第19話 見つけた(2)
どこかに繋がっているであろう通路への入り口を見つけたエルトルーシオたち。すぐにも通路に入って内部を確認したい気持ちが大きくなる。
しかしこの石段の先がどこに繋がっているのか解らぬまま、全員で降りていくのは浅はかである。かといって、今まで同様動きのない屋敷を外から眺めているだけでは埒が明かない。
だが、焦って失敗するのは避けたい。
エルトルーシオは考えた。これからどうするべきか。
結局二手に別れて行動することで落ち着いた。
エルトルーシオと紫苑は石段の先へ、トレニーヌ国の王子、サラセオールと梨里香はその場に残り、屋敷の動きを見張ることになる。
通路への偵察に出かけたエルトルーシオと紫苑。まずはエルトルーシオが灯りを手に石段を降りて行く。静けさの中に足音だけがこだまする。地上に残された紫苑はゴクリと唾を飲む。先の見えない場所に降りて行くのが少々不安だったからだ。
しばらくして、エルトルーシオが入り口からひょいと顔を出した。
「少し様子を見てきたが、この石でできた階段の下には思った通り、どこかへ繋がる通路があった」
やっぱりと紫苑は頷く。
「見張りはいないようだが、気は抜けない。紫苑、行けそうか」
エルトルーシオは不安げな様子の紫苑に問うた。
「もちろん!」
紫苑は元気よく答える。内心の心配を隠して。
「では行くぞ」
そう言うとエルトルーシオはまた石段を降りて行く。紫苑もふうと息を整え、恐る恐る石段への一歩を踏み出した。
その頃地上で屋敷の玄関を見張っていたサラセオール王子と梨里香は、あまりにも動きがないため、少々退屈していた。2人とも、こういったことには慣れていなくて、待ち時間をどう過ごせばいいのか、持て余していたのである。
「特に動きはないようですね」
梨里香がサラセオール王子に話しかけた。
「そうだな。ただ待っているだけというのも落ち着かないな」
苛立ちを隠せない様子のサラセオール王子を察して、梨里香はある提案をする。
「ここでじっとしていても仕方がないので、昨日のようにあの窓の所まで行って、中の様子を覗ってみましょうか」
「おお、それはいいな」
「でも、気づかれないように、そおっと注意しながら近づかなければいけませんね」
「いや、あまりゆっくり歩いていては、かえって目立つかもしれぬ。近くまで草の中を行き、一気に走るのがいいだろう」
「了解しました。では、注意してまいりましょう」
2人は意気揚々と草むらを行く。
そして目的の窓まで数メートルのところで立ち止まり、辺りを注意深く見回す。
周りに誰もいないのを確認し、サラセオール王子と梨里香は背を低く保ち、窓まで一気に走った。
ふうと息をつき、2人は顔を見合わせる。そして中の様子を見ようと、ゆっくりと頭を窓からのぞかせる。
その窓から見える部屋の中では、屋敷の主人と使用人の男が何やら話している様子だ。王子と梨里香は聞き耳を立てた。
「そうか。では次の機会にということだな」
主人の言葉に、使用人はうなずく。
「はい。まさかあの男の手を振り払ってまで、馬車に乗るのを拒否するなんて」
「今までの女とは少し違うようだな」
「そうですね。あの線の細い美しい外見とは違い、少々気の強いところがあるようです」
「面白い。そんな女がいてもよかろう。きっとあの方も気に入って下さるだろう」
そんな会話を聞いて、サラセオール王子と梨里香は、自分たちがこの場を離れている間に何かあったのだろうと推測し、小声で会話をする。
男たちの会話に登場した女性が誰なのか気になるが、線が細く美しいというだけでは、人物の特定には及ばない。
自分たちは何事もなかったと思い込んでいたため、話を聞いて2人はいささか動揺していた。エルトルーシオたちは、そのことを知らずに石段の偵察に出かけている。
今ここで何か動きがあればどうすればいいのか、梨里香は急に不安になった。
サラセオール王子は、とにかく今は、石段の先を調べに行ったエルトルーシオと紫苑の帰りを待とうと提案する。梨里香は自分たちだけで何か行動をすることがなくて、内心ほっとした。
「では、行くぞ」
元の場所まで戻るべく、王子は梨里香に声をかけ、草むらに走り出した。
「はい」
梨里香も返事をして王子の後を行くが、その時……。
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