103.風の国が変わる?
「体調は? ミュリさんは?」
つい、腕に触れそうになり寸前で止まった。いやいや、奥さんいる人に気安く触るのはなしよね。
「身体は、正直言えばまだかかるな。ミュリは目覚めてずっと体を動かしてないから歩行の練習を始めている」
「ちょ」
距離を置こうと下がったのに長い腕が伸びてきてグリグリと頭を雑に撫でられた。
私は、子供じゃないんだけど。
でも、なんの思惑もない、ただ純粋に元気かと目を合わせてくるリューさんの態度は安心というか好きだ。
「何があった? 体調も万全ではないのに単に挨拶しに来たわけではないはずだ」
ラジは、リューさんに鋭い視線を向けている。このピリッとした空気は独特だなと慣れて麻痺している私は呑気に思いながらリューさんの次の言葉を待てば。
「察しが早い。ヴァーリアが変わる」
ラジに眉間にシワができた。回答が気に入らないらしい。
「風の国がなんなんだ? ハッキリ言え」
「へいへい。代替えしましたよ」
代替えって。
「新たな王の名は、ダッガー・フォル・セス・ヴァーリアですか?」
リアンヌさんが呟いた。
「流石、戦女神」
「また木に吊るされたいのですか? ああ、冷たい湖がよいかしら?」
「それは遠慮したいぜ!」
さらっとリアンヌさんとリューさんが会話をしているけど、なんか内容が怖い。彼はどんな幼少期を過ごしたの?! 聞きたいような聞きたくないような。
いやいや本題だ。ダッガーがトップとなると国はどうなるのか?
「流れが変わる?」
私の言葉をリューさんが拾う。
「そりゃあ変化はあるだろうな。なんせ譲位じゃなく皆殺しだ」
「無理やり奪ったの?!」
あのダッカーが? 頭脳派のリース君もいるし面倒事は全力で回避しそうだけど。
「……でも、やりかねないかも」
空に浮かぶ神殿での彼の様子をみていると、感情が荒く激しい部分もあるようにみえた。
「で、立ち話もなんだから何処か落ち着ける部屋あるか? ここ、風通し良すぎだろ」
確かに。半壊した部屋はとんでもない事になっているのでリューさんの提案に賛成である。
しかし、壊しすぎた。なんとなくバツが悪い私は、往生際が悪いので彼らに頼ってみる。
「修復っていう能力ないの?」
『ありません』
『あるわけねーだろ』
『それ、便利そう』
光と火は呆れた声で便利と嬉しそうに伝えてきたのは風の少年だ。しかしバッサリだな。だって何が不可能か未だによく分からないんだもの。
「じゃあ、諦めて部屋に移動しよう。私も気になる事を思い出したし。ノア、おいで」
「キュ」
ノアを呼べばすぐ右肩に登ってきた。柔らかい毛が頬に触れて少しくすぐったい。
「ラジ、気を失っている人をちゃんと部屋に寝かせてあげてね」
神気は、魔力の弱い者には強すぎて毒らしいと最近知った。
「期限がどうこう言っていたし、出発も早めないとかな。あーまた糖分欲しくなってきた!」
いつの間にかラナール達への怒りはどっかに飛んでいった事に気づかないゆらは、話し合いの時にケーキが出ないかなぁと考えていた。




