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124.真面目な話だったのに

「うーん。仕組まれたのかくらいに邪魔が入るな」


話し合いは荒れた。まぁ、穏やかに荒れたというのが正しい。


「ハーブティーだ。頭痛に効くらしい」

「ありかと。あっつ」

「気をつけろ」

「ハイハイ。ん、苦味も少なくて飲みやすい」


ラジが珍しくお茶を淹れてくれた。本人は上手くないから人に飲ませるには気が進まないらしいが充分な腕前である。


「きっちり分量を入れ、蒸らし時間まで砂時計で測る。貴方らしいわよね」


ラジは、私しか見ていないのに丁寧に正確にこなす。ほら、甘いお菓子まで出てきた。


「ねぇ、人の命を奪う時ってどんな気分?」


先程まで話し合われていた内容について聞こうとしたのに口からは違う言葉が漏れた。


この緩くなりかけた雰囲気にそぐわないわね。


「私の祖父はねこう言っていたわ」


軽く目を閉じカップを近づければ、湯気が優しく肌を撫でていく。


『人が人を殺める瞬間、普通は迷いが出る』


飄々《ひょうひょうと》とした祖父は、稀にだけど真面目な、それでいて不思議な気持ちを感じさせる話をした。


『だから急所からズレるんだよ』


祖父は、シワが刻まれた指で自身の心臓を軽く突いた。


「だが何度も刺してある場合は余程の憎しみか、または心が壊れてしまっているのだと。そう言っていた」


いつの間にかラジもカップを片手に座っていた。その姿は、背中に定規が入っているのかのように真っ直ぐだ。


「戦争はその二つとは違うわよね?」


戦場という場で初対面の人間を殺す。


「慣れなのかな」


自分はとても酷な事を言っている自覚がある。


「生きてるってだけで奇跡かもと気づいた事は、この世界に飛ばされたからこそだわ」


ただ、今日はいるけど明日は隣にいる人がいないかもしれないのは恐怖でしかないけど。


「キュイ」

「ノア、分かってるのよ? 私は充分すぎる程に守らている」


膝の上から見上げてくる、心配そうに鳴く声に笑ってその柔らかな毛に指を通す。


「まぁ、旅行と一緒で今は生きていることに感謝していても、元の場所に帰れば忘れちゃうかも」


人間なんて単純だ。


「他は知らないが、初めて殺めた顔は今でも覚えている」


ラジが空のカップにニ杯目を注いだので柔らかい色が再び器を満たす。


「俺よりは歳は上だったが、まだ若い男だった。その目は、恐怖よりも驚愕により見開いていた」


自分のカップに残りを足していくラジの手付きに震えなどはない。表情もいつもと変わらず無表情に近い。


「その後は覚えていない。数が多過ぎた」


目元に影が差したように見えるのは気の所為かなと彼を直視せず、茶をすする。


「ただ前にある物事をこなしていくうちに何も感じなくなった。だが、至近距離での切り合いの際に刃が入っていく、切る時の感覚はなんとも言えないな」


やっぱり積み重ねか。


「殺める事に対して抵抗が薄くなるのは良い事かと問われれば、今なら否と答える」


「まぁ、いわゆる正常な回答ね」

「俺の話はこれでよいか?」


ふいにラジの指が頬に触れ、乱れていた髪を耳にかけてくれた。


「このような気持ちを抱くとはな」


唇に触れるだけのキス。


「風の新王、ダッガーが好みか?」


何で奴が出てくるの?


「ユラは、力の強い者に惹かれる」


再び落ちてきた二回目のキスになんとなく抵抗もなく目を閉じながらラジの言葉を少し考える。


「確かにそうかも。ダッガーって自分にはない強引さ、ちょっと無理じゃない?っていう問題をなんて事なくこなせるような人間よね」


口は悪いしムカつくんだけどさ。


「最近は触れてこなかったくせに、どういう風の吹き回し? ちょっと、くすぐったい!」


三回目を避ければ、首に顔を擦り寄せられたので抗議をする。いや、嫌ではないんだよなぁ。荒れた子が懐いたような、甘えてくる感じは悪くない。


「旅もそろそろ中盤だ」

「だから?」


話が見えない。


「帰るなとは言わないが、自ら残るという選択肢はゼロではないだろう?」


……下から見上げてくる強い視線に甘えを含ませてきたイケメンの力は凄い。


「俺は、諦める気はない」


抱きつかれ、巻き付いてきた腕の力が強くなる。


駄目だコレは!


「ぐるるっ!」

「ッ、加減しろ!」

「いや、今のは色気をだだ漏れさせたラジが悪いわっ!」


膝にいたノアが飛び出しラジの腕に噛み付いた。ちょっと痛そうだけど、ノアに助けられた。


「ヤバかった」


普段がクールなだけに甘えてくるとか卑怯だわ。


「皆に知らせなくていいのか?」

「え?」

「火の国に捕らわれている光の民をどうするか既に決めているんじゃないのか?」


ラジはノアの頭を鷲掴みで抑えながらニヤリと笑って言った。


「そういう察知能力が高いの、ムカつくけど嫌いじゃないわよ」


頭が良い子ってこれだから。


「ならば残るか?」


耳を齧られそうになったので、今度は手のひらで肩を遠慮なく突き飛ばす。


「それとは別!」


最近、ラジが壊れてきたと思うのは私だけかしら?


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