第4話 記憶、光のごとく。Ⅲ
「これが、ルメンの時代の始まりじゃ。そして、確信は持てぬが、華夏。そなたは、わらわが神として生きていたころに一番関係の深かった星――カスタリアとよく魔力の波長が似ておる。この星は、何者かによって壊されてしまったのじゃが……『もしもの時は、策がある。』とあやつは言っておったからの。もしかしたら関係があるのかもしれん。」
「そうなんだ……。ありがとう、ルミ。私の過去を探す手掛かりになるかもしれない。」
「お役に立てたならよかったわい。」
「話を少し戻すんだが……」
こう言ったのは華瑠だ。
「どうしてルミは、今こんな依り代で生きているんだい? さっきまでの話のままだと、神の世界に戻って神として生きているはずだが……」
「それはの……わらわは人間としては生きれなくなり、神の世界に帰ったのじゃが,
フェビルの魔法――いや、あれはフェビルが使っていた古代魔法じゃの。その魔法の後遺症がひどくて、神としてもこの世に存在することが難しくなってしもうたんじゃ。じゃから、結局依り代を作ってその中に意識を映して……今に至るのじゃ。」
「そんな……じゃあ、ルミはもう神としては生きられないの? 依り代にも、限界があると思うし……」
依り代の強度にもよるが、さっきまでの話の内容から考えると、少なくとも百年も前に作られた依り代を使っていることになる。そう考えると、いつ依り代がオーラに耐えきれなくなってもおかしくない。今は力をだいぶ失っているとルミは言っていたが、元とはいえど彼女は神なのだ。どちらにせよ、魔力の量はけた違いなので、いつ壊れてもおかしくない、いわば不安定な状態と言えるだろう。
「そうなのじゃよ……でも、違う魔力が入ってくると少しマシになるっぽくての。」
「だから、さっきは私の魔力を奪ったのね?」
「その件に関しては、本当にすまんかった……」
「いいのよ! そっちも困ってたんでしょ? だったら助かって良かった」
でも、これは一大事だ。少なくとも依り代の強度をどうにかしない限り、ルミはあと一週間も生きられないだろう。何か策はないだろうか……
「でも、このままじゃルミが生きれないだろ? 他の人の魔力を吸って寿命を延ばすよりも、もっといい方法があると思うが……」
「そうなんだよね……。華瑠にい、何か、いい方法知らない?」
「ここで僕に振るのかい? そうだな……」
こういうことに一番詳しいのは、華瑠だ。マッドサイエンティスト気質を持っているだけあって、魔法の応用や錬金術など、新しいものを生み出したり、実験したりすることが得意だし、好きなので知識が豊富だ。
「一応ルミは神だから、前例がないからできるかどうかはわからないが、華夏とルミが契約を結ぶのはどうだい?」
「……え? 契約って、あの、主人と魔物の間で逆らえない拘束力を生む上下関係が激しいやつ? そういえば華瑠、一回やったことがあるって言ってたね」
「うん。でも、お互いにそういう関係は嫌だと思うから、おすすめしにくいのだけれどね。」
「でも、それいいかも。華瑠にい、やった時に契約を結ぶ上で、条件が付けれるって前言ってたでしょ? その条件を依り代の強度、魔力の安定、とかにすれば、ルミもだいぶマシになるんじゃない?」
「……確かに、それならいいかもしれんの。でも、どうするんじゃ? こういう契約は魔力量が多い方が上になってしまうじゃろ? このままじゃ、わらわが主人になってしまうぞ?」
……確かにそうだ。そうなってしまったら、こっちも色々面倒だし、この先生きていくうえで一番の問題になってしまう。なら……上下関係なんてものがない契約魔法があったらいいよね?
