狐少女
俺達は宿を出て広場へと向かう。もちろんそこにあるギルドが目当てだ。
「で、ギルドに行った後は何しようか」
「依頼を受けましょう。今は必要なものがたくさんあるんですからお金は必要ですよ」
「うん、確かにそうだな」
そういえば、と思いユミアに聞いてみる。
「道具とかって何買ったらいいと思う?」
「そうですね、まずは回復系のアイテムがいいでしょうね」
「じゃあ回復用クェリアとかか。あれって今はどんくらいの値段するんだ?」
回復用クェリアはクェリアに回復の魔術が封じ込められているものだ。砕くことによってその魔術が開放される、つまりは回復できるってことだ。ちなみに、回復用クェリアは自分にはもちろん、他人を回復させることも出来る。
「一個当たり600Eぐらいでしょうか」
「あれ、前より安くなってないか?」
確か前は安くても1000E、高いときは2000E位だったと思うんだけど。
「はい、安くなってますよ。あの時は戦争中でしたからね、今は他国とも協力がきちんと出来ていますから前のように国内で採掘したクェリアだけしか使用できない、なんてことは無いですから」
「つまり、クェリアが前よりさらに希少じゃなくなったってことか」
「まあそうですね。新しい採掘所も発見されてますので」
「へぇ、そうなのか」
俺達はそんな話をしながら広場に向かって歩いていった。
ギルドは広場の真ん中にある。高さは四階建てぐらいだ。
「ギルドか、三ヶ月ぶりだなぁ」
俺がそう呟く。とはいってもここのギルドは支部のようなものだ。大体の町にはギルドがあるがそれはすべて支部、本部はそれぞれの国の王都にある。
まあ今はどうかわからないが、俺の推測だとたぶんウワサの新・王都に本部があってそれ以外がすべて支部になってると思う。
「私はちょうど二週間ぶりですね」
「ん? お前、今もギルドに入ってるのか?」
「ええ、あまり戦闘の感覚を失いたくないので、たまに来てました。それに私だけじゃなくて他のみんなもギルドに入ってますよ。というか、みんな依頼の報酬で生活してるようなものですから」
そう言うユミア。確かに、前も行った町での宿代とかをギルドで稼いでたっけな。必要額以外は稼いだやつの懐に行くという感じだった。なんか、懐かしいな。
「それと、ここではあのこがいますよ」
「ん?あの子って誰だ?」
「それは自分で見たほうが早いですよ」
俺はユミアにそう聞くと彼女はこう言った。
(……誰だろう)
俺は考えながら、ギルドへと入っていった。
私はギルドの椅子に座りながら考える。さっき、町の中で感じた匂い。あれは確かにソラの匂いだった……でも。町の中はいろんな匂いがあるからソラの匂いは一瞬しか感じることが出来なかった。だから確証は無い。
(それに……)
彼は二年前、故郷の世界に帰ったはず。この世界にいるなんてありえない。
(……さっきのは勘違い、だったのかな)
そう考えていると隣にある男が座った。
「やあメリア、どうしたんだいそんな顔して。せっかくの美しい顔が台無しだよ」
この男はディニギル、私に何かと引っ付いてくる男。というか、彼は私のことが好きなのだという。綺麗に整った顔に青色の髪、目は髪と同じ色をしている。
「何?私はあんたと話しをするつもりは無いんだけど」
私はこの男が嫌いだ。第一にこの男は、しつこい。
「いや、ただいつになったら僕と付き合ってくれるのかなと思ってね」
こいつは実は半年ほど前、私に告白してきた。しかも新・王都の本部で、だ。たくさんの人に見られた。そんな中、私は断った。だって好きな人がいたから。その人はこの世界にもういなかったけれど。
でもその後からこいつはこういう風に事あるごとに私に付きまとうようになった。
「ねえ、あんたは諦めるってことが出来ないの? それとも知らないの?」
私が言えることじゃないってことはわかってるけど、どうしてもそんな言葉が口から出る。
「どうして諦めなきゃいけないんだい?」
「というか」とディニギルは続ける。
「どうして君は僕と付き合わないんだい? 僕程の人間なんてそうそういないよ?」
