第19話 見つけた(4)
地下に連れて来られた梨里香は、使用人に引っ張られるように薄暗い通路を歩く。いくつかあるうちの1つの牢の前で使用人が立ち止まった。そこで梨里香はアナスタリナを見つける。
牢の入り口には明かりが灯っており、中の様子がうかがえるようになっていた。アナスタリナも梨里香に気づいており、互いの視線が重なる。梨里香は心強く思い、笑顔と共に声を出しアナスタリナに呼びかけようとしたが、アナスタリナはそれを察してか梨里香から視線をずらし、連れてきた使用人に言葉をかけた。
「新しい娘を誘拐してきたの?」
それを聞いて梨里香は、今は知り合いと言わない方が良いと悟る。
「いや、このウサギは外から家の中の様子を覗ってやがった」
「たったそれだけで牢に入れちゃうの? ただの迷子かもよ?」
「いや、何かを隠してる」
「怯えてるだけじゃないの?」
「問いに答えない。牢に入れるには充分だ」
「それは誘拐したっていうことね」
「こら! 人聞きの悪いことを言うんじゃない!」
「この娘がここに来たいと言ったの?」
「はあ? なに言ってんだ」
「じゃあ、歴とした誘拐じゃない。ここのみんなもそうよ! 誘拐されたのよ!」
アナスタリナの語気を荒げた言葉に、他の女性達も「そうよ、そうよ」と声を上げる。
「うるさい! 黙れ! お前もここに入るんだ」
気まずさを感じたのか、使用人はアナスタリナに強く言った後、梨里香を牢に押し込んだ。
「大人しくしてろよ」
使用人はそう吐き捨てて、その場を去って行く。
少しの沈黙のあと、梨里香はバツが悪そうにアナスタリナに苦笑を向けた。アナスタリナはやれやれと言わんばかりに小さな溜め息をつき、言葉を発する。
「新人さん、ようこそ」
「あ、どうも」
それをきっかけに、梨里香の周りに皆が集まってきた。
こんな所に入れられてと、他の女性達に比べて年齢が若い梨里香を気の毒に思ってのことだ。自分達も同じように無理矢理連れて来られたのだが、それよりも梨里香に興味が湧いた様子で、あれやこれやと質問攻めにしていた。
「もうそれぐらいにしてあげなさいよ。彼女も戸惑っているのだから」
アナスタリナの言葉に女性達は「それもそうね」と、壁際に散っていった。
そこで梨里香のところに近づいたアナスタリナは、小声でここに来ることになった経緯を聞く。
梨里香は、エルトルーシオと紫苑が地下通路への入り口を見つけて様子を見に行っている間、サラセオール王子と屋敷の様子をうかがっていた時に、自分だけ見つかったことを話す。
アナスタリナは、王女であろう女性がいるとは思うが、まだ確信は持てないので探っているところだと伝えた。
その頃、地下通路の探索をはじめたエルトルーシオ、紫苑、サラセオール王子の3人は、最初の壁にぶつかっていた。
地下通路への階段を降り、エルトルーシオは壁に備え付けてあった松明を手にし、一行は奥へと進むが、曲がりくねった通路を数十メートル行ったところで、行き止まりになっていたのである。
文字通り「壁にぶつかった」のだ。
分厚く見えるその壁は、そこから先への進入を拒むように人工的に造られているように見える、と紫苑は思った。
「これは行き止まりということでしょうか」
サラセオール王子が言うと、エルトルーシオは首を横に振る。
「いや。この壁は人工的に造られているようだ。先へ進むには何か仕掛けがあるように思う」
エルトルーシオの言葉に、紫苑は「やっぱり」と口にする。
「向こうに抜ける手がかりがあるはずだ。周りと少しでも違う場所がないか、注意して見てくれ」
そう言って、エルトルーシオは壁に松明を掲げる。乾燥した小枝や草を枯れ枝にあてがい布で巻いたものに、油を染み込ませた松明の灯りは、ゆらゆらと揺らめいていた。
3人はそれぞれ丁寧にトンネルの側面と壁を観察する。
目をこらして壁の隅を見ていたサラセオール王子は、ふうとため息をついた。
「どうにも解らないな」
松明の灯りがあるとはいえ、外の太陽の光に比べるとかなり暗く、なかなか見つけられないで少々のいら立ちを憶え始めているサラセオール王子に、エルトルーシオは言う。
「もっと注意深く見てみよう。きっとどこかに……」
「あっ」
エルトルーシオが言葉を言い切る前に、紫苑が声を発した。
「何か見つけたか」
「エル、ちょっとこっちに来てみて」
紫苑は、焦げ茶色や灰色の自然の石を組み立てて造ったような壁と、土の床の間に人工的にはめられたであろう石を指さす。
「これは一見周りに馴染んでいるようで見落としがちだが、よく見るとどうやら人の手で造られた物のようだな」
エルトルーシオはそう言いながら松明でその石を照らす。
少し薄い茶色の石は、他の場所と違い、土がほとんどついていない状態である。エルトルーシオは、この石には何か仕掛けがあると考えた。
「しかしこの石が壁と関係があるかどうか」
サラセオール王子は言うが、紫苑は「ここを押すとか踏むとか?」と言いながら足を上げる。
「シオン慎重に!」
エルトルーシオの言葉も聞かずに、紫苑は「えい!」とその石を踏み込んだ。
すると壁が大きく音を立てて、揺れ始める。周りには砂のような物がパラパラと落ちてきた。
3人は音が屋敷の者に聞こえはしないかと少し心配したが、その反面期待しながら様子をうかがう。
すると岩でできたような壁は左右に分かれ、先へと進む通路が現れた。
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