115.国宝級だという種を植えてみれば
「さて、おもいっきりやっちゃって!」
『え、大丈夫? 本当に?』
「水は心配性だなぁ。沢山の水をかけるってマート君が言ってたから大丈夫だって」
よく晴れた日の朝、私はマート君から奪い、いや借りた地中を突き進む乗り物、ザッカヴィールの種を育てるために城近くの耕した場で水の神器におねだりをしていた。いや、汲んでなんて面倒なんだもの。
『じゃあ、エイッ!』
ドドーン
「ぶはぁ?!」
「ぶほっ!」
水がその可愛い姿を裏切らないこれまた可愛い声で声をあげれば。
学校のプール分くらいの水が降ってきた。
「ゲホッ! ちょ、水〜っ!?」
『思いっきりって言ったから……』
いやいや! 確かに言ったけども!
『寸前で衝撃を和らげるのを張ったので怪我はなさそうですね』
光、なんなら我々には水もかからないようにして。貴方ならできたはずでしょうが。
「あ、マート君にはバレてない? 国宝級の種を雑に扱ったとか飛んできそうだから要注意よ!」
久々に風を呼び出し乾かしてもらいながら周囲を警戒するも、大丈夫なようだ。
「よし、仕切り直し! えー、次は陽の光と温度だと火かな」
『私の番ですか?』
『俺も? えー、だりぃ』
二人の男はそれぞれ呟く。
「というかさ、火はなんで反抗期真っ盛りな態度なわけ? 誰からそんな言葉を教わったのよ?」
「あ? 知らねぇ。おぃ、さっさと終わらせようぜ」
火が光に話しかけている! コミュニケーションというものが備わってきたのかしら。素晴らしい成長と喜んだ瞬間。
カッ!
ボッ!
「不味い!」
「ナウル!土で壁を作れ!」
「アッツ! うっ〜眩しいっ!」
照らされる真夏の光のような輝きを避けようと目を庇た腕をずらせば……周囲が燃えている! リアンヌさんが水の結界をはり、ラジがナウルくんに土を操れと指示をだしている。
「水っ! 早く消火してー!」
服や髪が少し焦げ臭い。いや現在進行形で燃えている!水に助けを出せば、嫌がりつつも再び大量の水が降ってきた。
「芽が出る前に我々が息絶えそうだな」
「なんか貴方の服も煙でてるわよ」
モーさん、君はいつも冷静ね。
「しかし、なんでこうも神器は加減ができないんだろう?」
私の疑問にリアンヌさんが答えてくれた。
「降らす水の水量など具体的に指示をだしてみたほうがよいのかもしれませんね」
えっ、私のせいなの?大雑把過ぎって事?
「でも、なんか説明しづらい」
「この現状を説明しろよ!」
「あ、見つかったか」
腰に手をあて怒りマックスのマート君と他三名の護衛さん。今日は人数多いわね。
「あのな、やり方を紙に書いてやったろ? それに最後は俺がいないと不可能だ」
「えっと、どれどれ」
水でふやけた紙を剥がそうとすれば、風の神器が乾かしてくれたけど。
ベリッ
「あ、破けた」
「アンタ、ホント抜けてるよな! 仕上げはコレだ」
「マトリュナス殿下!」
マート君は、ナーバスさんの制止を聞かずあっと言う間にナイフで指の先を切ると、種を植えた場所を教えていないのに正確に察して赤い雫を落としていく。
「ああ、あんたも操れないといけないのか。やってみた事はないが、試すか」
私の左腕を掴むとマート君は、私の親指に一度綺麗にしたナイフを私の親指にあて引いた。
「なっ」
「ユラッ」
「動かないで」
ナウル君とラジがマート君を止めさせようと手を伸ばしてきたので光にお願いし彼らの足を固定してもらう。
「いやぁ見物だな。他の血を混じらせたのは初めてだ。ナニが出てくるか」
「え?」
思わず聞き返せば、ニヤリと笑う、その目と合った。その間にも二人の赤い雫は土に染みていく。
「発芽する! 巻き込まれるぞ! 離れろ!」
じっと種を植えた部分を血を垂らしながら見ていたマート君が急に叫んだと同時に地面が揺れだした。
えっ、植物ってそんなに早く芽がでるはずないのに? しかも地震なのっていうくらいの揺れなんだけど!?
「へぇ、なかなかの物が出来たな」
バスを二台分積み重ねたような大きさもさることながら、その形は。
「……カブトムシにしか見えないんだけど」
立派な角を持った黒光りをしているカブトムシが鎮座していた。




