109.マート君、話にのらない?
「なんだ、そのヒョクカって」
マート君の頭上にハテナマークが沢山浮かんでいる。
「緑のリョクよ。ようは植物を増やしたくないかって事。植物が生息できれば激変とまでもいかないまでも生活は楽じゃない? 輸入、じゃなくて他国からの仕入れる負担も減る。あわよくば、逆に売る事も可能だし。まぁ直ぐは無理だけど」
やれやれと、マートくんは肩をすくめた。馬鹿にしているような態度にムッとするも話を聞くことにする。
人の話はムカついてもとりあえず耳を傾けてみるというのは大事だ。
まぁ相手にもよるけどね。
「夢物語だな。まず余分な水はない。雨季はあるがほんの一時期のみだしな。飲水だけでもカツカツなのが現状だ」
まぁ、知識として水不足は把握している。
「そこで、水を確保しましょうよっていう提案。勿論それだけではないんだけど」
私に利点がないのはなしでしょ。
「──何を考えているんだ?」
私の笑みで察したらしいマート君と不審がる背後のナーバスさんは警戒マックスである。私は、元の世界では、納税もちゃんとしている善良市民だというのに失礼よね。
「地中に道を作れる乗り物、貸して?」
「なんの事だ?」
「またまた〜。しらばっくれるなんていけないなぁ。あるでしょ? 転移盤より時間はかかるけど、安全安心に地中を掘り進む、名前はザッカルだっけ?」
猫なら毛を逆立てている感じだわ。
「ユラ、分かるように説明してくれ」
ラジの言葉をスルーし影に徹している男に声をかけた。
「モーさんはご存知?」
実は、もう一人連れてきているのが、ラジと戦い中に私に魔力を吸い取られ気を失った、例の狼風のモーさんである。
「モゥブンだ。アンタが言っているのは、ザッガヴィールの事か? 地の国が所有していると言われている古代遺産と言われるくらい古い乗り物で動力は王族の血のみ。硬い地盤を砕き地中を難なく進む代物だそうだが。現存しているかは不明だ」
おー、素晴らしい。
「という事ですが。合ってますか? 私は、それを借りて光の国に行きたいの。見返りとして、ちょっと説得しないとだけど、マート君に種をあげる予定よ」
「何の種だよ」
おっ、食いついてきた。
「水の木よ。ようは、水を確保するにあたり水脈を見つけるのが一つ、それだけでは不安もあるから、水が成る木。正確には水の実があれば安心でしょ?」
そこで何故子ワニかというと。
「その水の木の育て方とまぁ他にも数点知りたい事があるのよねぇ。さぁ、どうする? あ、着いたわよ」
一度しか見つからなかった木の扉が、眼の前にある。その取っ手を掴み最後に振り向きかければ、私の手と一緒に掴んだ手の持ち主は。
「いいぜ。その話、乗ってやるよ」
「殿下!お待ち下さい!」
そうこなくっちゃ。
彼はナーバスさんの声を無視し、私の手ごと扉を引いた。
真剣な横顔にカッコよく見えたのは内緒である。
「今回は武器攻撃もなく扉を開けてくれたから見直したと思っていたんだけど。撤回しようかしら」
扉の中は、私の職場だった。
「ゆら、俺より先に休憩か?」
ご丁寧に再びの元カレつきである。
「やっぱり、戻ったら食料にするか」
ヤツは、私を苛立たせる天才には間違いない。




