第7話 恋敵からの手紙だと思ったら、代理の話でした(商行為の代理・顕名不要)
いつも添えているネタ絵ですが、今回は出てきませんでした(-_-;)
恋敵の手紙だと思ったら、代理と支払名義の照会書。
お嬢様も作者も、帳簿の前で固まりました。
いいネタがあったら教えてくださいm(__)m
翌朝。
今日こそは、私が先に動く。
ノアより早く起きる。
ロッテが帳簿を持ってくる前に支度を終える。
朝食の前に、昨日の書簡を片づける。
完璧な作戦である。
私は寝台の上で、静かに目を開けた。
「おはようございます、お嬢様」
「おはようございます」
すぐそばに、ノアとロッテがいた。
私は毛布を握った。
「一ついいかしら?」
「はい」
「なぜいるの」
ノアは、いつも通りの顔で一礼した。
「お嬢様がお目覚めになるのを、お待ちしておりました」
「レディの部屋で待つものではないわ」
「はい。ですので、ロッテと二人でお待ちしておりました」
「人数の問題を言っているのではないの」
言ってから、毛布を少し引き上げた。
ロッテは小さく頭を下げる。
「帳簿係としては、複数確認の方が安全です」
「そこに帳簿係の立場を持ち込まないで」
私は窓の方を見た。
部屋はまだ薄暗い。
「だいたい、外はまだ暗いじゃない」
「朝でございます」
ロッテがカーテンの前へ進んだ。
「昨日のお嬢様のお言葉をお借りすれば、時間は室内の明るさで判断されるとのことでしたので」
「それは早く忘れて」
「帳簿に残っております」
「残さないで」
ロッテがカーテンを開けた。
朝の光が、遠慮なく部屋に入ってくる。
「お嬢様。朝です」
私は目を細めた。
太陽は今日も私の味方ではないようだ。
「太陽も、もう少し優雅さを覚えるべきではなくて?」
「自然現象でございますので」
ノアが言った。
「支払期限みたいに言わないで」
「どちらも、お嬢様のご意向では止まりません」
「同じにしないで」
私は毛布から手を離した。
朝食は、いつものように丁寧に用意されていた。
温かい紅茶。
焼きたてのパン。
卵料理。
蜂蜜の壺まで、きちんと添えられている。
そして、ロッテの手元には小さな帳簿。
「朝食に帳簿を添えないで」
「まだ開いておりません」
「存在が問題なの」
ノアは紅茶を注ぎながら、穏やかに言った。
「朝食後は、ヴィオラ様の書簡からでございます」
私はパンを取り落としかけた。
「朝食中に言うことではないわ」
「朝食後すぐに必要なことですので」
「逃げ道を朝から塞がないで」
「朝は、物事を始めるのに適しております」
「そんな朝は知りたくなかったわ」
私はパンを少しだけ強くちぎった。
悪くない味だった。
それがまた腹立たしい。
朝食後、私は執務室へ向かった。
正確には、向かわされた。
前にはロッテ。
後ろにはノア。
廊下の横道を一度だけ見た。
ロッテが、書簡の束を抱え直した。
何も言っていないのに、戻れない気がした。
執務室の扉が開く。
朝の光が机の上に差し込んでいた。
そして。
昨日、帳簿上は保留にした書簡が、そこにあった。
クライン商会。
昨日と同じ封蝋。
昨日と同じ紙質。
昨日と同じ宛名。
なのに、一晩置かれただけで、少し迫力が増している気がする。
保留とは、敵を弱らせる処理ではないらしい。
むしろ、机の上で育つ。
私は銀のペーパーナイフを手に取った。
取っただけで、まだ開けてはいない。
そこは大事だ。
ペーパーナイフを持つ指先に、ほんの少し力が入る。
封蝋には、クライン家の紋章。
流れる麦穂と、交差する二本の秤。
いかにも新興商会らしい、実利と豊穣を前面に出した紋章だった。
つまり、ヴィオラ・クラインの家である。
夜会で、レオンハルト殿下の隣に立っていた少女。
淡い桃色のドレス。
柔らかく波打つ花を思わせる色の髪。
庇護欲を誘うような笑み。
そして、元々私が立っていた場所にいた相手。
恋敵として憎めばよいのか。
取引相手として見ればよいのか。
それとも、王家に近づいた新興商会として警戒すべきなのか。
昨日までの私なら、たぶん一つ目を選んでいた。
今は。