「じゃあ、契約魔法、今ここで作っちゃおうよ。」
「「「「え????」」」」
……そりゃ、そういう反応になるわな。
「だから、上下関係があること以外は、お互いにいい条件じゃない? だから、上下関係がない契約魔法を作れば……この問題は、解決するでしょ?」
「それはわかるんだが……。華夏、それは簡単にできることじゃないし、お前、さっき倒れたばっかだろ? 心配する俺らの身にもなってくれ……」
「そういえばそうだったね。でも、大丈夫。そんなに難しいことじゃないから。」
……そう。私にとってはね。
魔術――魔法とは、魔法式と魔力で成り立っている。魔力はいったん置いておくとしたら、魔法は式――すなわち数字と文字でできているのだ。例えば、使いたい魔法をxとしよう。そうすると、元の魔法がaとおけ、その魔法を使うために必要な魔力量がだいたい50くらいとし、出来上がっている魔法から取り出したい、いらない部分をyとおける。だから、普通の契約魔法から、上下関係をなくしたものにするには、単純に考えたら、『x=a+50-y』という式を解くことで、新しい魔法が作れるのだ。
これをみんなに説明したら、さっきよりは簡単に思えてきたらしく、納得の顔をしていた。
「ね? 単純に言えばこういう事なの。だから、たぶん三十分ほどあれば、上下関係のない契約魔法が作れると思うよ?」
「……本当に、よいのか? このままだと、わらわの方が得がある……というか、ほとんどわらわの特で、そっちにいいことなんで、なかろう?」
確かに、そう思うかもしれない。でも、私たちは今、深刻な人手不足。ただ、そんな事より……
「確かにそうかもしれないけど、私達は常に人手不足だし。それに……私は、ルミと契約して、ずっと一緒にいることで、話し相手が増えるのもうれしいし、何より私、もっとルミの事知りたい。せっかく出会えたんだし、もう、私達、友達だもね!」
「友達……か。そうじゃの。わらわたちは、もう一生の、友達じゃの」
そう言って、ルミは、ほほ笑んだ。過去につらいことを経験して来た彼女は強いが、脆い。きっと神として生きていたころには、本当にたくさんのことを経験したのだろう。
「一番の友人をなくした事実を知った今、友達という言葉に少し抵抗を感じてい入るのじゃが……今度こそ、絶対に友人を……おぬしらを死なせはしない。こんなわらわでも、友と、呼んでくれるのか?」
友人をなくす、という恐怖を感じているルミ。そんな恐怖を吹き飛ばす勢いで、華夏は――彼女たちは、思いっきり、笑った。
「あったりまえじゃない!」
「そうよ、ルミ。華夏は結構諦めが悪いし、困っている人を放っておけない、お人よしで、すっごく優しい子なんだから」
「そうだな。華夏がこんなやつだから、俺はこいつが好きなんだ。」
「僕も、そんな彼女のお兄ちゃんらしく、というべきか、君みたいに困っている人は放っておきたくないし、友達は、多いほうが人生楽しいことも多いと思うからね」
四人が次々としゃべる。
「……っ、ふふっ」
「ルミ?」
「……そうじゃの、今日だけで、おぬしらに何回救われたか。この恩を返すためにも、ルメンの時代のこと、華夏のことについて解明するためにも、おぬしらにとって、最高の友達……いや、親友になれるように、頑張るかの!」
こうして、彼女たち――特に華夏との契約が成立した。
「じゃあ、会話しながら契約魔法、作れたから、契約、しちゃおうか」
「え!? この短期間で作れたの? やっぱりあなた、化け物ね……」
……化け物とは、失敬な。私はちゃんとした、人間ですよーだ。
「まあまあ、でもできたなら、早いうちにやってしまおうか。華夏、何か準備するものがいるのかい? あるなら早く準備したほうがいいよ」
「そうだね。……いるものは……大きめの光属性の魔石をルミのコアとかにしたいんだけど……」
あたりを見渡すが、良さそうな石が見つからない。どうしようか、とうんうんうなっていると、
「それなら、これを使うがよい」
そういって、ルミが魔力を放出し、すぐそこにあった大きめの石に流し始めた。すると……
「おぉ! すげぇ、ルミ、こんなことできんのか!?」
「さっきまでただの石だったのに……魔力を流し込んで魔石に変えるとは、前代未聞の行動だな……」
星那と華瑠が驚きを隠せず、出来上がった魔石をまじまじと見つめている。
「え? 華瑠、星那、これなら、華夏が前にやってたよ?」
「「え???」」
「これをするには、魔力を大量に消費するから……今はできなくって。でも、ルミ、さすが! これで契約魔法が使えるよぉ」
