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106.私の覚悟とリューさんの願い

「よぅ」

「リューさん」

「キュキュ」

「おっノアもな」


ノアはリューさんに挨拶しに椅子から飛び降り彼の足におでこを擦りつけた。こんなに人懐こい子だったっけ?


私の疑問をよそに甘えられたリューさんは、わざわざしゃがんでノアの頭を撫でている。雑な触れ方に見えるけどノアは気持ち良さそうだ。


「しっかし今日は珍しいもん目にしたな。この城、堅牢で有名なんだぜ。それをまさか嬢ちゃんの一撃で部屋ひとつ崩壊なんてな。ああ、ひとつ悲しいのは神さんを見れなかったのがなぁ」


ノアを撫でながら悔しそうにブツブツと呟いてるけど、私は以前から感じていた事を口に出す。


「ムカついて呼びつけた私が言うのもなんだけど、そんな良いものじゃないと思うの。むしろ迷惑じゃない?」


私は、せいぜい鳥肌ぐらいだけど神気とやらに普通は耐えられずぶっ倒れるらしい。まさかと馬鹿にしていたけど、実際に騎士が二名倒れた。


害はないとは言えないわよね。


「そんなん平気な顔して言えるのは、この世界で嬢ちゃんだけだぜ」


そうかしら?


「まあ、それはさておき、あと二箇所で終わりだな。最後の国では合流しようぜ」


えっ? 来てくれるの?


「ミュリさんのケアしないとじゃない? こっちは大丈夫よ」


嘘。


ホントは来てほしい。リューさんは、私にとっては安定剤だ。彼の言葉は私を冷静にさせてくれる。


「まあ、こんなナリだし。確約はできねぇが」


リューさんは、ノアを抱き上げると私の腕の中に置きながら笑った。


「そういやぁラジに随分前に嬢ちゃんの事を聞かれたなぁ」

「えっ?」


それは初めて聞いたぞ。


「俺は、未知だと答えた。あとは、いや……なんでもねぇ」

「変なところで切らないでよ」


聞かされたほうは気になるじゃない。


「全部を知らないほうが世の中面白いもんよ」

「ふーん。あ、それで何か用事? あ、先に聞きたい事がある」


粘っても教えてもらえないと判断した私は、早々に話題を切り替え疑問をぶつける。


「さっきの話は試したの?」


私は、まだひっかかっていた。


「ん? なんだっけな」

「帰るためなら闇の国を滅ぼせるのか」

「ああ、言ったなぁ」


反応が軽すぎなんだけど。不満が顔に出ていたのかリューさんはふっと笑った。


「まー、案の一つだったんだが。嬢ちゃんには酷すぎたな」

「私は、覚悟を言葉にしろと言っているように聞こえた」


そんな甘い考えなら、迷うならやめろと。


「俺達は、慣れすぎてんだ」

「何を?」

「殺るのに。おっと」


ノアが急にリューさんの肩めがけて飛んだから急いで手を添えようと彼は焦るも、ノアが落ちるなんてない。そのまま肩を伝って首の後ろで寛ぎ始めた。


「ホントに殺るのに何も感じねぇんだ。もう意識する前に腕は上がり急所をかき切っている。神獣がこんな汚れた者に近づいてくんのが…信じれねぇ」


ノアの背中を軽く掻くように指先を動かすリューさんは、なんとも言えない顔だ。


「なぁ嬢ちゃん、俺らみたいなのは、この代で終わらせたい。口にすると軽いかもしれないが、それが願いだ」


その目は、静かに私を見た。


「なぁ、戯言だと思うか?」


全ての神器を浄化し、国を立て直す。それだけではない。戦のない協定を結ばねばならならい。


「かなり厳しい気がする。だけど、何も賭けないよりいいと思う」


私が、やり遂げるとは言えない。やっぱり逃げよね。


「ああ、充分だ」


そんな煮えきらない言葉なのに、彼は私の頭を撫でてさっきとは違い柔らかく笑った。


「ユラ、日にちが決まった。後にするか?」


ラジが扉から顔を出した。


「いい。大した話はしてねぇよ。ほら」

「ちょっ」

「キュ〜」


頭の上にノアを乗せられ、ノアは座ればいいのにバランスをとろうと爪をたてる。


「伝達は終わったから帰るわ。またな」


いつもリューさんは、アッサリだ。


「程々に動くわ!」

「ああ。期待している」


振り返ることもせず片手だけを上げ彼は挨拶をした。


「何の進展もないけど、リューさんが元気そうで、話せてよかった」

「そうか」


ラジは、何も言わず背後に立っている。

私は、彼の姿が曲がり角で見えなくなるまでずっとその背を目で追っていた。



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