122.再びの地中では
「あー、そこそこ。いいわ〜」
「何をしている?」
「見てわかるでしょ。マッサージよ」
リビングに現れたラジがうつ伏せの私を見下ろし聞いてきたから答えてあげたのに、彼はため息をつきながらキッチンへ無言で移動していった。
「なんなのよ」
なんか感じ悪っ。
「そりゃあ、呆れもしますよ。王族の方にマッサージをさせるなんて」
ナウル君は、なにやら難しそうな分厚い本をテーブルに広げてお勉強中らしく目線は下をキープしたままである。器用だわ。
「ほんとに力加減が絶妙なのよ。ナウル君もやってもらったら? 腕とか押されると意外とゴリゴリなのよ」
ストレッチとは違い、マッサージは人にお願いしたほうが断然いい。
「結構です。まぁ、こんな気の緩んだ状態もあと数日間で終わりですから」
つれないわねぇ。
「あの、腕の品は全て神器のようですが、そのようにいくつも身につけてお身体に変化はございませんか?」
フルーレちゃんが、私のふくらはぎをモミモミしながらおずおずと聞いてきた。ちなみに双子の弟は、部屋で爆睡中というか気を張りすぎていたらしく顔色も悪いので半ば無理やり寝かせている。
「え? ナニそれ。神器って実は有害物質なの? 今までジャラジャラ邪魔なくらいに思っていたんだけど。あっ、もしや私が最近お酒が止まらないのもそのせいとか?!」
『それは貴方の欲求であり、我々は全く関与しておりません』
本当に呆れた人だとつけて足して光が言葉を伝達してきた。
「あ、何か神器と交わされましたか?」
「光にバカにされたの分かるの?!酷いわよねー!」
最近、皆が私に対して優しさが足りないと思うの。
「いえ、内容までは不可能です。ただ、ユラ様の周囲の気配が濃くなったので。あのっ、私は、神器が人の姿になれるという事が未だに信じられなくて」
私を見る目は光を察知したせいか畏怖と戸惑いが混ざっているように見えた。
「あのね。シャイエの神器の光は、かなり鈍感よ。持ち主が負傷するっていう場面でも死ななきゃいいやという独自の判断で防御なしだったりさ。度々私の事を残念な子と見下ろす感じよ」
光の性格を並べていくも、けなしている台詞しかでてない。
「だけど、ただの器じゃない。感情も分かりにくいけどある。それに最初よりは優しくなったのよ」
まだまだ教育は必要だけどね!
金の瞳の儚げ王女様は、何故か正座して私を見つめている。いや、手は動かしてくれていいのよ?
「えーっと。あとは、私が神器達に影響されないのかだっけ?」
「はい。神器ひとつならば、まだ納得できますが。聖なる力を宿す器とはいえ身体が力に耐えられず持ち主が壊れるかと」
大袈裟なと口にしようとしたけど、彼女の本気の様子に少し考えてみたけど。
「まず、私は、この世界の住人ではないからかな。あとは、あくまで仮定だけど、欲がないとか。あ、ナウル君、その目つきは良くないわ〜。珈琲淹れてくれたら許す」
何で僕がとブツクサ言いながら立ち上がった彼を目でぼんやり追いながら、やっと聞こうとしていた事を思い出した。
「フルーレちゃん達って、王家の子なの?」
光にトップになる人物かを問えば否だった。ただ、まだ幼い姿になっていたせいで魔力の保持量が少なく見えたからか。それとも素質がないと言うこと?
「私達は、陛下の姉の子供になります」
声に出さず光に聞いても何故か返事がこない。珍しいな。寝てるの? フルーレちゃんのが早いじゃないのって。
「という事は、ガッツリお嬢様じゃないの」
いやお姫様である。
『ユラ、私が伝えたかったのは、個々では否なのです』
個々とは……。
「なんだ、簡単じゃない。双子仲良くツートップならオッケーなのか」
「あの」
フルーレちゃんが困惑した顔になっているので、教えてあげた。
「フルーレちゃんとマイン君、二人で王の座につく」
「私とマインが。ですが過去にそのような例はございません。それに私達は」
フルーレちゃんが何かを言いかけた時。
「姉上に何を話している?」
風が深く眠らせていたはずのマイン君が不機嫌な顔で立っていた。




