131.湯けむりの中で
あ、これ、見たところ同性だけど、痴漢というか痴女になるのでは?
「すみません! わざとじゃ、ツ!」
「ユラ様!」
ブオン
爆風と矢?!
違う!光の力を使ったブーメランだ!
誰かが私を庇う為か、リアンヌさんに後ろに強く突き飛ばされ間一髪、ブーメランが頭上を掠めていった。
「風っ跳ね返して!」
『うん』
尻もちをつきながらの指示はしょうがない!
「非戦闘民に見えたが、なかなかだな」
「モーさんや、もう少し言葉に感情を乗せてみようか?人間っぽくなると思いますよ?」
冷静とは聞こえが良いが、ようは平坦すぎなのよね。
「私は、最初から人だが」
「いや、見ればわかりますって」
そこじゃない。
『来ますよ』
「ユラ!」
光とラジの声が、同時に響く。
「絶対に殺さないで!」
私は、皆だからこそ可能なお願いをした。
『なるべく殺したくないんですよね。そんな戦い方って私に出来ますか?』
以前、リューさんに、願いを込めて聞いてみた答えは。
『厳しいな。こんくらないなら死なねーなっていうのはさ、ようは加減だろ? それは、経験を重ねないと無理だろ』
相手の命を奪う前提で、試していくしかない。
「私には、出来ないな」
どちらかが生きるか死ぬかの戦いになれば、タガが外れていけるかもしれないけれど、そんな時にはたして加減する余裕なんてないだろう。
いや、過去にダッカーに対しては別だ。
私は、あの時、殺意を抱いた。
「とりあえず、コレかな」
今はそんな事を考えている場合じゃない。腰の棒を外し、室内なので短い長さにする。
先端の刃は出さない。
『ユラ』
「わかってる!」
敵味方が入り乱れた状態では、先程のような爆風を伴う攻撃はしないだろう。まだ新人の私だけど。
「くうっ」
ガキンッ
棒を持つ手が剣を受け止めた衝撃で震えた。本当に見た目通りのご年配の方々なのかしら?
「受け止めるだけかい?」
「まさか」
目で追うのがキツイくらい動きが俊敏で、次の手を考える余裕がない。
あぁ、どうしよう。殺したくないけど、喉を突く? 背後に周り頚椎をやるか?
「迷ってる間に命がきえるぞえ」
「新人なんで仕方がないんです!」
いや駄目だ。漫画みたいに気を失うだけのような技量を私は持ってない。下手したら殺めてしまう!
「しょうがない。水!足を凍らせて!」
『え〜』
「後で最近気に入っているお菓子あげるから!」
おぉ!一瞬でおば様達の足元が凍った。
「光!加減できないから頼むわ! ラジ、ノア!飛び道具系が来たら防御をよろしく!」
近くにいた一人と一匹にお願いし、返事を待たず、半眼になり身体の力を抜く。
落ち着け。まず呼吸を落ち着かせる為に鼻から深く吸い込み口から吐き出す。
「光、意識はあるままで、身体が自由に動かない状態までよ」
私は、光の民の力を一時的に吸取り体内に貯め込む。
前回の、風と火の戦より、なんかキツイ。人数は雲泥の差だし何故だろう? 思考は光の言葉で停止した。
『今です』
「了解」
魔力を吸い取りすぎれば彼らの命は即、消える。
「でも、私にはコレしかない」
剣や棒で加減する戦い方が不可能ならば、自分の出来る分野を生かす。
『止めて下さい』
「ほい」
光の合図に一秒でも速く反応すれば、私の望む状態にもっていける。
「水、溶かしてくれる?」
彼女達は、一斉に崩れ落ちていく。
「風、悪いけど、皆が頭を打たないようにしてもらえる?」
硬そうな石が敷かれているのでいくら頭が硬そうな熟女でも痛みはあるだろう。
『ジュクジョとは何ですか?』
「光、人の思っている事を口に出すのは禁止ね」
何故にその箇所だけ拾うのか。顔はぴかいちなのに空気を読まないゴーイングマイウェイ。
君ってホントに癖が強いぞ。
✻〜✻〜✻
「なんだい、これは?」
「いや〜、流石に風邪ひくかなと。乱入したのは此方なので」
気絶した熟女様5名には近くにあったタオルをこれでもかと巻きつけておいた。
というか、薄布一枚のお姿がちょっと……ハッ。
『光、口に出さないでよ』
『しません。先程言われましたから』
『ならばよし』
危ない危ない。
「で、嬢ちゃんはともかくアンタ達は何者だい?」
完全スルーかい!
くっそう。
「光、出てきて」
私以外の人間は神気に畏怖を感じている。ならばこの子を出してみて…。
「まぁ! いい男だねぇ〜」
「わたしゃあ、ヒョロっとしてるのはなぁ」
「いや、見ないとわらないわよ!」
「お兄さん!ちょいと脱いどくれ!」
オイオイ。
「なんなんですか、この方々!」
ナウル君、あなたラジの後ろに隠れんの止めなさい。
「そういうお店じゃないですから! 話!話し合いしましょう!」
「いやだよ。若いからって生意気な嬢さちゃんだこと」
「違うよ、きっと態度からして歳いってんじゃないかい?」
あんだって?
「あ、リアンヌさん、どうしました?」
肩をトントンしてきたのは、リアンヌさんで。彼女にフレンドリーな触れ合いをされたのは初めてだ。
「ユラ様、私裁縫が得意なのですが、よろしいでしょうか?」
この者達の口を縫っても。
──怒らせてヤバイのは、リアンヌさんなのかもしれない。




