ソフィーの物語・第2話『静かな夜と訪問者』
日が沈み、空気が一気に冷えた。
赤く焼けた地面は熱を失い、夜の気配が急速に広がっていく。
遠くで、低く唸るような音がした。
風だ。
ソフィーはキャンプに戻ると、手早く焚き火を起こした。
火が灯ると、闇に光が生まれる。
拠点は、ようやく「場所」になる。
スーパーウルトラマートで回収した缶詰を開ける。
味気ない。
だが、腹は満たされる。
水も、今日の分は問題ない。
「……まずは、合格かな」
小さく呟き、作業台に向かう。
回収したジャンクを広げ、使える物と使えない物を仕分けする。
歪んだ金属板。
まだ生きている回路。
錆びているが弾性のあるバネ。
指先の動きは慣れていた。
考えるより先に、体が動く。
その時。
Pip-Boyが、かすかに振動した。
警告音ではない。
だが、センサーが乱れる時特有の、微細な反応。
ソフィーは手を止め、顔を上げた。
……風の音。
……焚き火の揺らぐ音。
そして。
砂が、舞い始めている。
焚き火の炎が、不規則に揺れた。
風が強くなる。
空気が、ざらついた。
「……砂嵐?」
遠くで、低い轟音が膨らんでいく。
近づいてくる。
その直後だった。
Pip-Boyが、明確な反応を示す。
接近。
複数。
ソフィーは立ち上がり、焚き火を背に取る位置へ移動する。
パイプライフルを構え、呼吸を整えた。
「……さっきの略奪者じゃない」
動きが違う。
砂嵐に紛れるような、低く、迷いのない足運び。
「――おっと。撃つのは待ってくれ」
風に紛れ、軽い声が響いた。
やがて、砂の向こうから人影が現れる。
両手を上げ、余裕のある歩き方。
レスポンダーの装備。
だが、どこか雰囲気が違う。
「夜にこんな所でキャンプ張ってる子がいるって聞いてね」
男は焚き火と作業台を一瞥し、口元を歪めた。
「……へぇ。思ったより、ちゃんとしてる」
年は三十前後。
無駄に整えられた髪。
軽薄そうな笑み。
「名前は、うーすー。本名は長いから、覚えなくていい」
ソフィーは銃口を下げない。
「用件は?」
「見回りだよ。知り合いがね、ちょっと心配しててさ」
――トト。
その名が浮かぶ。
うーすーは肩をすくめた。
「この辺り、最近ちょっと“落ち着かない”砂嵐が来る夜は、特にね」
風が強まり、砂が視界を削る。
「忠告だけ?」
「半分はそれ。もう半分は――」
うーすーの視線が、パイプライフルに向く。
一瞬だけ、軽さが消えた。
「……腕前の確認」
その瞬間。
砂嵐が、完全に到達した。
視界が白茶色に染まり、音が歪む。
Pip-Boyが警告を発する。
高速接近。
「来る」
ソフィーの声と同時に、影が躍り出た。
人ではない。
焼けただれた皮膚。
歪んだ顎。
フェラル・グール。
うーすーは一歩も引かない。
「……やっぱりな。嵐の日は、何かと多い」
次の瞬間、彼は一気に距離を詰めた。
銃ではない。
腰から抜いたナイフが、砂の中で一瞬、光る。
喉元。
一閃。
グールは声もなく崩れ落ちた。
同時に、ソフィーのV.A.T.Sが起動する。
別方向から迫る二体を捕捉。
引き金を引く。
正確無比な射撃。
砂嵐の中でも、弾は迷わない。
数秒で、全てが終わった。
風だけが、吹き荒れている。
うーすーはナイフを拭い、軽く口笛を吹いた。
「……いやぁ、噂以上だな」
ソフィーはV.A.T.Sを解除し、銃を下げる。
「あなたも」
「はは。PAが似合わないだけで、弱いわけじゃない」
焚き火の前で、二人は向かい合う。
「改めて言うよ。俺はレスポンダーLFのリーダーだ」
うーすーは笑った。
「ここで一人でやるなら、好きにすればいい。ただし――危ない時は、声を上げろ」
「……考えておく」
「それでいい」
砂嵐は、やがて遠ざかっていく。
夜が、戻る。
ソフィーは理解した。
この男は、軽い。
だが――信用出来る。
静かな夜は、こうして終わった。
だが、アパラチアはまだ、何も語っていない。
――探索は、続く。




