司が戻ってきたことでまたいつも道理の光景になったな。んじゃあ、
「三人そろったことだし帰るぞ、総司、明美」
俺がそう言うと総司は一、二度瞬いた後明美を見る。明美は総司に向かって口パクで何かを言った。それを見た総司は二、三度うなずいた。まあ、そのやり取りがあった間にもう俺は昇降口をでてるんだけどな。
「なにしてる、早く帰るぞ」
「ん、ああ、そうだな」
「空君、置いてかないでよ!」
帰り道、二人と別れた後俺はあの時の二人のやり取りを思い出していた。
「……なんで明美、総司に口パクで「ありがとう」なんていってたんだ?」
この後、いくら考えても俺にはその理由は分からなかった。
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