125.二回目となれば余裕あり
「さー、あれに見えるが光の国」
少し丘になっている上に建つ、美しい白い城塞都市と言いたいところだが。
「崩れまくってるわね」
入口からは距離があるこの場からも見張り台だったであろう塔の先はない。塀も意味をなしていないような有様である。
「ユラ様。敗れた国で非力な民しか残されていないとはいえ、術者はおりますし、まだ眠っている罠も各地に仕掛けれております。失礼ながら、どのような考えをおもちでしょうか?」
フルーレちゃんは、一気に言い切るとコテンと首を傾げた。
可愛い。
そして賢い。
「考えなどないだろ」
私が癒やされていると、フルーレちゃんの後ろから小さな呟きと共にブリザードが向けられてきた。
「マイン君は、もう少しツラの皮を厚くしたほうが良いわよ」
若い子にこんなアドバイスを言いたくはないが、いずれ上に立つ予定なら残念ながらある程度、世渡り術が必要である。
「ただの一市民なら構わないけど、そうじゃないでしょ? あと、その眉間のシワ!」
無意識なんだろうけど、とても不機嫌そうにみえるのよ。
「アンタには関係ない」
「確かに。ただ歳を重ねていくうちにあとがついちゃうかも。せっかく整った顔をしているんだから有効に使うべきよ」
個人的に、その不器用さは嫌いじゃないのは言わない。
「この乗り物はどうするのか決まっているのか?」
最近、益々無口なモーさんが発言したぞ。
「カブちゃんね、ピンチの時にサッと乗りたいけど上空でホバリングのようにはいかないしなぁ」
なによりこのサイズである。目立ってしまうよね。
「カブトムシといったら、木にいるイメージなんだけど、木のほうが倒れるだろうし」
となると一択しかない。
「ひねりも何もないんだけど、また土の中いっとく? でも、可能ならあの塀の近くがいいなぁ」
つぶらな瞳にお願いしてみると。
「おぉっ、頷いた!」
ピロリンー!カブとの親密度が1上がった。いや、そんな声はどこからも聞こえやしない。だが、君との距離は確実に近づいているよ。
職場では程よい距離感の指導やサポートに好評だという事を単独行動を好み、専ら飲みの店を一人で探す事に力を入れている彼女は未だ知る由もない。
「それで、国に入る方法だっけ」
「はい。あ、この辺から」
「キュ!」
肩に乗っていたノアがいきなりジャンプした先は、細長い棒の先には小さなリスに似た生き物がいた。どうやらその子が気になったようだけど。
「喧嘩とかふっかけないで、え?」
「ユラ様っ!」
「ユラ!」
ノアに注意しようと柱に寄った瞬間、足元が消えた。まだ光の国の入口までは距離があっただけに完全に油断していた。フルーレちゃんとラジの焦る声にピンチだと気づくも手遅れである。
「とりあえず光!全員無傷にしてよねー!」
自分とフルーレちゃん以外のメンバーがとばっちりを受けたか不明だが、先ず光に命令するユラだった。
* * *
「いったー」
前回、地の国で落ちるのは経験済である。だがしかし、華麗に着地ができるのかといえば、無理だ。
「キュキュ!」
「よかった。ノアも無事ね」
頬に元気よくすり寄ってきたノアに安心し、打ちつけたお尻を擦りながら周囲を見渡した。
地中であろうはずなのに、全体が青白く天井が恐ろしく遠い。
「しかも明るいよね」
真っ昼間とはいえないが、光が頭上から入っているのだ。
「ユラ様、お怪我など大丈夫ですか?」
「リアンヌさん! 他の皆もいるー? そうだ、点呼するか」
番号と名前を順に言ってもらえば、距離は離れているものの全員無事を確認しユラは安堵し、改めてじっくりと周りを観察し始め、さっそく質問したくなった。
「フルーレちゃん、コレって罠?」
「はい。先の戦で動かくなっている箇所もございますが、まだ残っている仕掛けた罠の事をお伝えしようとしたのですが」
まんまと引っかかりましたよ。ノアがね。
「キュイーン」
「ノア!わざとじゃないし、怪我もしてないから平気よ」
普段、ピンッと立てている耳を垂れさせ落ち込むノアの可愛さは半端なかった。あぁ、いけない話の途中だった。
「あとさ、この地面とか湿ってるよね?」
乾燥しているわけではなく、どちらかとジメジメしているような。洞窟に近いのかもしれない。
「はい。先程も申し上げたように先の火の国との戦で使われました」
「落とし穴的な?」
結構びっくりするわよね。
「いいえ。この場所は水を半分以上天井までいかない辺まで水を流し込んでおりました。
「まさかの水攻め」
荒いぞ光の国。
「城を上とし、緩やかながら傾斜になっており」
「それで?」
私が次を聞きたいと目でおねだりすれば、特別に教えてもらえた。
「落ちた兵士は濁流に流されながら意」海に放り出されます」
おそらく重たい武具を身に着けているであろう敵が華麗に泳げると想像できなかった。
「なんか、怖っ」
勝手に光の国は、クリーンなイメージをしていた。
「いや、殺し合いにクリーンも何もないか」
島国で育ち、戦争を経験していない私の脳は、まだお気楽さが抜けていないのかもしれない。
「しょうがないわ」
「ユラ様」
「あ、ひとり言よ。さて、フルーレちゃん達は出口を知っているかな?」
こればかりは難しいわね。




