107.次に進むには
「行っちゃった」
「また会える」
つい口から出てしまった言葉に背後にいたラジは、私の肩をポンッと軽く叩いた。
「そういえば、まだ来たばっかりの時に、リューさんに私の事を何か聞いたみたいだけど」
「ユラが来た時か?」
「ええ」
どうも歯切れの悪い言い方が気になる。
「確か、未知だとリューは言った」
「それは聞いた」
その先なんですよ。真面目に思い出そうとしているのか思案顔の、その目が少し見開いたと思えば、ゆっくりと視線が私を見た。
「何、その顔」
じっと観察しないとわからないけど、ラジは、確実に笑っていた。更に目を細め笑みが深くなる。
「いや。リューの言っていた意味がようやく理解できた。だが…苦しいものだな」
彼の話す言葉が全く理解できない。
「これは、ただの耳飾りではないと知ったのに付けているのか?」
首を傾げている私の左耳にラジが慎重な仕草で手を伸ばしてきて、雫の形のピアスに触れてきた。
「あの水中に落ちて皆と離れちゃった時に生存確認と大まかな居場所が探知可能だと説明は後から聞いたけど」
「嫌じゃないのか?」
指で弄ぶラジの口調は珍しくいつもより柔らかい。
「このピアス、綺麗な色だと思わない?」
私がまだ自分の幼くなってしまった姿を、いえ、違う世界に来てしまった現実を受け止められなかった時にリアンヌさんはこのピアスをくれた。
「リアンヌさんに言われたの。あなたには赤い色なのかもしれないけれど、この色が似合っているって」
後からピアスをじっくり見て嬉しくなった。
だって、とても綺麗な色だから。
「私は、凡人だし綺麗事なのも分かってる。でも、気持ちはこんな穏やかな色になりたい」
ダッガーに実体ではないとはいえ剣をぶっさし、はては、怒りで神を呼び出しだ。
「説得力ないけどさ」
我ながら荒い性格であるのは認める。
「いや、似合っている」
キスをされるかと身構えれば、アッサリと手が離れていく様子になんだか物足りなさを感じた自分が嫌になる。
距離を取ると自分から言っておいて、この湧き上がる気持ち。
──私は人恋しいのだ。
「それで、決まったのか?」
ラジは、そんな身勝手な気持ちに気づくはずもなく聞いてきた。
「ええ。でも、その為には子ワニに会わないといけないかも」
正確には人型の生意気な奴に。
「だから明日、地下に行くから」
エレールが期限がなんとかと言っていたし光の国へ出来るだけ早く行かないと。
「あ、マート君を連れて行くから」
「何故彼を」
「不安なら付いてきていいわよ。むしろ助かるし。詳しい話はまた明日ね!」
「ユラ」
一気に探る視線になったラジを残し一杯飲もうと私は足早に食堂へ向かった。




