召喚された日
一応補足を
補助知識=召喚対象者補助知識
俺はランファルトと別れて使用人に案内されて自分の部屋に向かっている。その間、俺は明日からのことを考えていた。
(そうだな、まずはあそこ……いや、あっちの方にしようか)
まあ、行き先についてなのだが、どうしようか迷っていた。
まあ、簡単に言うと初めてがいっぱいだった森か、とっても安全な町か、迷う。
「着きました、こちらのお部屋です」
そんなことを考えていると部屋に着いた。
「案内、ありがとうございます」
そう言うとメイドは「ふふっ」と笑う。そして、こう話し出す。
「あなたを二年前に部屋に案内したときも同じことを言っていましたね」
「……へ?」
「ほら、私ですよ。ユミアです」
彼女の言った名前、それは俺で言う一ヶ月前、巻き込まれ召喚されたとき。理由あって俺を殺そうとし、後に俺の仲間になった少女の名前。つまり……
「……え、お前、ユミア?」
「はい」
そういった彼女を見る。彼女の背は俺の肩程までの背に茶色の長い髪、そんな彼女はユミアには到底見えなかった。
「いやいや、お前ユミアじゃないだろ」
そう言うと彼女は少し怒ったように言う。
「何でそんなことが言い切れるんですか」
「だって、あいつお前みたいに大きくないぞ。……背とか」
俺はそう言い、彼女の胸元を見る。まあ、平均以上はあるだろうな。
「何ですか今の間、あなた今どこ見ていってたんですか?」
「あっ、ほんとにユミアだなお前」
胸元を腕で隠しながら言った彼女はぽかんとする。まあ、俺はコイツの反応を見て言っているのだから本人にはわからないだろう。彼女はただ、自分の思うように反応しているだけなのだから。
「え……っと、今のは?」
彼女はよくわからないという風に聞いてくる。
「お前の反応で本当にユミアかどうかを確認したんだよ」
「私の……反応?」
「ああ、俺の目線から判断してそういう反応しただろ。お前って昔からそうだからなぁ」
そう、昔からユミアはこういうふうに人の目線から反応するからな。もう癖だなこれ。
「その観察力……本当、あなたにはかないませんね」
ユミアにそう言われ、少し照れる。
「別に、前にお前に教えられたことだろうに」
「まあ、そうなんですけど」
そこで彼女は言葉を止め、部屋の扉へと目を向ける。
「で、あなたはどうします?部屋に入りますか?」
「ん、ああ。そうするつもりだけど」
「何かいりますか?」
「いや、大丈夫だよ」
「そうですか」
そして彼女は「夕飯時になったら呼びに来ます」と言って廊下の奥へと消えた。
「……にしても、この世界はほんとに二年経ってるみたいだな」
ランファルトに言われたことを鵜呑みにしていた俺はさっきのユミアを見てそのことを実感した。彼女は一ヶ月前……いや、二年前は髪は長くなかったし、身長も俺の胸元ほどまでしかなかった。まあ、はっきり言ってとても成長してた。(ちなみに、ランファルトはあまり変わりなかった。少し雰囲気が大人びたぐらいか)まさか、この世界が二年でどう変わったのか見るとかいった矢先に変化を見つけるとは。いや、まさかこんなに早く見つけるとは思ってもみなかった。
と、ここで俺はまだ廊下に立っていたことを思い出す。
「……とりあえず、部屋に入るか」
部屋はとても豪華だった。いや、昔もそうだったんだけどな。とりあえず部屋が広くてベッドがでかい。調度品もチョー豪華そう。そんな感じだ。
俺は部屋のちょうど中心ほどにあるソファに座る。ふかふかでとても座り心地がいい。
(……よし、こうしよう)
そこで俺は明日のことを決めた。そして、俺に軽い眠気が襲う。転移前に寝ていたといえば寝ていたがあれは何かしらのショックでだからな。十分な睡眠が取れてなかったんだろう。
(少し、寝るか)
夕飯前にはユミアが呼びにくるだろうしそれまで寝ていよう。
俺はソファで横になった。
・・・俺は、無力だ・・・
呟く。真実を。
・・・俺は、弱い・・・
ただ一人、目の前の亡骸を見ながら。
・・・俺は・・・守りたいものさえ守れない・・・
