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影の勇者~2度目の異世界転移~  作者: yusaka
三章 新しい仲間 懐かしい場所
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フレクラエアの力~時空~

『さあ、命令(想像)して――ご主人様』

 周りのボスゴブリンたちは少しの間、呆けていた。その視線の先には宙に浮いたフレクラエアが。多分いきなり人が剣に変わったことにびっくりしているのだろう。

 だがすぐに、斧を持った一体のボスゴブリンが俺に向かってきた。

「えっと、想像って言ったって……」

 いや、文句を言う前に実践だ。

 俺は今向かってくる目の前のボスゴブリンを少し観察してみる。ボスゴブリンはこっちに走ってきながら右腕を少しだけ上に動かした。その腕の先には斧を握った手が。それはつまり、斧を振り上げ、そして振り下ろそうとしているのだろう。

 単調な予想だがボスゴブリン(相手)だってそもそも頭がよろしくない。だから大丈夫だろう。

 俺はボスゴブリンめがけてフレイが高速でひとりでに動き、勢いよく振り下ろされる斧を弾き、そして斬りつける、という場面を想像をする。

 そしてボスゴブリンが予想通り俺に走り寄りながらその手に持つ斧を振り上げた、その時。

 俺の想像した様に、俺の右に浮いていたフレイが驚くべき速さでボスゴブリンの前に高速で動き、その刃で真っ向から斧を弾いた。

「グォッ!」

 ボスゴブリンが弾かれた反動で体制を崩した瞬間、これまたかなりの速さでフレイは自らの刃でボスゴブリンの肩から腰まで袈裟切りした。

「グエェォァアアア!」


 魔物は死ぬ時は塵となり魔素に戻るが、生きている状態で斬傷(きりきず)を負わされた、というような場合は魔素で作られた赤色の血を傷から出す。

 

 どうやら致命傷にはなっていないようで斬傷(きりきず)からは血が噴出と言っていいほど出ている。そしてその見た目通りかなりのダメージを与えたのだろう、足元がふらついている。

『そう、その調子』

「ああ、なんとなくわかったよ」

 まだあくまで、なんとなくだ。だからそのなんとなくの感覚を、今この場で確実なものにしたいと思う。

 俺はフレイがボスゴブリンの胸を突き刺しそのまま左にスライドし、次のボスゴブリンに斬りかかるように命令(想像)する。

「グェッ! ……ァ」

 そして俺の指示したようにフレイはふらついていたボスゴブリンの胸に突き刺さり横に一閃、そしてすぐ近くのボスゴブリンにすれ違い様に斬りかかった。

「グ、ギィァッ!?」

 どうやらボスゴブリン達には目の前の状況がうまく飲み込めないらしい。まあ確かに、俺も向こうサイドだったら驚くだろう。なんせ、今しがた人が剣になりそしてそのままひとりで動き始め、ボスゴブリンにとっての脅威となっているのだから。まあフラン(いわ)く意思持ちの武器でもいろいろな条件によって異なるが人の形をとれるのは極わずかだそうで。それに、人が武器に変わるのを見るのが初めてだったら驚くのはわかる。なんせ俺も武器が人に変わったのを初めて見た時びっくりしたからね。

 気持ちはわかる、けどね。今は戦闘中、そして敵は動揺している。

 つまりは絶好のチャンスなわけだ。

「フレイ、一気に畳み掛けろ!」

 俺はフレイにゴブリンをまとめて殲滅するように命令をする。想像はしなくていい。フレイは恐らく自分の意思でも動ける。

『了解!』

 フレイが言った瞬間、一体のボスゴブリンの周囲の空間が何やら歪んだように見えた。

 ……あれ、これってもしかして、と。

 思うと同時、ボスゴブリンの胸にまるで何かに突き刺されたかのように穴が開いた。

「…………ァ?」

 ボスゴブリンは疑問を含んでいると思われる声を発したあとに塵となり魔物を形作っていた魔素へと還った。

 ……うん、間違いないな。

 今のボスゴブリンは()()から見ると見えない何かに胸を刺されたように見えるだろう。ただ、よく見ると何か透明なものがボスゴブリンを刺しているように見えなくも無い。

 まあ、それが見えないのは当たり前なんだ。何せ今疑問を含んだ声を発し消えたボスゴブリンの胸を刺したものは――





 空間だからだ。

 空間、俺達を包む大気とか、そう言ってもあってはいる。空間を捻じ曲げて無形な空間(もの)から鋭利な空間(武器)へと変えたのだろう。

「フレイ、お前の力ってもしかして――」

 聞こうとした時に立て続けに仲間を殺されて半狂乱になっているのか俺から一番遠くにいる一体のボスゴブリンがものすごい速度で斧を振り回しながら俺に向かってくる。そして俺が認識した時にはもう俺のすぐ傍にいた。

