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幼馴染が、何か変です。~いままでの『日常』が一瞬にして『非日常』に変わった日~  作者: true177
二章 絶望との葛藤

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恭平 CHAPTER5

 「いや、まさかね・・・・・・」


 恭平の脳に真っ先に入ってきた情報は、ベッドの上に純が横たわっていることだった。人工呼吸器らしきものをつけられている。


 その純のすぐ横には、医療系ドラマでよく見る心臓の心拍数を表示する機械が置いてあった。だいたい80前後で推移している。少なくとも、純は生きているということだけは確かだ。


 (でも、人工呼吸器をつけるぐらいなんだから・・・・・・)


 かといって、大丈夫そうにもとても見えない。人工呼吸の装置を付けられている以上、深刻な状態なのは間違いないのだろう。


 (なんで、なんでこんなことに・・・・・・)


 もちろん、純がこの事故に巻き込まれた直接の元凶は、純の背中に猛スピードで激突したあのキャリーバッグらしきものだということは言うまでもない。


 だが、恭平はどうしても脳裏に事故直前の光景がフラッシュバックしてしまうのである。純が恭平の方を、何が起こったのか分からないという顔で見ている、そしてそのすぐ後ろから迫ってきている大型トラックを。


 (やっぱり、あの時に少しでも周りに注意を配っていれば・・・・・・)


 考えても仕方がない。そんなことは恭平にだってわかっている。だが、キャリーバッグ様のものが後ろから吹っ飛んでくる前兆はいくつかあったはずなのだ。猛スピードが故の雑音、通行人の驚いた声・・・・・・。恭平が全部に気付いていなかったわけではない。つまり、防げた事故だったかもしれないのだ。


 (純ちゃん・・・・・・)


 大親友を超える関係の、そして幼馴染でもある純の姿は、朝とはまるっきり変わってしまっている。


 数時間前は、恭平のどうでもいい話にも『そうかな?』などと相槌を打ってくれていた。今は、機械が鼻と口に付けられていて、反応もない。


 床に、一滴のしずくがこぼれ落ちた。それは、恭平の目から溢れた涙だった。声は出ていないが、涙が流れていた。


 (親しい人が死んじゃうかもしれないって、こんなに悲しいんだ・・・・・・)


 中学生としての抗いだろうか、恭平は声は押し殺して涙を流し続けた。時折涙を袖でふき取って、ただ泣き続けた。


 ―――――――――


 時間にして1,2分だっただろうか、恭平の目から涙があふれ出ていたのは。恭平にとっては何十倍も長く、悲しい時間だっただろうが。


 もちろんまだ悲しい気持ちがなくなったわけではないが、涙がそれ以上出てこないのだ。


 (死んじゃわないよね、死んじゃわないよね?)


 恭平は、少々悲観的になってしまっていた。ドラマで見たような典型的な重症の場面。ドラマだと、ここから一旦覚醒した後に死ぬ、というケースも少なからずある。いや、現実的にもありえる。


 『本当に死んでしまっているのではないか』、恭平は本気でそう思った。心拍数のモニターは恭平が病室に入った時からずっと70前後をキープし続けている。だが恭平には、それが故障しているかもしれないといった疑心暗鬼の気持ちがわいていた。


 すべて自分で確かめないことには断言できない。恐る恐る、純の手を握った。純のほんのりとした暖かさが、手を通して伝わってきた。とりあえず、『すでに死んでしまっている』という最悪は恭平目線ではなくなった。


 (これ以上自分がいても、役には立てないかな。いや、でも・・・・・・)


 純は今意識不明の重体だと思われる。意識が回復するまで待つ、ということもできないことはないが、今の恭平にはこの動かない純がいる空間にいることが精神的に辛い。そして当たり前のことだが、恭平にも生活というものがある。


 公立を受検する三年生にとっては大事なこの三月初めの時期、恭平に限らず、三年生ならだれでも学校終了後はだいたい受験勉強をすることになる。特に成績が飛びぬけている、というわけではない恭平にすると、本来なら家で勉強に専念したい。


 恭平は悩みに悩んだ挙句、結局帰宅することにした。勉強という建前を前面に押し出して直接の理由にしたが、本心は『この空間にいるのが辛い』というのが大部分を占めている。 


 とはいえ、無言で立ち去ってしまっては『何のためにここに来たのか』というモヤモヤが残るだけとなる。


 「・・・・・・純ちゃん、絶対、生きてよ」


 恭平にはそうボソッとつぶやくだけで精一杯だった。


 (生きられるかどうかなんて純ちゃんにはどうにもならないのは分かりきってるんだよ。でも、そう思わないと『死んじゃう』っていう思考になっちゃうから)


 恭平はもう一度だけ、純を見た。『離れたくない』という矛盾した気持ちも、恭平の心の中に共存しているのだ。そして、


 「なみ、だ・・・・・・?」


 純の目から、一筋の涙が太陽の光を反射して頬を伝っていた。なぜか表情も少し変化していて、悲しそうな表情になっている。どんな夢を見ているのだろうか。恭平には分かりはしない。口のあたりもなにやら動いているが、聞き取ることできない。


 (どういうこと?純ちゃんが悪夢を見てるってこと?でも、涙を流すぐらいの夢だから、純ちゃんも自分みたいな状況みたいになってるってこと?)


 今まで拮抗していた『帰る』と『離れたくない』のバランスが崩れた。あまりにもそばにいるのが辛くなってしまったのだ。なぜ涙を流しているのかは分からないが、そういう姿はもう見たくなかった。


 「ガラガラ」


 恭平の後ろに位置していた扉が開いて、看護師の人が入ってきた。


 「あら、永島さんの知り合いの方ですか?」


 「・・・・・・まあ、そうです。でも、もう帰ります」


 恭平はそう言うと、足早に病室を出た。


 (・・・・・・)


 気分は底に沈んだままの状態で、恭平は病院を後にした。他人から見れば、かなりやつれた姿に映っていたことだろう。

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