快感と好奇心と報告
「んっ、ぁっはぁ、っぁ……」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
……気まずい沈黙だ。俺も、フランも、メリアも、ユミアも、ディニギルも何も言わない。そして、森にはフレイの声だけが響いている。
俺達はさっきまでゴブリンと戦っていた広場でフレイのために休憩することにした。
皆それぞれ機にもたれたりその場で座ったりと各自で休憩している中、俺はここでも正座をしているフレイの髪を梳いている。俺がフレイの髪を梳くたびに、フレイの髪についていた魔物の血が櫛に吸収されると同時にフレイが声を上げる。
そんな中、メリアはこっちをずっと見ていた。
「メリア、さっきからずっとこっち見てるけど何?」
聞きはしたが大体は察している。梳くことによってフレイがどんな反応をするのかを観察しているんだろう。
「……今朝言ってたことが本当なのかなって確認してただけ」
そうぶっきらぼうにメリアは言った。内容としては俺の予想通りだった。今朝言っていたことってのは俺が今フレイにしていることについてだろう。確かフランに説得してもらって事無きを得てたんだっけ。いや、事が無かったのかは知らないけど。
「その様子じゃ、どうやら嘘じゃないっぽいね……」
何かイマイチはっきりしない表情でメリアが言った。
「嘘じゃないさ。それにこの行為が気持ちいいって事は」
「んっ……ふぅっ!?」
「……俺も昨日知ったから」
フレイの声に若干遮られながら俺はメリアに言った。
「なんか、確かに髪を梳いてもらうことは気持ちよさそうだけど、それでこんな反応するのってなんか違和感あるなぁ……」
お前のはっきりしない表情は違和感があるからか。
「でもっ、これっ! ……はっ、ただ普通にっ、反応してるっだけなのぉっ」
メリアの疑問に息も絶え絶えにフレイが答えた。
そんなフレイに俺はある頼みごとをする。
「なあフレイ、もう少し声抑えられないか? なんかほんと、変な事してるような気分になって耐えられないんだけど」
「これでもっ抑えてますぅ!」
「じ、じゃあせめて手で口を押さえるとか、さ?」
俺の言葉を聞いたフレイはその言葉通り両手で口を塞いだ、が。
「んぅっふうぅっ、~~~っっっ!!!!!」
「いやごめんやっぱ手で押さえなくてもいいや」
例え口を手で押さえてようが押さえてまいがこっちの理性をぶっ叩きにきてるのは変わりなかったですはい。
「あの、マスター。少々試してもらいたいことが」
ふと、いつの間にか俺の横にいたフランがそう言って、そして続けた。
「フレイの髪の中に金色の部分がありますよね?」
「あ、ああ」
フレイの髪を梳いたままフランの言葉に相槌を打つ。確かにフレイの髪には剣状態時の剣身と同じようなラインのように見える金色の髪の部分が三本ある。
「その部分をよけて梳いてみてもらえますか?」
「わか……った、やってみる」
フランがそう言った理由はよくわからないがとりあえず俺はフレイの髪にある金色のラインを一本左手で梳く邪魔にならないように持ちながら銀色の髪の部分だけ梳いてみた。
すると……
「……んっ…………あ、あれ……?」
先程まで上がっていたフレイの声がいきなり落ち着いた。
「お、おお……」
原理はよくわからないがフレイの声が収まったことによる安堵によって、俺は思わず口からそう漏らした。
「なるほど。半ば好奇心に任せた形ですがこれはこれで良かったみたいですね」
「どういうこと?」
フランの呟きにメリアが聞いた。
「いえ、特に理由も無くなんとなく気になったのでマスターに頼んでみたのですが、どうやらフレイがあそこまでの反応を示す原因はその金の髪の部分のようですね」
「えっ、そ、そうなの?」
当の本人であるフレイがそう聞く。
「どうやらそのようです」
「なるほど? つまりこの金色のラインを避けて銀色の髪だけを梳けば、フランを梳く時見たいにスムーズに梳けるってことか」
そういいながら俺はフレイの髪を金色の部分を手でどかしながらぱっぱと梳いていく。
「んっ、……ぅ……」
フレイは少し反応をしたがさっきまでと比べると大幅に落ち着いていた。
「……よし、これくらいやれば今は十分だろ」
一通り梳き終わった俺はそう言いながら櫛をフレイに渡した。
「なんか、物足りない気がするなぁ。なんというか、きちんと研いでくれた気がしないっていうかさ?」
フレイは俺の差し出した櫛を受け取りながら言った。確かに髪に少し魔物の血が残っているがそれは今は我慢して欲しい。なぜかといえば――――
「そうは言ってもあのままだと俺がいたたまれない思いするからさ? それに今はレティスに夕方くらいまでには着きたいから我慢してくれよ」
俺がそう言うとフレイは少し不機嫌そうにこう言った。
「じゃあ今日の夜、きちんと金色の所も梳いてくれる?」
「あっ、いや、う~んとだな……」
俺は返事を濁す。いやまあだってさ? そこがフレイの、その、所謂、快感を催す原因なわけであって。で、そこを梳くという事は、それはまあつまり、俺がフレイを……その…………
いやいやいや待て待てやめろそういう思考はきっと駄目だ何が駄目かは知らないけどきっと駄目だ。
「……それは――」
「今夜は駄目です。マスターは私との約束がありますので」
俺がどう返答しようか迷いながら言葉を発するのを遮るように隣にいるフランが言った。
っていうか約束? そんなのした――あ、したわ、うん。
「えっと、どんな約束?」
フレイがフランにそう聞く。
「説明は難しいです。ですが、とても重要なことなのです。……少なくとも、私にとっては」
フランがそう静かに言うのを聞いたフレイはさっきと同じように少し不機嫌そうにしながら、
「……わかった」
そう言った。
「でも、今度絶対に梳いてもらうからね?」
そしてその後俺に向けてこう言った。
「お、おお。まあ、そこまで言うなら、わかったよ」
「約束だからね!」
…………今日、結構約束をした気がする。今日は全世界約束デーか何か?