そこまで言い切れなかった。
少なくとも、机の上には請求書があり、隣には帳簿係がいて、背後には執事兼支配人が立っている。
つまり、泣くには向かない環境である。
「お嬢様」
ロッテが、私の前に小さな皿を置いた。
焼き菓子が三つ。
「糖分です」
「ありがとう。気が利くわね」
「ヴィオラ様の書簡を読む前には必要かと思いまして」
「言い方を少し柔らかくしたつもり?」
「はい」
「柔らかくはなっていないわ」
私は焼き菓子を一つつまんだ。
甘い。
少しだけ落ち着く。
だが、封筒は甘くない。
むしろ、封蝋の赤が妙に挑発的に見えた。
「勝利宣言かしら」
「開封しないことにはわかりかねます」
ロッテが即答した。
「ですが、封筒の厚みから見て、感情文ではなく照会文の可能性が高いです」
「恋敵からの書簡の厚みを、感情ではなく事務で判断しないで」
「帳簿係ですので」
ロッテは真顔だった。
私はノアを見た。
ノアはいつものように、涼しい顔で立っている。
黒髪。
モノクル。
白手袋。
いつ見ても隙のない完璧な執事である。
そして、私はもう知っている。
この男は、ただ紅茶を淹れるだけの人ではない。
アルマーシュ商会の支配人。
商会の顔として、外に立つ人間。
便利で、危なくて、頼りになりすぎる人。
「ノア」
「はい、お嬢様」
「あなた、これに心当たりは?」
ノアは封筒を一瞥した。
「クライン商会からの照会状であれば、いくつか可能性はございます」
「いくつか?」
「はい」
ノアは、少しだけ言葉を選んだ。
「先日の香料取引。北倉庫の保管契約。港町リュカオンの仲介案件。それから、アルマーシュ商会のために出された注文についての確認」
最後の言葉に、私は眉をひそめた。
「アルマーシュ商会のために出された注文?」
「はい」
「私、出していないわ」
「存じております」
「では、誰が出したの?」
「当商会の正式な承認記録には、該当する注文はございません」
「では、間違い?」
「そうであればよいのですが」
ノアは封筒を見た。
「外から見れば、アルマーシュ商会のために出された注文に見える可能性があります」
「見える可能性?」
「はい。ですので、名義、経路、作成者、そして誰のために出されたものかを切り分けます」
「誰のために?」
変なところに、言葉が刺さった。
名前ではなく。
ロッテが帳簿を一冊開いた。
ぱたり、と乾いた音がした。
「お嬢様。今回の入口は、支配人ではありません」
「違うの?」
「はい。支配人の説明は、昨日いたしました」
「そうだったわね。聞かされたわね」
「本日は、その先です」
ロッテは紙に短く書いた。
――商行為の代理。
――顕名不要。
「顕名?」
「本人のためにすることを示す、という意味です」
「つまり、誰のために契約するのかを名乗ること?」
「かなり大ざっぱに言えば、そのような理解で大丈夫です」
ロッテはうなずいた。
「民法では、代理人が契約をする場合、原則として本人のためにすることを示す必要があります」
「私は誰々のために契約します、と言うのね」
「はい。ですが、商行為の代理では、少し違います」
ロッテは、帳簿の端を指で押さえた。
「商行為の代理では、代理人が本人のためにすることを示さずに契約した場合でも、本人に効力が生じます」
私は、封筒を見つめてしばらく黙った。
「つまり、アルマーシュの名前が大きく書いていなくても」
そこで一度、言葉が止まった。
「アルマーシュのためにされた商いなら、アルマーシュに返ってくることがある?」
「はい」
ノアが答えた。
「もちろん、何でもかんでも、というわけではございません。代理権の有無、取引の性質、相手方がどう認識していたかなど、確認すべき点はございます」
ノアは一礼した。
「しかし、家のために動いたなら、家に返ってくることがございます」
家に返ってくる。
その言葉が、妙に重かった。
恋なら、相手の名前を呼ばなければ届かないこともある。
夜会なら、誰の名代かを告げなければ席に着けないこともある。
けれど商いでは。
名乗らないまま、返ってくる。
たぶん、それが一番怖い。