目の前の、少女の亡骸を抱きながら……泣きながら……俺は言った……
「ソラ、起きてください」
ふと、俺は自分が揺り起こされていることに気づく。
「ソラ、大丈夫ですか?うなされていましたが」
俺が起きたことを確認するためなのか、少し間を空けた後ユミアはそう聞いてきた。
「ああ、大丈夫。ちょっと、夢を見てただけだ」
「そうですか。もしかして、悪夢でも見ていたのですか?」
「悪夢、か。そうかも……しれないな」
俺が濁すようにそう言うと、ユミアは少し悲しそうに言った。
「あなたは、前からそうですね。一人で悲しいことを全部抱え込もうとする。そこはあなたの悪いところですよ。あまり、一人で抱え込まないで、私で良ければいつでも言ってください」
……一人で抱え込むな、か。俺のことを心配していなければ出ない言葉だな。
こういうふうに俺のことを考えてくれる人がいる。そう考えると、少し楽になった。
「ユミア、ありがとう」
「いえいえ、これ位どうってこと無いですよ」
そういったユミアは「それでは」と、部屋の扉を開ける。
「夕食の用意は出来てますよ。行きましょう」
まあ、ユミアが俺を起こしていたのは、夕飯の用意が出来ていたので俺を呼びに来たからだろうと思っていた。それ以外に何があるんだって言う話なんだが。
「ああ、案内してくれ」
そういうと、彼女は俺に一礼をして歩き始めた。
ユミアに案内されたそこには、既に総司、明美、海華、ランファルト、レミナの五人が、豪華な料理の並べられた机に備えられた椅子に座っていた。
「遅かったな、空」
「悪いな、寝てた」
「なんか、空君らしいね」
「確かに、こんなときに寝てられるのなんて空くらいだよ」
総司の問いにそう答えると明美、海華がそう言った。
「ていうか、お前らのその格好は何なんだ?」
その格好とは、総司達の今着ている服のことを指している。具体的に言えば、総司は少し着崩した黒色のスーツのようなものを、明美は白色のドレスを、海華は背中の方が開いた黒色のドレスを着ている。
「実は、慣れてもらうために着て貰っています」
俺の問いにレミナが答える。
「勇者となるといろいろと重要な行事に出てもらうこともあるので、その時にあたふたしない様にと」
「着方も教えてもらったよ」
レミナの言葉の後に明美がそう言った。そして、俺の疑問は今の説明で解消した。
「まあ、とりあえず全員集まったことだし、食事にしようか」
話が終わるのを待っていたのか、ちょうどよく発せられたランファルトの言葉に全員がうなずく。
「それじゃ」
そういいながらランファルトは机の上にあるおそらく酒の入ったグラスを手に取り、それを掲げる。
そう来ればみんな何がしたいかわかったのだろう。俺もわかった。全員が各々のグラスを手に取り掲げ、そして。
「まあ、とりあえず。題目は無しで、乾杯!」
「「「「「乾杯!!」」」」」
全員の声が響いた。
食事はおいしかった。後から聞いた話だがこの食事の主菜はユミアが作ったらしい。あいつ、昔は料理からっきしだったのになあ。まあ、うまかった、チキンの丸焼き。スパイス加減が最高。
話は雑談が主だった。こちらの世界の話を総司達がして、ネルミスの話をランファルトとレミナが話した程度だ。
特に明美と海華が食いついていたのが法律の話だった。(確か、法律は補助知識には重要なこと意外は無かったっけな)俺にはなんでかわからなかったが、どうやら総司にはわかったらしい。そしてニヤニヤしていた……俺を見ながら。なんでかよくわからないがとりあえずむかつくから後でシメておこうと思う。首を。
総司はこの世界の情勢に興味を示していた。まあ、大雑把なことだけだったけど今は至って平和らしい。その中に予言とかの不安要素があるだけで。そんなんいつも同じだけどな。この世界も、俺達の世界も。