私はこいつのこういうところも嫌い。自分がこの世界に希少な存在だとでも思っているんだろう。そんなこと、あるはず無いじゃない。
「そんなのは私の勝手でしょう。いいからさっさとどっか行っ……っ!!」
そう言いかけた時、私はある感覚を下から感じた。それは――
「これは……ソラ……ソラの匂いっ!」
私は隣にいる男のことなどに目もくれず、下に向かう階段へと駆け出した。
ギルドの広さは体育館程の広さの部屋が各階ごとにある。
一階は誰でも入れて、二階からは一定以上のランクの登録者しか入ることは出来ない。……確か、こんな感じだった。
で、俺達は今、もちろん一階にいる。
入って右側の方に受付、真っ直ぐ行くと依頼が貼り出されている依頼板、左側が酒場だ。階段は右奥と左奥にある。
とりあえず俺は受付のところへと行く。まずは俺の登録がどうなっているか確認してみないとな。
受付は依頼受注・達成確認用、売却用、各手続き用に分けられている。ちなみに、横は繋がっている。
俺はその中の各手続き用の受付に向かった。
「あの、聞きたいことがあるんですが」
俺はそう受付の女に言った。
「はい、なんでしょうか」
「すみません、登録の確認をしたいのですが」
「はい、ではお名前を」
「ソラ・アオノです」
この世界では氏名と名前は逆だ。だから俺もそれにしたがって必要事項を記入した覚えがある。
「少々お待ちください」
受付の女はそう言って奥に入っていった。
しばらくすると女が戻ってきてこう言った。
「申し訳ありません、ソラ様は一年以上ギルドに来ていないため登録票から削除されていました」
「ああ、そうですか」
もちろん、想定済みではあった。
「じゃあ、新しく手続きしてもらっていいですか」
「かしこまりました」
そういって彼女は一枚の紙と羽ペンをこちらに出した。
「こちらに必要事項を」
名前
種族
歳
職業
最低限の必要事項を記入して女に渡す。
名前 ソラ・アオノ
種族 人間
「承りました。少々お待ちください」
そう言って彼女はまた奥へと入っていった。そして、出てきた時にこう言った。
「ソラ様は登録されていた時のギルドカードをお持ちでしょうか?」
……なんだろう、嫌な予感がする。
「えっと、ありません」
確か、前に故郷の世界に帰るとき、もうギルドには来ないからとギルドカードをとある人物にあげた記憶がある。
俺がそう言うと彼女は少し申し訳なさそうにこう言った。
「すみませんが、以前に登録されていてギルドカードを紛失されている場合はギルドカードの再発行ということになってしまいます」
「……再発行だと、何かあるんですか?」
嫌な予感を感じながら俺は聞く。
「再発行料として――」
再発行料、だとっ!
俺達の今の持ち金は1000Eだ。その範囲内であってくれと俺は願った。
「――5000Eが必要になります」
でもその願いはあっけなく砕かれた。今の持ち金の5倍って――
「……どうしよう、ユミア」
「すみません、私もここまでは想定してませんでした」
彼女はそう申し訳なさそうに答えた。
まずい、どうしよう。今の俺達には道具などなどを買う金が必要、でも前はギルドで稼いでいた。だからギルドにまた入ろうとしたわけだけど、それには再発行料の5000Eが必要。でも、俺は金がないからギルドに入ろうと思っていたわけなんで、金なんか持っているわけがない。
どうしよう、これ。こんなことだったらランファルトからの資金をもっともらっておくべきだった。後悔先に立たず、だよまったく。
「……あっ! そうだ」
と、そこで俺はふとこの状況を打開することの出来る策を思いつく。
「ユミア、お前はもうギルドに入ってるんだよな」
「えっと、はい」
「じゃあ、悪いけどお前に再発行料分を依頼で稼いでもらうっていうのはどうだ」
本当はこんな他人だけを頼るなんてことはしたくないけど、そんなことを言っていても仕方がないしな。
「なるほど、その手もありますね」
ユミアはそう俺の意見に返した。……ん?その手も?