私は封筒を見下ろした。
クライン商会。
ヴィオラ・クライン。
恋敵の名前に見えていたものが、急に別の顔を持ち始める。
これは手紙ではない。
たぶん、照会だ。
感情ではなく、取引。
そう読まなければならない紙だった。
向こうはきっと、アルマーシュの名を見ている。
私ではなく。私の怒りでもなく。
アルマーシュという看板を。
「開けるわ」
「はい」
ノアがうなずく。
ロッテが焼き菓子の皿を少しだけ近づけた。
「追加の糖分です」
「今からそんなに必要なの?」
「おそらく」
嫌な予告だった。
私はペーパーナイフを取り、封蝋の端に刃を入れた。
赤い封が、静かに割れる。
中から出てきたのは、薄桃色の便箋ではなかった。
香水の匂いもしない。
恋敵らしい嫌味も、勝利宣言も、涙を誘うような美しい言葉もない。
そこにあったのは、きっちり罫線の引かれた照会書だった。
私は一行目を読んだ。
アルマーシュ商会のために発せられた香料百二十箱の注文につき、納入条件および支払名義の確認を申し上げます。
私は固まった。
百二十箱。
香料。
注文。
そこで一度、目が止まった。
納入条件。
支払名義。
「ロッテ」
「はい」
「焼き菓子、もう一つ」
「どうぞ」
私は焼き菓子を口に入れた。
甘い。
だが、口の中の甘さとは別に、胃のあたりが冷たくなる。
「ノア」
「はい」
「香料百二十箱というのは」
「通常量ではございません」
「通常量ではない、というのは、どのくらい?」
「多すぎます」
私は目を閉じた。
「なぜ最初からそう言わないの」
「お嬢様のお心に配慮いたしました」
「今のどこが配慮なの」
ノアは少しだけ微笑んだ。
「段階的な絶望でございます」
「そんなものを丁寧に提供しないで」
ロッテが照会書の写しを手元に引き寄せた。
「注文書の名義と経路は、確認が必要ですね」
「ええ」
ノアは答えた。
「ただし、支払名義はアルマーシュ商会。納入先は北倉庫。用途は冬季向け保存香料の先行確保となっております」
「冬季向け保存香料?」
私は首をかしげた。
「そんな計画、聞いていないわ」
「先代の時代にはございました」
ノアの声が、ほんの少し低くなる。
「しかし、今年度は凍結予定でした」
「では、なぜ注文が?」
「そこを確認する必要がございます」
ロッテが帳簿をめくる。
「お嬢様。照会書の趣旨は、クライン商会が責めてきているというより、支払名義と納入条件を確認しているものです」
「つまり?」
「向こうも、少しおかしいと思っています」
私は照会書を読み直した。
文面は丁寧だった。丁寧すぎて、かえって冷たい。
敵意はない。
たぶん。
ただ、危ない橋を渡る前に、こちらの意思を確認しているようには見えた。
「昨日、これを保留にしたのは、まずかった?」
ふと、気になった。
ロッテが顔を上げる。
「昨日の時点で、契約の申込みを承諾した扱いになるものではありません」
「そうなの?」
「はい。この書簡は、契約の申込みそのものではなく、支払名義と納入条件の確認を求める照会です」
「少し安心していいの?」
「ほんの少しだけです」
「ほんの少し」
私は焼き菓子の皿を見た。
「はい。照会を放置すれば、信用は傷みます」
ロッテは、別の紙束に手を置いた。
「そして、後ほど出てくる申込書は別です」
「別」
「はい。そちらは、本当に放置すると危ないものです」
「朝から安心させる気がないのね」
「帳簿上は、順番に処理しております」
「順番が怖いわ」
「ヴィオラが書いたのかしら」
「署名はクライン商会、取引管理部です」
「本人ではないのね」
「ただし、末尾に追伸がございます」
ロッテが紙の下部を指した。
そこには、本文とは明らかに違う、丸みのある文字が添えられていた。
ミレイユお姉さま。
お返事をいただけましたら嬉しいです。
香料は、寒い季節に必要なものですもの。
どうか、お身体を冷やされませんように。
ヴィオラ・クライン
私は無言で紙を置いた。
「何が起きているの?」
「わかりかねます」
ロッテが冷静に言った。
「ヴィオラは何を考えているの?」