一方、ランファルトとレミナは俺達の世界の学校について興味があったようだ。というか、学校に通う子供のいる家庭に対する国の支援に、って言ったほうが正しいのかな。まあ、ネルミスは裕福層と貧困層の差が激しいから学校に行けない子供もいるんだよな。むしろ当たり前のように行けない子供の方が多い。まあ、最近ではネルミスの国でもそういう支援もしているらしいけどな。そういえば、家庭の収入によって支援のグレードを変えるのはどうかという明美の意見に二人は賛成していたな。レミナはどうかわからないがランファルトは多分この国の王に進言するだろう。もしかしたら、近いうちに明美の意見が実現するかもしれないな。
食事の後、俺はグラスに入っている酒を飲む。食後酒だ。この世界では酒は成人してからという法律はない。だから飲む。総司、明美、海華の三人も最初は少し抵抗があったみたいだが、食事中、俺が普通に飲んでいると飲みだした。何で俺がお手本なんだろう。……はっ!それともまさか実験台?まあ、飲んでも大丈夫だってわかってるから飲んでんだけどな。っと、ここで一句。
飲めるなら 飲んでしまおう お酒(字足らず)
ホトトギスのやつみたいでいいと思ったんだけどなぁ。
「なあ、空」
心の中でふざけていると、総司に呼ばれた。
「なんだ?」
「俺達は、どうやら元の世界に帰れないらしいんだが、それについてどう思う?」
総司にそう聞かれた。補助知識から見つけたのか……確かに、この世界から俺達の世界に帰ることは出来ない。俺が前に帰れたのも奇跡中の奇跡だった。って言うか、ずいぶんと軽い調子で聞いてきたな、総司。
俺は答える。
「どうもこうも、帰れないんだったら仕方ないだろ。この世界で生きるしかない」
「でも、私達はこの世界の人たちの都合で呼ばれちゃったんだよ?」
「それなのにこの世界の人たちが悪いって思わないの?」
明美、海華にもそう聞かれた。
「別に、この世界の人たちだって切羽詰ってるんだろうからな。じゃなかったら、よその世界から勇者なんか召喚しないって。それに、お前らだって俺達が自分達の世界に帰れないからってこの世界の奴らが悪いと思うか?」
そういうと三人は首を横に振る。
「だろ? この世界の人たちも苦渋の決断だっただろうな。なにせ、他の世界の人を巻き込むんだからな」
そういうと三人は唸った。
「すごく考えてるな、空」
「うん、なんかいつもの空君とは別人みたい」
「空、すごくかっこいい」
「そんなことを言っても何も出ないぞ」
と、こんなやり取りをしていると、部屋にある置時計の鐘がなった。
「おっと、そろそろ時間だ。今日はここまでだ。みんな部屋に戻ってくれ」
「っと」と、ランファルトは付け足すようにこう言った。
「風呂はメイドに案内してもらってくれ」
ユミアに案内された風呂はやっぱりでかかった。まあ、昔も入ったことあるんだけどね。
銭湯のような更衣室に脱いだ服をたたみ置き、温泉のような風呂場に入る。そこには――――
「よう、ソラ」
先客、風呂場の王子様がいた。(もちろん嘘)
「ランファルト、この時間に風呂か」
「少し、お前と話したいことがあったからな」
聞きながら湯船につかる。
「話したいことって?」
「お前の話だと、お前が帰った時にそっちの世界は二週間程度しか経っていないんだろ」
「ああ、まあな」
「その二週間で何か失ったものとかなかったか?」
言われ、こう返した。
「……両親との時間」
俺がそう言うと、ランファルトは察したようだ。
「悪かった、な」
彼にしては珍しく、すまなそうにそう言った。
「別に良いさ。それに、何でかわからないけど、両親の事、覚えてないんだよ」
「……そうか」
そう言うランファルトは何か知ってそうだった。
「何か、心当たりがあるのか?」
「ああ、まあ、な」
歯切れ悪くそういうランファルト。
「ただ、今はまだ言うべきじゃないと思うんだよ」
「そうか。じゃあ別に良いぜ」
言うとランファルトは少し驚いたようにこう言う。
「いいのか?そんな簡単に言っちまって」
「ま、そんなことばかり気にしてても仕方ないだろ。話すべきときに話してくれればそれでいい」
ランファルトにそう言う。
「お前、二年前と変わったな。強くなった」
