イケメンとキス
メリア視点になるとき時間が少しさかのぼります。
ギルド、それは国や町の住民の依頼が集まる場所。そのギルドには集まってきた依頼をこなす人達、冒険者がいる。冒険者は九段階のランクに分けられて、そのランクによって受けられる依頼が制限される。もちろん、上のランクになるほど制限が軽くなる。
ただ、上のランクになると受けられる依頼というのはそれだけ危険を伴う依頼ということだ。例えば、国からは魔物の多く住む迷宮の探索、町からは危険な魔物の討伐などの依頼がそれに当たる。
そして、Sランクにもなると名指しで依頼が来るということもある。依頼は危険なドラゴンの討伐など、より危険な依頼を受けることが出来る。そんな依頼で手に入る報酬金はとても多い。
(そんなSランクに、この二人が)
俺が自分の世界に帰ってからこの世界は二年経っていたらしいが、それにしてもたった二年でよくSランクになれたもんだ。俺がこの世界にいたころの二人のランクは確か、メリアがBランク、ユミアがAランクだったはずだ。ちなみに、俺はあまりギルドに来てなかったこともありCランクだった。
「で、どうするの? 私が払おっか?」
俺が考えているとメリアがそう聞いてきた。再発行料の事だろう……まあ他に当てもないし、頼むしかないか。
「じゃあ、頼むよ」
「うん、任せて」
そういってメリアは受付の女に5000Eを渡した。
「それでは、再発行料を受け取りましたのでギルドカードの再発行をいたします。またしばらくお待ちください」
そういって彼女はまた受付の奥へと入っていった。これで今日俺が見る限り彼女は三回受付の奥に入っていったな。
「そういえばメリア」
「うん? 何、ユミア」
ユミアはメリアを呼び、そして言った。
「あの男は今ここにはいないんですか?」
「え? あの男って……あっ!!」
メリアはユミアにそう言われてなんでか大きな声を上げた。
と、その時。
「メリア、ひどいな。僕を置いて一人でどこかへ行くなんて」
……なんか、イケメンなやつが現れた。
青い髪に同じく青色の目を持つイケメン野郎。どこかの誰かさんを思い出すぜ。
「あれ、これはこれは、ユミアさんじゃないか。どうもこんにちは」
「…………」
そいつに話しかけられたユミアはなぜか黙っている。ただ、そいつに結構ガン飛ばしてる。いやほんと、なんか台所とかいる黒光りするGを見るときのような視線を青色イケメン君にぶつけてるよ。
「で、メリア。どうしたんだい? 一人でここまで来て」
「――あんたには関係ない」
メリアはそいつに話しかけられると、俺達と話していたときとは違う雰囲気で言葉を発した。
「隠し事なんてしないで教えて欲しいな」
「隠し事なんてないわよ」
「じゃあさっきのは何だったんだい? さっき君は脇目も振らずにここに走ってきたじゃないか。それこそ、僕のことなんて眼中にないみたいにね」
「それもあんたには関係ない」
と、メリア達がそんな話をしていると。
「お待たせしました。ギルドカードの再発行が終了しましたのでご確認ください」
俺のギルドカードの再発行が終わったようでさっきの受付の彼女が戻ってきた。
「ああ、どうもありがとうございます」
俺は彼女から再発行された俺のギルドカードを渡された。
ギルドカード
名前:ソラ・アオノ
種族:人間
ランク:F
「ギルドカード再発行に伴ってソラ様のギルドへの再登録も完了しました。ですが、ソラ様は登録が解除されてしまっていますのでまたFランクからとなってしまいます」
確かに、俺のギルドカードのランクはFと表記されている。
「ですので、受けられる依頼もFランクとなります。それとわかっているかと思いますが、ランクアップはDランクまでは依頼を達成した数、Cランクからは依頼の数だけでなく試験も受けてもらい、それに合格したらランクアップとなります」
俺は復習程度にその話を聞く。まあ、ようはDランクまでは依頼をたくさんこなして、Cランクからはそれだけじゃなくて試験をクリアすればいいってことだな。
「ランクアップすればそのランクの依頼を受けることが出来るようになりますので、頑張って下さい。それでは、これからはぜひギルドをご活用ください。あなたに幸運があらんことを」
そう彼女は言って締めくくった。
さて、俺の再登録は終わったようだしメリア達は……まだなんかやってるのか。
「なあユミア」
俺は近くに来ていたユミアを呼ぶ。
「なんですか?」
「あのイケメン君って誰?」
「……ディニギル・サイハン。たった三年でSランクになった若者ってことで有名です。まあ、私から言わせればただ天狗になっている阿呆ですけどね」
なんか、結構辛辣。
「本当にどっか行ってよ! もううんざりなのよ! あんたがいっつも私に近寄ってきていつになったら付き合ってくれるのかなんて聞いてくるのは!」
メリアはイケメン野郎にそう言った。なんか、ヒステリック。
「……君は、さっき僕に言ったことを忘れたのかな?」
「えっ」
イケメンはメリアに言い、そして……
「君も過去を諦められてないじゃないか」
そう言った。
「あんたには関係ない」
私はディニギルにそう言う。
「何言ってるんだい? 全然関係なくないよ。君は将来僕の妻となる人なんだ。そんな君が夫となる僕に隠し事なんてしないほうが良いだろう?」
「誰があんたなんかと!」
そう言われて私は虫唾が走った。私がソラじゃない人と、ましてやこんな男と結婚することを思うととても不快になった。
「あんたは何なのよ! あんたはただ過去を諦めることが出来ないだけじゃない!」
