二日目
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「結局、筆記試験って何だったんだろう?」
受験が終わって寮に戻ったのはもう暗くなってからだった。正式な合格発表は後日ということで今はまだみんなに合格を伝えてはいない。夕食の後、ベッドにダイブしてようやく色々落ち着いて考えることができるようになってきた。
星の音楽団の入団試験の肝が実技試験だったことは実際に受験してみてわかった。つまりは大精霊様に認められることが入団の条件だったんだと思う。
「ミルンさんが『見届ける』って言ってたのは、本当にそのままの意味だったんだ……」
でも筆記試験の為にあんなに勉強したのって、もしかした無駄だったとか?だとしたらちょっとショック。
実技試験の後、星音の宮の事務室で各種書類を渡されて、別室で本当にお茶をいただいてしまった。しかもケーキや焼き菓子も大量に勧められて、大勢の団員さん達に囲まれて話を聞かれた。どうやら、結構な数の団員さん達が隠れて実技試験を見てたらしく、私の演奏の事とその時に出てきた大精霊様達の話題でずいぶん盛り上がってた。後から聞いたらそこは合格者の為の控室だったらしいけど、一日目の試験が終わる夕方になっても私の他に入ってきた人はいなかった。
「毎年、試験に受かる人はほんの一握りって聞いてたけど、本当だったんだ……」
思っていたよりもずっと厳しい世界だった。たぶん私よりも演奏が上手な人だっていたはずなのに、大精霊様に認められる基準ってなんだろう?本当に私で良かったのかな。
「…………はぁっ!せっかく受かったのに落ち込んでどうするっ!!」
起き上がって窓を開けた。真冬の冷たい風が火照った頭と顔を冷やしてくれる。そうだ。私は合格できたんだ!これからはあの岩のステージで、星の聖地でリュラ―を弾き続けられるんだ。今まで以上責任と覚悟が必要だわ。机の上に置きっぱなしだったリュラ―をケースから出してギュッと抱きしめた。
「お母さん、私、星の音楽団に入れたよ。これから頑張るからね」
冬の夜空に一つ星が流れていった。
「どうかみんな合格できますように」
翌朝早くに窓を開けて星の聖地に向かってお祈りした。
今日は二日目でフィル様とコリンナ様の試験の日。他にも何人かの三年生の先輩方の試験もあるはずだと聞いてる。マーシーが今日かはわからないけど、みんなで星の音楽団に入れたら嬉しい。そんな願いをこめて精霊様に祈った。
星の音楽団の試験の間、ポロス学園はお休みになる。今日と明日は寮の自室で静かに過ごそうと思ってるんだ。リュラ―の手入れをしたり、入団の手引書を読んだり、年間の演奏会の予定表を見たり。
「あ、団長さんの名前って初めて知った。クラムさんっていうんだ。えっ?あれ?ミルンさんって副団長さんの一人なの?ジュディーさんってハープの代表者だったんだ!」
今読んでるのは団員名簿。リュラ―の奏者はクラークさんを含めて三人。しかもそのうち一人は今期で退団してしまうみたい。(退団予定って書いてある)やっぱりリュラ―って人数が少ないんだなぁ。いい音出るのに。
一番星が輝きだす頃、ドアがノックされた。あれ?まだ夕食の時間じゃなかったよね?不思議に思ってると、寮母のマーガレットさんが来客だって呼びに来てくれた。
「お客様ですか?今頃?」
急いで階下に降りると、玄関の外、門の近くにいたのはフィル様だった。
「フィル様?」
フィル様は薄暗い中で門の中には入ろうとしないから、私が門の外へ出た。これくらいなら無断外出にはならないよね?
「ごめん、こんな時間に。でも最初に伝えたくて」
「いえ、どうかなさったんですか?」
「僕も合格したよ」
「え?本当ですか!良かったですね!おめでとうございます!」
あれ?僕もって言った?じゃあ、私のことも知ってるの?ミルンさんに聞いたのかな?
「セシリーもだよね?」
「はい。発表まではって思ってまだ誰にも伝えていないんですが……」
「だと思った。僕もそうするつもりだったんだけど、セシリーとは分かち合いたくて」
「誰かにお聞きになったんですか?」
「いや。でもあれが試験なら、セシリーは間違いなく受かってると思ったんだ」
フィル様の謎の信頼感に戸惑ってしまう。……でも私もフィル様なら大丈夫だと思ってたって今頃気が付いた。
「驚きましたよね」
「うん。でも合理的ではあるなって思ったよ」
フィル様と私は顔を見合わせて笑い合った。
「この春からは忙しくなりそうだ」
「そうですね。学園と音楽団の両方ですものね」
両立できるかな。今からちょっと不安だけど、楽しみな気持ちの方が大きい。
「これからは本当の仲間で、ずっと一緒だね」
「……は、はい」
ずっと一緒……。そっか。学園を卒業してもずっと一緒に演奏できるんだ。そう思ったらなんだかもっと嬉しくなってきちゃった。
「これからもお互い切磋琢磨し合って頑張ろう!」
フィル様本当に嬉しそう。いつもより声が弾んでる。そうだよね。音楽で生きていけるようになったんだもの。私だって嬉しい!今頃になって合格の実感が強まってきた。
「はい。頑張りましょう。フィル様」
「…………」
「フィル様?」
あれ?黙っちゃった。私何かおかしなこと言ったかな?
「それ、そろそろやめない?」
「え?」
それって何?何をやめるの?
「敬語。それにその呼び方も。ただのフィルでいいよ」
「ええ?!さすがにそれは……」
「星の音楽団では身分は無くなる。みんな対等だ。だから様付けなんておかしいよ」
「言われてみれば……」
そうかもしれない。
「ね?」
フィル様の深い青の瞳が間近にある。わわっ!フィル様、顔を近づけすぎ!星の音楽団に入団が決まってはしゃいじゃってるの?急いで一歩後ろに下がりつつ言った。
「わかりました!鋭意努力いたしますっ!」
「わかってないじゃないか……。これからはちゃんとしてね」
呆れられて叱られた。なんだか理不尽な気がする。でも、星の音楽団の中では身分の差は無くなるって聞いたから、私が間違ってるのかもしれない。
「わ、わかった。頑張る、ね」
うう、やりにくい。
「うん」
頷いたフィル様は今日一番の笑顔を見せた。
「それじゃあ、帰るよ。父に報告しないとうるさいから。また学園で」
「はい……うん。試験お疲れ様でした。おやすみなさい」
「……うん、おやすみ」
フィル様は少し苦笑いした後、帰って行った。
「そうだ!私もエクランド様に手紙を書かなくちゃ!」
門を閉めて寮へ戻った。もう連絡がいってるのかもしれないけど、エクランド様には自分で報告するのが礼儀だよね。だってここまでこれたのはエクランド様のご支援があったからだもの。
「あとお父さんにも出そうかな……」
机の引き出しからとっておきの便箋と封筒を取り出して、文面に悩みつつもペンを走らせた。
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