「ん、そうか?」
「ああ、強くなったよ。きっと、お前は俺やレミナ、ソウジ達や今までの勇者が持っていない強さを持ってるんだよ」
……やっぱ、ユミアやランファルトにこういうことを言われると照れる。
「まあ、意見として受け取っておく」
「素直に嬉しいって言っとけ」
「うるせ」
風呂から上がり自分の部屋、俺はベランダに出、空を見上げる。
「星、綺麗だな」
「そうですね」
「……ユミア、人の部屋に勝手に上がるのやめろ」
独り言のつもりで発した言葉に返答が帰ってきて、俺は振り向きながらそう言った。
「やはり、こういうことももう気づかれてしまいますね。以前だったら「うわっ!」、とか言って驚いてくれたものですが」
「ムダ、モウツウジナイ」
なぜかロボットのようにそう返す俺。特に意味はない。
「で、なんだ?」
何か用があると思い、彼女にそう聞く。
「いえ、特には」
俺の言いたいことがわかってそういう彼女。
「じゃあ何で俺の部屋に来た?」
「ですから、特には」
「……じゃあ、本当になんで?」
「……そうですね」
そう言って、このままじゃいたちごっこだと思ったのか、彼女は考える。
「しいて言えば、あなたに会うため、でしょうか」
「俺に?」
「はい、じゃあ、少し昔のことでも」
そして彼女はこう言う。
「私は、ソラに救われました。私はあなたの命を狙っていたというのにそれを知りながらも私を助けた。そして、私を救ってくれた。そのときから私は、あなたのために生きることにしました。私には、それくらいしか自分の生きる目的を考え付くことが出来なかったから……誰かのために生きることしか、知らなかったから」
ユミアは俺の目を見ながら、続ける。
「そんな私を、あなたはまた救ってくれた。あの時の、『自分のために生きろ』って言葉は、今でも鮮明に覚えています」
「……なんか、恥ずかしいな」
頬を掻きながら言ったその言葉にユミアは「ふふっ」と笑った。
「今の私は、昔と変わったと思いますか?」
「ああ、喋り方とかな」
「これでもがんばったんですよ」
「何でわざわざ喋り方変えたんだよ」
「やはり、他人と関わるとなると意思疎通は多くしたほうが良いでしょう?」
「まあな。確かに、前のお前はもうちょっと無口だったな。人と話すことを考えると今の方がいいのかもな」
「でしょう? まあ、とは言っても戦闘になると昔のようになってしまうのですが」
「まあ、それくらい別に良いんじゃないか?」
「ええ、まあ。そこは妥協してます」
そうして、彼女はふとこう言った。
「あの、ソラは明日から旅に出るんですよね」
「ああ、この世界の二年での変化を確かめるためにな」
そういうとユミアは意を決したように言った。
「その旅、私も同行して良いですか?」
「別に悪いとは言わないが、今の仕事はどうするんだ?」
「はい?」
「いや、それ」
そういって俺は彼女、正確には彼女のメイド服を指差した。すると彼女はこう言う。
「ああ、違うんです。私、ここで働いてるわけではないんです」
「え、そうなの?」
「はい。ランファルトに頼まれて少し手伝いをしてるだけですから」
そういうことか。てっきりここで働いているものかと。ちなみに、二年前は俺を暗殺対象者として見張るためにここで働いていたんだったな。
「ということで、明日からもよろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
そしてユミアは俺の部屋から出ていく。その前に、
「ソラ」
「なんだ?」
「実は私、二年たっても二年前と変わっていないことがあります。何だと思いますか?」
そう言われ、考える。身体的には成長しているし精神的にも同様だと思える。その他、いろいろ考えてみるが結局思いつかなかった。
「わからない。答えは?」
わからないので、答えを求めそう言うと、ユミアはウィンクしながらこう言った。
「秘密、です♪」
そして彼女は廊下に出て、小走りに駆けていった。
「……秘密、か」
そう呟き、自然に俺はふと微笑んだ。