「「え????」」
状況を読み込めていない星那と華瑠は置いておいて、契約魔法の準備を始める。魔石に筆記魔法で魔方陣を書き込み、ルミと一緒にその魔石を包み込むように握るり、詠唱をする。
「シン、アンシャルよ。天照この世界の今を、未来を照らす糧となり、我らの契約をゆるしたまえ。」
「光の神、ルミセリナ・ルシアンの名のもとに、彼女との契約を認め、祝福したまえ。夜の神ニュクスよ、彼らの功績をたたえ、祝福し、見守りたまえ。」
すると、魔石が光りだして、二人の体を包み込む。これで、契約は完了だ。
『よい友を持ったな、華夏』
『君なら、この世界でもしっかりやっていけるさ。君たちに自慢できるように作ってきた世界だ。大丈夫。これからも、見守っているからな……ルミ』
「「え???」」
頭に直接、声が流れ込んできた。
「誰……? 私のこと、知ってるの?」
「フレス……? お主、フレスか⁉」
なんだか懐かしい声だった。
もう一つの声は、先ほどルミが話していた、彼女の最愛の親友、フレスの声だったのだろう。今にも泣きそうな顔をして、それでも彼が今、自分を見ているのなら恥ずかしいからと涙をこらえている。
でも、誰の声だろうか。これも、私の生まれに関係しているのだろうか。……でも、今このことを考えていても、仕方がないか。きっと、これからの冒険でわかることがあるはずだから。
「……ルミ。これから、よろしくね?」
必死に涙をこらえている彼女にかける言葉に迷って、結局出た言葉がこれだった。
皆は、こんな私達を暖かく見守ってくれている。
「……うむ。これから、よろしく頼む、華夏。……みんな」
「それじゃあ、行こうか。私たちの冒険の続きに!」
「そうね。……でも、華夏。一旦村に戻ってフレデリクさんのところに行かなきゃよ」
「……そうでした」
こうして、新しい仲間と知識を得た彼女たちは研究所の外へ歩き出した。
――出る直前。ルミは動きを止め、研究所のあたり一面を見渡す。
「ニュクス」
「なんだ、ルミセリナ。……気づいていたのか」
「わらわがお主に気づかないと思うか? 何年の仲だと思っておる」
「……そうだったな。…………いいのか?本当に、ここを離れて。……彼女たちに、ついて行って」
そう言われて出口を見る。そこには先ほど知り合った彼女たちが心配そうにこちらの様子を伺っている。
「ここはフレスがねむっている場所じゃし、少しためらいはあるが……いつでも戻ってこれるじゃろ。それに……また旅に出るのも、悪くなかろ? 今度は、人間としてじゃなく、精霊――神としての旅じゃがの」
「ふふっ。お前……変わったな」
「じゃろ? 友人とは、本当に良いものじゃと、あやつらに――フレスとセオリに気づかされたおかげじゃ」
「…………あぁ。そうだな」
旧友との話はこれくらいにして、そろそろ行かないと彼女たちに余計心配をかけてしまうだろう。互いに顔を見合わせ、永遠ともいえるほどに感じた一瞬の間の後、笑いあい、踵を返し、歩き出した。
「ルミセリナ」
もうしばらく話す機会などないだろうと思っていたが、出る前にもう一度呼び止められた。
「彼女たち――特に、華夏という彼女。……カスタリアの欠片によろしくな」
「……っ」
自分にだけ聞こえる声で、そう言われた。なぜそのことを今言うのか。ニュクスの方を見ようと思ったが、振り返らずにこう返した。
「当り前じゃろ。元、カスタリアのコア――華夏の本当の父よ」
「……気づいていたのか」
「あ、た、り、ま、え、じゃ、ろ。……話しかけなくて、よいのじゃな」
「あぁ。まだ、その時じゃないと思うからな。……その時になるまで、見守っておくよ。……ついでにお前もな」
「……ふっ。それでこそ、お前じゃ」
そういって、もう振り返らずに出口へ向かい、華夏の腕に飛び込んだ。
「さあ! おぬしらの旅へ、レッツゴー! じゃ!」
「「「「オー!」」」」
「……フレス。お主に負けないくらいのお土産話、持って帰って来るからの」
そんなな彼女たちが研究所から見えなくなるまで、ニュクスは見送っていた。
彼女たちの物語は、まだまだ続く。六人の友人と――仲間と共に。ただ、少し大きな出来事が終わり、彼女たちは、一旦、一息つくのであった。
これで、記憶、光のごとくが終わりました!まだまだ話の先は長いですが、一旦きりがいいところまで来ました。長らく、お待たせしてしまって、申し訳ありません! これからも、華夏たちの行く末を、暖かく見守っていただけると幸いです。