「ヴィオラ様のお考えは不明ですが、取引先としても、個人としても、やや距離の近い文章です」
ノアの笑みが消えていた。
「お嬢様への追伸は不要です」
「そこ?」
「正式な照会書に、私信を混ぜる必要はございません」
ノアの声が少し硬い。
私は思わず彼を見た。
支配人として怒っているのか。
執事として怒っているのか。
私は紙に目を戻した。
見なかったことにした。
ロッテが、こほん、と咳払いをした。
「まず確認すべきことは三つです」
「三つもあるの」
「三つで済ませます」
「済ませる、という言い方がもう怖いわ」
「一つ。この注文書が、誰によって出されたものか」
「そうね」
「二つ。その人に、アルマーシュ商会のために動く権限があったのか」
「権限」
「三つ。仮に商会のために動いたものだとした場合、その効果がアルマーシュ商会に帰ってくるのか」
ロッテは私を見た。
「ここで、代理の話になります」
私は深く息を吐いた。
「つまり、これは恋敵からの手紙ではなく」
「はい」
「代理と名義と支払責任の話」
「さようでございます」
私は封筒を見た。
「恋敵の方が、まだ分かりやすかったわ」
「恋敵の勝利宣言よりは、処理可能です」
「そこを慰めにしないで」
ロッテはまったく悪びれなかった。
ノアが机の上へ別の紙を置いた。
「お嬢様。まずは、クライン商会へ返答する必要がございます」
「何と?」
「本注文について、当商会の正式な承認記録には現時点で該当がないこと。もっとも、名義および経路を確認中であること。納入の停止または保留を求めること。支払名義について確定回答を留保すること」
「長いわ」
「短くすると、危険です」
「では、その長いものを送ればよいのね」
「はい。ただし」
ノアはそこで一拍置いた。
「返答の遅れは、別の問題を生みます」
「別の問題?」
ロッテが、次の紙を私の前に置いた。
そこには、すでに別の取引先からの申込書が何通も並んでいた。
「お嬢様。商人は、返事をしない自由がいつでもあるわけではありません」
私は嫌な予感しかしなかった。
「ロッテ」
「はい」
「今、何か聞きたくないことを言おうとしている?」
「はい」
「正直ね」
「帳簿係ですので」
ロッテは一枚の申込書を指で押さえた。
「こちらは、平常取引先からの申込みです。しかも、アルマーシュ商会の営業に属する内容です」
「それが?」
「このような場合、放置すると、承諾したものとみなされる可能性があります」
私は椅子の背にもたれた。
「返事をしていないのに?」
「はい」
「返事をしたことになるの?」
「そうです」
私は天井を見上げた。
貴族令嬢の沈黙は、時に余韻であり、品位であり、拒絶であり、許しである。
だが、商人の沈黙は。
「帳簿は、沈黙を優雅とは評価しないのね」
「はい」
ロッテはうなずいた。
「期限として評価します」
私はそっと目を閉じた。
昨日保留にしたことは、ただちに承諾になるものではなかった。
少しだけ助かった。
少しだけ。
でも、机の上には次の紙がある。
アルマーシュの名は、私の誇りだと思っていた。
けれど今、その名で誰かが注文書を書き、納入日を決め、支払名義を確認している。
家名は飾りではない。
看板だ。
たぶん、私が思っていたよりずっと外を向いている。
私が泣いている間も。
怒っている間も。
カーテンを閉めている間も。
取引先は、その名前を見て動いている。
「ノア」
「はい、お嬢様」
「まず、クライン商会へ返事を書くわ」
「承知いたしました」
「それから、注文書の経路を洗いなさい」
「すでに手配しております」
「早いわね」
「お嬢様のお手を、汚れた帳簿に触れさせたくはございませんので」
「前に聞いたわ、その重い優しさ」
ノアは微笑んだ。
ロッテは無言で帳簿を押し出した。
「では、お嬢様。返答案の前に、関係書類の確認を」
「今から?」
「商人の返事には、期限があります」
私はペンを取った。
ヴィオラの追伸は、分からない。
ノアの声が少し硬くなった理由も、分からない。
分からないものばかり増えていく。
なのに、返事だけは求められる。