「ユミア、その手もってどういうことだ?」
俺は気になってユミアに聞く。
「いえ、私はもっと手っ取り早くかつ楽な方法を思いついたのですが」
「マジで? その方法って何だ?」
と、その時。ユミアが答えようとしたのとほぼ同じ時に奥の方が何か騒がしくなった。そのせいでユミアの言おうとしていたことがちょうど遮られてしまった。騒がしいほうを見ると左奥の階段、そこになんか人がたくさん集まっている。
「なんだ? あんなに人がたくさん」
俺がそう言うと何かが人の集まりの中からこちらに飛び出してきた。
そこから飛び出してきたのは少女だった。
「……ラ」
その少女はこっちを一瞬見つめ、そして――――
「ほんとう、に……ソラっ!!」
涙を流しながら俺に抱きついてきた。
「ソラッ! ソラッ!! 本当にソラだ、ソラァッ!」
そういいながらより強く俺を抱きしめる少女は、金の髪と頭に獣人の証である髪の色と同じ動物の耳、狐耳が生えている。
俺はさっきから困惑している。いきなり知らない金髪狐少女に、しかも泣きながら抱きつかれているのだから。それとなんか、さっきの階段前にいる奴らの中に何か殺気のようなものが混じっている気がするんだけど。
「ちょっ、ちょっと離れろ!」
「あっ……」
俺は無理やりに抱きついていた少女を引っ剥がす。
少女は俺と同年代ほどの見た目をしていて、ちょうど巫女のような、スカートの短い紅白の服を着ている。そこから導き出された答えはただ一つ。
俺の記憶にはないな、うん。
「あんた、誰だ? 何で俺の名前を知ってるんだ? と言うか、何で抱きついた?」
そう結論付けた俺は少女に向かってこう言った。
「えっ! ……そんな…………ソラ、私のこと忘れちゃったの?」
少女は涙でぬれた碧い瞳で俺を見ながらそう言った。
「忘れるも何も、俺はあんたを知らないよ」
俺は正直にそう言った。いや本当にあなたみたいな狐族は知りません。
「私、メリアだよ! ソラ、本当に忘れちゃったの?」
でも少なくとも向こうは俺のことを知ってって今なんて言った?
「……今、メリアって、言ったか?」
少女は涙を流しながら首を縦に振る。
「本当にか?」
「本当だよ! 何でそんなこと聞くの?」
確かに、よくよく見ればメリアではある。綺麗な金色の髪に金色の狐耳、まだ幼さが残る顔に、そこに碧い瞳が輝いている。
「ユミア、もしかしてさっき言ってたあの子って……」
「はい、この狐です」
ユミアに確認を取ってみるとそう肯定された。つまり、今目の前にいる少女は本当にメリアなのだろう。いや、でも――
「何でお前そんなに成長してるんだよ」
そう、俺がこの少女をメリアだと考えることが出来なかったのはメリアのその姿のせいだ。彼女は今、俺と同年代くらいの少女だ……でも、二年前メリアはまだ……8歳位だったはずだ。
「えっと、なんていうかな。ソラが自分の世界に帰った後に私、覚醒をコントロールできるようになったんだ。で、いつも覚醒を維持できるようになったの」
さっきの俺の質問にメリアはそう返す。
覚醒、それは獣人の持つ、潜在的な力を引き出すというものだ。簡単に言えば、獣人という大種族にだけ伝わる秘術、みたいなもんだ。
この覚醒、普通は大体15歳前後で使えるようになると言われている、らしいのだがメリアはたった8歳で覚醒を使えるようになったんだ。で、メリアは覚醒をするとなぜか一時的に容姿とその容姿と同じくらい考え方が成長していた。もうこれは一時的に成長しているのと同じだと思う。そういえばこの覚醒すると成長するのって、メリア以外まだ例がないそうだ。まあ、昔のことだから今はどうかわからないけど。それと今は覚醒を維持できるみたいだけど前は戦闘のとき以外はあまり使わなかった。でも、くだらないことには使っていた。
「つまり、今お前は覚醒してる状態なのか?」
「うん、まあずいぶんと力は使ってないけどね」
「そんなに力を使ってたらすぐ疲れちゃうし」とメリアは笑いながら言う。
「っと、そうでした」
「ん? どうした?」
ユミアが何か改まったようなことをいうので俺は気になって聞いた。
「いえ、先程のギルドカードの再発行料の話なのですが」
「ああ、それか。そういえば」
俺はさっきの話、再発行料の話の中で出そうになっていたユミアの意見を聞く。
「さっきの手っ取り早くかつ楽な方法ってのは?」
そう聞くとユミアはこう答えた。
「ああ、いえ、実は5000Eをメリアに払ってもらおうかと思ったんですよ」
「えっ、そうなのか」
「はい」
そう言われて確かに楽だし手っ取り早いと思った。でも――
「それは、メリアに迷惑じゃないか?」
そうとも思った。だが、
「えっと、別に大丈夫だけど」
「ん?」
メリアの発した言葉はそれだった。
「えっ、いいのか? 別に無理強いするつもりはないんだが」
「大丈夫だよ、ソラ」
遠慮してみるがユミアにそう返される。そして……
「だって私、もうSランクだから5000E位なら普通に貸せるよ」
「……え?」
そう言われて、一瞬理解できなかった。
「えっと、本当?」
「ソラ、本当ですよ。この子はSランクです。同じSランクの私が保証しますよ」
ギルドにはランク、と言うものがある。したから順に、F、E、D、C、B、A、S、SS、SSSと言うふうになっている。そしてSランクというのは、この世界に50人位だという……そんなランクに、この二人が。
………………マジで?