「うわっ!」

 それはもう早かった。ボスゴブリンは大体人間程度の大きさだ。そんな奴が十メートルぐらい離れたところからほぼ一瞬で傍に来ていたのだ。

『あっ! 間違えた!』

 と、後ろからそんな声がした。

「ギェィアアアァ!」

 俺は避けれないと思いとっさに腕を体の前で交差する。

 そして俺に向かって斧が振り下ろされ――


『させない!』

 再び声が後ろから聞こえた瞬間、ボスゴブリンの振るった斧がいきなり遅くなった。

「……あ?」

 俺は思わずそんな声を出した。そんな俺を狙っているボスゴブリンの斧は確かに俺に向かって今も振るわれている。だが、さっきより遥かに遅い。

 そしてその状態のボスゴブリンの首をフレイが切断した。

『ソラ、大丈夫?』

「あ、ああ」

 それよりもフレイに少し聞きたいことがある。周りを見ると残ったボスゴブリンはさっきフレイが斬った奴と無傷の二体の計三体。その三体は臆しているのか少し後ずさりをしている。ただ、その目を見ればまだ戦意を無くしていない事はわかる。

 だけど、今なら話を邪魔されないだろう。

「フレイ、お前の力は……時空、なのか?」

 ――フラン曰く、意思持ちの武器は何らかの特殊な力を持っているらしい。例えば、魔法武器の様に魔法が秘められたものや、そうではない力を持つものもある。

 時空を操る力。時の過ぎる速度を変え、そして空間を操る魔法。俺の収納空間と同じ魔法。

 さっきの空間による刺突を考えるとそれが一番しっくり来る。そして俺を襲った斧を遅くなったのも説明がつく。

『うん、そうよ』

 案の定、フレイはそう答えた。なるほど、だとするとあともう一つの不思議な現象についても確認しておこう。

「ならもう一つ聞くが」

『うん、敵がいるから手短にね』

 もちろん、言われなくてもそうするつもりだ。ただ、返答しだいでは戦いが終わった後に……叱るかもしれない。

「お前さっき、間違えた、とか言ってたよな?」

『……う、うん』

 フレイは少し言い淀みなながら答えた。

「何をだ?」

『………………』

 そう問うと、黙りこくってしまったフレイ。ふと見ると、無傷のボスゴブリン二体がこちらの様子を見ながら唸っている。そろそろ仕掛けてくるかもしれない。

 だからもう一度、今度は濁さずに聞いた。

「……さっき、俺に向かってきたボスゴブリン、『加速』させたろ」

『うっ……』

 呻くような声を出すフレイ。

『ご、ごめんなさい。初めて使う力だから力んじゃって』

 なるほど、初めてか。それなら仕方ないかもしれない。俺も初めて使ったときは空間を捻じ曲げる、という基本的なことさえ出来なかった。もちろんそれの次のステップの時間の加速や減速なんてまともに出来やしなかった。……うん。でもフレイは初めてで空間を操ってさらには失敗はあれど時間の加速減速もきちんと出来ていたし。

 これがポテンシャルの違いって奴なのかな?

「ギェッ!」「グォァッ!」

 などと考えているとボスゴブリンの声によって引き戻された。

「とりあえず説教はあとな。今はこいつらを」

『せ、説教されるの?』

 当たり前だ。何せ一歩間違えば俺は死んでた。

「ともかく、奴らを倒すぞ」

 言うと同時、ボスゴブリンは二体それぞれ左右から俺たちを挟むように向かってくる。

 なるほど、さっきまでは一体ずつだったから今度は二体でってか? 俺並みの単純思考だなまったく。

「フレイ、俺がお前の力を引き出す(操る)事は?」

『出来るよ!』

「オーケー」

 即答したフレイにそう返し、俺は想像する。


 右から来るボスゴブリンの目を潰し行動を止める。


 フレイは右から来るボスゴブリンの右目に的確に突き刺さる。そしてそれと同時に俺はフレイの持つ魔力を借りてフレイの力を操り左から来るゴブリンの時の進みをかなり緩やかにする。

「グギィィァアアア!」

 激痛で叫ぶボスゴブリンの右目からフレイが抜けるとそこからは大量の血が噴き出した。

『う、気持ち悪い』

 その剣身()に血をつけたフレイが呻くように言った。

「まだやれるか?」

 フレイの声のトーンに少し心配になり聞く。

『うん、まだやれるよ。ただこの血を後でどうにかして欲しいけど』

「ああ、後で研ぐから心配すんなよ」

『あ、う、うん』

 ……あれ?

