112.食べかけの梅干しではないようです
「無駄に疲れた」
「なんだか地下室は充実していたな」
満足そうなマート君の顔にイラッとするも怒る気力が出てこない。
「あー、酒が飲みたい。泡盛とか今の気分にピッタリなんだけどなぁ」
なんとか神器達をなだめ自室にての現在。お酒の時間にしては早すぎるので仕方なく果実水をぐいっと煽りソファーの長椅子に足を乗せ転がればお小言が飛んできた。
「行儀悪いぞ」
「うっさいわね。靴は脱いだし、ソファーは寛ぐ場所でしょ? というか話を詰めるのよね? 直ぐにザッガなんとかを貸してもらえるのかしら。国から輸送となると日数が必要か」
ああ。私としたことが失念していた。
「名はザッガヴィールだ。ナーバス」
「どうぞ」
マート君は、粘着質から小さな包みを受け取った。粘着質の扱い方が丁寧すぎるぐらいの触れ方から高価な品なのか。
「見るか?」
「むぅ」
勿体ぶった様子に誰がと言いそうになるも好奇心が勝った。
「うわっ」
「マトリュナス様!乱暴すぎます!」
ポンッと投げられた瞬間、ナーバスさんはキレた。
なんとかキャッチしたけど落としていたら私にまでとばっちりが降りかかりそうなくらいの圧である。
「開けていいの?」
「ああ」
ちょっとワクワクしながら紐を解いていき口を慎重に開くと。
何これ?
「なんか、食べ終わった後の梅干し?」
「おぃ、小指立ってるぞ」
「いや、なんかばっちそうで無意識よ」
触れた瞬間、魔法のように煌めく宝石になるなんて事もなく、シワシワの人の食べ残しにしか見えないそれを触ってしまったような気持ちになるのだ。
「あのな、国宝に匹敵するからな。公でそんな事を吐けばウチへの侮辱とみなすぞ」
「え、本当にコレがザッカなんとか?」
粘着質も真面目な顔をしているから嘘ではなさそうである。
「おい、俺よりコイツを信じたのか?」
「信じるというより確認をしただけ。それでこの種は植えるの? 呑気に待ってる時間がないんだけど」
春蒔とか時期もあるだろうし。そもそも毎日水をあげるのが面倒である。
「アンタ、かなりのせっかちだよな。与えるモノによるが、二日あれば使えるさ」
二日。意外と短い。
「ちなみに、ただの好奇心だけど与えるとは?」
私のノ脳内では舟のような塊が陸を移動するイメージである。まぁ実際は地下なんだろうけど。
「王族の血と大量の水だ」
水はともかく、血液って。水の国に飛ばされた時の空飛ぶ城と同じなのかな。
「なぁ、条件を忘れてないだろうな?」
マート君は、子ワニに貰った古めかしい本を示しながら私に聞いてきた。
「ええ、勿論。今からトライしてみても良いけど」
「なんだ。病人か?」
「もう、ほぼ回復したと思うわよ」
「そいつって」
ナーバスさんは直ぐに気づいたわね。
「正解。水の木の種を持っているのは、貴方の愛しい弟君のナウル君よ」
ある意味子ワニより手強いかも。
ダッカーから戻ってきたそれを大事そうに握りしめていた彼を思い出し、心のなかで盛大なため息をついた。
「これから会いに行くけどマート君も来る?」
騒ぎになるかもしれないけれど、二人の仲は悪くはない。まぁ普段は悪口を言い合っているが。
「ああ」
即答してきた彼の子供らしくない表情を見て改めて思った。
君は無理でも先の子供達にはもっと楽をして欲しいと。
子供が子供らしくできる場所に。
「では、本日の締めといくか。ノアもおいで」
「キュキュッ」
肩にノアを乗せ、疲れた身体はいまだ重いけれど泣く泣く人を動けなくさせる高級ソファーから起き上がり気合をいれ立ち上がった。