こいつが私に告白した半年前、それをただこいつは未練がましく引きずってるだけだ。
「僕はただそれ以前から君を好きだったし今も君が好きなだけだよ」
「それが迷惑だって言ってんのよ!」
私は今まで溜まっていたストレスを発散するように叫ぶ。
「本当にどっか行ってよ! もううんざりなのよ! あんたがいっつも私に近寄ってきていつになったら付き合ってくれるのかなんて聞いてくるのは!」
私はディニギルにそう言った。
「……君は、さっき僕に言ったことを忘れたのかな?」
「えっ」
「君も過去を諦められてないじゃないか」
……私はこいつの言いたいことがわからなかった。
「君は僕の告白を断った時に言ったね。『私には好きな人がいるから』と。でも、そいつはもうここにはいないんだろう? だったらちゃんと現実を見て僕と付き合ったほうがいいと思うよ」
僕程の人間なんてそうそういないんだからね――ディニギルはそうお決まりの台詞を言った。
「…………」
……確かに、ディニギルの論は私に突き刺さっていただろう。
ついさっきまでの私だったら、ね。
「……ふふっ」
「何が、おかしいんだい?」
ディニギルは不思議そうにそう言った。
「ごめんなさい。ただ、あんたの言ってることがあまりにも正論だったから」
これは本当だ。本当に正論だった。
「だったら僕と……」
「でも、その正論にはついさっきまで、って注釈がついちゃうのよ。今じゃ的外れなの」
「それはどういう……」
「おーい、そろそろいいか?」
ディニギルの言葉をちょうど遮るように私の想い人――ソラがそう言った。
「おーい、そろそろいいか?」
このまま待ってもなかなか終わらなそうなので乱入してみた。いや、だってこのままじゃ日が暮れちゃいそうだと思ってさ……考えすぎかな?
「……何だ君は。僕は今メリアと大事な話をしてるんだぞ」
イケメン君――ディニギルが俺になぜか怒ったようにそう言った。それと同時に殺気を飛ばしてくる。まあ、この程度の殺気なら別にどうって事ないけど。
「いや、いつになったらこの話は終わるのかな、と思ってな」
俺はディニギルにそう弁明をする。
「……ちょうどいいや」
っと、メリアが何か言ったような気がしたが……と、そう思った時、メリアがいきなり後ろを振り向き、そして。
「っっ!!」
ディニギルが絶句した。理由は恐らく……いや、ほぼこれで間違いないだろう。
今の俺を影で表すとするなら、俺の頭に何かの頭が重なっていることだろう。その頭には狐のような耳がついていることは間違いない。……まあ、ようはあれだ。
俺は今、メリアにキスされている。
彼女は俺の頬に手を添えて自分からこちらに背を伸ばしながらキスをしている。
いやまあ、こいつが俺を好きなのは知っていた。だって、前からあんなにわかりやすくいろいろ仕掛けられればさすがにわかる。というか告白されたから知らないほうがおかしい。でも、何で今このタイミングで……いや、それもなんとなくわかる。
さっきまでの話を聞いていてわかったのは、ディニギルはメリアにしつこく言い寄っていたということだろう。理由はもちろん、こいつがメリアを好きだから、恋してるからだろうね。いや、でもこの状況って……
なんか、俺にも火の粉が降りかかるんじゃないですかねメリアさん。ほら、なんかイケメン君だけじゃなくてギルドの中の結構な人数がこっちを見て固まってるし。
にしても、やわらかいなぁメリアの唇。なんか、俺の体にもやわらかいものが当たってるし……って!そんなことを考えてる場合じゃねぇって。これ本当に俺が危なくないか? いろんな意味で。
「――――ぷはぁっ! ……ディニギル。さっきのあんたの話、もっと早く言ってれば良かったのにね」
メリアはキスをやめてディニギルに言った。というか、メリアもやっぱり息を止めていたのか。いや、まあ息をしていたらなんか大変なことになりそうだしね。
「確かに、この間まではこの人はここにはいなかった。でも、今は確かにいるの」
「……じゃあ、まさか――そいつが!」
ディニギルは震えながら俺を指差しながらそう言った。
「――うん、そう。この人が、ソラが私の……好きな人」
メリアはさっきの雰囲気はどこへやら、頬を赤く染めながら言った。どうしよう、かわいいんだけど。
「どうしてだ! どうして僕よりそいつなんかのほうがいいんだ!」
ディニギルはそう、メリアに言った。なんかって……ちょっと傷付く。
「……ソラは、私のことを助けてくれたから、かな」
メリアはそう曖昧に言った。
「……そう、か。――なら」
ディニギルはうつむきながらそう言った。どうやらディニギルはこの恋を諦めるようだ。あー良かった。余計な騒ぎになら……
「お前! ソラって言ったな! 僕と決闘しろ! 勝ったほうがメリアと一緒にこれから行動できる権利を賭して!」
「はぁ!?」
ディニギルはいきなり顔を上げ、俺を指差して言った。
というか、何言ってんだこいつ。そんな人の行動を勝手に制限するような、しかも決闘をする二人以外を対象にする賭けなんてするわけ……
「いいわよ」
って、うおいっ!
「おいちょっと待てメリア! 何勝手に受けてんだよ! お前俺が負けたらずっとあいつと一緒にいることになるかもしれないんだぞ!」
「ふふっ、大丈夫だよ」
「お前、そんな自身どこから……」
そう言うとメリアは当たり前のようにこう言った。
「だって、ソラは勝ってくれるでしょ?」
……はあ、仕方ない、か。
「……わかった、その決闘、受けよう」
これは、本当に勝たないといけなさそうだ。