 言ってから気付く。研ぐってことはつまりは……昨日の夜と同じ……いやいやいや。だってそれはケアとして確かに必要なことだから別に(やま)しいこととかでは――――いや、ていうか今戦闘中だよ思考脱線すんなって!

「と、ともかく続き行くぞ!」

 俺は思考を中断するため自分の頬を両手で思いっきり挟み叩いた。

 そして命令(想像)


 目の潰れたゴブリンの首を左のボスゴブリンの足元へと転がるように飛ばす。


 片目を失い唸り叫ぶゴブリンの首をフレイは一閃する。とんだ首は俺の想像したとおり見事に左から来るボスゴブリンの足元に転がる。

「グウゥゥゥィィォォォォオ?」

 そして突然飛んできたそれに対応することも出来ないままボスゴブリンは見事にこけ始めた。時が減速しているこのボスゴブリンはこけて地面に倒れこむのもかなりスローモーションだ。まるでコメディー映画のスローモーションシーンのようにも思えた。

 まあ、俺はこれが見たくてわざわざこいつをこけさせた訳でもなく。

 理由は簡単、これは依頼を達成するための戦いだ(キングゴブリンのせいで結構な戦いになっているが)。

 そして受ける必要の無い依頼を受けようといったのはこの俺、その心は何か。



 俺はただ飯ぐらいにはなりたくない。

「フレイ、来い!」

 俺は口頭で命令した。そしてその通りにフレイの柄が俺の手に納まる。

「ふんっ!」

 そして俺はスローで今も絶賛コケ最中のボスゴブリンの首を、すくい上げるように切った。

 ボスゴブリンは今もスロー状態で切った首がゆっくり宙を舞っている。ので俺がスロー状態を解除するとその首は元の速さに戻りいつも通り塵となり消えた。地面に伏した首から下も同様だ。

 さて、と。

 今まで倒したのはフレイが四体、俺が一体の計五体。そして残るは負傷した一体だ。

 その負傷したボスゴブリンを見るとをもう腹をくくったのか殺意を込めた目で俺達を見ていた。いや、その目はどうやら俺よりもフレイを注視している様にも見える。

「最後はあいつな」

『うん』

 そして俺は最後に少しコンビネーションを試してみることにした。

 複数の命令をフレイに送り俺は丸腰でボスゴブリンに向かって走り出す。それを見たボスゴブリンは俺を待ち構えるように斧を振り上げる。そんなボスゴブリンを相手に俺は立ち止まり――

「本当にそれでいいのか?」

 そう言ってボスゴブリンの左側を指す。そこには――

「ギャッ!」

 時空魔法を利用した瞬間移動(ワープ)で移動したフレイが猛スピードでボスゴブリンに向かって来るところだった。

「グウゥウゥ……」

 唸ったゴブリンは俺を無視してフレイの挙動を見始めた。やはり、ボスゴブリンはどうやら俺よりもフレイを恐怖の対象として、危険とみている。まあそれはそうだろう。このボスゴブリンを負傷させたのはフレイなのだから。

 だから、それを利用する。

 俺はフレイの魔力と力を再び操り――

 


 位置交換(スイッチ)


 

「ギェャアアアッ!」

 その瞬間、フレイにとてつもない勢いで貫かれボスゴブリンの胴体に大きな穴が開いた。

 だが、それは今までの状態ではありえない。フレイの速さをもってしてもボスゴブリンとの距離は後三秒ほど無ければ届かないからだ。

 なら、なぜ届いたのか。


 位置交換(スイッチ)。その名の通り物と物、人と人、物と人の位置を入れ替える時空魔法。今俺がしたことはとても単純だ。俺とフレイの位置をただ交換しただけ。そうするだけでフレイを注視していたボスゴブリンの視界に俺が映り、そして俺がいた場所にスピードをそのままにフレイが入れ替わったというわけだ。

