姉(有栖視点)
「……誰?」
彼女には申し訳ないが全く見覚えがない。
「ああ、そうだわね。会うのは何年ぶりかしら?
妹は元気にしている?」
妹……?
周囲に姉がいる人、というより私と仲がいい人はほとんど一人しかいない。
「……蒼井さんの、お姉さん?」
確か、月には年の離れた姉がいた気がする。
彼女は正解と大きくうなずいた。
幼いころに何度か公園につきを迎えに来ていたのを覚えているが、どうして話しかけてきたのだろう。
「ここじゃなんだろうから、ちょっと場所を変えましょうか。
喫茶店に行きたいのだけれど、お金はある?」
「はい」
やることも思いつかなかったので、彼女についてチェーンの喫茶店に入った。
「改めて自己紹介をさせてもらいます。
わたしは蒼井玉兎の姉、新原紫苑といいます」
しおん、と名乗った彼女は月に似ていないこともないが言われないと姉妹だと気が付けない。
「有栖洋子……です」
「敬語はいいよ?話しずらいでしょ」
紫苑さんはあははと笑ってくれた。
「……ありがとう」
私が恐る恐る見上げると紫苑さんはミルクティーを傾けながらくすくすと笑った。
「何年振りかしら?妹は元気にしている?」
姉なのだから会って直接聞けばいいのに、わざわざ私に聞いてくる。
事情があるのか、ただのもの好きか、どちらかだ。
「ほんとうに蒼井さんのお姉さんなのか?」
紫苑さんは満足げにほほ笑んで、片手をあげる。
「疑うのはいいことよ。
とはいっても私はあのころから苗字が変わっているし、写真を見せても合成かもしれないからと信じないでしょう?」
……確かにそうだ。
「あなたと会っていたのは妹を迎えに行くときぐらいだったし、証明のしようは今の私にはありませんね。
私のことを信じるかどうかはあなたに任せます」
しばらく悩んだけれど、立ち去る理由もないのでそのまま話を聞くことにした。
「今は蒼井さんと一緒に住んではいないのか?」
元気にしているかと聞いてきたということは、現在同居はしていなさそうだ。
「ああ、知らないのね。
私たちの両親は離婚して、私は母に、妹は父に引き取られたの。
それ以来妹とも父ともあっていないから、もう10年になるかしら」
10年前、ということはつきがいなくなった時期だ。
つきからは一言も聞いたことがなかった。というより……
「蒼井さんには同居している母親がいると聞いたが」
テストのときにいろいろ言われると愚痴を語られたことがある。
私ではつきの悩みに対してどうにもできないことだと思ってしまった苦い記憶だ。
「父は再婚したと聞いたわ。その人でしょう。確か、5,6年ほど前ね」
そうだったのか……
「で」
飲み物をおいて紫苑さんに向き合った。
「あなたは10年ぶりに何をしに来たんだ?」
紫苑さんは待ってましたと言わんばかりに微笑んだ。




