成立
「なるほどな。触れれば一般人は消滅、か。自業自得とはいえ、あんたの手におえる代物じゃねえな」
白石は呆れたように息を吐き出し、カウンターに置いていたタバコの箱を指先で弄んだ。
「でも今日は何事もなかったみたいだね」
創也が依頼人を落ちるかせるためにコーヒーを入れてテーブルに置きながらそう言った。
「それに、不審物は落ちていなかった気がする」
奏自身も、それなりに変わった様子はないかと学校を見ていたが、そういったものが落ちていたり設置されている様子はなかったなと思い出す。
「......落とした場所は、旧校舎の方だ......」
奏が通っている高校――東雲高等学校はかなり敷地が広く、竹林がある。
そしてその竹林を挟んで旧校舎が残されているのだ。
「だが、旧校舎活用でカフェを作るために今は工事中だったと思うが」
「ああ、そうだ。工事中だからこそ、一般の連中は誰も近づかない。資材置き場や防護ネットの影に隠れて、昼間でも人目が完全に遮られる場所があるんだ。私はそこにサンプルを持ち込んだ。だが、パニックになって落とした先が……よりによって、工事のために掘り起こされた地下の空洞の奥だったんだ」
男の言葉を聞きながら、奏は頭の中で東雲高校の敷地マップを思い浮かべていた。
確かに本校舎から竹林を挟んだ旧校舎のエリアは、現在改装工事中で生徒の立ち入りが厳重に禁止されている。
昼間、誰も不審物に気づかなかったのはそのためだ。
人目がなく、しかも工事用の重機や足場が乱立する夜の現場なら、潜入のルートはいくらでも組み立てられる。
「なるほどな。で、どうする、奏?」
「ん......」
奏は店内の暗いところから依頼人の男の前に立つ。
「な、なんでそこの高校生に聞くんだ? 私が依頼しているのは解決人であるあなただ」
「ああ、そうか。おたくは初めてのご利用だから知らないようだな」
困惑する男に白石は笑みを強める。
創也も奏の肩に手を置いて微笑む。
「悪いが、奏がいないと我々成り立たないのでね」
そう告げた白石の言葉の重みを、男は理解できずにただ呆然と奏を見つめることしかできなかった。
それがこのアンティークショップにおける絶対のルールなのだと、その場の静寂が物語っている。




