129.人生、予定通りにいくとは限らない
「ハンドサイン決めておけばよかった!」
「ハン…どういう意味ですか?」
そもそも難しかったようだ。
「いや、この暗がりでこの揺れだしなぁ」
手元が見えなきゃ無理だわ。
だがしかし、ハンドサインが諦めきれないのでいつかトライしてみたい。
だってさ、イケメンと美女にやらせたらカッコよくない?
「今!合図を出さないと!」
楽しい妄想の世界に入り込んでいたのに現実は容赦がない。
「急かされてもなぁ」
ナウル君の煽りに真面目に焦る私。
どうするか。あ、そうだ。
「光!出てきて!そんでもって小さく二回点滅して三回目はこれでもかっていうくらいに強い光にして!」
さて、ラジは覚えているか。
『せーのって言ったり、いち、にの、さん!って声を出してタイミングを合わせるんだけどこっちもあるの?』
『合図か?号令では数など数えない。言葉が出せない場合は指や腕の振りで伝達しあう事もあるが』
「気づきました!」
ナウル君の嬉しそうな声と蒼い光が一点に向かって発せられたのを端に捉えながら皆で地面に叩きつけられる衝撃に備えた。
*〜*〜*
「オエェ〜」
「こっちまで気分が悪くなるから止めてくださいよ」
「好きでやってんじゃないわよ!君達が普通じゃなさすぎるの!うぇ」
ナウル君が呆れたように言ってきて反論しようにも気持ち悪すぎる。
「この世界に来て何回か体験してるけど、やっぱ絶叫系なんて可愛いもんだわ」
「少し流していきますよ」
リアンヌさんの優しく背を擦る手からジンワリと温かさが身体に広がってきた。
「おぉ、少し良くなったかも。あ、乾かしてくれるの嬉しい。ありがとうございます」
ずぶ濡れは、体温を奪われてしまう。なにより服が肌に張り付いて嫌だ。
「さて、みんな無事ー? メンバー全員いるかな?」
点呼しつつ怪我をしているかチェックしていくと。
「ちょ、モーさん折れた?!」
腕がぶらついているんですけど。
「モウブン様!やはり先程の私を庇ったせいで…」
リアンヌさんが慌ててモーさんに駆け寄より若干強制的に治癒をし始めた。
おやおや?
なんか、ちょっと良い感じ。
「顔」
いつの間にか隣にいたラジが話しかけてきたけど、顔って何よ。
「顔が何? 嘔吐以外は正常よ」
「副団長は、気色が悪いって言いたいんですよ」
ナウル君が横やりを入れてきたけど、なんですって!?
「美女じゃないけど中の下くらいのレベルでしょ?!」
「だから、容姿ではなく表情が下品ウッ」
襟首を締めてよいと私の脳が許可を出したので遠慮なく締め上げる。
「嘘ばかり吐いていると罰が当たるんだから!」
「う、嘘ついてないで…グッ」
そうか、そうか。寿命を縮めたいのね。
「ユラ、じゃれ合うのも良いが、随分流されたようだ。位置を把握するのが先決じゃないか?」
確かに。
「しょうががない。ラジに免じて許してやろう。次はないからね!」
ナウル君には空気を読む勉強をしてもらわないとだわね。
「さて、此処は何処かな。計画では、閉じ込められた入れ物を壊し、火にすぐに水を蒸発させてもらうつもりだったんだけどな」
そんな指示を出す余裕はなかった。その結果、水の勢いで流され現在地が不明である。
「上から風が吹いている」
治療を終えたモーさんが天井の一角を指差した。
「確かに風はくるけど」
手を伸ばすと分かりやすい。でもさ。
「これ、また破壊しないといけないって事よね」
天上というのが問題ありよ。
「森の中など、集落から離れていればよいですが、光の民が集まる建物内だった場合、友好的な民なら良いですが」
リアンヌさんが語尾を濁した。
「一角だけ開けば良いですが、そもそも刺激により岩盤が広範囲で崩れ落ちる可能性もありますよね」
このジメジメした真っ暗闇で岩の下敷きはいただけない。
「地上迄の道を探すか、穴を開けるか」
モーさんがボソッと呟いた。