逃げたい。
とても逃げたい。
けれど、アルマーシュの名で届いた紙を、アルマーシュの令嬢が見なかったことにはできない。
「……返事を書くわ」
声は少し硬かった。
でも、震えてはいなかった。
たぶん。
書き出しは、まだ決まらない。
それでも私は、ペンを置かなかった。
ロッテの帳簿メモ
本日の項目
商行為の代理――顕名不要
今回は、商行為の代理です。
前回までに、支配人や代理商など、
「誰が商会のために動くのか」を整理しました。
本日は、その先です。
その人が商会のためにした行為は、誰に効くのか。
ここが問題になります。
商法504条 商行為の代理
商行為の代理人が本人のためにすることを示さないでこれをした場合であっても、
その行為は、本人に対してその効力を生ずる。
ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知らなかったときは、
代理人に対して履行の請求をすることを妨げない。
民法では、代理人が契約をする場合、
原則として「本人のためにすること」を示す必要があります。
これを、ざっくり言えば、
「誰のために契約するのかを名乗ること」
と考えると分かりやすいです。
これを顕名といいます。
ところが、商行為の代理では少し違います。
商行為の代理人が、本人のためにすることを示さずに行為をした場合でも、その行為は本人に対して効力を生じます。
つまり、商いの場では、
「私はアルマーシュ商会のために契約します」
と毎回はっきり言っていなくても、
実際にアルマーシュ商会のために行われた商行為であれば、
アルマーシュ商会に効果が帰属する場合があります。
お嬢様向けに言えば、名前が出ていないから無関係。
とは限りません。
誰のために動いたのか。
そこを見ます。
帳簿上、名札より目的が問題になる場面があります。
お嬢様は嫌そうな顔をされました。
帳簿係としては、正しい反応だと思います。
今回のクライン商会の書簡について
今回のクライン商会の書簡は、
契約の申込みそのものではなく、
支払名義と納入条件の確認を求める照会として扱っています。
ですので、昨日お嬢様が開封を保留したことによって、
直ちに承諾した扱いになるものではありません。
ここは少しだけ安心してよいところです。
少しだけです。
照会であっても、放置すれば信用は傷みます。
帳簿上、保留は消滅ではありません。
机の上に残ります。
ただし、別の紙は別です。
次に出てきた申込書は、
平常取引先からの契約の申込みです。
ここでは、商法509条が問題になります。
商法509条 契約の申込みを受けた者の諾否通知義務
1 商人が平常取引をする者から
その営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは、
遅滞なく、契約の申込みに対する諾否の通知を発しなければならない。
2 商人が前項の通知を発することを怠ったときは、
その商人は、同項の契約の申込みを承諾したものとみなす。
つまり、商人はいつでも黙っていてよいわけではありません。
平常取引先から、
いつもの営業に関する契約の申込みを受けた場合には、
遅滞なく、受けるのか断るのかを通知する必要があります。
これを怠ると、
承諾したものとみなされることがあります。
お嬢様向けに言えば、
返事をしていないのに、
返事をしたことになる場合があります。
お嬢様は天井を見上げました。
帳簿係としても、気持ちは分かります。
本日の整理
一 商行為の代理では、顕名がなくても本人に効力が生じることがある。
二 名前が出ているかだけでなく、誰のためにされた行為かを見る。
三 ただし、代理権の有無、取引の性質、相手方の認識などは確認が必要。
四 照会書と契約の申込みは分けて見る。
五 平常取引先からの営業に関する申込みは、放置すると承諾扱いになることがある。
本日のひとこと
家のために動いたなら、家に返ってくることがあります。
そして、商人の沈黙は、優雅ではなく期限です。