「あれ、そういえばユミアとディニギルは?」
フレイに約束を取り付けられた俺はふと、この場にフラン、フレイ、メリアの三人しかいないことに気付いた。
「二人なら先に森の出口に向かったよ。あ、ついでに道中の魔物も倒しておくって言ってたよ」
俺の問いかけにメリアがそう答えた。
「マスター、行きましょう。恐らく待ってくれていますよ」
フランが言った。
もし本当に待ってくれてたりしたら、あまり待たせるのもあれだしな。
「よし、じゃあ早く二人と合流するか」
俺は三人にそう言って、さっきまでゴブリンたちと戦い、そしてフレイを梳いていた広場を後にした。
広場からしばらく歩を進めると、魔素が徐々に薄くなっている感覚がした。森とか、洞窟とか、ダンジョンとかは町や街道の近くと比べて魔素が濃い傾向がある。つまり、魔素が薄くなるという事は森を抜けられる方向に進んでいるということだ。
ふと、木々の間から目にに森の外が映った。そして森の出口の近くの木に寄りかかりながら話をしている二人が視界に入った。茶髪の女と青髪の男、ユミアとディニギルはどうやら俺達を待っていてくれたらしい。二人もどうやらこちらに気が付いたようだ。
「遅れて悪いな」
「いやまあ、正直あの場にいてもいたたまれなかったしね」
「そうですね、その通りです。ああいう事は二人っきりの時だけやって欲しいものです」
立ち止まって言った俺の謝罪に二人はそう返した。
「それは俺のせいじゃない、フレイのせいだ」
「だってソラが約束してくれたからさ?」
まあそう言われると反論の余地がないんだよなぁ。
「まあともかく、もう出口はすぐそこだしこの様子だと夕方くらいにはレティスに着けそうだね」
「ああそうだな。さっさと行こうぜ」
ディニギルの言葉に俺はそう言って、みんなと一緒に森の出口に向かった。
「ふう、無事に抜けれたな、魔の森」
俺はさっき来た道なき道を振り返る。そこにはさっきまで俺達がいた森があった。
特に目立った出来事も無く俺たちは魔の森を抜け、街道沿いにレティスに向かって進んでいる。
「ソラ、少し疲れていませんか?」
ふと、ユミアがそう聞いてきた。
「あ、ああまあ。確かに疲れてるかも。何せ久しぶりの戦闘だったし、結構魔力使ったりしたしな」
「大丈夫ですか? 無理してませんか?」
「平気だよ。疲れてるって言っても歩けないほどじゃないしな」
「そうですか。……もし、歩くのも辛いようでしたら言ってくださいね。背負ってあげますから」
「いやだから平気だってば」
心配をしてくれるのは嬉しいし、だからこそ言ってるんだろうけど、女に背負われてる男って、なんか若干恥ずかしくないかな?
「まあ、レティスに着いたら思う存分休ませてもらうよ」
「そして明日は私とのデート、だよね?」
横からメリアがそう聞いてきた。
「そうだな、約束したし。あ、そういえば」
約束といえばレティスには二日滞在する予定だということをみんなに言ってなかったな。
「みんな、実はレティスには二日泊まろうかと思ってるんだけど、大丈夫か?」
俺がそう聞くと特に不満が出るということも無かった。
俺がメリアを横目で見ると、それに気付いたメリアは嬉しそうに頷いた。




