セレーネ家 ③
来ていただいてありがとうございます!
「失礼するよ、二人とも」
強めのノックの音がしてフィルが応えると、二人の男性が私達の控室へ入ってきた。
「どうなさったのですか?エクランド様。舞踏会へのご出席はもうよろしいのですか?」
二人のうちの一人は再びのエクランド様だった。もう一人の人は誰だろう?騎士さんと文官さんを合わせて割ったような服装をしてる。
「いやあ、僕も困ってるんだよ、フィル。僕は人気者だからたくさんのご婦人方が僕を待ってるんだけどねぇ。このマーク・ケイジ君に捕まってしまってね」
「お楽しみの所大変申し訳ございません、エクランド様」
エクランド様にマーク・ケイジと呼ばれた体格のいい日焼けした男の人は、アクロアイト王国の特別警察部隊、巡警吏のリーダーだと名乗った。
「我々にご協力いただいているセレーネ殿のお姿が急に見えなくなりまして、どうやらこちらにいらっしゃるようだと部下から報告があったのです。我々は許可なく城の奥へ入ることはできませんので……」
「いやぁ、申し訳ない。私にとっては一大事が起こってしまったものでつい……」
鋭い目でマーク・ケイジ様に睨まれたセレーネ様は言い訳をしながら苦笑いを浮かべた。
「困るなぁ。勝手にそんなことをおっしゃられては」
私達の話を聞いたエクランド様は大仰にため息をついて髪をかきあげた。
「彼女は我が国の貴重な人材なんですよ?我々に断りもなくスカウトなさらないでいただきたい。大体、貴殿らの不始末で呪法が盗み出され、僕らの国は多大な被害を被ったばかりだというのに」
「そ、それは大変申し訳なく思っております」
一人掛けのソファに座ったエクランド様とその後ろに立ったケイジ様にじろりと睨まれてセレーネ様は汗を拭きつつ小さくなってる。
「大体、そこにいるセシリー嬢もそのせいで大変な目にあったのですよ?」
フィルも闇の聖地から盗み出された呪法のせいだったって教えてくれたけど、じゃあ……。
「あの演奏会の時に私とディオン様を襲ってきたのは黒い獣じゃなくて、呪法や呪術に操られた精霊様だったのですか?」
そんな……確かに黒い影みたいな動物だったけど、あれが精霊様だったなんて。呪法のせいであんなに禍々しい姿になって私達を襲うようになってしまったの?酷い。可哀想だよ。
「その節は大変ご迷惑をおかけしたようで申し訳ありません。全ては我らの警備体制の甘さが招いたことです」
セレーネ様は深く頭を下げた。その姿に胸が痛くなった。
「でもそれは!闇の聖地から呪術や呪法を盗み出した人が悪いんでしょう?セレーネ様は悪くないです!」
話を聞くと、セレーネ様は各地に散らばった呪具を回収してまわってるらしく、巡警吏の人達が押収したそれらを持ち帰って再び封印するためにアクロアイト王国を訪問したということだった。それってものすごく大変だったのに、その上責められるのは可哀想だと思う。
「ありがとうございます、オルコット様。しかしやはり我々の責任なのです。とても危険なものを世に放ってしまったのですから。今更ですが、オルコット様がご無事で本当に良かったです」
セレーネ様は弱々しく微笑んで、また頭を下げた。フィルが私の手を握りしめたから、私はそれ以上何も言えなくなってしまった。
「あの黒い獣、いや精霊の呪具は封印されたと聞いていますが」
「はい。あのプレートは封印を施されて今は城の地下室に」
フィルが尋ねるとケイジ様が答えてくれた。セレーネ様はそれを持ち帰って今度こそ完全に封印するそうだ。
「でも、元々は精霊様なんですよね?ずっとそのままなんですか?」
「呪具から放たれて行動するようにまで成長した黒い精霊は清めるのにも相当の時間がかかります。今の我々では解放して差し上げる術はないのです……」
セレーネ様は悲し気にその灰色の瞳を伏せた。
「それにしてもあの事件が起こったのは冬ですよ?ずいぶんいらっしゃるのが遅かったのですね」
エクランド様が呆れたように片手を広げて見せた。
「なにぶんにも手が足りずに申し訳ないです。各地で緊急性のある方を優先して回っていたので、こちらには封印ができる方がいらしてくださったということで助かりました」
あの演奏会の時のようなことがあっちこっちで起こってたんだ……。精霊様達がそんなにたくさん閉じ込められてるってことなの?何とかできたらいいのに。私は傍らのリュラ―のケースを見つめた。
「まあそれはそれとして、僕も見てみたいな。その呪具が清められるところを」
「エクランド様?お戯れを仰られては困りますな」
ケイジ様が嫌そうにエクランド様を見た。その気安い感じからなんとなくだけど、この二人は仲が良いのかなって思った。
「まあいいじゃないか。まだフィルは試してないんだろう?やってみないか?」
「……無駄だと思いますが……」
「是非お願いいたします!」
セレーネ様が嬉々として布袋から黒い石を取り出すと、フィルは渋々といった表情でハープを弾き始めた。フィルの演奏が終わると黒い石は少しその色を薄めた。すごい!もしかしたら音楽には清めの効果があるのかもしれない。
「うーん、あまり変化がないねぇ。じゃあセシリー、やってみてくれない?」
「エクランド様!」
フィルが珍しく声を荒げたけど、私は精霊様を助けたかったからすぐにリュラ―を準備した。カチカチと音がして、テーブルの上には五つほどの石が並べられてた。布袋の中に入っていた石を全て出すようにエクランド様が指示したみたい。まだこんなに精霊様が閉じ込められた石があったんだ……。私は決意を込めてリュラ―を弾き始めた。
「ほう!これはすごい!」
エクランド様とセレーネ様が目を輝かせ、ケイジ様は戸惑ったように部屋を飛び回る精霊様達を見てる。演奏が終わるとさっきの比じゃないくらいの疲労感が襲ってきて倒れこみそうになった。だけど五つ全てを清めることができて、精霊様達が無事に飛び去って行ったからホッとした。
「セシリー!!」
私を抱き起してくれたフィルの咎めるような瞳を見ても後悔は無く、ただ良かったと思ってしまった。
「ごめんね、フィル。ありがとう」
「全く……君は……」
そのまま強く抱きしめられてびっくりしちゃった。そんなに心配させちゃったの?ちょっと疲れただけなんだけど、フィルってばどうしちゃったの……??
「素晴らしいものを見せていただき感謝いたします。しかしセレーネ家がヴァシスベリル王国の王家に連なる血筋の家とはいえ、ここはあくまでアクロアイト王国です。これ以上の勝手な行動は困ります。常識的な行動をお願いいたします」
「はい。申し訳ありません。ではこれで失礼します」
エクランド様が微笑むとセレーネ様は立ち上がり、一瞬だけ私と目を合わせるとケイジ様に連れられて部屋を出て行った。
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