 ボスゴブリンの穴からは今も血が出ているのが見える。つまり、まだ死んでいない。

 俺はボスゴブリンから三メートル程離れた所にいるフレイの近くに瞬間移動(ワープ)した。

「フレイ」

 そしてフレイを呼びその柄を握る。結構な出血だがまだボスゴブリンは立ってこちらを見据えている。

 俺はそのままボスゴブリンに向かって走り出す。ボスゴブリンはふらつきながらも斧を振り上げ構えた。

 

 斧を弾き右足を切断する。


「ク゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ッッ!!」

 と、最後の力を振り絞ったような声を出しながら俺を狙い繰り出したボスゴブリンの斧の一撃は、俺の手から離れたフレイが命令通りに弾き、そしてフレイはそのままボスゴブリンの右足を切断した。

 もはや足掻く力が無いのだろう。そのままボスゴブリンは地面に倒れこむ。

 俺は走りながらフレイを手に瞬間移動(ワープ)させ、柄を握り、そして横倒れになったボスゴブリンの――

「ふんっ!」

 首と胴体のつながりを絶った。





 よし、これでボスゴブリンは俺とフレイで依頼のノルマは達成できた。まあ、少し余分だったけど。

「ふぅ~、疲れたー。ってうわっ! 髪べとべとだ」

 フレイが人型にもどると、確かに髪はさっきのゴブリンの血でべとべとだった。

「ソラ、これどうにかして」

「いやだから後だっての」

 収納空間から魔力回復用クェリアを六つほど出し、五つを手に持ち、一つを足で踏み砕きながら俺は言った。

「まずはあいつらを助けようぜ」

 そう言った俺の視線の先にはゴブリンに囲まれた俺の仲間がいる。そういえば、確かユミアだけは一人でゴブリンに囲まれていた気がするが、まああいつは絶対に大丈夫だろう。下手すれば勇者だって殺せる人だからな。

「あ、そうだね」

 そういってフレイは剣状態に再び戻ろうとする。

「いや、ちょっと待った」

 だが俺はそれを止めた。

「えっ、どうして?」

「ちょっと試したいことが」

 聞いてきたフレイにそう返して、俺は試みる。

「――来い、フレイ!」

『……えっ!?』

 俺が言うと同時、フレイは剣状態にとなった。なるほど、フランと同じで俺の意思で強制的な状態変化も可能なのか。

『ソラ、これって?』

「ああ、これ、フランにも出来るんだけどな。俺の意思で強制的に、剣から人へ、人から剣へ変化させることが出来るんだ」

 俺はそう説明しながらフレイを二、三度軽く振った。それにより剣身に付いていた血がある程度取れた。

『へぇ、そんなことが』

「ああ、まああんまりするつもりは無いけどな」

『どうして?』

 不思議そうに問うフレイ。

「いや、そういう状況になったらもうお前らきっととっくに剣状態になるだろうからな」

『ああ、確かに』

「まあいざとなったら俺が変化させるけどな」

 と、おしゃべりはこんなところにしてそろそろ助けるとしよう。

「フレイ、力を貸してくれ」

『うん!』

 フレイから流れてくる魔力を感じる。よし、こんだけあれば足りる。

「はあぁぁっ!」

 俺は創造する。収納空間とは違う、それでも似ている広大な空間を。その空間のルールを。

 そしてその空間の扉を開くのは、フレイだ。

 俺はフレイの剣身の切っ先に魔力を集中する。

「フレイ! 円の一部分でいい! ゴブリンどもを斬れ!」

 俺は口頭で命令する。そして命令どおりフレイはゴブリンの円の一部分だけを切る。

 そして――――

 俺がたった今作った何も無い広大な空間への扉が開かれる。

 フレイの切っ先の通った横長の空間にその扉は出現した。扉とは収納空間と同じで広大な空間へと繋がる亀裂のことだ。そして、その空間のルールが発動する。


 この空間の扉を中心に、一定の範囲内にいる魔物を吸い込み閉じ込める。


 


 ――土煙がすごい。吸い込まれるのに抗っていたゴブリンが地面に擦られたりしたのだろうか? いや、まあそんな事はどうでもいい。

 俺は土煙の中、手に持ったクェリアを全て砕き、フレイを後ろに歩く。それはさっき皆の声が聞こえてきた方向だ。

 フラン、メリア、ディニギルの三人はそこにいた。別にそこまで心配はしていなかったが、自分で見て無事だと確認する方がやっぱり安心するな。

 安心した俺は既にわかりきっていることだが、それでも一応聞いた。

「大丈夫か、皆」

twitter始めました。

マイページに貼ってあります。

もしよかったら覗いてみても(チラッ

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