6日目~ケンタウルス競馬~
朝、目が覚めた。
昨夜は何度か目が覚めてしまい、あまり眠れた気がしない。
寿命。
転生。
そして、アトランティスに残るということ。
気が付けば、何度も同じことを考えていた。
「……考えても答えは出ないか。」
軽く伸びをして身支度を済ませると、俺は宿泊棟を出た。
隣の役場ロビーを通りかかると、受付嬢の明るい声が聞こえてきた。
「AIWatchの貸し出しはこちらでぇす!」
「本日はケンタウロス競馬開催日ですよぉ!」
「競馬?」
(補足シマス。)
「ケンタウロス競馬はアトランティスの公営ギャンブルデス。」
「収益は街の運営や公共事業、競走施設の維持管理、ケンタウロス族への支援などに活用されてオリマス。」
「あー!」
「だから役場で案内してるのか。」
「ソノ通りデス。」
役場を出て少し歩くと、遠くから大きな歓声が聞こえてきた。
その先には大きな競馬場がある。
平日は公園として開放されているようで、入口にはたくさんの屋台が並び、多くの人で賑わっていた。
俺は屋台で肉串を一本買う。
「マタ肉串デスか。」
「好物なんだよ。」
「第一競走パドックへご案内イタシマス。」
AIWatchの案内に従い、パドックへ向かう。
場内には落ち着いたアナウンスが流れていた。
「ケンタウロス1、780キログラム。前走比マイナス5キログラム。」
「ケンタウロス2、800キログラム。馬体重増減はありません。」
「ケンタウロス3、815キログラム。前走比プラス20キログラム。前走から3か月の休み明けです。」
「なんや! プラス20やってぇぇぇ!」
近くから大きな声が聞こえた。
「本命なのに……。」
「いや、成長分や! 成長分……。」
声のする方を見ると、頭の上に輪を浮かべた青年が腕を組みながらパドックを見つめていた。
「天使?」
「頭に輪っか乗ってるぞ。」
(ハイ。天使デス。)
(天使達の週一の休日に合わせて、ケンタウロス競馬が開催されてイマス。)
「へぇ……。」
その後、第一競走が始まり、競馬場は歓声に包まれた。
俺も肉串を頬張りながら、初めて見るケンタウロス競馬を楽しんだ。
気が付けばレースは次々と進み、競馬場の熱気はますます高まっていく。
やがて場内アナウンスが響いた。
「まもなく本日のメインレース、『レオナルド・ダ・ヴィンチ記念』を行います。」
その時だった。
「なぁ、にぃちゃん! 本命どれや?」
突然話しかけられ、俺は振り返る。
そこには、さっきパドックで大声を上げていた天使が立っていた。
「あ、えっと……。」
「ダ・ヴィンチさん、生誕五百年ぐらいだから……5番で。」
天使は一瞬固まる。
「……。」
「にぃちゃん!」
「ケンタウロスは血統やぞ!」
「え?」
「親も祖父母も名ランナーやったら期待されるんや。」
「血統、脚質、調子、馬体重……見るとこ山ほどあるで。」
「そうなんですか。」
(補足シマス。)
(ケンタウロス族は古くから競走文化を受け継いでイマス。)
(彼らにとって速く走ることは本能であり、誇りでもありマス。)
「走らされてるわけじゃないんですね。」
「逆や。」
天使は笑いながら答えた。
「走れん方がストレスたまる。」
「一番を目指して走るんが、あいつらの誇りや。」
「へぇ……。」
その時だった。
♪♪♪
場内にファンファーレが鳴り響く。
「始まるで!」
実況が場内へ響き渡る。
「スタートしました!」
「全馬きれいなスタートです!」
競馬場中から歓声が上がる。
「前半1000メートル、30秒!」
「レコードペースです!」
「速っ!」
「今日は飛ばしとるなぁ!」
天使は身を乗り出しながら叫ぶ。
「最後の直線!」
「ケンタウロス5!」
「ケンタウロス8!」
「3着になんとーー!」
「ケンタウロス3!」
「ここで人気薄が3着に入りました!」
「うわぁぁぁぁ!」
「3来るんかーーーい!」
天使は頭を抱えた。
「なんで買わへんかったんや、オレぇぇぇ!」
実況が興奮気味に勝ち馬を伝え、競馬場は大きな歓声に包まれた。
俺は手元の馬券を見つめる。
「……あ。」
「当たってる。」
「5番、本当に勝った。」
「にぃちゃん!」
「当てたん!?」
さっきまで頭を抱えていた天使が、驚いた顔で駆け寄ってきた。
「はい。」
「単勝だけですけど。」
「初心者で当てるかぁ!」
「運ええなぁ!」
天使は笑いながら俺の肩を軽く叩いた。
「そういえば、にぃちゃん。」
「49日の人間やんな?」
「はい。」
「天界、興味ない?」
「え?」
「桃源郷とか、神の塔とか。」
「案内したるで。」
(人手……。)
(ア、天使手不足デシタ。)
「また漏れてるぞ。」
「うるさいわ!」
天使は少し照れくさそうに笑った。
「まぁ、それもあるけどな。」
「せっかく49日しかおられへんのや。」
「見といて損はないで。」
「面白そうですね。」
「行きます。」
「決まりや!」
「ほな、明日。」
「棟の入口で待っとる。」
「役場の少し上の階や。」
「分かりました。」
その時、場内アナウンスが響いた。
「これよりレオナルド・ダ・ヴィンチ記念、表彰式を行います。」
観客の拍手の中、ダ・ヴィンチがゆっくりと姿を現した。
優勝したケンタウロスへ記念品を手渡し、穏やかな笑顔で祝福している。
(アノ電光掲示板とゴール写真判定機はダ・ヴィンチ様が考案されマシタ。)
(競馬への多大な貢献により、本競走は『レオナルド・ダ・ヴィンチ記念』と名付けられてオリマス。)
「……ダ・ヴィンチさんやなぁ。」




