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私と俺のお気に召すまま! 〜婚約破棄もされた事だし、自分の好きに生きてやれ〜  作者: 関村イムヤ


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10 森の道中

 しかし、元から通じる言語を喋っている私とは違い、コボルド二匹のラルハネーシュの声に対する反応は劇的だった。

 パッとまんまるくした目でラルハネーシュを見つめだしたコボルドからは、未だ警戒心はありそうなものの険しい色がすこんと抜け落ちている。


「『……ケイヤク』」


 そうして聞こえてきた唸り声は、確かにそう聞こえた。


(喋った!! いや唸り声しか聞こえなかったんだけど!! なんて言ってるか分かった、今!! すげえ、なんだこれ!!)


 なるほど、こんな感じに聞こえる言葉なのか。確かに凄い。そして十分に不思議言語だった。


「『私はあなた方を治療します。それから、これだけの──食料もお渡ししましょう。引き換えに、あなた方は私を今からお渡しする物の真の持ち主の元まで無事に送り届ける事。如何でしょうか?』」


 ラルハネーシュは自分の背負い袋の中の食料を全て引き出した。逃走劇の礼として買い与えた、彼女の分の食料だ。ラルハネーシュの食事なので、予備も含めてかなりの量がある。大食いエルフ娘はとかく燃費が悪いのである。

 今からお渡しする物、の方はラルハネーシュがネッドから借りた革袋の事だった。匂いでも辿らせるのかな。


「『わふーん、ごはんー!』」

「『ダマレ!』」


 一匹が嬉しそうに吠え、最初に答えたもう一匹にガアッと吠えて怒られる。

 怯えたようにきゅーんと鳴いて耳をへにょんと伏せながら、「『でもおなかへったよー……ごはんー……』」と小さく呟く姿はまるっきり犬っころのそれだ。

 うーん可愛い。魔獣なのにあざと可愛い。

 厳しそうな方は困ったような顔で唸った。犬顔のせいか、表情は豊かで分かりやすい。


「『……ワカッタ。シカタナイ、ケイヤクスル』」

「『やったー!』」


 なんとも対照的な二匹だなぁ。ちょっと和みそうだ。


「『では契約するあなた方の名を』」

「『エメル』」

「『ろろ!』」


 二匹が答えた瞬間、突然パッと何かが輝いた。

 それはラルハネーシュと二匹を繋ぐ細い糸のようなもので、キラキラと煌きの残滓を残して消えていく。


「何、今の?」

「契約ですよ。魔力を用いて名を交わし、繋がりを得たのです」


 えーと、魔術的ななんかって事なんだろうか。魔術に関してはさっぱり分からないので、()の記憶から空想的な創作物のアイデアを参照するしかないんだが。


(まあ、とりあえず、コボルドゲットだぜ?)


 捕獲した訳じゃないんだけどね!


「繋がりを得たので精霊の言葉はもう使わなくなるのですが、一応、コボルト達との意思疎通の為に私からあなたに魔術回線を繋いでおいてよろしいですか?」


「いいよー」


 では、とラルハネーシュは私に手を差し出す。

 握手か? 応じると、繋いだ手のひらから何か温かいものが僅かに流れ込んだような感覚があった。

 これが彼女の魔力、なのかな。……そうか。魔力の感覚ってこんななんだ。


 ラルハネーシュは早速、二匹に回復魔術を使い始めた。

 私の方は手持ち無沙汰なので、ラルハネーシュの食料を出して餌付けよろしく治療中で動けないコボルドの口の前へと差し出してやる。

 エメルの方は唸ったあとに動かせる方の手でひったくるように受け取ったが、ロロの方は懐っこくそのまま食べ始めた。うーん、飼い犬レベル高くない?



『こっちー』


 わふん! とロロが得意気な顔で鳴き、私達を先導する。

 ちろ、とラルハネーシュが傍らのエメルを見上げると、エメルはフンと一つ鼻を鳴らして頷く。


 獲物を追いかけて国を跨ぐほどの移動することもあるというコボルドの散策力は流石のもので、歩きやすく、他の魔獣を避けながら目標に接近するルートをさくさく選び取っていく。らしい。

 ネッド達に本当に近付いているのかどうかはラルハネーシュの魔力の感知能力による判断なので、私には分からない。

 その感覚はエルヴァ特有のもので、普通の人間だとよっぽど鋭い感覚を持っているか、長年感覚を研ぎ澄ませた魔術師くらいしか理解できないという。


 魔力の操作というものは人が尾を操るようなものらしく、自分にそれが備わってると認識するところから多少の訓練がいる。

 ちょっと動かす程度ならともかく、使いこなせるようになるまでは更に年月がかかるという訳だ。

 先程の魔術回線とやらを繋いだときみたいに、他人の魔力が直接自分の内側に入ってくるとかなら認識できるんだろうけどね。


 とまあ、そんな感じでさくさくと森の中を進むことしばらく。


 歩く事に慣れている筈もない、ド箱入り令嬢だった私の為に挟まれた休息の五回目の事だ。

 スンスンと鼻を使って周囲を警戒していたエメルがふと顔をしかめた。

 ほんの僅かな筋肉の動きだったけど、気づいてしまった。動物頭のくせしてわりと表情が人間臭いので、叩き込まれた表情伺いスキルが発動してしまったなー。


「エメル、どうした?」


 気づいてしまったものは仕方がない。ので、とりあえず訊いておく。

 エメルは少々驚いたように私を見て、それから、更に分かりやすく顔をしかめた。


(気づかれたく無かったってか)


 なるほど。となると……


「群れの仲間でも近付いてきてるのか?」


 多分理由はこれだろう。軽い冗談みたいな調子で、だけど目はしっかり合わせて確認する。

 目には本音が出る。恐らく魔物もそうだろう。読み取るのは簡単じゃないけどな。

 エメルの目は泳いだ。なるほどな。


「そりゃまずい」


 厄介な事になったな。やばいぜ!

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